6 不穏な穴
俺はあの岩の荒野に降り立ったとき、雷鳥もどきの卵も失敬してきた。
父ちゃんや母ちゃんにも飲ませてやりたかった。
卵は滋養にいい。
実は、卵は村でも食べる人はいる。鶏を飼っている農家があるのだ。
だけど、鶏を飼うには飼料も必要だから、村長のところくらいしか飼っていない。
だから、俺の家じゃ卵なんて滅多に食べられない。
俺は穴場を見つけた。誰にも知られない穴場だ。
たとえ知られても、取りに行ける奴は少ないだろう。
危険な岩場だし、足下がおぼつかない場所だから。
卵は、母ちゃんと弟のためになるし、何より、簡単に持って来れて手間いらずだ。
雷鳥の卵は七センチくらいのものしかない。俺が飲んだ卵はその倍はあった。仕方がないから、あちこち探して十個採ってきたのだ。
その日の夕餉は、雷鳥の卵で雑炊のおじやにした。
父ちゃんは旨い旨いと言って喰っていた。
母ちゃんもだ。
俺は、水の代わりにサトウカエデの樹液も差し出す。
二人は「甘い!」といって喜んで飲んだ。
俺は二人を注意深く観察する。
すぐには効果が出ないみたいだった。
「明日が楽しみだ!」
だけど、次の日も、その次の日も両親に変化は見られなかった。
俺は首をひねった。
「まあ、その内変わる……かもな」
その内すっかり忘れてしまった。
※
それから少しして、この村に不穏な噂が流れてきた。
「穴が広がったんだと」
大人たちがざわざわし始めた。
穴とは、村長が話してくれたおとぎ話に出てくるものだ。
その穴が広がり始めたという。
穴自体は二十年から五十年ごとに大きくなったり小さくなったりして、まるで脈動するように変わるという。
穴の近くに住むこの村にとっては死活問題だろう。
穴の向こう側から南へ下ると隣国がある。
隣国の王は、各地から勇者を募り、穴の征伐に出るという話だった。
この村を束ねる国は天祖国と言っているが、単なる部族の寄り合いに過ぎない。
部族長たちが集い、この国からも数人、勇者を出さなければならなくなった。
この村からはゴンタが出ると決まった。
ゴンタは村で一番体格がいい。勇者に選ばれるのは名誉なことだという。
「俺が魔王を倒してやる」
と、今からゴンタの鼻息が荒い。
――魔王? この世界に魔王がいる、ということか! でも、魔法もないのにどうやって倒す? 聖剣でもあるのだろうか。
伝説の武器とか、王家の秘宝とか……そもそも魔王ってどれくらい強いんだ?
戦いの、右も左も分からない子供が、勇者になる――
ゴンタには特殊な能力でもあるのだろうか。




