1 プロローグ
俺は昔から運が良かった。
生まれてからずっとだ。
母親は、俺を宿してから、大きな病に冒されたが、奇跡的に新薬が効いて俺を産むことができたそうだ。
父親は、俺が生まれてから仕事が順調になり、生活が楽になったという。
「***が生まれてから、生活が上向きになった。***は私の幸運の星だ」
そう言われて育ってきた。
両親に可愛がられて大きくなった俺は、
「俺には福の神がついている」
そう思って生きてきた。
俺はヤンチャだったが、俺が何をやっても、周りは良いように解釈してくれる。
例え勉強ができなくても大目に見てもらえたし、勝手に周りに人が集まってくる。
「***のそばは居心地が良いのよね。不思議と」
そう言われるが、俺に自覚はなかった。
クラス対抗リレーなんか、アンカーを任される。
(別に良いけどさ。何でいっつも俺なわけ? もっと早い奴、いるだろう)
運動神経だけは良いからな、俺って(頭悪いけど)
物事を深く考えないで突っ走るきらいはあるが、それでも良い方向へ進んで行く。
絶対無理だと言われた高校も、なぜか合格したし(スポーツ推薦だけどな)
大学へは行かなかったが(勉強が苦手だったから)就職はすぐに決まった。
給料は結構良いし、仕事は俺に合っていた。
人との対話が好きな俺に、客は気楽に声を掛けてくる。
上司には可愛がられ、顧客はたくさんついて、契約は簡単にもらえた。
ギャンブルは時々しかやらなかったが、結構な確率で、大穴を当てる。
「世の中楽勝だな」
そう思っても、俺に罪は無いと思う。
俺が二十五歳の時、宝くじで高額当選を当てたのを機に、会社を辞め、田舎でのんびり悠々自適の暮らしを送った。
それも飽きてきて、二十七歳になって再び都会へ出てきた。
何も仕事をしなくても、金は腐るほどある。
ニュースを見れば、世の中大変な事ばかりだ。ちょっとだけ後ろめたくなって、こっそり寄付もするが、それだけで気持ちは晴れた気がした。
高級車を乗り回し、アルマーニの背広を着こなし街を歩く。
「生きづらい奴は可愛そうだがな。俺にはよく分かんねぇんだ、ほんと」
昨日見たサイトで、他人の悩み事を何気なく見たが、何故そうなるのかが分からない。不幸が押し寄せてくるという経験が無かった俺に共感はできない。
俺の人生チート過ぎて、楽すぎる。
いいのか、これで。
ちまたでは、就職に苦労したり、病気に苦しんだりする奴もいる。
申し訳ないけど、やっぱり共感はできない。(俺にはどうしようもないしな)
高層マンション。
俺の今の住まいだ。ここもそろそろ買い換え時か、と思いながら歩いていると、向こうから走ってくる男たちが見えた。
その時俺は、生まれて初めて、運悪く強盗と鉢合わせをした。
自分のマンションの前で、強盗が逃げてきたのに出くわしたのだ。
「オイ、そこをどけ! 殺すぞ」
強盗だと思う。
真夏だというのに頭に目出し帽を被っていたから。
三人組の強盗で、持っていた30センチほどのバールが、血で汚れていたし。
俺は素直に道を開けたのに、強盗の一人が、俺の足にけつまずいて転んだ。
(あちゃー、こいつドジだな)
「オイ、大丈夫か?」
男は慌てて起き上がろうとして帽子が脱げてしまい、顔が見えてしまった。
強盗は、顔見知りだった。えーと、名前なんだっけ。
「えっ、た……なか?」
高校の同級生だった……気がする。
たしか、同じサッカー部で、人気を二分していた奴だったはずだ。
田中(未定)は、推薦で大学へ行った……かな?
そんな奴が、何でこんな事に……。
強盗の――多分田中――は顔を歪めて、俺のスーツ姿をなめ回すように見た。
「***、羽振りが良さそうだな。だがな……俺の名前は、佐々木だっ!」
そう言って、立ち上がり、俺に襲いかかってきた。
俺は、奴が振り下ろしたバールを慌てて腕で防いだ。
ゴキッと骨が折れる音がした。
痺れるような、突き刺さるような鋭い痛みが、脳天まで突き抜けた。
「昔からいけ好かないやろうだったな***は!」
(そんなっ、今更言われても……俺のどこが気に沿わなかった?)
あまりの激痛で吐き気がして、それ以降抵抗できなかった。
(田中……じゃねぇか。え、佐々木? どっちでもいい! もうやめてくれ)
「こいつ、昔っからけったくそ悪いんだよっ。おい、やっちまおうぜ!」
そのまま、強盗たちに滅多、殴られて、討ちどころが悪く意識がもうろうとした。
目に血が流れてきて前も見えなくなった。
奴は俺の財布をひったくり、
「うひょー、すげぇ持ってんじゃん!」
そう言って、田中が、走り去ったのは覚えている……佐々木か……。
その後は記憶が無い。俺は多分、死んだ。




