114.交流戦会議
ロイとミコトが帰国した日の午後2時、騎士団長室に中隊長である、コランとイワンが呼び出された。
ロイとリントとコランとイワンで会議を始めようとすると、突然ロイは「あっ!」と声を上げた。
「ごめん! 呼び出しといて悪いけど、10分後に会議室でもいい?」
ロイはリントに小声で「ミコト来るから会議に参加させる」と言うと、騎士団長室を出て行った。
「なんだ? 腹でも痛くなったのか?」
イワンは笑いながら言う。
「笑わない! 団長もお腹ぐらい壊すこともありますよ」
コランはイワンを諭すように言う。
リントは体調の悪いロイを見たことがないと思いながら、事務机から議事録用のノートを取り出した。
「議事録をとるんですか?」
それを見たコランは、リントに尋ねる。
「はい。ミコトには余計な発言をしてほしくないので議事録係をさせます」
リントが答えると、イワンは「ミコト休みじゃん」と言った。
リントは、しまった、と思いながら笑った。
「もともと、会議から出勤予定だったのを、ロイさんが忘れてたみたいです。多分すぐ来るので、会議室に行きましょうか」
コランとイワンは納得したように頷いた。
こういう、特殊なロイの能力は、何とも説明出来なくて困る、とリントは息を吐いた。
会議室にリントとコランとイワンが入ると、すぐにロイとミコトが入ってきた。
2人掛けの長机をコの字型にして、正面にロイ、両脇にリントとミコト、コランとイワンが座る。
ミコトはこの時点で、冴えてるロイの方だ! と分かった。
リントはミコトの前に、議事録のノートとペンを置く。
「ミコトは議事録係をやること。余計な発言は一切しないこと」
ミコトは「承知しました」と頷いた。
ミコトだって、中隊長以上の会議に参加させてもらえるとは思っていない。
ミコトはノートを開いてペンを持った。
それを見て、リントは「あっ、右手…」と言ってミコトからペンを取り上げた。
「悪い。怪我してたこと忘れてた」
ミコトはニヤリと笑って、右手を開いてみせた。
「治ったんだよ」
「え? 早くないか?」
驚いているリントから、ミコトはペンを取り返した。
「だから大丈夫。議事録やるね」
そのやり取りを見ていたロイの視線に気付き、リントは仕方なく頷いた。
ロイも頷くと、全員を見た。
「今日の議題は二つあります。一つ目は、10日後の第2騎士団との交流戦について。二つ目は今後の訓練についてです」
コランとイワンは、ロイが司会進行役なことに、少し驚いたように頷いている。
その気持ち分かります、と思いながら、ミコトはノートにペンを走らせる。
「交流戦ですが、第2から試合数と方法の提案がありました。提案と言いましたが、ほぼ強制的指定のため、こちらはその通りにしようと思います」
ロイの話した内容はこうだった。
・第1試合 10代の代表
第2試合 20代の代表
第3試合 30歳以上の代表
第4試合 騎士団長同士 の模擬戦
・第1の10代の代表は、ミコト指定
・審判は各国から1人ずつ選出し、審判は試合はしない
・あくまで交流戦なので、どちらが強い等の指針にしない
・観客は両国の騎士団員、第2の代表夫妻、第1の代表、聖女のみとする。
「私とソマイさんじゃないの!?」
ミコトの発言に、隣の席のリントはミコトをジロリと睨む。
ミコトは慌てて左手で口を押さえた。
余計な発言をするなって、そういう事か。
これは、決定事項を連絡しているだけなのだ。
ミコトは口を押さえながら、ロイに、意見はありません、と首を横に振って意思表示をした。
ロイは頷く。
「10代の代表は、指定通りミコトで、20代はリント、30代はイワンさんに出てもらいます。コランさんは審判をお願いします」
「了解」
「承知しました」
イワンとコランも頷く。
「第2によるこの年齢別の指定は、第2は第1と2勝2敗の引き分けに持ち込みたいと考えているからです」
ロイの言葉に頷いたのは、リントだけだった。
「そうなんですか?」
コランは首を捻っている。
イワンとミコトも同意見である。
「実は第2の副団長は、33歳なんです。明らかにこちらの副団長と当たるのを避けてますよね」
ロイはチラリとイワンを見る。
イワンは「あー、そこで1勝ね」と苦笑した。
リントの強さは、第2の副団長より上ということだろうか。
「そして、10代のミコト指定です。第2の手紙には、この交流戦の提案者なのでと書かれていましたが、おそらく女性が男性より強い訳がないとたかを括っているのでしょう」
そこで2勝ね、とミコトはウンウンと頷く。
ロイはミコトを見て、喋らないつもりかな、とふっと笑う。
「そういう訳なので、こちらは4勝したいと思います」
ロイは全員に、ニッコリと笑いかけた。
「4勝!? 負けず嫌いかよ?」
イワンは叫ぶ。
「はい。負けるのは嫌なので、イワンさん、リント、ミコトは明日から特訓です」
「うげー!」
イワンは机に突っ伏し、リントは「俺もか…」と溜息をついた。
ミコトは心の中で、やった!とガッツポーズをとっていた。
体力強化と襲撃犯返り討ち作戦には、特訓が必要不可欠である。
それを公式で、しかもロイ直々にやって貰えるなんて、ラッキーとしか言いようがない。
ついでに第2の10代のヤツもボコボコにしてしまおう。
「何でミコトは嬉しそうなんだよ!?」
イワンがミコトにツッコミを入れてくる。
顔に出てしまっていた?
ミコトは慌てて首を横に振った。
イワンは、ハッと思い出したような表情をした。
「ミコトはさ、夏にやってた、タンクトップ1枚でやれば絶対勝てるって! 名付けてオッパイ作戦!」
会議室の空気が一瞬で凍りつく。
いや、比喩表現ではなく、ロイの威圧で、本当に凍りついたような冷たさになったのだ。
ロイ以外の全員が「ひっ」と姿勢を正す。
「イワンさん、その格好のミコトと試合をしたんですね」
ロイの文字通り、冷ややかな質問に、イワンは視線を逸らす。
「な、夏ですよ? 薄着は仕方なかったというか…?」
「あー、じゃあ、しっかり見たんですね。」
「ぐっ!」
イワンが机にドサッと倒れる。
リントとミコトとコランは目を見開いた。
威圧だけで、イワンを倒してしまったのだ。
「コランさんは? 試合したんですか?」
コランは首を横にぶんぶんと振った。
「し、試合もしてないし、見てもないです!」
コランは、ロイの怒りは試合というよりは、見たかどうかだ、と直感で理解していた。
実際はミコトが試合を申し込みに来た時に見たのだが、あまりにも露出が激しかったので、試合は断ったのだ。
「すみません、コランさん。俺、嘘は分かるんですよ」
「うっ!?」
コランもドサッと机に倒れる。
やばい! と、リントとミコトは息を呑んだ。
「リントは?」
「俺は見ましたが、すぐに服を着せて注意しました! 試合はしてないです!」
これは、本当だ。
大体、ミコトの色仕掛けなんて、リントにとってはどうでもいいことなのだ。
ロイは小さく頷くと、ミコトを見た。
「すみません! もうやりません!」
ミコトは潔く謝った。
ロイの視線が痛い。
セタの威圧より数倍は強い。
ロイは怒っているんだ。
なんだか、息が、苦しい…。
ミコトの息が浅くなっているのを見て、リントは「ロイさん!」と叫んだ。
ロイがハッとなると同時に、ミコトは椅子からずり落ちて床に倒れた。
ゴチッと鈍い音が会議室に響く。
この時まで意識は確かにあったのだが、落ちて頭を床に強打したらしく、ミコトの意識は暗い闇の中に落ちていった。




