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第09章 政府の反応

この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。



 —「宇宙農耕モデル論文」が国家を揺らした日 —


 論文が公開されてから四十八時間後、主要各国の政府は同時に

 「危機管理レベル2」へ移行した。

 対象は外部からの脅威ではなく自国民のパニックだった。

 メディアが垂れ流す断片情報に扇動された世論は、

 暴動一歩手前のレベルに達していた。


 首相官邸・地下防災センター。

 極秘に招集された国家安全保障会議の場には、

 政治家、軍幹部、情報機関、科学担当大臣が並んでいた。


 モニターには論文の抜粋、SNSの炎上ログ、国際反応、

 そしてタツヤとハルの顔写真が映し出されている。


 沈黙を破ったのは防衛大臣だった。

「……これは思想のパンデミックだ。

 早急に沈静化しなければならない。」

 内閣官房長官が続ける。

「しかし、論文の内容そのものを否定する公式声明は避けたい。

 もし彼らの仮説が……正しかった場合、後に致命的な失策になる。」

 科学技術庁長官は顔を青くしながら言った。

「彼らは今、宇宙物理・生物進化・哲学の境界領域で、

 世界最高レベルの洞察を持っています。

 たとえ仮説でも、完全に切り捨てるのは不合理です。」

 軍参謀長は机を軽く叩きながら、低く呟いた。

「問題は事実かどうかではない。

 国民が信じ始めていることだ。」


 会議室がざわつく。


 情報庁長官が、静かに2つの方針を提示した。


 1、ソフト封印

 彼らの論文は未検証であり誤解が生じやすいと強調

 学会に圧力をかけ、追加審査を要求

 メディアには「過度な報道を控えるよう」非公式通達

 SNSではアルゴリズム調整で露出を低減


 2、ハード封印

 2人の研究活動を一時停止

 国家研究機関への保護名目で軟禁

 研究データを押収

 国民の前では「健康上の理由で休養」と発表


 会議に沈黙が落ちた。

 どちらも民主国家の表の顔とはあまりにかけ離れている。

 沈黙を破ったのは首相だった。

「……封じても、彼らの存在は消えない。

 いずれ宇宙へ出る我々に、こうした視点は必要になる。

 問題は彼らを敵に回すか味方につけるかだ。」

 首相の言葉に、場の空気が変わった。

 

 科学担当大臣が問う。

「では、どう扱うべきだと?」

 

 首相は答えた。

「協力者として囲い込み、保護対象とする。

 ただし、世論の暴走は止めねばならん。

 公式声明はこうだ」

 

 彼は手元のメモを読み上げた。

「『本論文は興味深い仮説だが、確証はない。

 政府は冷静な議論を求める』

 これで騒ぎを抑える。」

 

 会議の終了間際。

 情報庁長官が首相にだけ聞こえる声で囁いた。

「……首相。本当に彼らを自由にしてよいのですか?

 論文の内容が偶然の着想だと、どうして言い切れるのでしょう?」

 首相はわずかに眉をひそめる。

「どういう意味だ?」

 長官は、タツヤとハルの経歴資料を差し出した。

「この二人……あまりにも視点が高すぎる。

 情報庁では、一部でこう疑われています。」

 彼らは既に、何かを見ているのではないか?

 首相はその言葉に返せなかった。

 

 論文発表から三日後。

 タツヤとハルの周囲には、

 明らかに普通ではない視線と足音が増えていた。


 不自然に同じ場所を巡回する車

 見覚えのない人物が建物の入口で立ち止まる

 メールへの不明なアクセス

 自宅周辺で増えた監視カメラ

 政府は守りたいのか、封じたいのか、監視したいのか


 ただ一つだけ確かなことがある。

 政府は彼らの論文を危険な真実として扱い始めていた。

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