134.ミコトの目的
アレンとの打ち合わせが終わり、ロイとリントが騎士団長室に戻って来た時、ミコトとノエルは、事務机に並んで座り、一緒に事務をやっていた。
「そうそう、これで計算が合うの。あ、ロイ、リント、おかえりなさい!」
ミコトはロイとリントの顔を見ると、席を立った。
ノエルも慌てて席を立つ。
「ミコトさん、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうだよー」
ミコトは笑顔でノエルに答える。
ミコトとノエルは、並ぶとミコトの方が5センチほど背が高い。
「救護班は、終わったの?」
ロイはミコトに聞く。
「1時間休憩をもらったんだ。ロイとご飯食べようかなと思ったんだけどいなかったから、ノエルと事務してたの」
ミコトはエヘヘと笑う。
「休憩になってないじゃん」とリントは呆れる。
「ご飯今から行こうか? ちょうど話があるし…」
ロイの提案に、ミコトは顔を曇らせた。
「実はあと10分で休憩終わりで…。シーマさん、怖いんだよね、ホント…」
ロイとリントは「あー」と言う。
シーマは医学に関しては、人が変わるのだ。
「ご飯、食べてないんじゃ…」
ロイが心配そうに言うと、ミコトは笑って手のひらを横に振った。
「一食くらい食べなくても平気だよ。じゃあ、救護班に戻るね」
ミコトはそう言うと、騎士団長室を出て行った。
実際、騎士団は勤務上、毎回昼休憩が取れる訳ではない。
昼食を取らない団員は、結構いる。
「あー、もう、心配なら、救護班に行って来ていいですよ! どうせ、さっきの話をしなくちゃいけませんしね」
リントはロイにしっしっと手を振る。
ロイは笑顔になった。
「ありがと、リント!」
ロイはそう言うと、騎士団長室を出て行く。
「ったく、家でも会うだろうに…。あ、ノエルも昼休憩とっていいから」
すると突然、ノエルはばっと頭を下げた。
「す、すみませんっ! ミコトさんの休憩時間をとってしまって…」
リントは、ああ、と言うと、ノエルに向き直った。
「ノエル。ここで事務をする際、ロイさんとミコトの事は、一切気にしなくていい。いや、むしろ、気にしてはいけない。バカバカしいから。ロイさんが承認か差し戻しか聞いてきたら、適当に答えていい。どうせ責任を取るのはロイさんだから大丈夫。困ったら、俺に何でも言って」
ノエルはキョトンとした後、ハッとなり、「ハイ!」と答えた。
ミコトはもう、事務には戻れないだろう。
リントは、事務が出来る真面目な団員を逃す手はない、と頷いた。
結局、ロイはシーマに直談判して、食堂でランチボックスを購入し、打ち合わせと称して、ミコトと会議室で食べることにした。
ロイはいち早く食べ終えると、食べるミコトを隣で見ながら、第5のお茶会の話をした。
「アレンさんが、2ヶ月後に伸ばしてもらう手紙を送るって言ってたけど、まだどうなるか分からないんだ」
ミコトはハンバーガーをもぐもぐと頬張りながら、頷いた。
「ミコト、大丈夫? かなり忙しいと思うけど…」
ロイは心配そうにミコトを見る。
ミコトはハンバーガーをゴクンと飲み込むと、「大丈夫!」と言った。
「でも、来月の医学試験は、ちょっと無謀な挑戦なんだよね」
ロイは医学試験の事はよく分からないので、「そうなの?」と首を傾げた。
「うん。年一回の試験がちょうど来月だから受けるけど、本当はもっと勉強して受けるものなんだよ。シーマさんも、医学試験は1回落ちてるって言ってた」
ミコトの言葉に、落ちたら来年の試験まで、またずっと勉強なのか? とロイはゾッとした。
いや、受かったとしても、医者についてまわるのだ。
「その、受かったら、誰か医者に師事するんだよね? やっぱりシーマさんの弟子になるの?」
ミコトは果実水を飲む。
「まだ、分からないんだけど、私は女性だから、女性の医師についた方がいいんじゃないかってシーマさんが…」
ロイは下を向いた。
女性の医師は、とても少ない。
第1にいただろうか。
ミコトはロイのためにこの世界に来たのに、ロイから離れて行ってしまう…。
「でもね、それだと、本末転倒っていうか…。私、ロイと離れたくないんだよね。私の目的は医者じゃなくて、ロイと一緒にいることなの。その結果、生まれてくる子どもを救いたいの」
ミコトの中に、それだけはある。
ロイと一緒に生きること。
医者だったら、元の世界でも、頑張れば、きっと目指すことが出来る。
でもロイがいるのは、この世界なのだ。
「ミコト…」
ロイはミコトが飲もうとしていた果実水をパッと取り上げた。
「飲ませてあげるね?」
「え! いいよ、自分で飲める…」
ロイは自分の口に果実水を含んで、ミコトに口移しをする。
飲ませてあげるって、こういう感じ!?
ミコトはゴクンと飲み込んで、これはいつもより力が入っている! と感じていた。
「ロイ! もっと!」
ロイは、また利用されてるな、と笑う。
でも、ミコトが疲れて倒れないなら、それでいい。
「じゃあ全部飲ませてあげるよ」
「……ぜんぶ?」
果実水は、まだかなり残っている。
これを全部、口移しで?
何回…、何回だ?
ミコトは、もっとと言った事を、かなり後悔していた。




