表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/33

透明少女の報告

 女の子がいきなり現れた。


 寮での戦闘訓練、臨の儀、女王護衛時。これまで数々の奇襲にあった。だがこんな人物がいただろうか。いや、驚きの本質はそれではない。


 対策してあったのだ。

 

 内部魔力視でも、裸眼でも。

 だが目の前のシュアは、それらすべてで捉えることができなかった。

 仕掛け人のフレイは四人の反応を見ながら、してやったりという笑みを浮かべている。


「おどろいたか?」


「驚くも何も、この場以外だったら殺すところでした」


 とロレ。殺意を押しとどめた直後という表情だ。

 それをいち早く察知していたユウコがすでにシュアとの間に入っていた。

 カルヴァはカルヴァでじっとシュアを見ている。

 おそらく独自の分析計の魔具で調べているのだろう。


 全員彼女がいつからいたのかということは尋ねない。

 決まっている。初めから、同じ部屋にいて、四人の話を聞いていたのだ。


「フレイ様は、シュアを捉えられるのですか?」


 カルヴァが尋ねる。

 大事な質問である。攻略法がなければ、自分たちどころか、女王がこの少女に殺される可能性がある。


「コツはいるがな」


 それを聞いて少しだけアーテスは肩の荷が下りる。


「ただ、シュアも発展途上だ。何せ魔力を使えるようになったのが、ほんの一か月前だからな」


 なんだそれは。とんだ化け物じゃないか。

 アーテスの隣のユウコが身構えたのが分かった。


「それで、今日はこのために?」


「いや、本題はこれからだ」


 フレイはそう言うと、持っていた紙の束を顔の前に掲げる。


「実はオーラ様に許可を得て、お前らの普段の行いをシュアに見てもらっていた」


 な ん だ と ?


「実地訓練というやつだな。一日置きに人を替えて、ざっとその日のお前たちを追ってレポートしてもらった。ちなみに、気づいた者はいるか?」


 誰も手をあげない。

 四人の理解が追いつかない中、フレイはどんどん話を進めていく。報告書らしき表紙の一枚目をめくる。


「カルヴァ」


「はい」


 カルヴァの声は表向きには落ち着いている。

 だがこんなうろたえる彼女を見るのは女子寮以来だろう。


「ちっ、つまらん」


 だがすぐに次の人のページがめくられる。

 アーテスはそこで手をあげる。


「あの、質問です」


「どうした」


「オーラ様の許可を得たということは、女王の間にもシュアは入ったのですか?」


「それは許されない。だがそれもあって、カルヴァの観察はあまり捗らなかったところもある」


 女王筆頭騎士である彼女は、確かにそうだろう。


「ロレ」


「……うぁい」


 声には不満が表れている。長命なくせに個人主義であり、こういう細かいことに一番嫌悪を表す。


「お前は甘いものを取りすぎだ。死ぬぞ」


 追従するように、シュアを除いた全員がそれに頷く。

 王宮の献上品が配られた折、数年にわたり、直属騎士にと渡されたお菓子の半分を彼女がくすねていたという前科がある。

 それを見てユウコが肩に手を置き慰めている。

 これはロレへの気遣いではない。シュアへと敵意が向かないためのヘイト管理だろう。


「ユウコ」


「はい」


 呼ばれた彼女は落ち着いている。

 これが主婦の落ち着きであろう。そんな余裕を感じさせる。


「教え子を使いに走らせるな」


「……はい。先生、あとでちょっとその報告書見せてもらえませんか?」


「お子さんの弁当を忘れたときです」


 と、とっさにシュアが言う。非常に申し訳なさそうにしているが、そつがない。


「ああ、あのとき」


 ユウコも納得したようだ。


「そこ。私語は慎め」


 フレイが釘をさす。


「最後アーテス」


「はい」


 これまでの報告で、ある程度の密告の傾向が分かり、緊張感はそれほどない。

 たしかにここでえぐい情報をつかんでさらに暴露しようものなら、シュアだって今後背中を気にして生きねばならなくなるだろう。


「なんだ、王都で買い物か?」


 そこを見られたか。

 というか、何気なくそんな場面を切り取って報告としてあげるシュアとは何者なのか。

 いや、そこは必然かも。女性らしい服など、彼女にも興味があることだし。っていうか、どこまで見たんだろう。王宮の自室で鏡の前で合わせる場面にもいたのか。

 いやいや、そういう問題じゃない。

 それにまったく自分たちが気づいていないのだ。

 警戒していたというのに。


「先生、そろそろ種明かしをしてくれません?」


 ユウコが言った。話が突っ込まれないことに、アーテスは安心していた。


「この中で、シュアを警戒していた者、つまり部屋内を裸眼目視等で安全確認した者は?」


 全員が手をあげる。

 認識できない人が紛れている可能性を示唆されて、その確認を怠る人間はいない。


「だがそれに満足して、お前たちは女王および王女の身を危険にさらしたというわけだ」


 慢心なんて起こした気はない。そんなもの出した瞬間に叩き潰された。

 だけど、言えない。実際シュアが暗殺者なら女王を守れなかっただろうから。


「なんてことはない。私が魔具でシュアを透明にしただけだ」


 ではそれをフレイはどうやって見ていたというのか?


 その言葉がすんでのところまで出かかるが、喉元に押しとどめる。

 自分たちがここのトップなのだ。

 フレイはここまでヒントをくれた。

 即対応するのが、自分たちの仕事だ。


「もう一度お願いできますか?」


 口を開いたのはカルヴァだ。


「よし、次は死ぬなよ」


 言ってフレイは魔法の小さな光弾をシュアにぶつける。

 それを受けた少女の身体はどんどん透明になっていく。

 見えない。ただ、魔力は微かに感じる。今使ったフレイの魔法の魔力だ。

 だがそれも数秒後に消える。


 この時点で自分たちの魔力を広げての魔力探知でも索敵できない。

 これを見るためには、人の内部魔力を見る魔具を使う。


「シュア、内部魔力を消せ。移動していいぞ」


 アーテスの考えに反応するかのようにフレイが指示を飛ばす。


 内部魔力を消す? 内部魔力って消せるの?


 試しに内部魔力を見られる魔力視で周囲を見ると、やはり少女はいない。


「どうして反応しないのですか?」


 ロレが苛立たし気に尋ねる。


「魔力がないからだろう」


 カルヴァが答える。すでに答えにたどり着いたというような気配を見せている。実際はどうか知らないけど、と言いたいが、おそらくもう彼女はシュアを見つけることができる。


「先生はこの状態でシュアを見つけられるのですか?」


 ユウコが尋ねる。声の感じですでに降参したいと思っていることがわかる。


「そうだな。シュアにはもともと魔力が湧き出る場所が一か所しかない」


 アーテスにはその意味が分からなかった。

 魔力なんて、思えば勝手にそこに湧くものだ。

 それが一か所?

 一か所ってなんだ?

 例えばそれが指先なら、そこからしか出ないということ?

 信じられない。

 動物や虫にも劣るではないか。


 他のみんなも驚いているらしい。誰も質問どこか反応すら示さない。その様子を満足げに見ながらフレイが続ける。


「今は手足にいくつか増やしたが、その出口を固めた魔力でふさいでいる」


 ああなるほど。全員がそれで理解したようだ。


 要は内部魔力視で、その固めた魔力の動きを追えばいい。人型の魔力の塊を探していたから見つからなかったのだ。

 魔力なのだから、それは見られるはずだ。

 魔力すら透明にする『虚空』オリジナルやその血の濃い株分けを使っていなければ。


 つまり、空間にまとまって存在する点を探す。


 でも、ない。どこを見渡してもないぞ。


「はい、そこまで」


 フレイが声をかける。


「見つけられた者は?」


「フレイ様の近くの床に寝ています」


 カルヴァが即答する。


「そーいうことか」


 ロレが声をあげる。魔力を部屋いっぱいに広げ、部屋自体の変化から探していたようだが、結局捉えられなかったようだ。


「私は音で。ズルだけど。でも寝てるとは思わなかった」


 とユウコ。開始から聴覚系の索敵に切り替えたようだ。


「ごめんなさい。わかりませんでした」


 アーテスが正直に申告する。

 ロレが魔力を広げた時点で、邪魔になると思い同じことをするのはやめた。


 じっくり示された場所を見てみると、確かに、星座みたいに小石ほどの魔力の小さな塊がぽつぽつと床に存在する。

 というかシュアもここまでするか。


「と、まあこんな感じだな。タブランにシュア専用の感知魔具を作ってはもらう。彼女の成長次第ですぐ使い物にならなくなるだろうが」


 たしかにここまで硬質化がうまければ、内部魔力の気配を限りなく消すなんてことはできるようになるだろう。


 全員がこの事実にそれぞれの思考を走らせる。


 例えば、敵地で彼女に単身潜入させ、しかるべきタイミングで雷光で一気に敵本体を叩く、なんてことも可能だろう。


 戦争さえ不要にならないか?


 ましてや彼女のような者がもっといれば。

 いや、それは以前帝国相手に試して失敗したではないか。


「一週間、いえ、三日でいいのでシュアをお借りしたい」


 口を開いたのはカルヴァだ。

 私もとロレが名乗りを上げる。


 フレイは集まる視線に軽く首を横に振って答える。


「それはあとだ。女王様がお呼びだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ