103.壊された休日
リタとセタの家の暖炉の部屋で、ミコトとリタとシェナは明らかに不機嫌だった。
部屋の隅の椅子に腰掛けたオルバは可哀想なくらい困っていて、その隣に立っている第4の騎士団長スミスは、先ほどからペラペラと喋り続けていた。
「いやぁ、全く誰か分かりませんでしたよー。ミコトさんはアレですね。化粧をしていないと、なんていうか、フツーですねぇ」
スミスはアッハッハと笑う。
しかし、スミス以外に笑う人はここにはいない。
実はこのスミス、第4の代表(もう名前は忘れた)の息子だそうで、そう言われてみれば、そっくりである。
つまり、コイツはコネで騎士団長をやっているのだ。
国によって、役職の付け方もいろいろあるらしい。
「しかしミコトさんも大変ですねぇ。旦那さんは、なんとあのサロン・カラスに出入りしているそうじゃないですか! あそこ、若くて可愛い娘が多くて有名なんですよー」
よりにもよって、とんでもない情報を、スミスは言い出した。
リタとシェナとオルバはギョッとしている。
この雰囲気、どうしろというのだ。
「いえ、存じてますので」
ミコトは何とか笑顔をつくる。
スミスは「おお!」と言った。
「さすが国家特別人物の奥様ですね! まあ旦那さんの気持ち分かりますよ。ミコトさん、ちょっと…、ですもんねぇ!」
もう、殺しちゃってもいいだろうか。
ミコトの殺気に気付いたオルバが、ガタッと席を立ち、スミスの腕を掴んだ。
「団長! 派遣団員でいらしたのなら、見回りに行かないと!」
スミスは不満気な顔をする。
「魔物が出たら、誰か呼びに来るからいいって! 俺が言いたいのはね、俺はミコトさんの旦那とは違うってことさ」
スミスは、ふっと格好をつける。
もちろん、カッコ悪いのだが。
「俺は浮気なんかしない! シェナ一筋なんだよ! シェナ、結婚してくれ!」
どうやら、人の旦那を下げて、自分を上げる作戦だったらしい。
スミスは、その作戦が大失敗な事に気づいていないようだ。
シェナは、ハァーと深い溜息をついた。
「何度も言ってますけど、私、あなたとは結婚しません。もう諦めて下さい」
何度も言っているのか。
きっとコイツには通じてないのだろう。
ミコト的オススメの断り方は、「あなたと結婚するくらいなら、死んだ方がマシ(byマリー)」である。
「そんな照れなくていいよ、シェナ。いつまで1人でこんな村にいる気だい? 前の旦那の浮気なんて、俺が忘れさせてやるよ」
シェナがいつ照れたというのか。
驚くほど通じていない上に、こんな村とか、前の旦那の浮気話を言ってしまうとか、もう、救いようがない。
シェナは完全に怒った表情になり、出入り口のドアを指差した。
「出ていって下さい! 今日は私たち、予定があるんです!」
シェナの言葉に、スミスはニヤリと笑った。
「君みたいなバツイチ出戻り女、求婚してもらえるだけでもありがたいと思わないかい?」
ミコトが、あ、殺そう、とナイフを出した瞬間、オルバはスミスを担いで出入り口のドアに向かった。
「さ、一緒に見回りに行きましょう!」
「え、いや、ちょ…」
オルバとスミスは出入り口から出て行き、バタンとドアが閉まった。
ミコトは出したナイフをくるりと回した。
「殺そうとしたのが、オルバさんにバレたみたいですね」
ミコトの言葉とナイフに、リタは弱々しく笑ったが、シェナはポロポロと涙を流した。
「ミコトちゃん、ごめんなさい…。あんな、あんな嫌な事…」
ミコトは首をブンブンと横に振った。
「そんな! シェナさんは何も悪くないです! むしろ被害者ですよ!」
「そうよ、シェナ! あなたも酷い事を言われたのよ!」
リタはシェナの背中をさする。
「あのスミスっていう人、とんでもない人ですね」
ミコトは嫌悪感を露わに呟いた。
リタはシェナの背中をさすりながら、溜息をつく。
「オルバが騎士団を辞めたのも、アイツのせいなのよね…」
「ええっ!?」
ミコトの驚きの声に、うつむいていたシェナは顔を上げた。
「そうよ。あの時もひどかった…」
シェナの瞳は濡れたままだったが、怒りに燃えている。
「一体、何があったんですか…?」
ミコトの質問に、リタとシェナは顔を見合わせて頷いた。
2人の説明は、こうだった。
5年前、セタの病状を聞いたリタは、第1エラルダにセタを迎えに行った。
セタは今ほど痩せてはいなかったが、話しかけても返事ができず、どこも見ていないような目をしていた。
そんなセタを、リタとロイはここに連れてきたのだ。
ロイは仕事があるため第1に帰り、リタとセタの事を知ったシェナがセタの看病をしていたところ、あのスミスがやってきた。
なんとスミスは、第1の騎士団の者は、第4には置けないと言い出したのだ。
リタもセタも元々ここが実家なのに、そんな話があるものかと揉めに揉めて、その仲裁をしたのがオルバだった。
結果、オルバは騎士団を辞めることになり、この村の護衛をやる事になった…というのも、スミスがこの村の魔物退治はもうしない! と言い出したからなのだが。
何故スミスがそんなにもセタを目の敵にしたか…それは、セタの評判がとても良かったから、それだけだった。
ミコトはそこまで話を聞いて、もう一度ナイフを取り出した。
「私、さくっとやってきますね」
ミコトの言葉に、リタとシェナが、それでもいいか、と思いかけた時だった。
ガチャリと出入り口の ドアが開いて、オルバが帰ってきた。
「ミコトさん、殺気が外にまで漏れてますよ」
さすがオルバである。
「すみません、やる気でしたので」
ミコトは笑顔で答える。
オルバは、ふふふと笑った。
「私は騎士団を辞めて、この村に来て、とても幸せなんですよ。それだけは団長に感謝しています。それだけですけどね」
リタもシェナもクスクスと笑う。
「私もよ。浮気されて離婚して散々だったけど、こうして過ごす、今がとても幸せなの」
シェナは、柔らかく笑う。
「私もそうよ。セタと一緒に暮らせるし、オルバとシェナがいるし、本当に幸せ」
リタもニッコリ笑う。
ああ、幸せとは、本人が決めるものなんだ、とミコトは改めて思った。
ミコトだって、幸せだ。
異世界にオマケで転移してしまったけど、第1の優しい人たちに出会えて、ロイに出会えて、ロイと結婚まで出来て、本当に幸せだ。
「だからね、ミコトちゃん!」
感動で涙が出かけたミコトの肩を、リタはがっしりと掴んだ。
「ロイの事で何かあったら、絶対にここを思い出してちょうだい! なんなら、セタからロイを叱ってもらうから!」
あれ? 何故ロイが叱られる流れに…?
ミコトはしばらく考えて、「あ!」と言った。
ロイ、浮気説か!
ミコトはそこから、小一時間、ロイは浮気をしていないくて、ミコトと仲も悪くないという事を説明する羽目になった。
リタとオルバの微妙な表情に、信じてもらえていないと感じながら…。




