116.ロイの治癒能力
ミコトが脳しんとうから目覚めた後、ミコトとロイとリントとセイラとマリーは、聖女の部屋にいた。
時間は午後9時である。
「こんな感じ?」
ロイは首を傾げながら、ミコトの後頭部のたんこぶにそっと手を当てる。
ミコトも正しい方法はよく分からないが、「多分」と言って目を閉じる。
何か、温かい。
痛みが引いていく。
リントとセイラとマリーは、その様子をじっと見ている。
「どうかな?」
ロイは後頭部から手を離して、ミコトの髪を上げる。
マリーはミコトの後頭部を覗き込んで、「すごいわ! 治ってる!」と言った。
リントも覗き込んで、腕を組んだ。
「これ、俺の怪我も治せたりするんですか?」
ロイはさらに首を傾げる。
「どうかな、治してる感覚自体ないしなぁ…」
「ミコちゃん以外は無理だよー」
セイラは、ロイから迷惑料として買って貰ったお菓子を食べながら答える。
「ミコちゃんへの思いを体に入れてるだけだから。そもそも、その力、治す力じゃないし。リントがコイツと愛し合ってたら、もしかしたらいけるかもしれないけど」
ミコトはロイとリントが…を想像しかけて、首を横にぶんぶんと振った。
セイラってば、とんでもない事を言うなぁ。
「あー、ごめん、リント。後輩以上には思えないかも…」
ロイは照れくさそうに答える。
リントは嫌そうな顔をした。
「こっちだって、手のかかる先輩以上には思えないですよ!」
ロイは苦笑する。
さすがに、手のかかる先輩、を否定できない。
マリーはクスクスと笑った。
「でも、治す力じゃないのに、治るなんて不思議ね」
マリーの言葉に、ミコトは頷いた。
「そういえば、そうだね」
神様に聞けば良かった。
「あ、それは、元々の俺の治癒力だと思う。俺、怪我の治りが早いらしいから」
ロイは、あっさりと言う。
「そうなんですか? 結構一緒にいますけど、初めて知りました」
リントは驚いている。
ミコトも初めて知った。
「俺もこの間知ったんだよ。怪我しないから気付かなかったんだよね」
それもある意味すごい。
突然、セイラが席を立った。
手にはフォークを持っている。
「試そうよ」
セイラの目が据わっている!
「だ、だめだよ! セイラ!」
ミコトはセイラからフォークを取り上げた。
セイラなら本当にロイを刺しそうだ。
ロイは袖口から小さなナイフを出した。
「いいよ」
「ロイまで、何言ってるの!?」
セイラはニヤリと笑う。
「じゃ、遠慮なく。どこにしようかな…」
「セイラ…!」
ロイはミコトの腕を掴んで、「大丈夫だから」と言った。
リントとマリーは顔を見合わせる。
セイラはロイからナイフを受け取ると、ロイの顔にナイフを向けた。
「顔にするか」
「顔はダメぇ!」
ミコトは大声で叫ぶ。
マリーはリントに「ミコトはロイの顔が好きなのよ」と伝えている。
その通りだけども!
それだけじゃないっていうか!
ロイは微笑むと、腕を出した。
「この辺で」
セイラは頷くと、躊躇なく、ロイの腕をナイフで斬った。
普通、初めて人を斬る時は、もっとためらうものだよね!?
ロイの腕から血が出た瞬間、傷がふさがる。
ロイは反対の手で血を拭きとり、何の跡もない腕を見て「うわっ!」と叫んだ。
ロイ以外の全員は、どちらかと言うと、ロイの声に驚いた。
「何でロイさんが驚くんですか!?」
「いや、すぐ治るから、びっくりしちゃって…」
なんか、ズレている。
ロイ以外の全員は、今度は溜息をついた。
「なんかもう、人間じゃないわね」
マリーの言葉にリントとセイラは頷く。
人間離れしているセイラまで頷くのは、どうなんだろう…。
ロイはミコトをチラリと見た。
「俺のこと、気持ち悪くない?」
ミコトはキョトンとする。
「すごいなぁとは思うけど、気持ち悪くなんてないよ」
ロイはホッとした表情をする。
リントは怪訝な顔をした。
「あの、前から思ってたんですけど、ロイさんって、気持ち悪いと思われたくないってよく言いますよね。言われたことでもあるんですか?」
そう言われればそうかも、とミコトも頷く。
ロイは「うーん」と腕を組んで考え込んだ。
「実は俺、子どもの頃のことを殆ど覚えてないんだよね。もしかしたら、言われたことがあるのかもしれないけど…」
そうなのか。
母親であるレイが亡くなったときの事も、分からないのかもしれない。
「具体的には何歳までの記憶がないんですか?」
リントの質問に、ロイはさらに「うーん」と言って考え込んだ。
「実は養成所時代も殆ど覚えてない。座学に何の授業があったかはサッパリ知らない」
ロイ以外の全員は呆れた表情になった。
「つまり、単なる記憶力が悪い人、ですね」
リントの言葉に、ミコトもマリーもセイラも納得して頷いた。
「ロイさんの過去に一体何があったのか? と思ったんですけど、特に何もなさそうで安心しました」
「あれ? この話終わり?」
リントは「終わりです」とピシャリと言った。
ロイはガックリと肩を落とす。
「あ、あのね、ロイ!」
ミコトは落ち込んでいる? ロイを覗き込んだ。
「2人で話したいことがあるんだけど…」
神様の話をしなければいけなかったのだ。
セタの件だから、ロイにまず相談をしなくてはいけない。
ロイが答えるより先に、リントが「あ!」と声を出した。
「2人で自宅に行ってきたらどうですか? 俺もマリーに話がありますし」
ロイは、リントに頼んでいた事を思い出して、頷いた。
今日もミコトと一緒にいられるなんて、嬉しい限りである。
「えー! 私は除け者? ひどーい!」
セイラは口を尖らせた。
確かに、これではセイラが1人になってしまう。
ミコトの話は、神様の事だから、セイラが聞いても問題はない。
それに、マリーとリントも、たまには2人きりがいいだろう。
「じゃあ、セイラも一緒に自宅に行こうよ」
ロイは、2人じゃなかったのか!? とミコトを見たが、ミコトはお構いなしに話を続ける。
「一度見せたかったんだよね。ベッドも大きいから、3人でも寝られるよ!」
「やったー! お泊まりだ!」
ロイは両手で顔を覆った。
3人で寝るなんて、出来るわけがない。
「あー、残念でしたね…」
リントは小声でロイに呟いた。




