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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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魔力

 魔力?

 これが?


「どうやら今日は魔力を使ってきたみたいだね。その力を身体の中で動かしてみな」


「はい」


 そう、力だ。異質な感じしかしないが、自分の中に知らない力がある。

 アメーバ状の何かがあって、それが自分の中を移動できる感じ。

 そしてその力を手に集めれば、どこまでも強く握れそうなほど力が漲る。

 力を耳に集める。この感じだ。

 いろいろな音を拾える。と同時に、聞こえている音の一つにピントを合わせると、その音を自分の中で大きくすることもできるようだ。

 ただ消耗が激しいらしい。一秒も持たず集中が切れる。


「やめ」


 その声でハッとシュアは正気に返る。またさっきの疲労感がぶり返してきた。


「明日から訓練に入る。今日はもう体を休めろ。しっかり寝ればそこそこ回復するはずだから、今感じた以上の力が出せるはずだ」


 え、もっと力が出せる?


 これがマックスで、最強だと思っていた。

 フレイは、シュアが抱えていた布袋に目を落とす。


「それは行くとき渡した金か? なんだ、あんまり使わなかったのか? ん? 少し増えてないか?」


「あ、はい。賭け事で勝ってしまって、どうしましょう?」


「ああ、そんなとこ行ったのか。調子いいとすぐ全部突っ込んでスッちまう。お前は何回か勝ってやめたのか。いい判断だ」


「ローズ様は私の物にしていいと言われたのですが」


 言いながらフレイに袋ごと渡す。

 中を見る。


「げ、おま、これ銀貨じゃないか!!」


「ああ、はい」


 驚かれた。

 いかさまのことはあとで知られるだろうから、あえて触れないでおく。


「ええと、大金なんでしょうか?」


「兵士の給料一年分くらいだな。あいつらなにしたんだ?」


「フレイ様にお預けしていいでしょうか?」


 そうさり気なく話を変える。

 そういえば、この世界では銀行はどうなっているのだろう。まさか長持に有り金すべて入れておくわけでもあるまい。


「そうだな、明日にでも銀行に預けにいくか」


 なるほど。あるらしい。銀行。


「とりあえず魔力は、今のところは私がいないときは使うな。

 これは変な癖をつけないためだ。そのためにちゃんとお前専用の訓練メニューを組んである」


 強い口ぶりだった。


「はい。わかりました。それで、今日はどうしましょうか?」


 休めと言われたがまだ昼過ぎだ。今寝ても夜に目覚めるだろう。


「寝ないのか?」


「さっきまでは眠かったですが、今は覚めてます」


「なら、ベッドで横になってろ。子供が夜勤明けの兵士みたいなこと言うな」


 ということで、強制的にベッドにつかされた。

 でも床についた瞬間、すとんと眠りに落ちた。

 想像以上に疲れていたんだなと意識が途切れる直前にそう思った。


***


 翌朝、だいたいいつも起きる時間にシュアは目が覚めた。

 夜中に一度起きたが、真っ暗だったので再び眠った。

 そのとき予感はあったが、身体の内部を感じるとエネルギーが満ちているのが分かる。


 昨夜はコップ一杯程度のアメーバ状の魔力だったが、今はお腹いっぱいに収まるほどに感じられる。

 今日からこれをエネルギー源として使えるわけだ。少しわくわくする。

 試しにこれを全部腕に集めて……、

 いや、いかん。それはフレイに止められたんだ。

 フレイのベッドに彼女はいない。

 ただ彼女も起きたばかりであることは確かだ。叩き起こされていないから。

 着替えて一階の洗面所へ向かうと、彼女はいた。


「おはようございます」


「おはよう、まだ使うんじゃないよ」


 一目見てフレイにそう言われる。

 やはり見てわかるらしい。すかさず釘を刺される。


「ご飯食べて、早速訓練だ」


「はい」


 元気よくそう返す。

 そのまま二人で、誰もいない食堂で朝食を食べ、部屋で訓練に入る。


「ここに住む他の方たちはどうしているのですか?」


 気になっていた。

 明らかに変だ。

 この世界の多くの人たちも大体早朝に起きる。シュアももちろんそうだ。

 しかし寮内で今まで誰一人すれ違っていない。

 起きると隣の部屋の生活音や、廊下を静かに歩く音、女の子たちのささやき声は聞こえてくる。

 いつもそれで目覚める。ただあまり音を立てないようにしているらしく、気が咎めてドアを開けてあいさつするみたいなことはしないが。

 もう少しすればメイドたちがやってくるのも分かっている。


「一つゲームをしているからだな」


「ゲーム?」


「お前と鉢合わせしたら評価を大きく下げられる。だから向こうは必死だ。試しに今度顔を出してみるといい」


 なぜにそんなことを。というか聞いたからには絶対やらない。


「お前の中の魔力はまだ感じられているな?」


「はい」


 水の塊みたいに感じられる。

 早く使ってみたくて仕方がない。身体が子供だからだろう、爆発したいくらいウキウキしている。


「今どこにある?」


「お腹に」


「それをまず全身に行き渡らせてみろ」


「はい」


 言われたままやってみる。

 お腹から全身に。

 できない。

 うまく伸ばせない。

 

 その代わり、ニュートラルな大きさのまま、体中に自由に移動させることならできる。


 全身は無理でも、足一本くらいなら魔力で満たせないか?

 

 だが、それも無理なようだ。脚に合わせて魔力の形はなんとなく変えられたが、基本水の塊の形状を大きく変えることはできなそうだ。


「できないです。塊を移動させるくらいです」


 正直に言う。


「ん、移動はできるのか。上出来だ」


 褒められた。


「ならその塊を分離できるか?」


 分離? ……だと?


 おそるおそるやってみる。

 たぶん、できた。つきたての餅を手で扱き切るような感じだ。シュアの腹の中で、ニュッと左右に分けられている。


「できました」


「半分を腹に残して、もう半分を右脚の方に」


 次なる注文が飛ぶ。


 できた。

 これくらいならまだ余裕がある。


「できました」


「上出来だ。お前は魔力の体内移動が得意なのかもな。だが分離できるが、魔力が広げられないのはなぜだ?」


 そう言われても。


「形が変わるからではないでしょうか?」


 なんとなくそんな感じだ。体積やら面積が変わるのが、なんだかしっくりきていない。感覚で追えなくなる。


「ああなるほどな。初期の形のままなら分離はできるということか。ならそれはいくつに増やせる?」


「たぶん、三つくらいで限界です」


 でも三つとなると、途端に動かせなくなる。ピアノの両手弾き初心者みたいなものだろうか。


「わかった。一つに戻して。ちなみに片脚だけその魔力で強化できるか? イメージして」

 

 脚に魔力をやることはできる。しかし強化のイメージがつかめない。


「強化ってどうやるんです? 魔力をその部位にやれば、感覚が鋭くなったり力が強くなるのはわかるんですけど」


 身体の中のアメーバーが一気に固まった気がする。


「人によって感覚が違うが、爆発させるとか、固くするとか、流れを早くするとかそれで魔力を変化させるんだ」


 できるようなできないような。

 ただなんとなく、聴力や視力なら強化できそうな予感がある。


「脚は、できません」


 それに、脚に負担がかかる気がする。


「無理しなくていい。とりあえずまた腹の近くで二つに分けて」


 言われた通りにする。


「今度は一つをずっと上に」


「……」


 胸元までは行くが、手や頭にまでうまく巡らせられない。もちろんそこまでやれとは言われていないが。

 感覚的には足の方がやりやすい感じがある。だがそれは、脳に近い分上半身の方が細かく知覚でき、苦手が分かりやすくなっているだけというような気もする。


「魔力を一つに戻して、それを目に入れて私を見るんだ」


 これはできた。

 少し魔力を伸ばして裏側から両目を覆い、フレイを見る。


「私が何をしているかわかるか?」


 問われてシュアはうなづく。


 フレイの身体が、ごく薄い半透明の膜で覆われている。

 よくマンガやアニメで出てくる表現だ。メラメラというよりは、水の膜のような穏やかな形である。


「目を強化すると相手の魔力が見られるようになる。自分の手を見てみろ」


「ありません」


 シュアの身体は魔力で覆われていない。


「それが内魔流だ。私にもお前の魔力の有無はわからない。もちろんその流れも」


 なるほど。


「ある程度お前の力は分かった。今日は魔力の上下操作、分離操作、拡散操作を三セット。感覚を確かめながら行う。そのあとは昼ご飯。言っておくが魔力がなくなってもポーションは使わんからな」


 時間をかけながら、じっくり体内の魔力操作を行う。

 フレイはシュアの様子を見ながら、もう少し肩の力抜けとか、魔力をより上にあげるとき目に力が入るとか、そんな注意をしてくれる。

 意識してだが、かなりスムーズに魔力が動かせるようになってくる。


 昼休憩。

 ドッと肩に疲れがのしかかっているのが分かる。ただ、体幹の中は、子供が跳ね回っているように元気な感じがある。さんざん魔力で昇降運動を続けたからだろう。活性化された感じ。

 食堂には誰もいない。メイドたちの姿もない。二人で調理場から昼食を持ってきて部屋で食べる。


「魔力に身体が慣れてくると、普通にご飯を食べてもそれなりに回復できるようにはなる」


 その感じは分かる。なんとなく兆しがある。

 今のところたらふく食べてもいっこうに身体はくたくただが、それでも昨日の疲労感ほどではない。

 だがすでに午前中で魔力をほとんど使った感じだ。


「午後は休みにする。ただ休むんではなくて、お前なりに効率よく魔力を早く回復する術を見つけろ」


 それを聞いて直感的に寝ることだと思った。

 というかまだ五歳なのだ。

 寝る子は育つのだ。

 寝る一択。

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