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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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リレクミューゼ=トッズ

2話連続投稿です。


 夕食の後、部屋で魔力操作の稽古をしていると、ノックがある。

 ドアを開けるとリレクとドレが立っていた。少し顔をうつむけている。


 サテリン、仕事速すぎ。


「シュアさん、今いいかしら」


 うなづき二人を通す。

 シュアが椅子に座ると、二人はドア付近に立ったままでいる。


「ベッドくらいしか座れる場所がないので、よければそこへ」


「ありがとう、でも私たちは立ったままで」


 沈黙。静けさが続くかと思ったが、リレクが切り出した。


「それで、お話というのは?」


「私は特に。お二人が聞きたいことがあるかもしれないと思って」


 リレクがさりげなくドレを手で制し、返事を返す。


「ご配慮感謝します。ならお尋ねします。私たちが見た者、あれは何なんです?」


「あれって? 私ですが」


 たじろぐ二人。


「まあ、いいでしょう。あれはどこです? あんな世界、この世のどこにもない物です。神国にも、帝国にも」


「ならもう一度入ってみますか?」


「悪かったよ。もう勝手に見たりしない。だからあれは何なのか、私たちに教えてくれ」


 ドレが答える。彼女にしては申し訳なさそうにしている。


「それは興味からですか?」


「私たちも王女の騎士。もし王女たち、ひいては王宮に危険なものであれば、対処する義務があります」


 持って回った言い方だが一理はある、のか?


「わかりました。でもあなたたち以外の騎士の方がいいのですが」


 すでにシュアは、自分の口調がシュアのものではないことを知っている。

 ドレの目に怒りがこもる。


「なんか文句がありそうだな」


「自分たちがしたことを思い出してみてください」


 ドレが口を開きかける。シュアの目を見て黙る。


「シュアさんが私たちによくない感情を抱いているのはわかりました。ですが、疑わしい人物を調べるのは」


「リレクさん、しゃらくさいです」


「……は?」


「勝手にやればいいじゃないですか。私には抵抗できません。勝手に入って気のすむまで調べればいいと思います」


「あれが何かわからない以上、私たちはうかつに入れません」


 リレクが目をそらして答える。あれほど厚顔不遜だったドレも、いらだたし気だが、シュアと目を合わせようとしない。

 そこで初めて、彼女たちが恐怖しているのだとわかった。


「先ほどお二人が使った魔法はなんなのです?」


 ドレは抗議の目を向けかけ、しかし伺いを立てるようにリレクを横目で見る。


「私の魔法は相手を眠らせること。ドレは眠った人の夢に介入すること。どちらも個人に直接備わった魔法術式です」


 ドレが不安げにしているが、リスクのある情報なのだろう。


「魔法使いは魔力を使えないと聞きましたが」


 鬼ごっこで普通に使っていたと思うが。


「それは人間の話だ。私たち神人には関係ない」


「わかりました。もう一つ聞いていいですか?」


「何です?」


 いい加減にしろよと顔に出すドレを制しながらリレクが答える。


「お二人の年齢は?」


 しん

 と、部屋が鎮まる。

 二人の顔からも表情が消える。


「ロイエか?」


 ドレの声が低い声で尋ねる。

 そして彼女が言った通り、ロイエだ。


「私の歳は、人間でいえは四十。ドレは十一」


 リレクが答える。

 あまりにすんなり答えてくれたものだからスルーしそうになった。

 

 この女子寮って年齢制限あったんではなかったっけ? それも神国人ならいいってこと?

 これ王宮は知ってるの?

 だがそれはいい。二人の覚悟はわかった。


「答えていただきありがとうございます。あそこは、私の前世がいた世界です」


「前世、つまり、シュアさんのあの姿は――」


「はい。あれは前世の私の姿です。四十歳くらいだったと思います」


 年齢を告げると、なんだか微かにリレクの表情が和らいだ気がする。


「つまり、ええと、その記憶を持ったままこの世界に生まれたと?」


「そうだと思います」


 異世界転生というやつだ。


「なるほど」


 一人うなづいているリレクの横で、ドレが信じていいのかわからないというような顔をしている。


「あの、」


 そんな彼女に恐る恐るシュアは尋ねる。


「な、なんだ?」


「できれば私、もう一度あの夢の世界に入ってみたいのですが」


 ドレはリレクに、窺うような目をやる。

 親子ほどの歳の差を考えればそうなるのもしょうがないかとシュアは思いを改める。

 だが思えばシュアだってそうだ。


「いいのですか?」


 リレクが丁寧に確認する。


「あそこは私にとって、懐かしい場所です。いろいろ説明もできるでしょうし」


 プライバシーは気になるが、まあなんとかなるだろうと思う。リレクは分別がありそうだし。


「わかりました。シュアさんがよければ私も興味があります」


「悪いけど私はいやだ、やるならリレクと二人で行ってくれないか」


 ドレは本当に嫌がっているようだ。顔が子供のそれだ。


「わかりました。では私だけお付き合いします。ドレ、お願い」


 ドレが神妙にうなづいたのを見たのもつかの間、シュアの瞼が自然とふさがり、あっという間に眠りに落ちた。


 目覚めたシュアが立っているのは、見慣れた実家の工場の景色だ。すでに懐かしさはない。

 体はシュアのままだ。隣にはリレクもいる。


「それで何を見せてくれるのかしら?」


 少しリレクの調子が戻ってきたようだ。


「って言われても、どうすればいいの?」


 自分の夢だが勝手がつかめない。ドレの術の中でもあるのだ。

 一応念じただけで出ないものかと、ジュースやお菓子を想像していたが何も現れない。


「ここはあなたの記憶の根底の表象って、わかるかしら?」


「わかりません」


「シュアさんの記憶の動かせない部分が形になった世界の一つと言えば?」


 その説明でなんとなくわかるが、やはり勝手はつかめそうにない。


「一つってことはもっとあるということ?」


「はい。今のシュアさんの世界もどこかにあるでしょう。どういう広がりなのかはまだわかりませんが」


「私の姿がシュアのままなのは?」


「ここが夢の世界という自覚があるからでしょう」


「夢の世界なんだから、もっと自由にならない? 魔法を出したり、空を飛んだり」


「たとえばシュアさんがいつも見る夢は、そういうことはできますか?」


「できるときもあればできないときもある。つまり夢だからって、何でも自由にはならないってこと?」


「訓練によっては可能です。例えば私やリレクはこの世界で魔法や戦いの修行を行います」


 なるほど。寝ながら強くなれるのか。


「まあとにかく、ここは私の世界だけど、今は自由にできない。でも普通に歩き回れるくらいはできるってことでいい?」


「それでいいです」


「どうでもいいけど、普通にしゃべったら?」


 同い年くらいなんだし。


「これが私の普通です」


「せめてシュアとリレクで話そう」


「……わかりました」


「じゃあリレク、ちょっと回ってみましょうかしら?」


「その前に、これらは何の道具なんです?」


 工場を見渡しながらリレクが尋ねる。


「部品を作るの。と言っても私もやったことがないんだけど、精密機械、って言ってもわからないか。私が元いた世界には魔力がない。でも、魔力なしでも明かりをつけたり、鉄の乗り物で空を飛んだり、陸を駆けたり、魔法よりも強い武器もあった」


「魔力がない世界、ですか」


「だからこの道具は魔道具を作る工具で、ここはその工房みたいなところね」


「……なるほど。それでシュアは、魔道具で頭角を現したのですか」


 それはあまり関係ないが、面倒なので訂正しないでおく。


「工場から出ましょう」


 リレクを誘い、出入り口のドアを開ける。

 おそらく自宅もある。

 その通り、記憶と寸分たがわず、見慣れた昭和風の古民家がそこにある。


「ここが私の家」


 そう言ったとき、自分が前世の大人の姿になっていることに気付く。服装はやはり事務員の服だ。


「リレクはどうして子供の姿なの?」


 若くいられるなら教えてほしい。


「神国人は、魔力が多いのは知っているでしょう。見た目はその魔力の質によって変わるところがあるの」


「よくわからないんだけど、リレクは魔力が子供ということ?」


「私のことは、いいでしょう」


「人の心の中にズカズカ踏み込んでおいてそれはなくない?」


「ここへはあなたが誘いましたよね」


「今度リレクの中にも入ってみたい」


「嫌です」


「まあそれはおいおい考えよう」


「入れさせませんよ」


 そんなリレクを無視してシュアは玄関を開ける。

 だが家の中は、実家のものではない。

 一人暮らしをしていたアパートだ。


 どういうことだろう、後ろのリレクを振り返る。

 しかしリレクが目を見開いてシュアを見ている。


「シュア、あなた、お腹」


「何?」


 見ると、真っ赤だ。

 驚いてその場にしゃがみこんでしまう。

 だんだんと痛みも出てきた。


「ちょっと! シュア!」


 リレクが叫ぶ。しかしシュアは反応できない。そのまま意識は途切れてしまった。

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