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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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10.ミコトの悲しみ

 政務棟の会議室でいつもの4人が会議をしていた頃、ミコトは騎士団救護班室のベッドに寝かされて夢を見ていた。


 夢の中でのミコトは、住み慣れた地球の自宅でパパとママとセイラと晩ご飯を食べていた。


「パパ、今日すごく強い人と試合してね、全然敵わなかったんだ」


「そうか。よし、パパが代わりにやっつけてやるよ」


「違うよ、パパ。私が勝てるようになりたいの。だからいっぱい特訓してよ」


 パパはニッコリ笑って、ミコトの頭を撫でてくれた。


「悔しかったんだな。いくらでも一緒に特訓しような」


「じゃあママは、ミコトが勝てるように、いっぱいおいしいご飯をつくるわね」


 ママがそう言うと、テーブルに唐揚げやオムライス、グラタンがぶわーっと並んだ。


「すごいママ! いただきまーす!」


「じゃあ、セイラは聖女パワーでミコちゃんを強くするね!」


「え? 聖女パワーって…」


 ミコトがセイラに問いかけた瞬間、辺りが真っ暗になり、パパもママもセイラも消えてしまって、代わりに白髪に白髭のおじいさんが登場した。


「パパ? ママ? セイラ!?」

 

 ミコトが呼びかけると、おじいさんが申し訳なさそうに言った。


「もう二度と、会えないんじゃよ」




「イヤッ!!」


 ミコトは自分の声で目を覚ました。


 土色の壁に同じ土色の天井、白いカーテンが目に映る。


「ここ、どこ? さっきまで家にいたのに…」


 何だか頭が痛い。


「ミコト様? 目覚められましたか?」


 見たこともない男性がミコトに近づいて来る。


「だ、誰? パパたちはどこ?」


「ミコト様?」


 ミコトの頭の中に、「二度と会えないんじゃよ」という言葉が響いてくる。


「ヤダ、ヤダよ!」


 ミコトの目から涙が溢れてくる。


「イヤだ! パパ! ママ! 助けて!!」


 ミコトは叫びながらベッドに泣き崩れた。


「至急教会からマリーさんを呼び戻してください!」


 救護班班長のシーマは班員に指示を出す。


 聖女のお祈りの時間のため、セイラとマリーはついさっき教会に行ったところだった。


「なんてことだ。可哀想に…」

 

 シーマは泣きじゃくるミコトの背中を優しく撫で続けた。




「ミコトッ!」


 マリーが救護班室に大慌てで入ってきた。


 教会でセイラがお祈りをはじめたところで救護班員が呼びに来たので、セイラにはバレずに来ることができた。


「マリー…」


 ミコトはボロボロの顔を上げる。


「ごめん、ごめんねミコト! やっぱり私がちゃんと模擬戦を止めれば良かった!」


 マリーはミコトを抱きしめる。


 ミコトはぶんぶんと首を横に振った。


「違うの、ちょっと夢を見てたみたいで、記憶がゴチャゴチャになって…。そうだよね、模擬戦をしたんだった…」


 背中をずっとさすってくれた人のおかげで、ミコトは何とか冷静さを取り戻していた。


「あの、私、混乱しちゃって、すみませんでした。ありがとうございました」


 シーマは「いいんですよ」と言うと、マリーに向き直った。


「ミコト様が目を覚ましたら報告しろ言われているので、ここをお願いしてもいいですか」


 マリーは頷くと、思い出したような顔をした。


「そうだ。ロイだけ連行してきて下さい。間違ってもオッサン連中は連れてこないで下さいね」


 シーマはニッコリと笑った。


「もちろんですよ」



「もう大丈夫だよ、マリー」

「そう?」


 マリーはシーマに代わって、ミコトの背中を撫でてくれていた。


「観客の人たちと、セイラは大丈夫だった?」


「観客は数人が軽傷だったけど、手当してもう随分前に皆家に帰ったから安心して。セイラは…、今は教会でお祈りしてるけど、さっきまではめちゃくちゃ怒ってた」


 やっぱり…。心配かけちゃったなぁ。


「セイラってすごく物知りなのね?いろんな処刑方法を教えてくれたのよ」


「しょ、処刑??」


「ミコトとセイラの元いた世界は残忍な処刑を行ってるのね。驚いたわ」


「いやいや、多分、それ、違うから!」


 どんな処刑方法を言ったんだ?

 セイラってば、またネットで変な情報調べていたに違いない。


「処刑って訳じゃないけど、今ロイを呼んでるから、どんな目に遭わせてやるか決めない?」


 マリーはものすごく悪い顔をする。


「ええっ? どんな目にも遭わせないよ!」


「手足縛って、さっきの木剣で2人で叩きまくろうか?」


 怖い! マリーならやりかねない!


「ホント、いいから! それに、どちらかというと、ロイ…さん、多分私に怒ってると思うし…」


「え? そんな訳ないでしょう?」


 ミコトは少し声を小さくして言った。


「試合中、ロイさんの股間ばっか狙って攻撃しちゃって…。あれ、マナー違反だし、それで怒って投げられたんだと思う」


 マリーは少し驚いて目を開いた後、ニヤリと笑った。


「股間の一つや二つ、潰しちゃってもいいのよ?」


 なんか、すごい事言ってるけど、ダメだよね!?


「マリーさん、連れてきましたよ」

「わあっ!」


 突然のシーマの声に、ミコトは思わず大声を上げた。


 シーマの後ろにはロイがいる。


 今の話、聞かれていたかもしれない…。


「来たわね、おバカさんが」


 すごいマリー、全く動じてない上に、年上の副騎士団長を正面からバカ呼ばわりだ。


「じいさんにソックリだな…」


 ロイはガックリと肩を落とす。


「ああ、これ、じいさんから」


 ロイはマリーに持っていた木箱を渡そうとしたが、マリーはそれを押し返した。


「それはミコトにあげて。私、セイラのところに戻るから、ミコトの事、よろしく」


「え! マリー行っちゃうの!?」


 2人で叩きまくろうかとか言ってたのに?


 いや、もちろん、叩かないけど。


「セイラとロイが鉢合わせする方が大変でしょ?」


 そう言うと、マリーは救護班室をさっさと出て行ってしまった。


 シーマもその後に続いて出て行ってしまう。


(気まずい! 気まずいよっ!)


 ミコトはひたすら下を向いた。


 もしかしたら、股間攻撃のことをすごく怒っているかもしれない。


「あの、今日の模擬戦、ケガをさせてしまってすみませんでした」


 謝られた!


 模擬戦だから、ケガすることもあるのは当たり前なのに…。


 ミコトは首を横に振った。


「私こそ、ごめんなさい。こ、えと、急所? ばかり狙って…。マナー違反でしたよね」


 マナー違反というは知っていたのか、とロイは思ったが、泣き腫らした顔のミコトを責める気にはなれない。


「パ、父から、悪漢や変態に会って逃げられない時はそこを狙えと教わっておりまして…」


「俺、悪漢や変態なんだ…」


 ロイはふっと笑う。


「いや、えっと、敵わないなって思って! 夢中で!」


 慌てて顔を上げると、ロイの青い瞳と目が合った。


 綺麗で優しい瞳。


 ああ、この人、全然怒ってない。


 ミコトの肩の力がすっと抜けた。



「戦い方はお父さんから習ったんだ?」


「はい。パパはいろいろな戦い方を知っていて、すごく強いんです」


「へえ、戦ってみたいな」


 パパとロイさんだったらどちらが強いのだろう…とミコトは思ったが、戦うことなど絶対ないだろうとも思った。


 二度と会えない…。


 これだけは夢じゃない。


「それ、何ですか?」

 

 両親の事を思い出すと、また涙が出てきてしまう。

 話題を変えようと、ミコトはロイの持っている木箱を指差した。


「ああ! そうだコレ、ミコトにあげるよ。何とか屋の何とか…?」


 いや、全然何かわからないけど?


 ミコトは木箱を受け取って、慎重に蓋を開けた。


「あ、アップルパイだ!」


 コレも歴代聖女が伝えたものだろうか。

 ミコトの知っているアップルパイそのものだ。

 バターとシナモンのいい香りが救護班室に広がる。


「嬉しい…。アップルパイ大好き…」


「そうそう、アップルパイだ。マリーのじいさんからだよ」


「マリーのおじいさん?」


「会った事あるだろ? この国の代表のアレンって人」


 ああ! あのちょっと怖そうなオジサンか。

 ということは…。


「まさか、マリーって、王様の孫…?」


 ロイは、ナイナイというように、手をヒラヒラとさせた。


「この国は王制じゃないんだ。一応団体には責任者がいるけど、誰が偉いって訳じゃないんだよ」


「そうなんですか…」


 じゃあ、王子様もいないのか。


 萌ちゃんの言う異世界とは、ますます違う異世界だな。


 ミコトは、少しだけガッカリした。


「俺なんか副騎士団長だけど、誰も敬ってくれないよ?」


 おどけたように言ったロイに、ミコトはふふっと笑った。


「でもマリーが、一番強いって言ってました」


「一番…ねぇ」


「そうだ! ロイさん、私に剣術教えてくれませんか?」


 この国は剣術中心のようだった。


 パパに教えてもらえないなら、一番強い人に教えてもらいたい!


「ああ、いや、俺はちょっと出張? みたいなのがあってさ。代わりにリントって奴…俺の後輩なんだけど、そいつが教えてくれる事になっていて…」


「そうなんですね…」


 ミコトがあからさまにガッカリしたので、ロイは慌てて言った。


「あ、でも、出発までには時間あると思うから、空いてる時、短い間で良かったら教えられるかもしれない」


「ホントですか? やったぁ!」


 ミコトは本当に嬉しそうに笑った。


 ロイはふと、セタの事を思い出していた。


 ロイもセタから剣術を教わりたくて、当時副騎士団長になったばかりのセタに、よく「教えてくれ」とお願いしていた。


 セタは、ちょっと困った顔をして、でも結局お願いをきいてくれた。


「こんな気持ちだったんだな、セタ兄…」


 ロイは小さく溜息をついた。

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