110.第4騎士団長と模擬戦
ミコトとスミスの試合は、第4の山の中腹の村の一大イベントになっていた。
村の広場に、村人全員と言ってもいい人数が集まっている。
そして、なんと、セタもいる。
セタは車椅子に乗っており、シェナが車椅子を支えている。
「珍しいね。セタが外に出るなんて…」
シェナは、広場の中央にいるミコトに目を向けたまま、セタに話しかけた。
セタはふふっと笑う。
「妹の試合を見たくてね?」
シェナから見て、セタは機嫌が良いように見える。
「ミコトちゃんの足の傷、まだ新しいよね」
シェナは、ミコトの右ふくらはぎを見て、呟いた。
セタは「そうだね…」と言う。
「ねぇセタ。ロイ君って、浮気をするタイプなの?」
シェナの言葉に、セタは目を見開いた。
「あり得ないけど、どうして?」
シェナは声を落とした。
「リタさんとオルバさんが、そんな感じで話していたから…」
セタは、「何か誤解をしてるかな…」と呟いた。
ミコトはセタの方をチラッと見た。
シェナと何か話しているようだ。
やっぱり、二人は恋人なのだろうか。
新しい恋人が出来たのなら、呪いは解けないのだろうか。
お兄さんが治ったら、ロイはきっと喜ぶだろう。
古代魔法の治癒魔法って、どんな魔法なのだろう…。
「団長、ミコトさん、お待たせしました」
リタと何か話していたオルバが、広場の中央にいるミコトとスミスの所へ戻ってきた。
「試合時間は10分とします。負けを認める時は、まいったと宣言して下さい。その他、審判の私の判断で勝敗を決めることもありますので、ご了承下さい」
ミコトとスミスは頷いた。
オルバも頷くと、木剣を出した。
「ちょっと短いものしかなかったんですが、これでお願いします」
「子ども用の木剣じゃないか!」
スミスは木剣を受け取ると、不満げに言う。
ミコトはその木剣を見て、懐かしい! と思っていた。
10歳の時、ロイと初めて模擬戦をした時に使用した木剣と同じものだ。
あの時も、今も、ロイには全然敵わないのだ。
「それでは、試合を始めます!」
オルバの声に、ミコトは我に返った。
スミスは木剣を軽く振っている。
どうやらミコトに向かってくる気は無さそうだ。
観客の村人たちは、男性陣が前列に座っている。
スカートの中を覗く気満々である。
確かに、この短さなら、走っただけで見えてしまうだろうが、中はズボンだ。
ミコトは軽いダッシュで、スミスに仕掛ける。
スミスは驚いた表情になると、何とかミコトの一撃を受けた。
なるほど。
一応騎士団員だ。
基本はあるようだ。
それなら、遠慮はいらないだろう。
すでに「ズボンじゃん!」と言っている男児の声が聞こえたが、ミコトは完全無視して、スミスに剣を繰り出した。
ロイは、何とか起き上がったキダンに昼食の差し入れをし、少し報告をした後、ミコトの待つ山の中腹の村に向かっていた。
昨日の朝、別れたばかりだが、プレゼントを買ったせいか、早く会いたかった。
首都から村まで、およそ30分で到着し、ロイは自分自身に「よし」と言った。
ミコトはどうやらリタの家にはいないようだ。
オルバの仕事について回っているのだろう。
しかし、ミコトの位置を辿って、ロイが見たものは、村人が集まっている広場で、一人の騎士団員の男を、何故か青いミニスカートの衣装でおしゃれをしたミコトが、ボコボコにしている光景だった。
「ロイが戻ってきた」
セタの言葉に、車椅子の横にいたリタは、辺りを見回し、斜め後方にいたロイに手を振る。
「ロイ! おかえりなさい!」
ロイは混乱する頭のまま、リタの方へ向かう。
「これ、何を、してるの…?」
リタは「んー?」と苦笑し、シェナはロイにペコリと会釈した。
ロイも反射的に、シェナに会釈をする。
「第4の騎士団長と模擬戦だよ。でも、もうオルバさんが止めるかな?」
セタは真面目な表情で答える。
と、同時に、オルバが大声で「止め! 勝者はミコトさん!」と叫んだ。
大きな歓声があがり、広場の中央のスミスが、ドサッと倒れる。
「ミコトちゃんすごいわ!」
「カッコいい…!」
リタとシェナは、拍手をしている。
「いやいや!」
ロイは叫ぶと、広場の中央に向かった。
「ロイ君!?」
「ロイ!?」
オルバとミコトが、ロイの姿を見て、ギョッとする。
「ミコト! 俺、大人しく待っててって言ったよね!?」
「ご、ごめんなさい! お説教は後で聞くから、ちょっと待って…」
ミコトはそう言うと、スミスの前にしゃがんだ。
「スミスさん」
ミコトの声かけに、スミスはかろうじて顔を上げる。
「若輩者の私のために、わざと負けてくださってありがとうございました!」
ミコトはニッコリと笑う。
「あ、ああ…」
スミスは再び、ドサッと倒れる。
オルバは「恐ろしい…」と呟き、ロイは唖然とした。
ぶっちゃけ、今回の試合は、スミスを殴ることが目的だったので、勝敗なんてどうでもいい。
相手は一応第4の騎士団長だから、花を持たせておいて、後で第1に文句をつけてこない様にしなくてはいけない。
もちろん、誰にも、わざとスミスが負けた様には見えなかったとは思うが。
村人たちは、嫌なスミスがボコボコにされたので、大満足で帰路についた。
前列を陣取っていた男性たちも、ミコトのスカートの中はズボンで残念だったが、揺れる胸を見られたので、まぁ満足して帰って行った。
スミスは担架で運ばれて、一旦村の診療所で寝かせたが、足は無事だったので、歩いて帰って行った。
村の余興としては、おそらく大成功だった模擬戦だが、ミコトとロイは、リタの家の暖炉の部屋の隅に正座して、車椅子のセタから何故かお説教を受けていた。
「ミコトちゃん、剣技の指導はリントからだね?」
「は、はい!」
ミコトはセタの言葉に大きな声で返事をした。
これが威圧か。
セタからの何か強い圧で、逆らうことが出来ない。
リタとオルバとシェナは、暖炉の部屋のテーブル周りの椅子に座って、心配そうに様子を見ている。
「だよね。リントの悪い癖を真似している。ロイは分かっていて、何故指導してないんだ?」
ロイはビクッと体を震わせる。
「え、えーと、ミコトはこれ以上強くならなくてもいいかなぁと…」
セタからの威圧が強まり、ロイとミコトは「ひっ」と言う。
「自分が守るからいいって? ミコトちゃんの足の傷は何? 守れなかった証拠だろ?」
その傷は違うんです! と言いたいが、とても口が挟めない。
「ロイは団員に指導してる? 事務や他部の応援が団長の仕事じゃないよ?」
「ぐっ…」
ロイは下を向く。
「ミコトちゃんの、剣の合間に力を抜く癖、リントの反射神経ならあまり問題はないけど、ミコトちゃんはダメだ。スピードはまあまあだから今まで何とかなっていたんだろうけど、直した方がいい」
そんな癖あったんだ、とミコトは目を見開いた。
「ロイは、まず、ミコトちゃんとリントに指導をすること! 折角の逸材なんだ。ちゃんと育てろ。下の育成は、一人ずつ癖と弱点を洗い出してから小隊長に任せろ。そもそも、見ただけで分かるだろう?」
「はい…」
どうやらロイは、見ただけで、何が良いか悪いか分かるらしい。
今まで、教えてもらったことはなかったが。
「事務はどうせ出来ないんだから、それは他人に任せて、そっちをやるんだ。分かったか?」
事務は出来ないって言っちゃったよ。
その通りだけど。
「…分かりました」
ロイはセタを見て頷く。
「ミコトちゃんは…」
こっちにきた!
ミコトは姿勢を正す。
「今回は母さんやシェナのためにやったことだし、勝つために手段を選ばない姿勢は、個人的には嫌いではないけど、君はロイの大切な人で、俺にとっても大事な妹なんだ。もっと自分を大切にして、無茶をしないこと」
「はい! 分かりました!」
ミコトは元気よく返事をした。
セタは、ふぅと息をついた。
「オルバさん、すみませんでした。いろいろご迷惑をお掛けして…」
オルバはガタッと席を立つ。
「いや、セタ君は何も…。ミコトさんもこちらの事を思っての行動ですし、あまり叱るのは…」
セタはふっと笑う。
「この二人は大丈夫ですよ」
オルバとリタとシェナは、ロイとミコトを見た。
ロイは「セタ兄に叱られるの久しぶりだ…!」と何故か嬉しそうだし、ミコトも「大事な妹…」とニヤついている。
「本当に大丈夫そうね…」
リタが呆れた様に言うと、オルバとシェナも笑いながら頷いた。




