7 村の夏
大人たちは農作業の手を止め、ゴソゴソ話し合う姿を見かけるようになった。
家の中では両親はいたって普通にしている。
弟の名前をそろそろ決めなければいけない。
などという話はするが、俺のいる前でゴンタの話はしなかった。
俺は毎日水汲みをするようになった。
忙しい母ちゃんの代わりだ。
家の庭には井戸がある。ここいらの農家の家では普通だ。
この村は水が豊富に湧く。少し地面を掘るだけで水脈に行き当たるのだ。
かと言って水害が多いわけではない。少し高くなった場所に村があり、山からの豊富な湧き水がその恵みをもたらす。
俺は井戸のつるべを手繰り、するすると桶一杯になった水を盥に入れ、それを土間にある水瓶に移し入れる。
五往復もしないうちに水瓶は一杯になる。
母ちゃんは井戸の側で洗濯しながら、力強くなった俺を見て、目を丸くするのだ。
「コウタロウ、いつの間にそんなになってしまったんだい!」
「へ、へ、すごいだろ?」
俺はこの頃、自分がちょっと変だと思い始めてきた。だけど、どこが変なのか、よく分らない。
身体はまだ大きくはない。七歳だから当たり前だ。
もう少し大きくなれば、前世並みに背が伸びるはずだと、どこかで思っている。
原因は、生まれ変わりのチートってやつかも知れない。
母ちゃんたちに樹液を飲んでも変わらなかったし、卵の栄養が効いたのかもと思ったが、それも違うみたいだ。
これはもうチートなんだろう。
前世だって俺は、チート気味だったしな。
難しいことを考えると頭が混乱してくる。
面倒な考えなんてサッサと追い出し、今日も俺は山へ行く。
この頃の俺の狩り場は、岩の荒野に変わった。
ここには飛べない鳥、雷鳥もどきがワンサカいた。
人を怖がらず、かといって攻撃もしてこない。
ちょっと可哀想ではあるが、大事な肉の確保だ。
毎日一羽だけにしておくのは、せめてもの罪滅ぼしってやつだ。
雷鳥もどきは一羽でも食い応えがある。
母ちゃんや父ちゃんは少し肥えてきたし、お乳もでているみたいで、弟まで元気になってきた。
春の植え付けも終わり、田んぼには青々とした小さな苗が整然と植えられている。
村総出で行う田植えは一週間ほどで終わった。
これからはたまに雑草を刈る仕事に変わる。
これは俺も手伝う事になる。雑草を刈るついでに、田んぼにいるタニシやカエル、小エビやザリガニなど、食いもんがたくさん採れるからだ。
初夏の日差しが降り注ぎ、子らが田んぼの周りで雑草取りをしている。
雑草の中には鳥の餌に出来るものもあるから、親に言われて必死になって採っているやつもいる。
俺の家には鶏がいないため雑草には目もくれず、食いもんばかり採っていると、隣のミサが怒りだした。
「ちょっと! ちゃんと雑草取りなさいよ!」
「……分ったよ……」
ドジョウやタニシで一杯になった盥をそっと隠し、渋々雑草取りに精を出した。
俺の弟はジロウという名前に決まった。
ずいぶん長く悩んだ割りに、普通の名前だった。
親の学のなさが、ちょっとだけ悲しい。
多分今世も、俺の頭の出来は期待できそうにない。
※
村人たちの話は下火になり、いつもの村に戻った。
それでも、たまにゴンタの様子が聞こえてくる。
「なんか、勇者っていっぱいいたんだって。八百人? ってどれだけ?」
ミサが俺に聞いてくる。流石の俺でも八百人くらいは分かるが、この村の人口は百人ちょいだ。ミサには想像できないくらい大きい数字だろう。
「この村人が八つ……集めた数だ」
「……そんなにーっ!」
この世界の国がどれだけあるか、分からないが南の国が大きいことは何となく知っている。
南国のサンバラ国は、前世のカンボジアみたいな文化だ。
見たことはないけど、アンコールワットに似た王宮があるそうだ。
商人たちが、村に来て色々教えてくれる。
サンバラ国はもちろん王制で、王や王族の力が絶大だ。
そして罪人は頸をはねられるという。そして軍の力も強い。
脱走したらやはり首を切られる。物理的に、だ。
確かに過去、日本でも何処の国でもそうだった。
文明が高い世界から生まれ変わって戸惑いはあるが、これも仕方がないことなのだろう。
ふと、二十七歳だった自分が今の俺とオーバーラップする。
子どものはずなのに、妙に大人びた考えが顔を出すときがある。
俺はそんな時、身体が二つに分かれたような、何とも言えない不可思議な気持ちになる。
秋も深まり始めたころ、”穴”の討伐が始まったと知らせが届いた。




