8 静かな冬の兆し
秋の収穫も終わり、村挙げての収穫祭があった。
俺にしてみれば「なんだ、これ」な祭りだ。
まるで盆踊りだった。去年までは家にいなければならなかったので、俺にとって初めて参加出来る祭りだった。
出店も何もない。
ただ中心に薪を積み上げたその上を飛ぶ儀式があって、それはちょっと面白かったが、俺に参加資格はない。
十二歳の年長の子らが飛ぶ。男だけだ。
その後皆で踊り、夜が更けると子らは家に強制的に戻される。
それから先は、大人たちだけの時間となる。
「つまんねぇの!」
秋祭りが終われば、冬支度が始まる。
これがまた大変だ。
去年は母ちゃんが身重だったから、俺も手伝ったのでよく分かる。
ジロウはつかまり立ちができるようになって目が離せない。だけど家族総出でしなければ冬が越せなくなる。
だからジロウは、柱に犬のように紐で繋がれて、大声で泣いている。
どうしようもないのだ。囲炉裏はあるし、家の中には危険がいっぱいなんだから。
家の裏側は住居と同じくらい広く取られた倉庫がある。
同じ棟の中に倉庫がある。その倉庫の中は冬を越すための食糧が山と積まれている。
漬物ダルが十個もある。大根の菜っ葉もたくさんぶら下がっている。
俺が狩ってきた雷鳥もどきも、塩を振って吊されていた。
漬物ダルの中には大根や、ワラビの漬物、カブなど、数種類ある。
去年よりも種類が増えた樽を、俺は満足げに見る。
まずは、味噌造りのための作業だ。
大豆をより分け、水に一晩漬け込む。ふやけて膨らんだ大豆を煮る。
旨そうな匂いが家の中に充満する。
その後は麹と塩を混ぜる。
冷めた大豆と、塩を混ぜた麹を一緒にしてこね、空気を抜くために、団子状にまとめた味噌の素を樽に向かってたたきつけるように入れる。
樽には塩を予め振っておく。
塩も麹も、村にくる商人から仕入れている。
結構な値段だ。だがこれをしないと来年困る。今食べている味噌はギリギリ一冬持つくらいは残っている。
その後は、薪を集めたり家の雪囲いや、あまりにもたくさんの仕事が待っているが、俺にはどうしても作りたいものがある。
茹でた大豆を少しだけ分けてもらった。
藁の中に茹でた大豆を入れるだけだが、これだけで納豆が出来上がるはずだ。
確か、藁には納豆菌がいるんだっけか?
兎に角、試したくなった。
懐に入れ、保温する。この家の中で暖かい場所は囲炉裏だけど、弟に悪戯される恐れがある。
発酵してきたら、きっとすごく臭うだろうな。でも、納豆食べたいじゃん。
俺は弟の面倒を見ながら、家の中の仕事を淡々とこなした。
そして二日後――納豆はしっかりと発酵していた。
両親には嫌がられたけど、俺は一人で喰った。
そもそも一人分しか作っていなかったし、多分俺だけしか食べられないだろうと思っていた。
でも、来年はジロウにも食べさせてやろう。
この旨さを共有できる仲間になってくれるはずだ。
冬支度がやっと終わり、村は静かに閉じて行く。
外へ出歩く人がめっきり減り、皆、家の中で藁を編んだり、わらじを作ったりするのだ。
山はもう綿帽子を被っている。
この隔絶された村の生活では風呂が重きを置かれていない。
夏は水浴びか、盥に湯を張って身体を拭く程度だ。
冬は殆ど風呂に入らない。
服は着たままで寝てしまう。
両親は、かい巻きのような布団を、上からかぶって寝る。
俺には、真新しい藁を敷いた寝床がある。
藁の、ほわっとしたいい匂いがして、すごくあったかい藁の寝床だ。
母ちゃんは、秋の間に俺が採ってきたアケビの蔓で、籠を編み始めた。
商人に持っていってもらうのだ。これも大事な現金収入になる。
そんなある日――山が、鳴動した。




