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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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18/24

さいころ勝負

 えーっと。


「チップを台において、数字の合計(合)か、偶数(丁)か奇数(半)を当てるんだ。サイコロの出目を当てるのもあるが、今はやめとけ」


 困っていると、ロイエが説明してくれる。


「勝負についてもパスは一度できるが、次は必ず勝負する必要がある」


「じゃ、じゃあ、丁(偶数)で」


 皿から一枚とって台に置く。


「合(合計)の方はいいので?」


 シュアはうなづく。

 カップが開かれる。


『2、2』


 丁だ。


 勝ちってこと?


 テーブルの真ん中にあるチップの山から一枚、さっきシュアが賭けた一枚とともに返ってくる。


「幸先ええの」


 嬉しそうなローズの言葉にうなづきを返す。


「続けますか?」


「はい。合計を当てるとどうなるんです?」


「半丁は2倍、合は4倍。ちなみに出目をあてれば8倍だ」


 とロイエ。

 シュアはうなづき台に向き直る。


「半」


『2、5』


 当たり。


「丁」


『3、3』


 当たり。


 あっという間に三連続成功。

 隣のローズが興奮している。


「続けますか?」


「はい」


 チップ二枚を前に。かけ金を倍にする。


「やるのお」


 なんだか知らないけどローズが感心している。


 そのあとは勝ったり負けたりを繰り返し、5勝2敗。

 やり取りだけがスムーズになっていく。

 合の数も心の中でやっていたが、全部はずれ。やはり的中率は低い。


「続けますか?」


 変わらぬ口調で男が問う。


「はい」


 チップの柱一本、計10枚を台に乗せる。

 王都の食事一食分だ。正直こんなことをやめて豪遊したい。

 おおと周囲から声が上がった気がした。いちいち確認はしない。


 今回の外出の目的は『好きなこと』だ。賭け事なんて前世でも経験ない。でもなるだけその醍醐味を味わってくる。それがフレイに報いることになることだとシュアは考えた。


 だからチマチマやっていたのでは何にもならない。


 周囲が静まる。というかローズが水を打ったように静かになる。

 男は賽をカップに放る。


「半」


 それに調子を合わせるように、シュアが発する。

 伏せられたカップが、一瞬の間をおいて開かれる。


『2、4の丁』


 あっという間に10枚取られた。

 ローズがあーと声を漏らす。

 だが、特に痛い感じはない。人のお金だからだろうか。

 まあべつに感じる必要なんてないのだが。でもせっかくだしヒリヒリしてみたい。ヒリヒリの端っこくらいは感じてみたい。


 シュアは皿から2本のチップの柱をテーブルに置く。


「ロイエ」


 そちらを見ずに、シュアは呼ぶ。


「なんだ?」


「悪いけど、持ってる私のお金、全部チップに変えてきてもらえる」


「わかった」


 ロイエが金を持って入口のカウンターに行く。ディーラーはそのやり取りを意に介さず、カップをテーブルに伏せる。


「さあ」


 ただし男の声が勢いづいてくる。


「一つ聞いていいですか?」


「はい」


「合を賭けたいんですが」


「よござんす」


 なんか、スイッチ入った?


「半に20。残りの25枚を合計6に賭けます」


「合6は丁ですがよいですか?」


 確認を取られるが、それでいいとうなづく。


「いざ」


 カップが開かれる。


「『6、6』の丁」


 はずれ。


「あああ、おぉぉぉぉ、シュア」


 一瞬ですべてのチップが持っていかれた。

 我がことのようにローズが泣き崩れそうになっている。

 そこへロイエが追加チップ150枚を持ってやってくる。


「おお、見ろ!! 加勢だっ!!」


 ローズが声をあげるが加勢ではないだろう。どちらかといえば飛んで火にいるみたいなやつだ。


 そんな中でシュアは自分に問うている。

 今のマイナスは堪えたか? いや、まだヒリヒリ来ない。どちらかといえばエキサイトするローズの方が気になる。


「20枚を出目2、2に」


 なんとなくノリで出目をかけてみた。

 奇跡は一瞬でおとずれる。


「『2、2』の丁!!」


 8倍。


「うおおおお!! きたああああ!!」


 ローズの歓声とロイエの声が混ざる。

 賭け金20枚×8倍で160枚。

合計310枚。


 ようやくそこへきて、シュアの胸が熱く湧き立ってくる。

 手痛い失敗より、成功体験が大事なのかもと頭の片隅でメモを取る。


 手元には1本50枚のチップの柱が6本。

 シュアはその2本を向こうに押し出し、さらに10枚を加える。

 110枚。これまでの儲け分すべてだ。


「半に全部」


「あいよ」


 男が威勢よく答える。

 カップが開かれる。


『4、5』


 半!!


 おぉぉぉぉぉ!!


 歓声?


 誰? ローズ、ロイエ?


 でも二人はシュアを巻き込んでピョンピョン飛んだり、肩をパンパン叩いたりしている。

 それでふと我に返る。叫んでいるのは自分だった。


 220枚。合計で420枚だ。


 よくわかんないけど、これはみんなから見てもすごいことらしい。


 だが、ディーラーの男はいたって平然と布巾で台を掃ったりしている。

 たしかに親のテーブルにはまだまだたくさんのチップがある。

 シュアは賭けるチップの柱を4本にする。そこへさらに20枚。今儲けたすべてだ。


「出目3、3に」


「「ほおおおお!」」


 二人も興奮している。

 サイコロのカップが、テーブルに伏せられる。

 そのとき、


「丁に100」


「私も、丁に300だ」


 二人の男が賭けに参加する。

 気づくと、周囲に紳士淑女たちがいる。

 十人程度だが、いつの間にかシュアのゲームに人が集まっていた。


「他の方は?」


 誰もいないようだ。まだ静観という感じだろうか。


 カップが開かれる。


「『3、3』の6、丁!!」


 どっと歓声が沸く。下の競馬場に聞こえるほどだ。

 ローズもロイエも、シュアの近くで何か言っているが聞こえない。


 1760枚。手元と合わせて1960枚。

 換金すると10ディ銅貨196枚。

 重そうだ。銀貨に換算してもらえばいいか。


 シュアは間髪入れず、11本のチップ柱に10枚を加え、賭ける。

 560枚。


「半!」


 そこからの記憶は定かではない。

 たしかに耳も聞こえるし、物も見えている。

 でも一枚透明な膜をかけられているような、浮遊感にも似た感覚が続いている。


「半!!」「半!」「丁!」「半!!」


 それなりに手痛い負けと、それを跳ね返す勝ちがあった。

 手持ちは増えている。取り巻きも増えていく。

 ディーラーの山はあまり減っていない。シュアとの負け分を周囲から回収しているのだ。


 シュアはそれらを冷静に見ている。そう自身では思っている。

 実感では、頭の奥辺りに静かな自分だけの空間がある感じだ。それが冷静な自分なのか、狂気を帯びた自分なのかは判別できない。


 ただ他人から見れば、彼女は常に先頭切ってチップ500枚を賭け、丁半の宣言をする化け物子供と化している。

 もうローズやロイエは抱き着いてこない。

 彼女たちも観衆の一人となり、テーブルのやり取りに見入っている。


 ……ゴロ。


「?」


 その十数度の勝負の中で、シュアはその音を聞いた。


 なんだ?


 周囲は人だかりだ。台の最前線にいるのは、ローズとロイエを除けば、勝負する人がひしめいている。あとは野次馬。

 雑踏とは違うが、がやがやとしたうるささには変わらない。

 だからそんな音、シュア以外には誰も気にしていないだろう。自分以外に聞こえたのかどうかすら怪しいかすかな音だ。


「半!」


 かまわず賭ける。

 すると、


 ……ゴロ、ゴロ。


 再び音だ。

 カップが開けられる。


『4、6』の丁。


 はずれ。


 親のチップがあっという間に山に元に戻る。

 しかしシュアはためらいなく、すぐさま手元にある500枚のチップを向こうに押し出す。


「丁」


 その声に続いて方々から「丁」「丁」「丁」の嵐。


 カップに賽が投じられる。


 ……ゴロ。


 カップが開く。


  『3、2』の半。


 また。

 ちらりとロイエを見る。だが彼女はテーブルにくぎ付けだ。

 シュアはチップを倍にする。

 1000枚。

 おおと、声が上がる。


「半」


 それに周囲が反応する。しかしシュアは集中を切らさない。

 あの音だけを聞き分ける。


 ……ゴロゴロゴロ。


 やはり。


 鳴っているのは、サイコロの閉ざされたカップの中だ。


「1、2の半!!」


 おおおおおおおお!!


 歓声が沸いているが、シュアの頭は凪のような静けさだ。


 つまり、出目が操作されている?

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