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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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シュア、発明する

 いきなり魔道具を作れだなんて言われても。


「何か不便に思ったことはないか?」


 あるようなないような。少し前はあったけれど、この世界の生活に慣れてしまった。

 ああでも、


「髪を洗って乾かす物が欲しいですね」


 王魔石でできた湧き水大河のおかげでどの町にも共同浴場があるが、みんなあんまり髪を乾かさない。

 どうもシュアにはそれが気になる。

 髪を乾かしたいなんて言うとおかしな目で見られる。

 フレイとは気が合い、彼女は必ず風の魔法で乾かしてくれた。


「なるほど。つまり、そうかっ! そういうことか!!」


 とミモザが叫んだ。

 店から飛び出していく。

 追うとすでに遠くに後ろ姿がある。結構足が速い。

 そのまま紐がついたみたいに研究所まで戻っていった。


「ミモザ様、お帰りなさい」


「ハタテ、魔鉱だ。魔鉱を持ってきてくれ」


「屑なら実験室にいくらでもあるよ」


「ああ、先輩ありがとうございます」


 近くの机で本を読んでいた男が答える。

 ミモザが礼を言い、研究所の奥にある部屋に消えた。


「アーテス様は王宮へ戻りました。シュアは今日一日このままついているようにとのことです」


 ハタテにそう話しかけられる。

 ミモザは金属の板を持って戻ってきた。

 それを机の上に置いて、シュアを呼び寄せる。


「これは魔鉱といって、魔力を通さない、あるいは弾く特性がある。武器や防具、衣類にも使われる」


 黒ずんだ粗末な金属の板が五枚。それぞれ形も厚さも不揃いである。鎧の一部みたいなものもある。

 それから加工前のギザギザした小さな魔石が二つ。どちらもおそらく二等級ほどの魔力石だが、内の一つは淡い赤色をしている。


「今からこの魔力石で魔法石を動かす」


 だが、素早くハタテが止めに入る。


「いえ、ここは私が」


 そう言って返答も聞かず、すぐハタテが赤色の魔法石を起動させた。


「ここから魔力石と魔法石を魔力でつなげる。すると石から熱の魔法が出る」


 ミモザが説明してくれる。

 手を近づけると、確かに暖かい。もっと近づければ熱いと感じるだろう。うっすら陽炎のようなものが見える。


「それでだ」


 言ってミモザは二つの石を一枚の板の上に置き、さらに四つの板で囲おうとする。

 うまくできない。そもそも板の形も大きさもばらばらだ。

 ハタテが意図を察して補助する。


「とまあこうすれば、熱は届かない」


 かなり隙間のある金属の箱だが、確かにそれはわかる。熱なんだから遮断すればそうなると思うが、まあそれは言わないでおく。


「つまりシュアが熱が欲しいときは、この板の一つを開けばいい」


 なるほど。言いたいことはわかった。


「この状態ならばシュアにも魔道具が使えるぞ」


「だけど、使ってないときも魔力出してるわけだから、使う前に切れちゃうでしょ」


 先ほどの先輩が口を出す。

 背の高い、アフロとまではいかないが、マリモ状のかなりのくせ毛である。

 王女に対してなんて口を、と思ったが、男の顔を見て言葉は引っ込んだ。

 なんだか目が据わっていたから。


 それに男の言葉は正しいだろう。

 だがシュアは、少し違った感想を抱いたのでそれを口にする。


「確かに魔石の魔力が切れれば使えなくなってしまうのですが、どうも私は、魔道具を使っても、結局それを消すことができないので、あまり興味を抱くことができないのかもしれません」


 コンロみたいなものがあっても、好きなときに消せないなら使わないと思う。


「こちらのお嬢さんは?」


「本日からミモザ様につくことになったシュアです」


 ハタテが説明する。


「いや、そうじゃなくて、どうしてシュアさんは魔道具を止められないの?」


 問われるが、それを言っていいのかわからない。


「そういう体質なので」


 ミモザが答える。シュアの周辺事情を考慮したというより、早く本題を進めたいといった様子だ。

 一応シュアもそうだとうなづいてみせる。


「なるほど、つまり君たちは、魔力が使えない人にも、一人で魔道具を使える方法を考えようとしている」


 腕を組んで小さくうなづきながら、男は独り言のようにまとめる。アフロっぽい髪型が、風を受けた生垣みたいにふさふさ揺れる。


「この人は、コタン先輩だ」


 ミモザがそう紹介してくれるが、当のコタンはその辺をうろつきながら考え事をしている。


「魔石の出力を抑えればどうにかならないか?」


 確かにシュアが魔力に干渉できない以上そうなるだろう。


「ならば魔道具を、魔鉱を練りこんだ布で覆う。それをシュアに持たせて、魔具を使いたいときにその布を開ける」


「密閉したら布は魔法で溢れて危険ですね」


 なんとなくシュアがそう口を滑らせる。


「それだ」


 反応したのはコタン先輩だ。

 その彼を見たシュアは、思わず身を引いてしまう。

 少し離れた場所にいたのだが、それでも。

 その目が高速道路を200キロでぶっ飛ばしているみたいだったから。


「何か、思いついたんですね」


 ミモザが尋ねる。

 ふっくらとした幼い顔立ちなのに、その瞳には、似たような狂気の輝きが宿っている。


「たとえば、七等級クラスの魔石を魔鉱の窯に入れる。そこに管つけて水路のように伸ばして各家につなげれば、だれでも好きな時にその魔力が使える。

 いや、初めは学院だけでいい。学院だけの方がいい。すると、こんなしょぼい魔石をいちいち買って生活費を削ったりしないでも一生ここから動かず研究していられる」


「ですが、その魔力の指向性はどうします?」


 と、鋭い声でミモザ。


 意思ある魔力で魔石が動くなら、たくさんの家に魔力を供給できるかもしれないが、自由に使えないだろう。

 例えば、明かりをつける目的で取り出した魔力は、コンロは動かない。


「窯の近くで魔石に命じるのではなくて、家にいる者がその場で管を通して石の魔力に働きかけるようにするというのは?」


「それでも早い者勝ちになりませんか。一つの魔石の魔力を同時に何人も使うなんて、そんなことできるんですか?」


「わからない。けど、七等級そのものではなくて原石を使えば、もしかしたら多人数同時使用もできる気がするんだよな」


「なら家にもっと等級の低い魔石をつけて、家そのものを魔道具にしてはどうです?」


 ついシュアが口をはさんでしまう。なんというか、ついていけそうな会話だったから。その方が手っ取り早いだろうと思って。


 二人が獲物でも狙うみたいにじっとシュアを見た。


 余計なことだったか。


 ミモザがすっくと立ち上がる。


「それは、ありかもな。三等級くらいでできるなら、すぐ取り替えられる」


「ああ、どうも大げさに考えていたようだ。だがそれでもやはり、もっと安い魔石を長持ちさせる技術がいるのは変わらないと思う」


「要は実験するしかないってことですね先輩!」


 二人はうなづき合い、それから揃って奥の部屋に向かって行った。


 しばらくすると再びドアが開き、最初に見た老人が目をかっと開いてシュアの方へ向かってくる。

 老人に上から下までなめるように見られる。


「なるほどな」


「先生!!」


 出口でコタン先輩がそう急かしている。

 近くには張り切り顔のミモザもいる。

 外に行くらしい。


「うむ、君もついてきたまえ!!」


「シュア、ハタテ、続け」


 ミモザに言われるまま五人で外へ。

 研究棟を出、別の建物へ。

 老人が目指す部屋はその最上階の三階。シュアにも見覚えがある。

 学長室だ。

 先頭の老人がドアをノックする。

 こんな小さな音では聞こえないと思うが、返事はすぐに返ってきた。


「入り給え」


「失礼」


 重厚な机にちょこんとたたずむ小柄な男。

 魔術学院学長テルミシャルラ・リパ。


「どうしたヒシャ。こんな大勢で。おおミモザ様もおられましたか」


 その顔は相変わらず銀色の髪が遮られ、何も見ることができない。

 ミモザに話しかける時だけは、なんだかやさしげな響きがあった。


「面白い話を持ってきた」


 言いながら近づいていく。もちろんみんなも。


「金をくれ」


 ヒシャは机に手をつく。


 内容は、魔石の省エネ化の研究、その先にある研究所をそのものの魔道具化というものだった。


「なるほど。ならば粗白を四等級の魔力効率にまで引き上げて見せよ」


 というのが学長の答えだ。

 それが吹っ掛けすぎなことはシュアにでもわかる。百均道具に一万円の価値を持たせろというようだものだ。

 だが老人の背中には揺らぎがない。


「わかった。あとで書面にして持ってくからサインくれ」


「いいだろう」


 老人は学長に背を向ける。

 顔には不敵な笑みがある。


「みんな、帰るぞ」

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