竜王
リンドブルム ― 序盤からの打ち筋
配牌を受け取った瞬間、リンドブルムの口角がゆっくりと吊り上がった。
重々しく積み上げられた牌の山を睨みつけ、その眼は狩りを前にした竜のそれ。
――ドラが遠い。
常道ならば切り捨て、形を整えるのが定石だろう。だが、彼は違う。
「……フッ。小細工は要らぬ」
指先が牌を撫で、ドラをそのまま抱え込む。
一撃で相手を屠る――そう告げるかのような選択。
安全も、安定も、彼にとっては無意味。
必要なのはただひとつ。竜王にふさわしい、圧倒的な“力の証明”だけだった。
観客の間に走るざわめき。
彼の打ち筋はあまりに大胆で、あまりに豪快。
だが同時に、それこそが「竜王リンドブルムの麻雀」だと、誰もが納得せざるを得なかった。
対戦相手の動き
先に動いたのはクラリッサだった。
彼女は恐る恐る、それでいて確かな決意を持った指で牌を鳴かせる。小さな仕掛けだが、それでも一歩を踏み出す勇気が卓上に刻まれる。
続いてサラが軽やかに声を上げた。
「ポン!」
楽しげな笑みと共に、軽快に場をかき回す。彼女の打牌はまるでダンスのステップ。観客の目を惹きつけ、場の空気を一瞬で明るくしてしまう。
――だが。
リンドブルムは微動だにしなかった。
二人の動きに怯むどころか、むしろ利用するかのように牌を手の内に沈め込む。
重い。とにかく重い。
彼が組み上げようとしているのは、凡百の雀士では到底手を伸ばせない“竜の城壁”のような大物手。
クラリッサとサラが場を賑わせれば賑わせるほど、彼の手はより凶暴に、より破壊的に育っていく。
観客席のざわめきが、いつしか怯えを孕んで震えに変わっていった。
豪快なリーチ
冷徹に手を整えるアレスの静かな打牌が続くなか――。
卓の空気を切り裂いたのは、竜王リンドブルムの咆哮だった。
「――リーチだッ!」
その声は宣言ではなく、まさしく咆哮。
押し出された牌が卓に叩きつけられた瞬間、乾いた音が地響きのように観客の胸を震わせる。
まるで雷鳴が鳴り渡ったかのように、会場の空気が一変した。
「な……なんて迫力だ……!」
「リーチのひと言が、ここまで重いなんて……」
観客の声がざわめきとなり、次の瞬間には歓声すら押し潰されて沈黙へと変わる。
それほどまでに圧倒的な宣言だった。
リンドブルムの姿はもはや雀士ではない。
卓を支配する竜王そのもの。
誰もが、その一撃が放たれる瞬間を、恐怖と期待に凍りついたまま待ち構えていた。
周囲の反応
卓上に広げられた竜王の大物手。その迫力はただの点数計算では済まされない。まるで「力の象徴」が形を持って叩きつけられたかのようだった。
クラリッサは牌を握る手をぎゅっと強め、小さく肩を震わせた。
「……つ、強い……!」
だが視線は逸らさない。怯えながらも、逃げ出すことだけはしなかった。
サラでさえ、いつもの笑みを引き締め、唇を固く結ぶ。
「やるじゃない……でも、負けないからね!」
その瞳には闘志の炎が燃え上がり、むしろ竜王の一撃を燃料にしているようだった。
そしてアレス。
無言のまま牌を整え、表情を崩すことはない。
だがその氷のような瞳が、わずかに細められた。
「――なるほど。竜王の力……無視するにはあまりに大きすぎる」
心の奥底で、リンドブルムを“計算に入れざるを得ない存在”として刻み込む。
こうして、竜王の一撃は場を震わせただけでは終わらなかった。
残る三人の胸に、それぞれ異なる火種を確かに残したのだった。




