123.リオからの求婚
第1エラルダ国の騎士団の練習場で、第2エラルダ国騎士団との交流戦が開かれていた。
第1試合は、ミコトの圧勝である。
ミコトは第2試合に出るリントと、聖女の護衛を交代する。
交代時、リントは無言だった。
きっと吹き出しそうになるのを抑えているのだろう。
「ミコトさん! 強いのだろうとは思っていましたが、予想以上でした! 素晴らしいです!」
リオとカーサの護衛のため観覧席にいるソマイは笑顔でミコトを絶賛する。
第2の騎士団長ですよね。
恐ろしい程、場の空気を読めないイケメンだ。
「あ、ありがとうございます…」
ミコトは目を逸らしながら答える。
「わたくしからも、賞賛いたしますわ。ミコトさん、素晴らしい試合をありがとうございます」
なんと、リオの奥様のカーサまで、ミコトを褒めてきたではないか。
見ると、カーサの笑顔は清々しい。
もしかして、リオの企みに反対だったのだろうか。
「もったいないお言葉です。ありがとうございます」
ミコトはカーサに一礼した。
リオは何も言わない。
まあ、何か言われても困るけど。
ミコトは、セイラの後ろ、若干マリー寄りに立った。
「それでは第2試合をはじめます! 第1の20代代表はリント、第2の20代代表はタイカ」
今度は、第2の審判のサンスが組み合わせを読み上げる。
練習場の中央に、リントとタイカと呼ばれた男が出る。
タイカは25歳で金髪の青い瞳だ。
年齢も金髪も瞳の色もロイと同じだが、目は小さく、顔にそばかすもあり、ロイには似ていない。
体格はリントと同じくらいである。
「はじめ!」
試合を見ながら、ミコトは、あちゃー、と思っていた。
実力差がありすぎる!
この試合は、第2は、元々捨てているのだ。
試合開始20秒くらいで、リントはタイカをダウンさせて、試合を終わらせた。
これでも引き伸ばした方だ。
もしかしたら、リオは早く帰りたいのかもしれない。
「勝者リント!」
審判のサンスの言葉にも、リントの表情は動かない。
きっとマリーにいいところを見せたかったのに、叶わなかったからだろう。
リントは一礼すると、第1騎士団員の方へ歩いて行き、ロイの隣に座った。
ロイは「お疲れさま」と声をかける。
「疲れているように見えますか?」
リントは小声で呟く。
ロイは苦笑した。
第3試合は、イワンと第2の副騎士団長のヘンリだ。
ヘンリは、イワンより一回り小柄だが、素早い動きで、イワンを翻弄している。
ミコトは、なかなか強いがリントよりは弱いかも、と納得していた。
「ミコトさん」
なんとリオは、試合を見ながら、ミコトに話しかけてきた。
「はい」
ミコトも試合を見ながら、返事をする。
「ものは相談なのですが、ロイさんと離婚されて、私の妻になりませんか?」
な、なんですとっ!?
「リオさん! 何を言っているんですか!」
ソマイは大きな声を出す。
リオは、右手を上げてソマイを制する。
「実は第2まで、噂が聞こえてくるのですよ。ミコトさんは素晴らしい女性なのに、あんな噂、私には耐え難いのです」
どんな噂なんだ?
「私でしたら、ミコトさんに不自由はさせません。どうでしょうか?」
怖くて、カーサの方を見ることが出来ない。
ミコトは、んんっと咳払いした。
「どんな噂か分かりませんが、わたくし、不自由はしていませんので、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
ミコトはなるべく平常心で答える。
リオはふふっと笑う。
「私、先日3人目の妻を迎えたのですが、離婚しようと思っているのですよ」
はあ?
最低ですか?
「彼女は美人なのですが、少々頭が弱くて…。話も合いませんし、暴飲暴食を繰り返して、体型が…」
リオは振り返ると、ミコトを見た。
体を見られている!?
気持ち悪い!!
「簡単に申し上げますと、ミコトさんを気に入ったのですよ。今すぐとは言いません。どうか考えてみてはくれませんか?」
絶対イヤです!
死んだ方がマシです!
「お話中失礼致します。第1の代表として、それは看過できないお話ですわ。ミコトは第1の国家特別人物の大事な妻です」
マリーはニッコリ微笑みながら、リオに堂々と意見した。
「何かありましたか、ロイさん」
第3試合を見ながら、ロイが舌打ちをしているのを聞いて、リントは小声でロイに話しかけた。
「リオがミコトに求婚している」
ロイは同じく小声で答えた。
「は、はぁ?」
「あまり向こうを見ないで。こちらの反応を見ているのかもしれない」
リントは小さく頷いて「美人好きなはずじゃ…」と呟く。
ロイはリントをジロリと睨む。
「…すみません」
リオは、少し屈んで、マリーを見た。
「マリーさん。それでしたら、ぜひ、マリーさんが私の妻になって下さい」
は、はぁーっ!?
まさかの、本当は、マリー狙い!?
マリーは笑顔を崩さずに、うふふと笑う。
「いやですわ。リオさんはご冗談がお好きだったのですね。そんなに立て続けに求婚なさる方、初めてですわ」
あ、コレ、マリーはかなり怒っている。
リオもふふっと笑う。
「冗談ではないのですよ。マリーさんにも、同じ事が言えます」
もう、殺してもいいだろうか。
ミコトは拳をグッと握る。
ソマイはミコトに向かって、首を横に振る。
殺気を感じ取られたか。
「同じ事、とは?」
マリーから笑顔が消えている。
「アレンさんを見てお分かりだとは思いますが、代表の仕事は激務です。アレンさんはお歳ですので、名代なんてやってしまうと、次はマリーさんになりかねません。それも、困るでしょう?」
リオはニヤリと笑う。
女には代表は無理だと言いたいのだろうか。
リオの考え方は、男尊女卑だ。
マリーは正面を見た。
「確かに、代表の仕事云々は、私にはまだ理解できない事が多いです。でも、結婚は別の話ですよね。わたくしには婚約者がいます」
「ロイさん、ヤバくないですか? ミコトから殺気が…」
リントはロイに耳打ちをする。
「今度はマリーに求婚した…」
ロイは正面の試合を見ながら呟く。
「ミコトと連携して殺します」
「ミコトもそのつもりかも…」
ロイは苦笑する。
リオは「ほお?」と言った。
「失礼ですが、誰だかお伺いしても?」
お前に関係ないし!
リントと連携して殺してやる!
ミコトの形相を見て、ソマイはぷっと吹き出す。
「副騎士団長のリントです」
マリーは試合を見たまま、答える。
おおー!
リント、良かったね!
ミコトは満面の笑みで頷いた。
「アイツは百面相か…」
リントはミコトの表情がころころ変わるのを見て、呆れていた。
ロイは、ふっと笑った。
「マリーが、リントを婚約者だって言ってる」
リントは、ぱあっと顔を輝かせた。
ロイは、この2人はマリーに関して気が合うのか、と思っていた。
「ああ、そうですか。彼ね。なるほど…」
リオは、意味深に呟きながら、頷く。
と、その時、カーサが席を立った。
「すみません、わたくし、少し外しますわね」
カーサは言いながら、スタスタと歩き出す。
「姉さん!」
ソマイは、第2の騎士団員に合図を送ると、カーサを追いかけて行った。
そりゃあ、そうなるよね。
ミコトは、さっき、ミコトの試合を褒めてくれたカーサを思い出した。
あれは、カーサの本心だった。
ミコトは、右手をバッと上げると、ダッシュして、カーサを追いかけた。
それを見て、ロイとリントは、ガックリと肩を落とした。
「相変わらず、判断からの行動力がありすぎる…」
リントは呟くと、聖女の護衛につくため、立ち上がった。
「ロイさんは、ココから動かないで下さいね」
「なんかさ、もう、よくない?」
ロイは試合を見つめながら、呟く。
リントもそう思うが、リオの狙いは、ロイの本心を引き出すことかもしれないのだ。
おそらく、ロイもそれは分かっているのだろう。
じゃなかったら、とっくにミコトのところに行っているはずだ。
「ごめん。ここにいるよ」
ロイはリントを見て、小声で言った。
「姉さん!」
「カーサさん!」
練習場のすぐ外で、ソマイはカーサの右腕を掴んだ。
ミコトも立ち止まる。
はっきり言って、考えなしに追いかけてきてしまった。
カーサは、ソマイとミコトを見て、アハハと笑った。
「どういう組み合わせなの? しかも護衛を放棄してまで…」
その通りである。
「姉さん、リオさんのアレは…」
「分かってるわ。何か考えがあるのでしょう?」
カーサは、何も知らされていない?
カーサはミコトを見る。
「若いミコトさんやマリーさんが、あんな40を超えたオジサンを相手にする訳ないじゃない。あの人だって、そんな事は百も承知よ」
やっぱり、求婚は嘘か。
なんの策略か知らないが、女性を何とも思っていないから出来る悪手である。
戻って殺すか。
「ミコトさん、殺気出てます。抑えて下さい」
ソマイは、口元を押さえながら、ミコトに言う。
ミコトはハッとなり、ニッコリ笑う。
カーサは、ぷっと吹き出した。
「私もミコトさんのように強ければ良かったわ。そしたらあの人を殴れるのに」
そんな、殴りません! とは言えない。
ミコトは、正真正銘、今朝、ロイを殴ったのだ。
ミコトの目が泳いでいるのを見て、カーサはミコトを覗き込んだ。
「いつも、殴っていたりして?」
「ち、違います! 今朝だけです!」
ミコトはハッとなり口元を両手で押さえる。
自分で暴露とか、アホすぎる。
「ちょっと、ケンカを…」
ミコトはモゴモゴと話す。
カーサはフゥと溜息をついた。
「ケンカが出来るだけ、羨ましいわ」
ああ、そうか。
カーサは、リオと話し合いも出来ないのかもしれない。
練習場の方から、「勝者ヘンリ!」という声が聞こえてきた。
ヤバイ、全然試合を見ていなかった。
ミコトの青ざめる顔を見て、カーサはクスクスと笑った。
「ごめんなさいね、ミコトさん。私たちはここでさよならなの」
「え?」
さよならって、どういう意味だろう。
次は、ロイとソマイの試合なのだ。
ソマイを見ると、ソマイの表情は暗く落ち込んでいる。
練習場の方から、どよめきが聞こえてきた。
第2の審判をしていたサンスが走ってくる。
「団長、大変です! リオさんが、倒れました!」
ーーーえ?
「すぐ行きます」
ソマイはミコトを見る事なく、練習場に戻っていく。
「さようなら、ミコトさん」
カーサは、弱々しく笑うと、練習場に戻って行った。
ミコトは、ただ、呆然と立ち尽くしていた。




