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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケでバグ転移した私、15歳で天然最強騎士団長と偽装結婚しました〜  作者: 三多来定


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130/191

130.治癒魔法

 騎士団の救護班で、ロイとシーマは、打ち合わせ用の机を挟んで、向かい合わせに座っていた。


 時間は21時30分だ。


「団長は、ミコトさんの治療の力を、どう思いますか?」


 シーマの顔は、真剣だ。


「どう、というのは…?」


 ロイは質問で返す。


「私には、団長の力ではないように思います」


 やっぱりか、とロイはうつむく。


「ミコトさん自身のケガの治りが早いのは、団長の力です。でも、他人を治すのが団長の力だとすると、いろいろおかしな点が…」


 シーマは言い淀む。

 ロイは「お願いします」と言う。

 シーマはコホンと咳払いをする。


「団長の力で他人を治せるのなら、今までに誰かがやっていたはずです。セタさんや、グレンさん、その前の方々、です。でも、そのような記録はありません」


 ロイは、確かに、と頷く。

 ロイ自身も出来ないが、セタがやっているのも見た事はない。


「これは、想像で申し訳ないのですが、力を入れるという行為は、とても、危ないことではないでしょうか?」


 さすが医者だ、とロイは思っていた。

 この事も、やれるなら、歴代アリアンが自分の愛する者にとっくにやっているだろう。


「実は、そうらしいです。聖女と神様? 曰く、ミコトの条件? 体質? が合っている…らしいです」


 ロイはしどろもどろに説明する。

 シーマは「神様ですか…」と呟いている。


「俺は、ミコトに力を入れている感覚が全くありません。ミコトにも受け取っている感覚はないようです」


 もし、この事が、ミコトに危なくても、やめ方がわからないのだ。

 離れろと言われたら、どうしたらいいのだろう。


「団長、ミコトさんの体調は、とても良いですよ。そこは、私が保証します」


 ロイの顔色を読んだのか、シーマは優しく言う。


「ありがとうございます」


 ロイは微笑んだ。


「団長の力でないなら、なんなのか、という話ですが…」

 

 シーマは席を立つと、先程読んでいた分厚い本を持ってきた。

 本の表紙には、「古代魔法記録」と書いてある。

 ロイはギクッと体を強張らせた。


「あ、古代魔法の話題はお嫌いでしようか?」


 シーマは本当に察しが良い。

 ロイはフゥと息を吐いた。


「実は、ミコトの襲撃の原因は、古代魔法絡みなんです…」

「そう、でしたか…!」


 シーマは何かが繋がったかのように、納得した表情をしている。


「シーマさんは、古代魔法に詳しいんですか?」


 ロイの問いに、シーマは首を横に振った。


「第1には古代魔法に関する研究機関がなく、資料も殆どないんです。この本は、医学研修で第3に行った時に、自費で購入したものです」


 自費でこんな本を購入したということは…。


「古代魔法に興味がある、という事ですか?」


 シーマは苦笑した。


「実は、古代魔法には、治癒魔法があると聞いて、医学とどう違うのかと…。魔法の流れ方が、血管に入るのか骨に入るのか、筋肉や脂肪、細かい細胞など、原理の同じ部分があるのなら、現代の医学の発展に…団長?」


 シーマはロイが頭を抱えているのを見て、首を傾げた。


「すみません、難しい話は、頭に力を回せと人から言われていまして…」

「そんなに難しくは…?」


 シーマは根っからの医者であり、医学研究者のようだ。

 騎士団員なのが、不思議な男である。




 ロイは頭に力を回して、シーマの話を聞いていた。


「つまり、古代魔法における治癒魔法は、他の魔法と全く違うのです。体の内部をある程度理解していないと使えない、ということなのです。

そうなると使い手は限られてしまう上に、かなりの体力と精神力を必要とします。一番初めにこの世界から消えた魔法は治癒魔法だと言われており、それはやはり使い手の問題で…」

「ちょっと待って下さい!」


 ロイは、喋り続けるシーマにストップをかけた。

 シーマは、しまったという顔をする。


「すみません! 私、興味のある事になると、早口になってしまうようで…」


 ぺこぺこと頭を下げるシーマを見て、ロイは、シーマと医学や古代魔法の話は今後はやめておこう、と思っていた。


「シーマさんは、ミコトが治癒魔法を使ったのではないか、と言いたいんですよね?」


「そうです! あるいは、近いものです!」


 ロイの言葉に、シーマは身を乗り出して頷く。


「ミコトは、体の内部を理解している、とシーマさんは思っている」


「まさしく! そうなんです!」


 ロイは腕を組んだ。

 ミコトの元いた世界は、この世界より、いろいろ進んでいるようだし、ミコトにその知識があってもおかしくはない…か。


「ミコトさんは、治癒魔法に必要な体力や精神力を、団長の力で補っているのです!」

「なるほど…」


 ロイは腕を組んだまま、天井を見た。


 シーマの考えを正しいと仮定するのなら、治癒魔法は、古代魔法ではない。

 

 全然別の物である。


 素質、知識、体力、精神力。

 その全てを持っていて、初めて使えるようだ。

 それは、世界から消えてしまうのも頷ける。

 

 むしろ、治癒魔法を使えた人はいたのだろうか?


「ミコトに知識を確かめましょうか?」


 ロイの提案に、シーマは目を伏せた。


「実は2年ほど前、ミコトさんが見習い団員で各部門を回っていた時に、救護班を手伝っていただき、その時の処置の速さに驚きまして、つい、いろいろ質問したんです。ですが、答えるのがとても辛そうで…」

「ああ…」


 きっとどこまで話していいのか、分からなかったのだろう。


「ミコトさんの救護班配属申請を出したところ、カイル前団長に却下されて…。だから、追求はダメなのかと諦めたのです」


 カイルは、自分の仕事をして欲しかっただけかもしれない、とロイは苦笑する。


「ミコトには、明日、話せる範囲で話してもらうようにします」


 ロイの言葉に、シーマは顔を輝かせる。


「ありがとうございます! ずっと気になっていたんですよ」

「あ、でも、ミコトの救護班配属はダメです」


 ロイのキッパリした言葉に、シーマは苦笑した。


「臨時事務団員のように、臨時救護団員でもダメでしょうか?」


 ロイは、ウッとなる。

 その制度を考えたのは、ミコトなのだ。


「その辺は…ミコトの意思ですけど…、俺が一緒にいる時だけなら、まあ…」

「え? ミコトさんの隣に団長もいるって事ですか?」


 シーマは驚いた顔をする。


「当然ですよ。他の男に触れるのは、ちょっと…」


 あんなに放置していたのに、この独占欲は何なのか、とシーマは呆れていた。

 そもそも、触れないで治療は無理である。


「なかなか、ハードルが高そうですね」


 シーマは席を立って、お茶とポットを片付け始めたのだった。

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