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透明な転生少女  作者: 森の手
第二章

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内魔流

 魔術学院での検査を終えた翌日、シュアは王宮女子寮に住むことになった。

 部屋は女子寮寮長室。

 フレイの部屋だ。

 彼女と一緒に住む。個室と言われていたのだが、急遽そうなっていた。


「私が身元引受人になるけど文句は?」


「ありません。よろしくお願いします」


 本当にない。こちらからお願いしたいくらいだ。


「なら初めに面倒事をやっつけちまおう」


 フレイの部屋で説明を受けながら転居書類、入寮書類・誓約書、雇用書類等を書く。といってもサインだけだ。

 ついでに施設長や仲間への手紙も。

 その間にベッドや長持等、シュアの生活道具一式が使用人の手によって運び込まれていく。


 十人家族でも住めそうな広い部屋だ。

 入って手前に何もない空間がぽっかりとあって、そこがシュアの生活空間になった。

 フレイの生活空間は部屋の奥にある。

 キングサイズベッド、その周りに洋服箪笥、鏡台、机に本棚が密集している。


「私には広すぎてね。ああして一か所にまとめちまうのがいいんだ」


 つまり手前の空間は、あらかじめシュアのために空けられたというわけではないようだ。


「シュアには、女王様との謁見までここで暮らしてもらう。見てわかると思うがここは女子寮だ。私の他に副寮長や教官たち、その見習い、それから生徒たちが暮らしている。

 寮の外には衛兵から来賓、神国の大臣なんかもいる。問題を起こして女王様の顔をつぶさないように」


「はい」


 とはいうものの、ここで何をするのかはよくわかっていない。


「時間が惜しい。とりあえずお前には自分の中の魔力を使えるようになってもらう。無論私が教える」


「は、はい」


 女王の側近が直々に初等教育を施してくれる。


「お前がこの部屋に住むのはそういう理由からだ。その間原則私以外、他の指導者はつかない」


「それは、私が他の方と違うからということでしょうか?」


 内魔流とかいうやつのことだろう。


「シャルラとも話したんだが、一か月この体制で育ててみる」


 一か月というのは女王との謁見が関係しているのだろう。

 つまり、そこで女王の意に添わなければ、お払い箱?


「余計な心配はするな。なにがあってもすべて私が責任を持つ」


 顔に出たようだ。


「タブランの見立てだと、お前の潜在的な魔力は平均市民とそう変わらないらしい」


 正直、それはうれしい。ないと思っていたのだから。

 冷静に考えれば、ここで生き残れる力はないと言われたと同じように思うが、それはそれとして。


「私のようになる人というのはいないのですか?」


「とても少ない。どうも生まれてからまったく魔力を使わないことに原因があるようだ。魔法を体外に出す小孔が完全に閉じ、魔力もそれに協力して、皮膚や皮下に遮断する膜を作ってしまうらしい」


「……生まれてすぐ魔力って使えるものなのですか?」


「それが普通だな。皆自然に使ってる。それで身を守ったり、才能のある赤子は知らずに近くの者を攻撃するなんてこともある。だから物心ついたらある程度自然に操作できるようになっているんだが」


 なるほどとシュアは思う。

 前世の記憶のままこっちへ来たからだろう。絶対そうだ。


「単純な魔力量でいえば、最大が100とするなら、ここの平均は70くらいだ。一般兵士で40前後、そしてお前の魔力量はせいぜい20に届かないくらいだ」


 シュアは黙って話の続きを待つ。

 なんでそんな子供を育てようとしているのだろうと思って。


「しかし内魔流というのは、魔力の運用効率が抜群に良い。良くも悪くも魔力が外に出るというロスがないからだ」


 ゲームでいうМP消費減みたいなものか。


「まあそれも経口摂取以外で魔力を補給できないという難もある。魔具や魔石、魔道具が使えないとか、魔力で守れず常に生身とかね。だが、魔力感知されない。これは大きな利点だ」


 それについてはうなづけるものがある。

 実際にその効用を見ているから。ネフェとロイエがいながら、シュアは誘拐されたのだ。透明の、かつ魔力が感じ取れない、それも少女に。

 なんとなく、自分が何を求められているのか分かった。……ような気がする。


 だがフレイは、シュアに期待を持たせることを言うのは控えた。

 まだまだ関係者全員が手探りだった。


「それを踏まえ、お前を鍛える」


「はい」


「ということで、今日は案内を兼ねて王宮敷地内を歩く」


「はい。……え?」


***


 フレイとシュアは王宮市街地に出た。

 城門をでると広い一本道がある。大路と呼ばれるものだ。その左右に建物や家々がひしめき合っている。

 大路は絶えず多くの人や馬車が行きかっている。


「とりあえず歩こうか。王都は初めてだろ」


「はい」


 初めても何も、ロイエの瞬間移動で飛んで来たのだ。こんなところだったとは。京都っぽい。中国か?


「観光といこう」


 そう言ってフレイが踏み出したのは大路ではなく、右の城壁に沿った道だった。


「王宮に近いこの辺りの家は、各所領の家族や、大臣、貴族のものだと覚えてほしい。

 王宮から離れるにつれ、一般人が多くなる。王都で働く職人、聖職者、教師、飲食店、まあ色々だな。当然学校もある。そっちの方がお前でも気軽に行けるだろう」


「私の街とだいぶ違うようですが」


 フルーロードの街は西洋風の木や石やレンガの家だ。他の所領も同じだと思っていた。

 だがここは木造が多い。王宮もそうだ。造りも違う。王宮は平らな建物に対し、フルーロードは城である。


「ここは神国の素材や文化で作られてる。木材は魔力が宿る高級な物だ」


 どうもそれが偉い人が住む家との差異のようだ。

 木の家がステータスということらしい。


「向こうの壁まで行こう」


 メイン道路と比べ人気は少ない。閑静な高級住宅街という感じだ。警備の兵士や数人の巡回兵の集団とすれ違う。

 城壁までくると、フレイはL字を曲がる。やはり城壁がどこまでも続いている。


「足は?」


「大丈夫です」


 今のところは。


✳✳✳


 一時間ほど歩いたか。


 路の中ほどで再び門が現れた。正門ほどではないが、敵襲に備えたいかめしいものである。

 それを越えたあたりから、フレイの言う通り、自分がよく知る街の活気がある。

 学校近くにくると子供の騒ぎ声が聞こえ、買い物客、神殿へ行く者たち、職人たちともすれ違う。

 碁盤の目のように整然とした街だ。

 規制があるのか、馬車の往来はない。歩行者はのんびりできていい。


 そんなものを見ながらさらに一時間ほど延々と歩く。

 正門の壁についてしまった。

 お店でにぎわっている。

 シュアの体内時計では三時くらい。お昼が食べたい。


「つかれたか?」


「い、いえ」


 さすがに足が痛くなってきた。


「じゃあ反対側だ」


 容赦がない。再び90度向きを変え、歩き出す。

 空地を子供たちが楽しそうに駆けている。

 

 王都正門前に着く。

 物々しい感じだ。兵士たちが外から来る者たちに対応している。旅人や商人、馬車、木材が箱まれてきたりもする。

 外には大勢の列ができている。


「軽く食べ物を買ってやりたいが、今はなしだ。何をしているかわかるか?」


「さ、散歩ですか?」


 正直無理がある。行軍に近いだろう。もう少しで夕暮れだ。


「悪いが今日だけは我慢してくれ。ちなみに、これから私がどこへ行くかわかるか?」


 馬車をつかまえて食事、というわけではなさそうだ。


「同じように反対側の壁の周りを歩いて、元に戻ってくるのでしょうか?」


 そんな予感しかしない。

 背中を叩かれる。


「いいかシュア。そういう時は、さりげなく自分の希望を言うんだ。こっちが悪者になるから」


 じゃあお腹すきました。

 と言おうとしたとき、フレイが口を開く。


「とつい本音が出てしまったがお前が思った通りだ。すまないが、反対側から戻る。ご飯は寮でだ」


 ということで、シュアは城壁の内周を一周して戻ってきた。

 王宮の門の前に着くころには、すっかり夜も暗くなり、魔道具の街灯が灯っている。

 門は閉ざされ、左右に槍を持った衛兵が塞いでいる。


 シュアの足は文字通り棒のようで、空腹と疲れと痛みとあと微かな後悔などもあった。

 良いところといえば、もらったサンダルが大変良い物で、靴擦れしなかったということだ。それくらい。


「つかれたか?」


「は、はい」


 顔をあげることもできない。


「じゃあもう一周だ」


「……いやです」


 頭に手が乗せられる。


「よく頑張ったな。今日は終わりだ」


 無言でうなづく。喉が渇いて痛い。

 水も飲んでない。

 フレイは空中に手を伸ばす。すると、何もない空間に黒い穴が空く。そこに手を入れる。

 引き抜いた手には水晶がある。


「ほら、触れて」


 そう言ってシュアに差し出す。

 言われるままそれに触れる。

 何度かやっている魔力チェックだろう。

 フレイはその様子をじっと見ている。


「やはりお前は自分の身体の活動を魔力なしでやっているようだな」


 なんてことを言われる。


「こんなにくたくたでも、お前の中にある魔力が減っていない」


 なるほど、いままでの苦行はこれを確かめるためだったらしい。


「相当な頑固者だ」


 いや、そんなこと言われても。


「呆れを通り越して逆にすごい」


 もうこれ、褒められてないな。


 フレイは再び水晶を空間の穴にしまう。再び出した手は、陶製のデカンターのようなものを持っている。小皿を出し、そこに少しだけ液体を注ぐ。


「飲むんだ」


 とても喉の渇きを潤す量ではないが、水は水だ。何も考えず飲み干す。


 泣きたいくらいまずい。


 口の中がマヒした。唇や喉がすぼまるくらい渋い。脳の皺が増えるほどに絶望的に渋い。


「どうだ?」


「まずいです」


「身体変化は?」


「とくにありません。これ、なんなんです?」


「魔力を回復させる経口ポーションだ。とても貴重な物だ」


 そんなものをなんで飲ませたんだろう。


「その味を覚えておくように」


 寮に帰ったときは、身体からホッと力が抜けた。

 前世の記憶が不意に思い出される。残業して家に帰ったときみたいだ。いや、あのころと比べたらまだまだ余裕だろう。


「シュア」


 フレイに声をかけられ、思わずシュアの背筋が伸びる。


「はい」


「これが今日最後のメニューだ。よく考えてこたえるように」


 なんだろう。


 思わず身構える。


「お前の好きなことを教えてくれ」

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