魔力検査
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後をついてきているシュアが静かに燃えているのをフレイは感じる。
ただ彼女は勘違いしている。
初めにこの子を王宮に迎えようとしたのは他ならぬ女王だ。
その時点で王宮入りは決まっていた。
だが無能は困る。そして本人の肚が決まってないのは同じくらい困る。
そのやる気をどう引き出すかというのもフレイの仕事ではあった。この件はちょうど良かった。
それにしても不思議な子だ。
世を拗ねているわけではない。だがなんだろう。貴族の婦人とでも話しているようだ。
若さに対する渇望が尋常ではない。
まあとにかく、やる気があるうちに先へ進んでしまおう。
王女たちはもう着く頃だ。
中央棟を出て北西の研究棟へ入る。瓦葺きの青色の屋根が鮮やかだ。
たまにすれ違う学生の制服も白地のローブやスカートに、青のマントを羽織っている。
「今から行くのは、『目のタブラン』と言われる学院教授の一人だ。魔力を見る水晶があるだろ。あれを作り出した人物だ」
「魔法使いですか?」
「よく知ってるな。魔具や魔道具は彼らの力があって初めて私たちにも使うことができる」
「名前からして男性の方ですか」
なんだか心配しているようだ。昔何かひどい経験があったのだろうか。
「まあ行けば分かるが、変な心配はしなくていいよ」
実際、見ればわかる。
部屋には主を含めた四人がそこにいる。
研究員たちの姿はない。彼一人の研究スペースだ。
奥にベッドやタンス、冷蔵魔道具などがこじんまりとある。壁はすべて本棚。机と椅子がいくつか点在している。
リパを中心に四人は雑談していたらしい。
「廊下で授業とは、部屋ならばお貸しできましたのに」
部屋の主がフレイを見て言った。
「男に聞かせられない話だったものでね」
フレイが答え、彼の目がシュアに転じる。
「あなたがシュアさん」
「はい」
シュアが尋ねるようにフレイを見た。
「彼がタブラン教授だ」
それでもシュアに納得した様子がないのは、見た目ほど単純な人生を歩んでいない証拠だろう。
何だろうこいつ。
というのがシュアの第一印象だ。
タブランは、少年だ。
身長はシュアと同じくらい。青い短髪で寝起き癖がついているが、今産み落とされたかのように、つやつやである。
シャツにズボン。ローブも羽織っていない。寝起きだ。
見とれるほど美しい。まったく何も感じないが。
「初めまして。僕はタブランと言います。専門は感覚に関する魔法の研究。探知、感知、精神、意識、もしかしたら協力を持ち掛けることがあるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「シュアです。よろしくお願いします」
感情を悟られないようシュアは当たり障りなく返事をする。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたな。私はテルミシャルラ=リパ。この学院の学長をやっておる者です」
「シュアです。お世話になります」
「タブラン、お前の歳をシュアに教えてやれ」
フレイがそう水を向けると、少し不思議そうな顔をしながらタブランが口を開く。
「あなた方の数え方で120歳になります。ここでの生活は10年ほどです。それまでは神国で暮らしていました」
一瞬、シュアがフレイを見る目が変った気がした。
少して、ふと思い当たる。
「シュア、私は神人じゃないぞ」
「……はい」
自分の若さの秘訣が長命種にあるのではないかと思ったらしい。血が混じっているとか、そういうことを考えたようだ。
そんなことを思ってほしかったわけではないんだが。
タブランがこちらに近づいてきて、シュアの方に手を伸ばす。
「ではお調べします。シュアさん、お手を」
シュアはその手を握る。
「なるほど、わかりました」
「ほう」
リパが声を漏らす。
ロイエやローズの目にも期待が表れている。
「やはり女王様が思った通り、貴重な体質をお持ちの方でございました」
タブランの次の言葉に、みんなの期待が集まっている。
だが彼はなかなか口を開かない。
「……ここで発表しても?」
「そのために来た」
向こうは女王に先に伝えたかったようだが、どうせすぐ知ることになる。
「内魔流ですね。ほぼ、間違いなく」
首をかしげるローズとロイエに対し、リパは一度かすかにうなづいた。
「それがどれくらいの代物なのかは、これから調べてみますが」
「それは、なんなのじゃ?」
ローズが問う。
「内魔流は、魔力が外に出ず、内側にだけ流れる体質のことです」
フレイが答える。
「だから、それが何なのじゃ?」
「まず、身体の中で魔力を自由に流すことによって、とても早く動けます。使い方によっては五感の強化、怪力なども得られます」
「なるほど」
とローズ。
シュア当人も食い入るように聞いている。
「悪いことは、魔力で自分の身を守れないと同時に、魔具や魔道具も使えない。さらに魔石などを使って、魔力の補給ができないことです」
「魔道具もか。私でもつかえるぞ。それに思うんじゃが、お前があげた良い点、それは魔力がある者ならフツーにできることではないのか?」
「できますね」
フレイが目の端に捉えたシュアは、ガーンという顔をしている。
特異体質とはいうが、簡単にいえば障害の部類だろう。
皮膚が魔力を通さないようになっているらしい。そのせいで生皮が素材に使われるということもあった。
だが、そんな者にしかできないこともある。
フレイはあえてこの場でそのことを言わない。
やはり女王はそれを必要として、彼女をここに招いたようだ。
シュアに目を転じる。混乱しているようだ。
社会不適合者の烙印を押されて喜ぶ者はいない。
フレイはその小さな尻を叩く。
「シュア、あんたは今日からラッグの部屋を使いな。昨日寝たあの部屋だ」
ロイエがシュアの首に腕を回す。
「良かったな」
と言われても、シュアはどう反応していいか分からない様子だ。
一方で、ロイエとローズは話を進めている。
「うむ、今日はシュアはどうするんじゃ?」
「寮でシュアを受け入れる準備をします。ローズ様、学院や王都を案内してやっていただけませんか」
「おお、それはいいの、では行くぞ、シュア」
言うが早いか、ローズはいまだ状況を飲み込めていないシュアを連れ、ロイエを伴い部屋を出て行ってしまった。
「しかし、あんな子に、務まるものですかね?」
リパがつぶやく。すでに新たな厄介事を抱え込んだような顔をしている。
「今の言葉はオーラ様には黙っておこう」
と、フレイはリパの失言にくぎを刺す。
「僕は早起きしてしまったので、ついでに今日の仕事を済ませて寝ます」
タブランが言った。リパとはまた違った意味で、彼もどこか他人事である。長命種とはそんなものなのだろう。
「じゃあリパ、行こう。タブランも一仕事ご苦労様」
「いや、僕もいいものが見れた。検査結果はまとめておくから」
フレイは黙諾し、リパを伴い部屋を後にする。
***
黒鳥の警戒音を模した音の魔法が王宮、魔術学院含めた王都全域で鳴り響く。
危機襲来の警報である。
フレイとリパが、学長室でシュアの今後について話していたときその警報はもたらされた。
「『魔王』襲来、『魔王襲来』!!」
そんな放送が王宮全体にこだまする。




