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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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35/40

前半戦総評 その咆哮は、確かに次代へ響いた

リンドブルムの打ち筋は、最初から最後まで揺るがなかった。

――狙うは常に、大物。

ドラを抱え、重い手を育て、勝負どころでは一歩も退かずに前へ進む。

リスクを恐れぬその豪快さは、まさに“竜王”の名にふさわしい。

だが、彼の進撃はしばしばアレスに阻まれた。

完成間近の手を潰され、狙い澄ました牌を封じられる。

そのたびに観客は「竜王ですら支配されるのか」と息を呑む。

――だが、リンドブルムは折れない。

押し潰されてもなお、再び牙を剥き、大物の和了を叩き込む。

その瞬間、観客席は爆音のような歓声に包まれる。

「やはり竜王だ!」

「まだ負けてはいない!」

彼の存在は、絶対者アレスに立ち向かう唯一の“力”。

その一撃は、支配の冷徹さに抗う“意地”そのものだった。

前半戦――観客の目には、

「冷徹なる支配者」と「力の竜王」という、相反する二つの柱が鮮明に刻まれていた。




サラの打ち筋は、誰よりも自由で、誰よりも楽しげだった。

リスクなど顧みず、鳴き、仕掛け、場をかき乱す。

セオリーを外れた一打に、観客はたびたび息を呑み――そして爆笑し、熱狂する。

「えっ、そこで鳴くの!?」

「何を考えてるんだ……いや、もしかして――!」

予測不能。だが、そこには必ず“意図”があった。

結果的に和了には繋がらなくても、サラが場を回すことで、観客の目は常に離せなくなる。

点棒でリードするわけではない。

けれど彼女だけが――“楽しさ”という形で卓そのものを制していた。

そして、その奔放な姿勢は、クラリッサの胸を確かに揺さぶっていた。

怯えずに打ち、楽しそうに笑うサラの姿は、

「麻雀は恐れるものじゃない」と語りかける“希望の象徴”のように映る。

前半戦を終えたとき、観客は思っていた。

――勝負を支配するのはアレスか、抗う力はリンドブルムか。

だが、場を最も明るく照らしたのは、紛れもなくサラだった。




クラリッサの前半戦は、決して華々しいものではなかった。

大物を仕留めることもできず、点棒の上では出遅れている。

だが――彼女の手から零れる牌には、確かな変化があった。

以前なら恐怖に縛られ、ただ安全を求めていた。

けれど今は違う。

震える指先で、それでも前へと押し出す。

小さくとも、確かな一歩を踏み込む。

そして掴んだ和了は――決して派手ではなくとも、彼女の成長を示す証だった。

「よし……!」

小さな和了に、観客の胸が熱くなる。

ただ点棒を得ただけではない。

その瞬間に立ち会った誰もが、クラリッサの勇気を感じ取っていた。

やがて、会場には自然と声援が飛び交い始める。

「クラリッサ!」「負けるな!」

それは彼女が“勝者”だからではない。

必死に食らいつき、諦めず、成長していく姿こそが――物語の主人公の輝きを放っていたからだ。

彼女はまだ雀姫であり、完全な王者には遠い。

だが、その姿勢だけで、すでに多くの人の心を動かしていた。



半荘の折り返しを告げる鐘のように、静かなざわめきが会場を包んでいた。

点棒の上では――アレスが一歩、抜きん出ている。

冷徹な支配力。

他者をもはや“駒”のように利用する打ち筋に、観客は「勝つならこの男だ」と否応なく認めざるを得なかった。

だがその背後には、竜王リンドブルムが豪快な一撃で食らいついていた。

アレスに封じられながらも、牙を折られながらも、それでもなお――竜の咆哮は響き続ける。

絶対者と竜王。二つの巨影の対立は、会場を震わせるほどの熱を生み出していた。

そんな重苦しい空気を、明るく照らすのがサラだった。

彼女の鳴き、仕掛け、奔放な笑顔。

点数では大きく伸びていなくとも、観客の心を躍らせる存在感は誰よりも眩しい。

「希望の象徴」――その呼び名は、もはや誰も否定できなかった。

そして、最後に。

クラリッサ。

小さな和了、小さな一歩。

だがその一歩には、“恐怖を越えた勇気”が宿っていた。

観客は声を上げる。応援の声は熱を帯び、彼女を後押しするように広がっていく。

まだ勝者ではない。だが、物語の主人公として――確かに成長の光を帯び始めていた。

こうして前半戦は幕を下ろす。

支配者アレスが優勢を保ち、竜王リンドブルムが猛追し、希望のサラが場を輝かせ、そして成長の雀姫クラリッサが物語を動かし始める。

会場全体が、次の半荘――さらなる激突を待ちわびるように、熱と緊張をはらんでいた。


半荘の前半が終わり、短い休憩が挟まれる。

会場を満たすのは歓声ではなく、張り詰めた沈黙と熱。

誰もが理解していた。

この卓を支配しているのはアレス。

理不尽なほど冷徹に、計算で全員を縛り上げる存在。

――ならば、後半戦の焦点はただひとつ。

「アレスの支配を、誰が崩すのか」

竜王リンドブルムの豪腕か。

サラの自由奔放な楽しさか。

それとも、クラリッサの成長か。

観客は息を呑みつつも、胸の奥底に熱を灯していた。

「まだ終わっていない」――その思いが会場全体を震わせる。

恐怖と期待がないまぜになった視線が、再び卓へと注がれていく。

そして、牌山が積まれる音が響いた瞬間。

その熱は爆発的に高まり、後半戦の幕が切って落とされた。

――竜が目を覚ました。

前半戦で冷徹な支配に押し込まれた鬱憤を晴らすように、リンドブルムの打牌は荒れ狂う嵐そのものだった。

配牌から迷いはない。大胆に牌を切り飛ばし、危険も顧みず一直線に手役を組み上げる。安全牌など彼の辞書には存在しない。必要なのはただ――竜王の誇りを賭けた豪打。

「来いよ、アレス!」

卓に響いた一声は、観客席の心臓をも打ち震わせる。牌を叩きつけるたび、空気が唸り、場が揺れる。

その姿はまさに“竜の咆哮”。

誰もが知っている。あの手は危うい。成功すれば大物、失敗すれば自滅。

だが、その豪快さこそが竜王リンドブルムの真髄だった。

「これが竜の打ち筋だ……ッ!」

次々と積み上がる高打点の形。観客席は歓声に包まれ、誰もが拳を握りしめる。

人の限界を超えたかのようなその気迫に、会場は熱狂し――

――ただひとり、アレスを除いて。

冷徹な支配者は微動だにせず、淡々と牌を積み上げていく。

だがその沈黙すら、竜王の咆哮を引き立てる舞台装置のように思えた。

リンドブルムは吠える。勝負の火花は、ついに卓を焼き尽くそうとしていた。

――竜王の咆哮に、冷徹な支配者はただ一言も発さない。

リンドブルムが卓を揺らすような豪打を放つたび、アレスは一瞬だけ視線を走らせ――音もなく牌を置く。

それは逃げではない。

それは守りでもない。

ただ「封じるための一打」。

竜が組み上げようとした大物の筋を、事前に察知し、一本一本、根元から折っていく。

「……ッ!」

リンドブルムの眼が鋭さを増す。だが、どれほど強引に踏み込んでも、その先は必ずアレスの冷たい手によって閉ざされる。

観客の誰もが悟った。

竜王が吠えれば吠えるほど、その声は鎖に絡め取られ、自由を奪われていく。

そして――勝負の山場。

リンドブルムが大物に手を伸ばしたその瞬間。

アレスは、まるで初めから知っていたかのように、その待ちを粉砕する一打を放った。

卓上に静寂が走る。

「読み切っていた……」

誰かの呟きが、会場を凍り付かせる。

竜王の大物は、完成する前に潰えた。

その一打は華やかでも派手でもない。ただ“必然”でしかない。

だが、だからこそ――誰も抗えぬ冷徹な現実だった。

卓上に、重い牌音が落ちた。

「……ロン」

アレスの声は低く、淡々と響く。

次の瞬間、竜王リンドブルムの手牌は、無情にも崩されていった。

彼が積み上げてきた豪打の軌跡、その全てを呑み込むように――支配者の和了が、最後の一撃として突き立つ。

「……ぐっ」

リンドブルムは悔しげに歯を食いしばる。

だが、俯くことはなかった。

その瞳はなお燃えていた。敗北を認めながらも、その視線は炎のように前を射抜いている。

「ちっ……人の身で、ここまで届くとはな。だが、俺は確かに――竜を超えようとした!」

観客席に、どよめきが広がる。

歓声ではない。震えにも似た感情が、波紋のように広がっていく。

誰もが悟ったのだ。敗北してなお、この男は“挑む意志”そのものを示し切ったのだと。

クラリッサは、その背中を見て息を呑んだ。

恐怖に縛られていた自分の心に、熱いものが流れ込んでいく。

「……竜王様……」

小さく呟いたその声は、震えていなかった。

リンドブルムの退場は、無念でありながら――彼女に「恐れず踏み込む勇気」を託していた。

竜王は倒れた。だがその咆哮は、確かに次代へ響いた。


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