115. 5年ぶりの神様
ミコトは夢を見ていた。
何故夢と分かるのか。
それは、真っ白な空間にいて、目の前に、10歳の時に会った白ひげおじいさん姿の神様がいるからだった。
「とんでもない男に好かれてしまったのう…」
神様がミコトの前に現れるなんて…。
もしかして、存在を消されてしまうのだろうか。
神様は「いや、消さないぞ?」と笑った。
「ミコトには力がないから、今まではこちらから話しかけることが出来なかったんじゃよ。先程アリアンの子孫がミコトに力を入れたから、話せそうだなと思って出てきただけじゃ」
ミコトは首を傾げた。
「ロイが、力を入れた…?」
神様は頷く。
「息が苦しかったじゃろう? アイツの強い念じゃ。思い、とも言う」
「ロイは怒っていて、私を倒そうとしたんじゃ…?」
ミコトはイワンとコランが倒れた光景を思い出していた。
「アイツがミコトを倒す訳がない。俺だけのミコトなのに、という思いが流れ込んだのじゃよ」
ミコトはホッとした。
さすがに、嫌われたのかと思っていた。
「思いは捉え方次第じゃ。今回は怒っていると思ったから、息苦しくなったのじゃろう。普段はこんな事はないはずじゃ」
ミコトは驚いた。
「普段から、ロイの思い? 力? が私に入っているんですか?」
神様はふぅと息を吐いた。
「異例なんじゃがな。最近になってミコトは普通に受け入れておるな。ほら、怪我の治りが早いのもそのせいじゃよ」
神様はミコトの右手を指差した。
なるほど、とミコトは頷いた。
「ロイはアリアンの子孫の中でも一番力が強い。努力はしておるようじゃが、抑えきれていない。ミコトがおらんかったら、一生伴侶は望めなかったじゃろう」
「ええっ!?」
どういう事?
「ミコトには父親譲りの体力と筋力がある。加えて初代聖女の子孫でこの世界の力に耐性があった。全てが作られたかのようじゃ…」
父親似で良かった? ということ?
というか、ロイはイケメンで女性にモテるのに、ミコト以外の女性ではダメなのか。
それは、ミコトにとっては良いが、ロイにとっては、何というか、気の毒である。
「あの、神様は、力のある人となら話せるんですよね。ロイやセタさんとも話すんですか?」
神様は首を横に振った。
「初代アリアンとの約束でな。縁を切っておるから話しかけたりはしないのじゃ」
そうなのか。
戦争になったからだろうか。
そうだ、セタといえば…!
「神様! 私、セタさんを治したいんです! やっぱり古代魔法を習ったりしたら、私の存在を消しますか?」
神様は、ほっほっほ、と笑った。
「実に真っ直ぐな質問じゃな」
神様は白いひげを触りながら「そうじゃのう…」と呟いた。
かなり長い沈黙が続く。
やっぱり神様は古代魔法は反対なのだろうか。
「まぁ、セタが哀れではあるの…」
「じゃあ、あの、神様がセタさんの呪いを解くとか…」
「セタの症状は呪いではないぞ」
神様はキッパリと言う。
「やっぱり、病気ですか?」
「病気でもない。強いて言うのなら、アリアン自身が能力を得るために、己に課した使命の様なものじゃ」
ミコトは「使命…?」と呟く。
「そうじゃ。そして、セタはそれを正しく理解しておる。セタもまた、アリアンの子孫の中では特別なヤツじゃ」
特別兄弟!
なんか、かっこいい!
いや、問題はそこじゃなかった、とミコトは首を横に振った。
神様は、ミコトの様子を見て、ふふふと笑っている。
「使命を断ち切るには、どうしたらいいんですか?」
神様は「断ち切る…」と呟いた。
「使命を失くす、断ち切る、は、アリアンにとっては、アリアンでなくなるということじゃ。しかし、そうか。そういう考え方もあるのじゃな」
神様が何を言っているか分からず、ミコトは首を傾げる。
「ミコト、アリアンの記録をしっかり読んで、再びここに来るが良い」
あの分厚い本か。
ミコトはウンウンと頷いた。
「よ、読みます!」
「それと、もう戻った方が良いぞ。大変な事になっておる」
「大変な事?」
神様は頷くと、白い空間に、何やら画像を映し出した。
地球のテレビのように、騎士団の救護班の様子が映し出される。
「すごい! プロジェクターみたい!」
ミコトが喜べたのは、そこまでだった。
何とロイが、セイラに叱られているのだ。
「アンタほんっとうに何考えてんの!? ミコちゃんまで威圧で倒すなんて!!」
何故セイラが救護班に!?
というか、威圧で倒された訳じゃないよ!
よく見ると、ベッドに横になっているミコトが見える。
自分を上から見るなんて、変な気分だ。
「いや、威圧はやってないんだけど、でも、もう5時間も起きないんだ! 聖女の力で何とか…」
5時間!?
そんなに経ってるの?
「その前にお前が死ねっ!!」
聖女が死ねって言っちゃった!?
セイラは包帯をカットするためであろうハサミを振りかざす。
「待って! セイラ! リントも止めて!」
マリーまで騎士団にいる!
「いや、えっと、ロイさん逃げて!」
知ってる! リントはセイラを止められない!
「俺、もう死ぬでいい…」
ロイが諦めてるっ!?
「皆さん落ち着いて下さい! ミコトさんは脳しんとうです! そのうち目覚めますから!」
シーマさん正しい!
しかし、誰も聞いてない。
「アンタさぁ! 昨日も一晩中ミコちゃんを襲ってたんだよね? ミコちゃんはアンタの性欲の捌け口じゃないんだよ!?」
ぎゃー!!
聖女なのにとんでもない事言っちゃったよ!?
救護班にいた全員がドン引きしている。
ミコトは白い空間にバタッと倒れ込んだ。
「下に送るぞー」
神様はお構いなしに画像を消すと、手を振ったような仕草をした。
ミコトの意識は、一旦暗くなり、直後、画像で見た喧騒が聞こえてきた。
「してない! 捌け口にはしてないから!」
「じゃあ何で寝かせないのっ!?」
「昨日は、ミコトが可愛かったからっ!」
「はぁ? ミコちゃんは毎日可愛いのっ!」
「その通りですっ!」
この言い合いの中を、起きられる人がいたら、お目にかかりたい。
というか、もう誰も止めてないよね。
「ミコトさん! 目が覚めましたか!?」
シーマがミコトの肩を揺する。
起きてるのがもうバレた!
さすがお医者様である。
「ミコト!」
「ミコちゃん!」
セイラはミコトにガバッと抱きつく。
「セイラ…」
後頭部がズキンと痛む。
「ミコちゃん、もうコイツとは離婚しよう! 体がいくつあっても足りないよ!」
待って!
ミコトと離婚したら、ロイは他に女性がいないのだ。
いや、これはバラしてはいけない事だ。
そもそも、ミコトは離婚なんてしたくない。
「離婚、しない…」
うまく喋れない。
後頭部の痛みのせいだろうか。
そうだ!
ロイに力を入れてもらえば、治るかも。
ミコトはロイに手を伸ばす。
「ミ、ミコト!」
ロイもミコトの手を取ろうとする。
「ミコちゃん! 捌け口になっちゃうよ!」
捌け口?
捌け口ってなんだっけ?
とにかく頭が痛いから、ロイに力を入れてもらって治してほしい…!
「捌け口でいい…。ロイに入れてもらいたいの…!」
ミコトの絞り出した言葉に、救護班にいた全員がセイラの発言以上にドン引きした、という話を、後でマリーからミコトは聞くことになるのだった。




