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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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23/25

共同訓練

 部屋の前を埋め尽くす女生徒たちにフレイは尋ねる。


「全員か?」


「はい」


 サテリンがまっすぐフレイを見ながら答える。


「半数近くの者は将来の方向性は決まっていたかと思うが、それを蹴ってまで王女の騎士の任に付きたいと?」


 集団に揺らぎは微塵もない。


「直属騎士は最高の誉れ。家を離れ女子寮に入ったからにはそこを目指します」


 自分の適所を投げ捨ててもしがみつきたいほどに。


「わかった。教練場へ行こう」


「「「「「はい」」」」」


 裂帛の気合。少女たちの声が響き渡った。

 女子寮敷地内の離れには教練場がある。

 場内の床は畳のようなマットが敷かれている。いわゆる道場だ。

 全員靴を脱いで畳に上がる。


「四年生、前へ」


「「はい」」


 サテリン始め、四人の女生徒がフレイとシュアの元に集まる。


「他は見学」


「正座!」


「「「はいっ」」」


 一人の号令に、少女たちは壁際に整列し、順に座っていく。

 軍隊みたいだ。いや、性質的にはそうなのだろう。

 見る限り正座に慣れている。


「シュア、王宮で働くということは、職務も当然ながら戦闘的な実力が求められる。いつでも女王様をお守りできるように。

 さらに女王騎士を名乗る者は、その力に最も秀でている者ということだ」


 それは、私には無理ではないかとシュアは思った。


「今、無理と思っただろ」


 シュアはすぐに顔に出る。というか嫌という感情を、意識的に顔に出す癖があることをフレイは見抜いている。


「はい」


 シュアは素直に答える。フレイを信頼して正直そう言った。あとそろそろ自分の株を下げておかねば、ボロが出たらいじめられかねない。

 少女たちからは何の反応もないが。


「私もそう思う」


 そのフレイの一言で。周囲がざわついた。


「ラッグは、言うまでもないが強者だった」


 だがその名前が出た途端に静まり返る。


「シュア、お前はロイエとネフェが護衛していながら敵に攫われているよな」


 再び微かにざわめき。これは少女たちにとっても初耳だったようだ。


「これらのことで我々も考えを改めざるを得なかった。つまり従来通りの直属騎士の選抜では、また同じことになるかも知れないと。

 当然敵はそこをつくだろう。そして次に犠牲になるのは王女である場合もある」


「それに対応できるのがシュアさんだと?」


 サテリンが質問をする。


「実はこの前、シュアはローズ王女とその騎士と一緒にカジノに行った。その折、シュアだけが音を頼りにカジノの不正に気付いた。ロイエを差し置いてな」


「それが王女を狙う刺客なら、シュアさんだけがそれに気づけたということですか」


 フレイが無言でうなづく。


 内魔流の五感強化というのは、フレイたちができる身体強化とはまた質が違うということにそこで気づいた。

 つまり、魔力が外に漏れないことにより、より内部に力を集約できるのではないか?


「三年生、明かりを消せ。シュアは目の前の四人を暗殺しろ。もちろん形式上ということだが。四年はシュアを捕えてみろ」


「「「はい」」」


 声とともに壁際の右端にいた生徒たちが魔力を飛ばし、遠隔で明かりの魔道具にオフの指令を出す。

 ほどなく部屋は真っ暗になった。


 道場はしんと静まり返る。


 ―――魔力が感じられない少女。

 それについての対策はしてある。


 サテリンは自分を覆う魔力を一瞬広げる。基本技術だ。それで肌感覚が一瞬広がったような感じになり、周囲を捉える。

 すでに今シュアがいたところには誰もいない。近くのフレイだけを感知できる。


 道場の奥か、あるいは女生徒たちに紛れた?

 もう少し探知半径を広げよう。


 道場内すべてを把握。

 おぼろげだが、だいたいの人の位置はわかる。

 部屋の奥にシュアはいない。ということは、


「寮生に紛れてる!」


 そう言ったとき、唐突に明かりがついた。フレイが一斉につけたようだ。

 その近くにシュアもいた。


「そこまで」


「どういう、」


 言ってサテリンは仲間と下級生たちの反応を見る。だが全員が彼女と同じことを思っているようだ。


「言った通りだ。勝負ありだ」


「……」


 フレイの判定だ。覆すつもりはない。

 ただ、それでも納得はできない。


「何をされたのです?」


「シュア、もう一度同じことをしろ」


「はい」


 言って彼女はサテリンを見る。


「抵抗してみろ」


 抵抗も何も。


 少女が近づいてくる。


 同じこと?

 いや、考えてる暇なんてない。

 魔力を全開、すべてを強化。


 その瞬間、少女を見失う。

 とっさに横に飛びのき、今いた場所を確認。

 シュアは、いた。


 四人目の仲間の心臓辺りに手を触れたところだった。


 静まり返る場内に。フレイの声が響く。


「安心しろ。シュアの前では私も同じようなものだ」


***


 気体・液体化訓練の、ある意味当然の帰結として、魔力を固めてしまえばどうなるのか、という疑問が浮かんだ。


 フレイが言うには、そういう技術は一般的にあるということだ。

 つまり、人は外部の魔力を固めて攻撃から守ったり、殴ったりするわけだ。

 物性変化といわれている。硬くもできるし、反対に柔らかい質感、あるいはタイヤのゴムみたいな硬さを持たせることもできる。もちろん訓練、才能次第では。


「体外の魔力を固めたとき、フレイ様の体内の魔力はどうなっているのです?」


 気になって尋ねる。

 内側も固めたら身体も動かなくなるのではないか? つまり、内と外で魔力の質が違うのではという確認だ。


「特に何もなっていないな。気にしたことがない。私だけでなく、一般的にそうだろう」


 防御したいところを当たり前みたいに硬くできるらしい。

 つまり内魔流というのはそこに障害があるということか。


「では私が魔力を固める意味は?」


「攻防において意味はないな。動けなくなるだけだろう。ただ、我々も気配を消すときは内部の魔力を集めて固める。それでもお前ほどうまく隠せない」


 結果をいえば、シュアが魔力を固めると、人は彼女のことを完全に見失う。

 魔力の源泉を、栓をするみたいに固めてしまうのだ。シュアの場合はみぞおちのやや下の辺り。

 そのときの彼女は魔力探知でも捉えることができない。

 ちなみにフレイなどは魔力の源泉が身体に無数あって、それが原因で気配が漏れてしまうらしい。


***


 暗くなった瞬間、シュアはすぐに魔力の源泉に栓をし、そのまま徒歩で近づき、次々全員の心臓に触れていった。

 相手はシュアに触れられても気づかなかった。

 そのまま同じ位置に戻り、フレイに合図を送った。


 シュアがやったのは、それだけだ。


 明かりがついていても変わりはない。

 魔力を固め、近づく。

 サテリンたちは、シュアを見ているようで見ていない。

 それでも動くと、まだ気配を完全に断てないため魔力が揺らぎ、部分部分で捉えられる。

 時々彼女たちの目が自分を追い、でもまた視点のピントが外れる。


 再び女生徒たちの心臓をタッチする。ただこのやり方だと、シュアの方も攻撃を通すことはできない。

 そこを突っ込まれれば、まだ勝負はついていないと言われても言い返せない。だが少女たちはそれどころではないようだ。

 フレイの最後に口にした言葉が大きかったようだ。


 先々代の女王直属騎士を務め、何人もの直属騎士以下、王宮騎士を育ててきた組織のトップが、シュアを捕まえられない。


「では次だ。シュア、お前は彼女たちに攻撃を通してみろ。四年生、付き合ってくれるよな」


「……もちろんです」


 そう、これはシュアの修行なのだ。メニューはシュアに合わせてどんどん進む。

 ただ周囲、特に下級生たちの反応は薄い。


「確かにシュアのこの技は穴がある。例えば魔力を消すことに特化したあまり、自分も魔力が使えない。つまり、お前らが身を守れば、シュアには攻撃の術がない。武器があっても彼女の力では無理だろう」


 だが、サテリンたちはそんなことはどうでもいいようだ。


「これは、なんなのですか?」


「私たちは魔力を使うことに慣れ過ぎているんだ。おそらく魔力が一切ないモノだとそれを識別できない。現時点ではそういう認識だ」


「ならばシュアさんを捕まえることはできないのですか?」


「方法は結構ある。シュアも技術的には未完成だ。自分たちの目の魔力を完全に遮断すれば追えるようにもなる。ただ、対策のない者は無理だ。お前たちのように」


 ぞくりと背筋に薄ら寒いものが走る。


「これは価値の問題だ。皆はシュア以上のものを提示できるか? その上でこれに付き合うかどうかを決めてもらいたい」


 目の前にラッグやネフェなどを倒した者と対したとき、自分に王女を逃がしきることができるのか、ということだ。


「参加します。シュアさんを手伝わせてください」


 声をあげたのは、サテリンだ。


「どうしてだ?」


「ラッグの思いをシュアさんに託します」


「他の四年も同じか?」


 一瞬三人が目でうなづきをかわし、決意を込めた目でフレイに向き直る。


***


 王女の騎士前任者ラッグと四年生の関係は、一緒に風呂などに入っているときなど、折に触れてフレイから聞いていた。


 直属騎士選抜期の女子寮は、終始試合待合室のように張り詰めている。

 国中から輪をかけて才能ある少女たちが集まって、そのすべてを見られ、比べられながら、わずか五名だけが王女の騎士に選ばれる。


 王女は五歳から王宮に入る。大体年に一人ずつ順番に入ってくることになる。それに合わせ、生活の支えはもとより、盾となり身代わりとなる者を選ぶことになる。


 選抜は最短五年。長ければ七、八年ほど続く。

 専任が決まるまでの護衛は、女王直属騎士が勤める。彼女たちが新任の騎士に仕事を教え、やがて引き継ぐ。

 ローズの騎士をネフェが勤めながらロイエを教育する、という具合に。


 今いる四年生は、選抜最終年に入った生徒たちだった。

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