128.アクセサリーショップ
第1エラルダ国の首都にある、アクセサリーショップに、ミコトとロイ、リントとマリーはいた。
アレンへの報告とお見舞いの後、2組は用事があり別々に昼休憩を取るからと別れたのだが、アクセサリーショップで再び会ってしまったのだ。
「一緒にお昼も食べればよかったね」
ミコトは笑顔でマリーに言う。
「ミコトたちは、何を食べたの?」
「特大肉串! 2人で20本!」
「それは、無理ね…」
マリーは微笑む。
仲良く話すミコトとマリーを見ながら、リントは溜息をついた。
「こんなに気まずい思いをするのは初めてですよ…」
ロイは苦笑する。
「まさか、行き先が同じとはね」
ロイ自身は、アクセサリーの事はよく分からないし、マリーといるとミコトも楽しそうなので一緒でもいいのだが、リントは嫌そうである。
「リントたちは何買うの?」
ロイの質問に、リントは諦めたようにハァと息を吐いた。
「昨日、婚約者だとリオに言ったので、証拠が必要だと思いまして…」
なるほど、とロイは頷く。
「リントは行動が早くて、すごいなぁ」
「ロイさんだって、再会した次の日に、短剣を渡してましたよね?」
ロイは、「それがさぁ」と腕を組んだ。
「俺、ミコトにプロポーズしてなかったんだ」
リントは、「は?」と間抜けな声を出した。
「それで、昨夜、結婚してくださいって言ったんだよね」
リントは頭を押さえる。
「いや、結婚して、結構たってますよ?」
「そうなんだよ。だから、リントは行動が早くてすごいなぁって…」
こんな男に褒められても全く嬉しくない、とリントが思っていると、突然、5〜6人の女性が、ロイとリントを取り囲んだ。
「騎士団長のロイさんと、副騎士団長のリントさんですよね!?」
「は、はい」
あまりの突然の事に、ロイは馬鹿正直に返事をした。
周りの女性は、やっぱり! と言い、きゃあきゃあと騒ぐ。
「私たち、ファンなんです!」
「ふ、ふぁん…?」
ロイとリントは、周りの女性が10人以上に増えているのを見て、後ずさった。
中には、アクセサリーショップの店員も混ざっている。
これは、女性へのプレゼントのアクセサリーを購入する雰囲気ではなくなってしまった。
「すみません、勤務中ですので!」
リントはマリーに目で合図をすると、ロイの腕を引っ張って、店の外に出て行った。
女性たちは、2人を追って、外に出ていく。
ミコトとマリーは、その光景を、呆然と見送った。
「あらあら、人気者ね」
マリーはウフフと笑う。
さすがマリー、余裕である。
「今日は無理そうだね」
ミコトも苦笑する。
「今日というか、首都では無理かもしれないわね」
マリーの言葉に、ミコトは納得した。
チラチラ見られながら、男性と一緒にアクセサリーを選ぶのは、落ち着かない。
「私たちも店を出ましょう。どこにいても、ロイはミコトを見つけられるでしょ?」
確かに!
「それなら、なるべく、人けのないところに行こう」
ミコトとマリーは、店を出て、人けのない路地裏に入って行った。
町の路地裏というのは、薄暗い。
通りには店がたくさん並んで、人もたくさんいるのに、一本道を外れると、お店も人も全くなくなるのだ。
そんな道に、若い女性が2人歩いていたら、そりゃあ、こうなりますよね。
ミコトとマリーは、ガラの悪い5人の男たちに囲まれていた。
「お姉ちゃんたち、めちゃくちゃ可愛いねぇ。俺たちと一緒に遊ばない?」
「今からさぁ、一緒に飲みに行こうよー?」
ミコトは、マリーの前に立つ。
「私は騎士団員です! このような場所での無理矢理なナンパは捕縛対象です! 立ち去って下さい!」
男たちは、顔を見合わせて、アハハと笑う。
「かっわいいー! 騎士団ごっこ? 捕縛してもらおうかなー?」
むっかぁ!
騎士服着てるのに!
「ミコト、5人もは…」
マリーはミコトにそっとささやく。
あんなやつら、10人でも勝てるが、マリーを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
マリーにいいところを見せたいが、ここはロイを呼ぼう。
ミコトは心の中で、ロイに助けて! と言う。
「こっちおいでよー」
男の1人が手を伸ばして、ミコトの腕を掴もうとする。
ミコトは相手の腕を捻って、地面に叩きつける。
「ぐあっ!」
それを見た残り4人の男たちは、形相を変える。
「この女! 優しくしてりゃつけあがりやがって!」
なんて勝手な言い分なんだ。
ミコトが呆れたその時、ロイとリントの影が見えたかと思うと、一瞬のうちに、4人をやっつけてしまった。
「マリー! マリー、大丈夫!? ケガはない!?」
リントはミコトをどかして、マリーの両肩を持つ。
「大丈夫よ。ありがとう、助けてくれて」
マリーはニッコリ笑う。
ロイは、倒した男たちの脈を確認している。
「一般人だったか。やりすぎたな…」
「ごめん、呼び方が分からなくて、助けてって言ったから…」
ロイは首を横に振る。
「いや、俺はそこまでじゃないって分かってたよ。リントがね…」
ロイはリントをチラリと見る。
リントはマリーが絡むとダメだからなぁ。
ミコトは、倒れた男の横にしゃがみ、男の腕に手を当てる。
せっかくだから、練習だ。
「………」
ロイはミコトをじっと見つめる。
「ダメだ! 心から治したいって思えない!」
ミコトは、ロイの方を見て言う。
ロイはふっと笑う。
「俺も治せないから、はっきりとは言えないんだけど、治療は感情論ではないと思うんだよね」
ミコトは首を傾げる。
「感情が昂ると、力が出やすいんだよね?」
ロイは「んー」と言って、目を閉じる。
「爆発的には? でも、ドンっていう力じゃ傷付けるだけだと…。ミコトが小隊長たちを治したのを見てればもうちょっと分かったかも…」
もしかして、力の流れ的な?
ミコトはもう一度、男の腕に手を当てる。
ドンッじゃなくて、細く、長く、血管に入る感じ?
ミコトは、父である大吾の道場にあった人体模型を思い出していた。
格闘技をやるにあたり、大吾からは、体の仕組みも教わった。
筋肉や骨や内臓、医学的な知識はないが、形は覚えている。
コイツはお腹をやられてるから、そこに入る感じ…。
ロイは目を見張った。
「治している…」
ロイは、自分の力の流れを感じることができる。
しかし、他人に力を入れて、傷つけずに治すなんてことは出来ない。
なのに、ミコトはやっている。
これは、ロイの力を使っているのではない…?
「ロイ、どう?」
ミコトの声に、ロイはハッとなる。
「あ、うん。治ってる…」
ミコトは嬉しそうに「やった!」と言う。
「ミコト、コイツ治したの?」
リントは不満気にミコトにきく。
「リントがやりすぎちゃったからさぁ」
「お前にだけは言われたくない」
ミコトとリントのやり取りを聞きながら、ロイは、どうしようもなく、不安になる気持ちを抑えることが出来なかった。




