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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケでバグ転移した私、15歳で天然騎士団長と偽装結婚しました〜  作者: 三多来定


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105.カラスへの潜入

 夜のお店の午前中は、人が少ないはずである。

 案の定、サロン・カラスも、数人の関係者がいるだけのようだ。


 ロイは気配を遮断して静かにドアを開けると、1階に忍び込んだ。

 2階の壁があり入れなかった部分の下に、上に通じる階段があるはずだ。


 しかし、その場所は従業員スペースかと思いきや、気に入った女性店員と2人きりになれる個室である。


 ロイは中に人の気配がない事を確認して、その個室に入る。


 個室には、大きなベッドがあるが、使用感はない。


 階段はどこにもないが、天井の上、つまり2階から、人の気配がする。


 ロイは、ひょいとジャンプすると、天井に張り付いた。

 話声でも…と思ったが、どうやら1人しかいないようだ。


 2階に無理矢理上がるより、先程キダンからきいた、上から見る感じを、視点を2階にすれば…。


 お、いけるな。


 2階の部屋は、当然だが窓がなく、数個のランプで明るさを保っている。


 本棚が壁を覆うように置いてあり、本がビッシリ並んでいる。


 部屋の中央には、10人程座れるテーブルと椅子のセットが置いてあり、雰囲気は会議室に近い。


 その一つの椅子に黒髪の女性が座っている。


 チェコだ。

 真剣に本を読んでいるようだ。


 本のタイトルは、「古代魔法伝記」!?


 ロイは驚いて天井からずり落ちそうになる。

 慌てて体勢を直して、本棚の本の背表紙を見る。


「古代魔法の謎」

「古代魔法とは」

「古代魔法原理」


 殆ど、古代魔法関連の本だ。

 チェコは、古代魔法研究者なのだろうか。

 やはり初代聖女信仰と古代魔法研究は同じ団体なのだろうか。


 すると、ロイが天井に張り付いている部屋のドアが開いた。


 男が1人入ってくる。

 男は黒髪でチェコと同じくらいの年齢だ。


 この店はチェコの祖父の店だ。

 その男はチェコによく似ているし、もしかしたら兄妹かもしれない。


 男はベッドの頭側の壁を押す。

 壁はまるでドアのように開く。

 男はその中に姿を消し、直後、上に登る足音が聞こえた。


 なるほど、そこに階段があるのか、とロイは天井に張り付きながら頷いた。


 もう一度、2階に意識を移す。

 チェコのいる部屋の床板がパカッと開き、先程の男が顔を出す。


 「どう?」と男がチェコに言う。

 

 チェコは本を閉じて、「無理よ。知識だけが増えてるわ」と笑う。

 男はチェコの隣に座る。


「あの、お前に夢中なヤツに、お願い出来ないのか?」


 チェコは首を横に振った。


「間違いなく、第1の国家特別人物と知り合いだろう?」


 これは…とロイは唾を飲み込んだ。


 記憶しなくてはいけない会話である。

 

 頭に力を回して、威圧が出ないように抑えて、気配遮断も持続して、意識を2階に移して、天井に張り付く力も残して…。


 む、難しい!?


「コランさんは、第4の人かもしれないわ。第4の尋問員の子と2夜連続できたから…。きっとあの日は第1の国家特別人物を接待のつもりで連れてきたのよ。もう、彼は、聖女や奥様と帰られたみたいだし」


 うつむくチェコを見ながら、男は溜息をついた。


「今夜も来るのか?」

「分からないわ…」

「さっさと部屋にでも誘えばいいだろうに…」


 男の言葉に、チェコはふふっと笑う。


「その方法は、コランさんに失礼だわ。ちなみに、ロイさんがもう一度来てくれたとしても、やっぱりその方法は使えないわね」


 男は首を傾げる。


「仲が悪いんだろう? 第1の国家特別人物夫妻は」


 チェコは立ち上がると、本を本棚に戻した。


「みんなの目は節穴ね。パレードの聖女の護衛の様子を見て、すぐに分かったわ。ロイさんが見てるのは奥様だけよ。ああいう人は、他の女性と遊んだりしないわ」


 ば、ばれている!?


 誠実な事がバレて困るなんて変だが、リオにまでバレたら困る、とロイは力の配分に苦労しながら思った。


「奥様か…。もう、生き写しだったな…」


 男は天井を仰いでいる。


「ええ、初代聖女は古代魔法が使えたという伝記は嘘だと思っていたけど、第1の国家特別人物の奥様が古代魔法適性者とエノンから聞いた時に、全てが繋がったわ」


 チェコの言葉に、男は「だったら!」と言う。


「でもそれは、こちらの都合で、彼女には関係ない事だわ。無理矢理連れてくるなんて、私は絶対反対よ」


「俺はお前が…!」


「私は、お飾りの聖女のままで平気よ。兄さんも二度と彼女に変な真似しないでちょうだい!」


 やっぱり兄妹か。

 それにしても、これは、いろいろ大変だ。

 

 力が持たない!


 ロイはクラクラする頭を手で押さえて、静かに下に着地した。


 頭に力を回すと、何故こんなに疲れるのか…。

 ずっと走っている方が、断然楽である。


 ロイは気配遮断を切らさないように、何とか外に出て、キダンのところまで戻った。

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