108.チェコの能力?
次の日の朝、起きないキダンは放って置いて、ロイは、サロン・カラスまでの道を歩いていた。
途中の道に、露店が数十件並んでいる。
昨日はこんなに店が出ていなかった。
今日は何かあるのだろうか。
「そこのお兄さん! 彼女にどう?」
アクセサリーの露店の女性に声をかけられる。
「いえ…」
「たまには彼女にプレゼントの一つでもしないと、飽きられちゃうよ?」
プレゼント?
ミコトに、プレゼントか。
プロポーズ用の短剣をあげたことはある。
後は、家?、ケーキ?
いや、家もケーキも、お茶会のための必要経費である。
そういえば、お金をミコトに預けているのに、ミコトが好きなものを買っている様子は全くない。
ロイは足を止めて、アクセサリーの露店の商品を眺めた。
ネックレス、イヤリング、指輪、髪留め、ブローチ、いろいろ置いてあるが、ミコトがアクセサリーを身につけていることはないので、よく分からない。
でも、北の大地から帰ってきた次の日、ミコトはアクセサリーショップにいた。
もしかしたら、こういうのが好きなのかもしれない。
「奥様の黒髪には、真珠がいいと思いますよ?」
「確かに…って、ええ!?」
後ろから聞こえた声に、思わず返事をしたロイは、驚いた。
ダークレッドのワンピースに黒いコートを着た、黒髪の女性が、ロイの後ろに立っている。
間違いなく、チェコである。
「おはようございます。第1のロイさんですよね。私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
ロイは仕方なく頷いた。
今から潜入しようと思っていたお店の重要人物に、バッタリ会ってしまったのだ。
こういう、殺気のない普通の人物が、実は一番困る。
チェコは真珠が散りばめられたカチューシャを手に取った。
「実は真珠が一番映えるのは、黒なんです」
そう言うと、カチューシャをロイに渡す。
ロイはそれを受け取り、露店の女性に「買います」と言った。
チェコは目を丸くした。
「驚きました。即決なんですね」
ロイも目を丸くする。
「選んでくれたものとばかり…?」
チェコはクスクスと笑い出した。
「存外、素直な方なんですね」
ロイは、あまり女性と話さないので、これが褒められているのか馬鹿にされているのか、判断がつかない。
悪意は感じないが…。
ロイはお店の女性に金貨を払い、他の真珠のアクセサリーも手に取った。
ミコトはいつも髪をポニーテールにしているので、結び目に付ける飾りも似合いそうだ。
自然と耳が出るので、イヤリングも似合うだろう。
「あ、あの、そんなに買われるのですか? 少々、重いかと…」
次々とアクセサリーを手に取るロイを見て、チェコは思わず口を挟んだ。
「重い…?」
確かに、全て身につけたら重いか? とロイが思っていると、チェコはふっと吹き出した。
「いえ、重量という意味ではなくて…」
ロイはハッとなる。
重い男という意味だ。
「贈り物は、こまめに、一つずつ、がいいのですよ」
ロイは赤面しながら、手にしていたアクセサリーを戻した。
恋愛初心者丸出しである。
「ああ、でも、そうなんですね。思った通りです」
チェコは、ホッとしたように、呟いた。
「思った通り? ですか?」
ロイが聞き返すと、チェコは真面目な表情で頷いた。
「これから先、もし奥様のご希望がございましたら、ぜひ私の事を頼って下さい」
ロイは驚きを隠せないでいた。
悪意はないが、核心である。
「ど、どういう意味、ですか…?」
チェコは「そのままの意味です」と言うと、目を伏せた。
「私、もう、行きますね。あの、コ、コランさんに、よろしくお伝え下さい」
「え、あの!」
ロイの止める間もなく、チェコは踵を返して、人混みの中に消えて行った。
カラスとは逆方向だ。
コラン…つまりキダンに、何をよろしく伝えたらいいのだろうか。
キダンは振られてめちゃくちゃ落ち込んでいたのに、チェコは普通に見えたし…。
いや、それよりも、ミコトの希望とは?
チェコの能力は、男の本心を見抜くことではない?
混乱する頭のままロイは、その後昨日のようにカラスに潜入したが、チェコも兄も不在で、昨日以上の成果はなかったのだった。




