124.後味の悪い打ち上げ会
第2エラルダ国騎士団との交流戦を行った日の夜。
町の食事処を貸し切って、第1エラルダ国騎士団の、打ち上げ会が行われていた。
以前からロイとリントも利用している店で、マリーとセイラも打ち上げ会に参加している。
ロイとミコトとリントと中隊長のコランとイワン、マリーとセイラは、そのお店の、個室にいた。
第3試合が終了した後、リオが突然の病気で倒れ、主治医もこちらに向かっていると言い、早々にリオとカーサと第2騎士団の全員は帰って行ったのだ。
こちらにも医者がいると言っても、聞く耳持たずだった。
結局、ロイとソマイの試合は行われなかった。
いや、最初から、騎士団長同士の試合をする気はなかったのだ。
そしてこれは、リオの策略で、ソマイの本意ではなかった。
と、ミコトは思いたいのかもしれない。
あのバラは迷惑料として渡してきた、と思いたい。
こんなに、後味の悪い事はない。
ミコトの報告も含めて、全員が複雑な表情をしていた。
ミコトへの腹部攻撃、リントの対戦相手の代表とは思えない弱さ、リオのミコトとマリーへの求婚、リオの急病と騎士団長の試合の中止。
全てが、リオのシナリオだったのだから。
「んもう! みんな暗い! ほら、コランちゃん飲んで!」
「コ、コランちゃん!?」
すっかりコランを気に入ったらしいセイラは、コランのグラスにお酒を注ぎ、さらに、ミコト用の果実水を注ぐ。
「あ! 混ぜましたね!?」
「聖女のお酌だから、飲むよねー?」
コランは半泣きで「まっず…」と言いながら飲んでいる。
ミコトはセイラの明るさ(若干パワハラ)に、ホッとしていた。
「セイラはよく我慢してたね」
ミコトが褒めると、セイラはふふんと笑った。
「ミコちゃんの試合後は、寝てたからね!」
部屋にいた全員は、ガクッとなる。
「ウソ!? 目、開けてたよね? 寝てたの?」
ミコトがセイラに詰め寄ると、セイラはドヤ顔をした。
「つまんない式典を繰り返した結果、私が身につけたスキル、渾身の起きて見ているフリ、だよっ!」
部屋にいた全員は、深い溜息をついた。
とんでもないスキル? をセイラは身につけていたのだ。
マリーは、クスクスと笑う。
「もう、セイラったら…」
ミコトも笑った。
そう、つまんない式典、だったのだ。
「ま、ミコトの試合だけが、リオの策略外だったって訳か」
リントは果実水を飲みながら、唐揚げを食べる。
「俺、何もしなかった…」
ロイはお酒のグラスを両手で持ちながら、下を向いた。
そうなんだよね。
結局ロイは、バラの花束を持って、見学していただけなのだ。
「ロイはそれで良かったのよ。こちらに来なくて助かったわ。私の事まで、疑われたんだから」
マリーの言葉に、ミコトは頷いていた。
リオは、マリーの美しさを見て、ロイの愛する人はこちらではないか、と思ったのだ。
リオは、アリアンの耳の良さ、もしくは勘の良さを知っているらしい。
ミコトとマリーに求婚をして、ロイの反応を見ていたのだ。
ロイは、運良く? 持っていたバラの花束で顔が隠れていたこともあり、どちらにも反応せず、リオの策略を逃れたのだ。
「マリーさんの、何を疑っていたのですか?」
コランは首を傾げる。
「国家特別人物同士は、誰を妻にするのかがステイタスで、それを競ってるんですよ。ロイさんの2番目の妻にマリーがなるのかと思ったんでしょうよ。リオ自身は、美人を3人妻にしていますからね」
リントの説明に、コランは「へぇー」と言う。
「そんなくだらない事をやっていて、俺の試合は誰も見ていなかったんですねー」
イワンは手酌をしながら、拗ねたように言う。
コランはイワンの肩に、ガシッと腕を乗せた。
「俺は見ていたよ!」
そりゃあ、審判だったからね。
でも、イワンの言う通りだ。
本当はリントの説明した理由ではないが、実際、女性を傷つけて、くだらないことこの上ない。
ミコトは果実水を一口飲んで、
「あっ、キダンさんが来る!」と叫んだ。
マリーとコランは心底嫌そうな顔をした。
「ミコちゃん、人間やめてきたねー。マリーパパ、気配ないのに!」
セイラはアハハと笑う。
ロイとリントは顔を見合わせた。
「ロイさんは、わかります?」
「俺は、気配遮断してる奴は分かる。キダンさんは、息をするように気配を消しているけど、まあ、分かる。殺意のない、一般の人の気配は雑多でわかりづらい」
ミコトは身を乗り出した。
「あ、じゃあ、ロイの力なんだね。あとね、お肌の調子が良いんだよ! 肌荒れしないし、ニキビが出来ない!」
リントは呆れた表情になった。
「気配察知と、肌の調子は同列じゃないだろう!」
ミコト的には、むしろ肌の調子の方に軍配が上がるのだが。
個室のドアが、ノックもなく、バーンと開く。
「お待ちかね! キダンだよー!」
全員、しらーっと、キダンを無視する。
「あ、あれ? なんか、さみしいんだけどー?」
キダンは、帰還する第2の後をつけていた。
ちなみに交流戦中は、騎士団の応接室にいた。
「予想通り、リオは仮病だったよ。もちろん、どこにも主治医はいなかった。元々、当日帰国なんて、強行日程だなぁと思っていたけど、この計画のためだったんだねー」
キダンはロイとリントの間に無理やり座って、報告をする。
「あ、ありがとうございます。キダンさん」
狭さで体を反らせながら、ロイはお礼を言った。
「ロイ君には勝てないからってさぁ…。あ、ロイ君のあの花束は何なのさ? 僕、笑いを堪えるの大変だったよー」
キダンは笑いを堪えずに、ロイにきく。
「ソマイさんから、(ミコトに)いただいたのよね?」
マリーは笑顔でロイに笑いかける。
キダンは嬉しそうに頷く。
「そっかぁ。ソマイには同性愛者説あるもんね。ロイ君、ガンバレ?」
何も知らないコランとイワンは、そうだったのか、と複雑な表情をしている。
この親子は…! とロイは下を向く。
しかし、ソマイからミコトに、とも言いたくない。
「そんで? ロイ君とミコトちゃんは、仲直りしたの?」
キダンの言葉に、ミコトはハッとなる。
まだちゃんとロイに謝っていなかった。
「ロ、ロイ。殴ってごめんなさい! あのね、嫌だったんじゃなくて、恥ずかしかったっていうか…」
恥ずかしいのにここで謝るのか、とロイは焦る。
「いや、今回の事は、俺が悪いから。とりあえず、また後で、2人の時に、ね」
「もう帰ってもいいですよ」
リントは、しっしっと、手を払う。
セイラは、「えー!」と叫んだ。
「ミコちゃん帰るなら、私も帰る!」
マリーも「私も帰るわ」と席を立つ。
マリーが帰るのなら、リントも帰るだろう。
どうやら、お開きになりそうだ。
イワンとコランとキダンは、他の第1の騎士団員たちとまだ飲むとのことで、ここでさよならをした。




