女王謁見
ベッドの上で目覚める。自室のようだ。
「シュア」
寝たまま手を見て、シュアのものだと確認していると呼ばれる。
リレクが心配そうに見ている。隣にはドレもいる。
「魔法は強制的に解除した。でもあれって……」
リレクの言葉が続かない。
「私、前世で殺されたの」
すっかり忘れていた。いや、思い出さないようにしていたのだろう。
「ごめんなさい」
リレクが頭を下げる。
「あなたが謝ることじゃない。頼んだのは私だし」
「一応体調べてみたけど、問題なかった」
「調べたってどこ?」
「脈とか呼吸。一応お腹も。とにかく今日は安静に。フレイ様にも言ってあるから。私たちは帰るわ。あなたの過去は、問題にならない限りは誰にも言いません」
ドレも神妙な顔でうんうんと何度もうなづいている。
「うん、ありがとう、またきて」
なぜかそう言ってしまう。
リレクもうなづき、そして二人は行ってしまった。
これでしばらくは前世の話を王宮にしなくていい。中身が四十代なんてこともばれて、変な目で見られる心配も遠のいた。
この世界での五年と数か月。シュアの体感ではあっという間だった。前世のことなんて記憶の彼方だ。
しかし殺されたことはしっかり脳に刻まれているらしい。
ベッドから起き上がり、軽いストレッチをする。めまいなどもない。
腹に痛みも。赤くなっているということも。脚を上げたり身体をひねったりも大丈夫。
トラウマというやつだろうか。しかし今までそれで生活が脅かされたことはない。
これからも問題なく生活は送れそうだという根拠のない自身もある。なんでだろう。今が楽しいからだろうか。
何か起こったときはそのときだ。
窓の外は夜だ。
二度も寝たのだ。元気である。
でも結局寝た。やることがない。
翌日もシュアは、ヒシャ研究室研究員として使い走りを行った。
朝は少し不安だったが、昼になるころには問題ないことがわかってきた。
夜にフレイが部屋にやってきた。
「まさかあのリレクが人の心配をするから、どんなことになるかと思っていたんだが」
「はい、ご心配おかけします。大丈夫です」
「何かあれば言ってくれ。隣のサテリンには言ってあるから」
「はい。ありがとうございます。リレクさんって、どんな方なんです?」
体調の話は終わりにしたくて、そう話を変えたが、フレイは言いにくそうにしている。
「いろいろ事情のある子なんだ。神人ということもある。大きな病気を抱えていてな」
それは初耳だった。
「今は完治している。それを治すために神国からここに来たという経緯もある」
「四十歳というのは聞きました」
フレイが驚いた顔をする。
「お前がそれを聞いて、向こうはすんなり答えてくれたのか?」
「はい」
「ど、どうやって?」
どんな話の流れからそうなったのか、フレイはまったく想像できなかった。
「普通に尋ねたら、そう答えてくれましたけど」
同期や先輩たちはその話をして半殺しの目にあったというのに。
しかも答えてもらえたという。
これはリレクの方に尋ねた方がいいかもしれない。
「ところで明日から三日、お前はミモザ様の付き人を外れて、私に付き添ってもらう」
「何をするのでしょうか?」
「おい、女王様との謁見だろうが。礼服も作ろう。あとは礼儀作法だな。お前にはミモザ王女の騎士になってもらう。式にはフルーロード領主も来られるそうだ」
あのイケオジ領主様が!
急に緊張してきた。
***
ナブラ宮殿、女王の間。
純白のローブに身を包んだシュアは、部屋の中央で跪く。
壇上の玉座には薄手のドレス姿の美しい女性。
女王オーラだ。
「面を」
言葉に従い顔を上げる。女王と目が合う。
絵画のよう。
なんてことをぼんやりと思う。
女王が口を開く。
「シュア・マド」
豊かな、芯の通った声だ。
「はっ」
自然と声が出た。
「汝を第五王女、ミモザの直属騎士に命じる。以降励むように」
「精一杯、務めさせていただきます」
そんな自分の声を他人のように聞いている自分がいる。
ざわ
と周囲から不穏な気配が起こったのはそのときだ。
「フレイ、申せ」
「騎士の任命はシュアただ一人だけなのですか?」
ああなるほどと異変の理由に気付いた。
ハタテもここに一緒に並ぶことになっていたのか。
背後の扉が開いた。
鎧の足音。
「シュア、立ちなさい」
それを確認する前に、シュアの近くにはアーテスがいる。
彼女に促され壇上に上り、王女たちの一団に加えられた。
シュアと入れ替わって、二人の王宮騎士が女王の前に立っている。
「ちょうどいい。このまま説明せよ」
「はっ。ハタテ・ライトの身柄は確保できませんでした。
ネフェ・ラファ襲撃の首謀者と思われる王宮兵士の男を捕らえたのですが、今朝になって牢から脱走、同時にハタテ・ライトも王宮から姿を消し、捜索しておりました。
目撃証言から彼女が男を逃がし、おそらくそのまま一緒に逃亡したようです。
今は市街を探しておりますが、すでに王都にいない恐れもあります」
「フレイ、聞いての通りだ」
女王が口を開く。
「私が連れ戻してきます」
フレイが飛び出していく。報告した騎士たちが後に続く。
王女や直属騎士たちも動揺を隠せない。もちろん、シュアもだ。
女王が経緯を説明する。
「馬車でシュアを襲った二人組、それがその二人だったのだろう。
男の方はネフェと戦って深手を負ったが目立った傷はなかった。
ただ株分けといえど『魔王』の最大出力を使った反動で、魔力が著しく低下していた。あとの詰めはドレがやってくれた。
もっとも精神系の耐性もあるようで、完全には聞き出せなかったがな」
「ラッグもこの二人に?」
アーテスが口を開く。
「直接口を割らせる。何をしても」
ロレがまっすぐ手を上げる。
「ショダン領へは私が。ロイエ」
「わかりました」
ロイエが応じ、二人が消える。
「ならドライドンには私が」
逃げ込むとしたら瑠民がいる場所だろう。しかしアーテスの言葉に女王は首を横に振る。
「アーテスはシュアの指導だ」
「……わかりました」
「カルヴァ、魔王島を頼めるか。ドライドンの方は領主に骨を折ってもらう」
「承知しました。では私の代わりはユウコが女王様のお側に」
カルヴァはそう答え、玉座の背後、情報官の元へ向かう。
役目を与えられた者たちが動き出す。
自分の晴れ舞台が一瞬でかき消えてしまったが、シュアもそれどころではない。同僚が裏切った。しかもあの誘拐犯も彼女だったという。
そのやり取りの中、身じろぎもせず一部始終をじっと見ているミモザの横顔が印象的だった。
第二章終了です。ここまで読んでいただき、またブックマーク、評価、リアクションいただき、本当に本当に、ありがとうございます。三章もよろしくお願いいたします。




