129.シーマの恋愛相談
結局、路地裏騒ぎの後、4人はアクセサリーを購入することも出来ず、ガラ悪男5人を今日の町警備担当の第5小隊に任せ、マリーを聖女棟に送り、騎士団でいつも通り仕事をする事になった。
交流戦が終わったばかりなこともあり、ロイはミコトを18時で帰らせ、他の団員やリントも、20時には帰らせた。
21時、ロイは、最小限のランプが灯る騎士団内の救護班を覗いた。
「お疲れ様です、団長。来ると思っていました」
救護班長のシーマは、読んでいた分厚い本を閉じて、ロイに笑いかけた。
今朝も座った打ち合わせ用の席に、ロイは再び座る。
シーマは温かいお茶を淹れて、ロイの前に置いた。
「ミコトさんが治した方を診させていただきました。小隊長たちの時と同じく、特に問題はありませんでした。」
ロイは、微かに微笑んだ。
「そう、ですか」
「小隊長たちは、引き続き経過診察をしますが…団長?」
シーマはロイの顔を覗き込む。
「どうかされましたか?」
「いえ、どうもしないんですが…」
シーマはロイの向かい側に座り、ニッコリと微笑む。
「救護班では、各種相談も受け付けているんですよ。精神の安定は、正しく力を使う事に必要ですから」
「各種?」
シーマは頷く。
「一番多い相談は、恋愛相談です」
「ええ?」
ロイは苦笑した。
屈強な男たちの悩み事第1位は、恋愛だったのか。
「大抵の場合、お相手の女性を全く知らないので、話を聞くだけですが、それでも大分違うものです。団長もどうですか? 秘密は厳守します」
シーマの言葉に、ロイはうつむいた。
「いや、なんかモヤモヤするという程度なので…」
「ミコトさんが、離れていきそうな気がしますか?」
ロイは、ハッと顔を上げる。
「なんで…」
シーマは、ふふっと笑った。
「団長が不在だった、5年間の話をしましょうか」
ロイはシーマから、10歳から14歳のミコトの話をきいていた。
毎日とても努力していたこと。
毎日のように、ロイの話をしていたこと。
他の団員には、目もくれなかったこと。
「ミコトさんに自覚はありませんでしたが、ミコトさんは団長に恋をしていました」
ロイは、うつむいて、冷めたお茶のカップを握る。
「たった数日会っただけの団長を、4年も想い続けるなんて、すごいなぁと感心したものです。でも、ある日パッタリと団長の話をしなくなりました」
ロイは苦笑した。
そりゃあ、そうだろう。
「団長、今朝、ミコトさんの胸が大きくて柔らかいことを疑問に思っていましたよね」
シーマの突然の言葉に、ロイはたじろぐ。
「なんか、すみません…」
「あれは、ミコトさんが無意識に残そうと思った女性の部分なんですよ」
ロイは「え?」と首を傾げた。
「考えてもみてください。ミコトさんが、忙しいからと鍛錬を怠ると思いますか?」
「た、確かに…」
「ミコトさんは、明らかに戦闘の邪魔になるのに、髪も伸ばし始めました」
ロイは、リントがミコトの事を、1年前まではぱっと見男子だったと言った言葉を思い出していた。
「他に想う男性が出来たのかと思いましたが、そんな素振りはありませんでした」
シーマは、ロイを見た。
「ミコトさんは、帰ってこない団長を想うことが辛くなり諦めることにしたのに、無意識に諦めきれず、女性の部分を残したんです」
ロイは、呆然とした。
そう、なのだろうか。
「ミコトさん本人にきいたら否定されるかもしれませんが、私はそう思っています」
シーマは立ち上がると、お茶のポットを持ってくる。
「団長と結婚するときいて、私は心から良かったなと思いました。ですが、団長は、またミコトさんの前からいなくなりました」
「うっ…」
ロイはシーマから目を逸らした。
シーマは、ポットからロイのカップにお茶を注ぎ足す。
「この件は、他の方からも責められたかと思いますが、つまり、今の団長の悩みに対する私からのアドバイスは…」
ロイは淹れてもらったお茶をゴクンと飲んだ。
「アドバイスは?」
「団長も大いに悩んでください、ということです」
「ぐぅっ…」
ロイはガックリと肩を落とした。
「どこにも行くなとミコトさんにすがりついてもいいですし、いなくなる寂しさで泣いていただくのもいいかと思います」
シーマは自分のお茶も淹れて、満足したように飲み干している。
「思いの外、辛口な恋愛相談でした…」
ロイは顔を覆う。
シーマは「そうでもないですよ」と言って笑った。
「ミコトさんの全ての行動は、団長に繋がっているのです。離れていくように見えても、そうではありません。まだ結婚されて2ヶ月も経っていませんし、ゆっくり絆を深めてはどうですか?」
「まだ2ヶ月…」
不思議な感覚だ。
ミコトとはもっと長く一緒にいるのだと思っていた。
いろいろな事があったからだろうか。
「そうですね。そうします」
ロイは頷くと、シーマに言った。
シーマも頷く。
「それでは、本題に入りましょうか」
シーマの言葉に、今までのは本題ではなかったのか、とロイは動揺しながら「はい」と言った。




