100.初魔物退治
オルバは困っていた。
この村へ行き来するために一番よく使われる山道に、魔物がいつもの5倍はいたのだ。
魔物は犬型のよくいる魔物で、これ自体はさほど強くはない。
大の男が棍棒などで2人がかりで殴れば、倒せるだろう。
腕に覚えがある男なら、数体は軽く倒せる。
今現在、魔物が約50体、オルバと村の自警団の男性が3人、護衛を頼まれた少女が1人。
しかし、自警団の3人はオルバより年上だ。
少女を守りながら、全部倒せるだろうか。
自警団の3人も、魔物と少女を見比べて困惑している。
「オルバさん、私、魔物と戦うの初めてなんです。何か、コツとかありますか?」
「は、初めて…」
ミコトの言葉に、オルバは唾を飲み込んだ。
「急所は、犬と同じです。あの、ミコトさんは私の後ろに…」
ミコトは急所を聞いた時点で飛び出した。
「ミコトさんっ!」
オルバもすかさずミコトを追いかける。
頼まれたからとはいえ、連れてきてはいけなかった。
リタの娘も同然の少女を、こんな所で死なせる訳にはいかない。
しかし、オルバの心配は杞憂に終わった。
少女は的確に、次々と魔物を倒していく。
スピードもパワーも、女性とは思えない。
3人の男性から歓声が上がる。
「オルバ! 何だあの子は!? お前の隠し子か?」
「す、すげえ! オルバより強くないか?」
「剣が見えねえ!」
結局、3人の男性は殆ど何もせず、オルバが約20体、ミコトが約30体の魔物を倒した。
時間にすれば、15分もかからなかった。
黒い、ツヤのある丸い石のような物がそこかしこに散らばっている。
ミコトはそれを拾い、じっと見た。
「これが、核…?」
ミコトの周りに、村の男性たちとオルバが寄ってきた。
「お嬢ちゃん、すっげえな!」
「お嬢ちゃん、オルバの娘、いや、孫かい?」
「ちょ、ちょっと皆さん、この子は…」
ミコトはハッとなった。
何も挨拶していなかった。
「あの、私、セタさんの弟のロイの妻で、ミコトといいます。しばらく、リタさんのところでお世話になります」
ミコトはぺこりと頭を下げる。
「セタの弟…? ああ、いたな! あのすげえ子か。そっか、どうりで強い訳だ!」
3人の男性たちは、ああ、とばかりに頷いている。
村の男性たちは、オルバより年上に見える。
ロイが2歳までここに住んでいた事を覚えているのだろう。
そして、ロイの妻というだけで、何かを納得されてしまった。
赤ちゃんロイは、一体何をしでかしたのだろうか。
「オルバさん、この核? 1つ記念に貰ってもいいですか?」
ミコトはオルバを見上げる。
オルバはハッとしたように頷いた。
「あ、ああ。冒険者事務所に売ると、お金になるんだよ。30個はミコトさんの分で…」
ミコトは包帯の右手を横に振った。
「いえ、魔物初退治記念に一つ欲しいだけなんです。あとは、この村の物だと思います」
ロイと一緒だったら、魔物と戦う事は出来なかった。
護衛付きで魔物退治が出来るなんて、オルバに感謝だ。
オルバは頷いた。
魔物の核は、この村の大事な財源でもある。
全員で核を拾い集めながら、オルバは、この少女に、護衛が必要なのだろうか、と思っていた。
ミコトとオルバがリタの家に戻ると、暖炉の部屋には、リタと先程オルバを呼びにきた女性が座っていた。
「おかえりなさい。2人とも怪我がなくて良かったわ」
リタが笑顔で迎えてくれる。
オルバは頷き、ミコトは「楽しかったです」と満面の笑みで言った。
「オルバ、セタが話があるって言ってるの」
「ああ、私も、話がある、かな」
オルバはリタに微笑むと、セタの部屋をノックした。
「オルバさん、ミコトちゃんはどうでしたか?」
セタは、部屋に入ってきたオルバに、早速質問をする。
オルバはセタのベッドの横に椅子を引き寄せて座ると、息を吐いた。
「どうもこうも…。ミコトさんに護衛が必要とは思えないよ。あっという間に魔物を30体倒していた。しかも、利き手は怪我をしているよね?」
セタはふふっと笑う。
「オルバさんから見て、ミコトちゃんの筋力や体力は、女性らしかったですか?」
オルバは苦笑する。
「あの可愛らしい見た目に反して、男性以上だよ。一振りで魔物を核化していたし、息一つ乱していなかった。努力もあるのだろうけど、女性があそこまで強くなるものなのかな…」
オルバの言葉に、セタは納得したように微笑んだ。
「ミコトちゃんに護衛は必要です。相手は魔物ではないので。どうか弟の大切な人を守ってください」
セタの真剣な声色に、オルバは頷くしかなかった。
そういえば、対戦相手にもなってくれと頼まれていた。
オルバは、体がもつだろうか、と暖炉の部屋に戻った。
女性3人は楽しそうに話しながら、お茶を飲んでいる。
こう見ると、普通の少女に見えるのに…とオルバは溜息をついた。




