121.ミコトの力
午前11時、セイラとマリーを迎えに行き、騎士団にリントが戻って来ると、コランとイワンに、文字通り泣きつかれた。
「ふ、副団長! 助けてください!」
「ミコトを止めてください!」
もう、嫌な予感しかしない。
セイラとマリーを連れて慌てて練習場に行くと、小隊長3人が倒れている中央に、ミコトが立っていた。
倒れているのは、第2小隊長のハリー、第5小隊長のギル、第10小隊長のユアンだ。
「おおっ! ミコちゃんに力が入りすぎてるっ!」
セイラは驚いて叫ぶ。
「どういうことだ!?」
「どういうこと?」
リントとマリーはセイラに詰め寄る。
「とりあえず、ミコちゃんをコッチに連れてきて。止めないと、死人がでるかもよ」
リントはチッと舌打ちをすると、「ミコト!」と声をかけた。
ミコトはゆっくりリントを見る。
「こっちに来い! 聖女とマリーが来てる!」
ミコトは首を横に振る。
「ダメ、力が…出過ぎてて。ロイ、ロイを…」
「ミコちゃーん! 私が抑えてあげるから、だいじょぶだよー! そんでアイツは処刑!」
セイラは手をぶんぶんと振る。
ロイを処刑は困る…いや、もうそれでもいいかもしれない、とリントは頷き、ミコトの方へ歩いて行く。
「ほら、行くぞ」
リントはミコトの腕を掴む。
「ダメッ!」
ミコトが叫んで腕を振ると、リントの体がブワッと壁の方へ飛ばされる。
これは、ロイの馬鹿力だ!
リントはくるりと回転して着地する。
ミコトはうわーと泣き出す。
「リントが、リントが死んじゃったー!」
「死んでねーよ!」
リントは叫んで溜息をつくと、ミコトの連行は諦めて、聖女をミコトの方へ連れて行った。
セイラはミコトをしゃがませると、ミコトの頭に手を置いた。
ミコトの体が眩く光る。
周りで見ていた団員たちが、「おお…」と歓声を上げる。
「うー、すごい入ってる!」
「セイラ!」
フラフラのセイラをマリーは慌てて抱きとめる。
ミコトはグスグスと泣きながら、倒れた小隊長たちの手を取った。
小隊長たちは、どう見ても重症で意識がない。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「至急、救護班を…」
「待った!」
リントの指示を、セイラは止めた。
小隊長たちの体が、先程のミコトのように光っている。
「ミコちゃんが、治してる…」
「ええっ!?」
もう訳がわからない。
3分ほどたったのだろうか。
小隊長3人は、目を開けると、起き上がった。
第5小隊長のギルと第10小隊長のユアンは、ミコトを見ると、「ひぃっ!」と声を上げて抱き合う。
第2小隊長になったばかりのハリーは、ミコトを見ると、ミコトの手を握った。
「ミコト! 大丈夫か!? 団長に無体を強いられて、ヤケを起こしてたんだろう?」
「ちょっと待った!!」
リントは大声でハリーの言葉を遮った。
「全員よく聞いて! 今ここで起こった事は、他言無用だ! ミコトの意思ではない! こちらで真相を探って二度とこのような事が起こらないよう努める。いいか? この件に関しての質問や他言は一切禁止する!」
周りの団員たちは「はいっ!」と返事をする。
「副団長!」
救護班長のシーマが、こちらに走ってくる。
「シーマさん、ハリーさんとギルさんとユアンを救護班へお願いします」
シーマは頷く。
小隊長たちは、歩けます、と言っている。
「ミコトと中隊長と聖女とマリーは、騎士団長室へ」
ミコトとコランとイワンは頷く。
「残った団員は交流戦の準備を指示されていた通りに進めて」
団員たちは「了解」と言い、各々動き出す。
「ミコちゃん、おんぶしてー!」
緊張感のないセイラの言葉に、リントとコランとイワンは、大きな溜息をついた。
ミコトの小隊長3人半殺し騒動の後、騎士団長室でミコトと中隊長に聞き取りを行った結果、真相は大体次の通りだった。
ミコトはロイを殴った後、倉庫で1時間程、一人反省会をしていた。
中隊長のコランとイワンは、交流戦の準備を進めていたが、イワンはうっかり、ロイがミコトを襲ってケンカになった事を、第5小隊長ギルと第10小隊長ユアンに話してしまった。
ミコトが倉庫から出てきた時には、ウワサはしっかり広がっていて、ミコトは恥ずかしさのあまり、混乱してしまった。
元々、ロイの束縛に近い強い思いを、かなり受け取っていたので、おそらくそれが暴走して体の表面に出ていた。
ミコトを心配した、自称兄のハリーがミコトを慰めようと近づくと、ミコトはハリーをやっつけてしまった。
驚いたギルとユアンはミコトに詰め寄り、押さえようとしたが、同じくやっつけられてしまった。
聖女のセイラはミコトの暴走する力を抑えたが、あまりにも多すぎて力尽きてしまった。
ミコトは残っていた力で、何故か小隊長3人を治療してしまった。
ちなみにこの間、ロイは自分の治療疲れのため、騎士団長室で眠っていた。
「つまり! 悪いのは全部、コイツ!」
セイラは騎士団長席に座っているロイをビシッと指差した。
事務席にミコト、来客用の簡易椅子にセイラとマリーが座り、リントとコランとイワンは立っていた。
「おっしゃる通りです」
ロイは深々と頭を下げた。
「相手が小隊長じゃなかったら、死んでたかもだよ! 処刑決定!」
セイラは何故か嬉しそうに、ロイに処刑宣告をする。
死んでたかも、という言葉に、ミコトは再びうわーっと泣き出す。
「ごめんなさいー!」
「面倒くさいから、泣くなっ!」
リントはミコトにピシャリと言う。
「こういう事は、原因を洗い出したら、対策を立てるんだよ!」
リントの言葉に、コランは「凄すぎて、対策立てづらいですよ」と言う。
全くその通りだが、出来る対策だけでも取らないといけない。
「ロイさんは、思いの制御をして下さい」
ロイは小さい声で「はい」と言う。
「イワンさんは、今後、ロイさんとミコトに関する事は、一切誰にも話さないで下さい」
イワンは「ああ」と目を泳がせる。
リントは、これはまた喋りそうだ、と直感した。
「もし話したら、ミコトの試合の相手を1ヶ月させます」
イワンは「ひっ」と叫ぶと、
「話しません! 絶対に!」と言った。
「そこまで…?」
ミコトは、イワンの怯えように、若干傷つきながら呟いた。
「ミコトは、あー、力のコントロールは出来そうなの?」
ミコトは首を横に振った。
「全然分からなくて…。なんでハリーさんたちを倒したかも、治せたのかも、サッパリ…」
リントはセイラを見た。
「聖女から、何かアドバイス的なことは…」
「アイツと離婚!」
ですよねー、とロイとミコト以外は妙に納得した。
この2人が一緒にいたら、騒動しか起きない気がする。
「離婚はしない!」
「離婚はヤダ!」
ロイとミコトは同時に叫ぶ。
「このバカップルがっ!! じゃあ喧嘩するな! 大迷惑なんだよっ!」
リントが叫ぶと、ロイとミコトは「すみません!」と体を小さくした。
マリーはクスクスと笑って席を立ち、リントの肩に手を置いた。
「とりあえず、今立てられる対策は、これくらいですよね。今日は交流戦だから、準備をしませんか? わたくし、皆さんの勇姿が楽しみなんです」
リントとコランとイワンとミコトは、マリーのあまりの綺麗さに、ポーっとなる。
リントは、ゴホンと咳払いをした。
「準備、しましょう!」
「はいっ!」
コランとイワンとミコトは元気よく返事をする。
4人がバタバタと騎士団長室を出て行くのを見送って、マリーはロイの前に立った。
ロイは思わず姿勢を正す。
「ロイ、ミコトを、本当にお願いね?」
「マリー…」
ロイは席を立って、マリーを真っ直ぐ見た。
「分かった。全力で取り組む」
ロイはそう言うと、騎士団長室を出て行った。




