126.ミコトの成長
交流戦から一夜明けた早朝。
騎士団の練習場で、ロイはミコトに、力のコントロールを教えていた。
「うん、そう。移動させる感じ。出したくない時は、お腹にしまう感じで…」
感覚的なことを、言葉にするのは難しい。
それでもミコトは、ロイの言葉をよく聞いて、かなりコントロールが出来ている。
「俺もなんだけど、感情が昂ぶると力が出やすいんだ」
ロイの言葉に、ミコトは「確かに」と呟いた。
昨日も、恥ずかしくて頭がパニックになっていた。
常に冷静でいないと、周りの人に迷惑をかけてしまう。
息を吸って、力をお腹にしまう状態を当たり前に…。
「ロイさん!」
リントの声に、ロイとミコトは振り向いた。
「おはよ、リント。早いね」
「おはようございます。2人こそ、こんなに早く何をやっているんですか?」
リントは練習場の中央に歩いてくる。
「実は…あ、ミコト、息を止めるの意味ないから」
ロイはミコトの背中を、ポンと叩く。
ミコトは、ハッとして、息を吐く。
「もしかして、力のコントロールをしようと?」
リントの問いに、ミコトは頷いた。
「お腹にしまおうとすると、つい、息を止めちゃうんだよね」
リントはロイを見た。
「ロイさんは、思いの制御は?」
ロイは、ふっと笑った。
「無理だということが分かった」
リントは呆れた表情になる。
「いや、そもそも、思いを出してる感覚がないんだよ。よく考えたら、俺の思いで、誰かを倒した事ないし」
ロイは慌てて、リントに言う。
「確かにそうですね。じゃあ、ミコトが勝手に受け取っているだけなんですね」
「勝手にって、ひどい!」
リントの言い様に、ミコトは口を尖らせる。
「おはようございます。団長、副団長、ミコトさん」
3人が振り向くと、練習場のラインの外に救護班長のシーマが立っている。
「ミコトさんの件について、ぜひご説明を、と思いまして」
ニッコリ笑うシーマに、3人は「はい…」と素直に返事をした。
救護班には、シーマ以外誰もいない。
まだ朝6時半だから、当然だろう。
救護班員の打ち合わせ用の机を挟んで、ロイとミコト、向かい側にシーマとリントが座った。
「私はミコトさんが異世界人だと知っています。10歳の頃から、検診もしています。お話ししていただければ、お役にも立てると思います」
昨日の3人半殺し後の治療もさることながら、その前のたんこぶが急に治ったのも怪しまれていたようだ。
体のことで、お医者様を騙すのは難しい。
それに、シーマなら信用できる。
ロイとミコトとリントは頷くと、第2に狙われていることは省いて、シーマにミコトの事を説明した。
「大体、理解しました」
シーマの言葉に、ロイは驚いた。
「俺は理解していないのに!?」
「ロイさんは黙っていてください」
ロイとリントのやり取りを見て、シーマはふふふと笑う。
「団長は、感覚と勘で理解されているので問題ありません。」
「あ、そうですか? 良かったです」
ロイはホッとしているが、良いのかは不明である。
「でも、団長の力をですか…。ミコトさんの体が少々心配ですね。診察をしてもいいでしょうか」
「はい! お願いします」
ミコトは簡単な診察と、身体測定をしてもらった。
騎士団員は、成人する15歳まで、身体測定は半年に一回行い、その後は1年毎に行う。
診察はどの年齢の団員も1年毎に行っている。
「ミコトさんは、昨年急に背が伸びましたが、今年は落ち着いていますね。成長も診察も異常はありません」
ミコトは、「え?」と言った。
「わ、私、もう身長伸びないんですか?」
シーマは微笑んだ。
「伸びても、2〜3センチだと思います」
ミコトはショックを受けた。
「パ、父は185センチで100キロの巨大なんです! 母も170センチはありました! 私はもっと伸びるはずなんです!」
「でか…」とリントは呟いている。
ロイは、ミコトの恵まれた体質は、正しく親譲りだったのか、と納得していた。
シーマは、驚いた顔をしている。
「親御さん、大きいですね。でもミコトさんは、162センチです。女性なら高い方ですよ」
ミコトは首を横に振った。
「来年には、リントを抜かす予定だったんです!」
「は!?」
ミコトとリントは、睨み合う。
リントは175センチくらいだ。
ミコトは、昔から、リントの身長は越せると当然のように思っていたのだ。
ロイは、まあまあと間に入る。
「確かに、親御さんの身長からすると、170は超えてもいいですね。おそらく、ミコトさんは、幼少期から足腰をかなり鍛えていますので、筋肉が成長を妨げたのかもしれません」
な、なんだって!?
鍛えていたことが、ダメだった?
ミコトは机にパタリと倒れた。
リントは「残念だったな!」と嬉しそうに言う。
「あの、シーマさん、俺、かなり疑問なことが…」
ロイはシーマの方に身を乗り出した。
「なんでしょう?」
「ミコトの胸、何でこんなに大きいんですか?」
「ロイさん!?」
な、なんだ、その質問は!?
ミコトは机に倒れたまま、顔を上げられなくなった。
「いや、真面目な話、おかしいんだよ! ミコトはほぼ筋肉なのに、胸だけ柔らかいんだよ!」
ぎゃー!
誰かこの天然素直イケメンを黙らせてっ!
「あ、そう、ですね…」
シーマは、倒れたままのミコトとロイを交互に見る。
「ロイさん、そんなだから、殴られるんですよ」
リントは溜息まじりに言う。
シーマはコホンと咳払いをした。
「ミコトさんは成長期である昨年、ほぼ事務仕事をしていました。走り込みはしていたようですが、上半身をあまり鍛えられなかったのだと…。あとは、遺伝、だと思いますが…」
真面目に答えなくていいのに…。
確かに、母の琴子は胸が大きかった。
遺伝は当たっている。
「そうですね。昨年は忙しかったから、事務はミコトに殆ど振ってました」
シーマとリントの言葉に、ロイは納得したように頷いた。
「ありがとう、リント」
「何のお礼ですか…」
これ、日本だったら、セクハラだよ。
こんな、どうでもいい話をしていたせいか、
「おはようございます」
と、他の救護班の班員が出勤してきた。
ロイとミコトとリントは、シーマにお礼を言い、救護班を後にした。




