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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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27/40

答えはただ、戦場の卓の上にしかない

――入場のアナウンスが響いた瞬間、観客の視線はひとつに吸い寄せられた。

アレス。

他の雀士のように豪快なパフォーマンスもなければ、竜の血を誇示するような異形の体躯もない。

だが、彼が姿を現した瞬間――会場全体が、否応なくその男の存在に囚われた。

冷ややかに観客席を一瞥するだけで、ざわめきが霧散していく。

黄金でも紅でもない、ただ冷徹に研ぎ澄まされた瞳。

それは「全てを支配する王」の眼差しであった。

卓に腰掛ける動作ひとつで、空気が一変する。

まるで場そのものが彼の支配下に組み込まれたかのように、観客は息を潜め、対戦者は思わず背筋を伸ばす。

――ただ座っただけ。

しかし、それだけで「この半荘の命運は彼の掌にある」と、誰もが錯覚した。

まるで運命そのものが、アレスという名の男に服従しているかのように。

牌が彼の指先から離れるたび、観客は妙な感覚に襲われた。

――無駄がない。

一分の隙も、曖昧さもない。

アレスの打牌は、あまりに理路整然としていた。

期待値、確率、形効率。雀士なら誰もが知る基礎を、誰よりも徹底し、誰よりも精緻に磨き上げている。だが、それは単なる教科書通りの打ち筋ではない。

彼の視線は常に対戦者を射抜いていた。

相手の捨て牌はもちろん、指先の震え、牌を握る間の取り方――そのすべてを観察し、「何を狙っているのか」を読み取る。

その鋭さはまるで、牌譜を先読みする神の視点。

そして相手が鳴こうとした瞬間には、すでに手が潰されている。

待ちを構えようとした刹那には、その形は崩壊している。

まるでアレスが「未来を先回りして牌を打ち込んでいる」かのよう。

観客は息を呑み、対戦者は気づいた。

――これは理論ではない。

機械では到達できぬ、“人知の極致”。

アレスは確率の支配者であると同時に、対戦者の心理そのものを手中に収める“王”だった。

卓上に座るだけで、アレスは異様な存在感を放っていた。

対局者が牌を握るたび、指先に冷たい汗が滲む。

――この牌を切れば、必ず読まれているのではないか。

そんな疑念が、喉元を締め付けるように込み上げてくる。

一枚を打つのに、普段なら一瞬で済むはずの思考が、何倍にも膨れ上がる。逡巡、迷い、恐怖。

そのすべてが牌を重くし、動きを鈍らせる。

だが、アレスは何も言わない。ただ冷ややかな眼差しで卓を見つめ、牌を理路整然と並べ続ける。

その静けさこそが、最大の威圧だった。

「……もう、どこにも逃げ場がない」

対局者は心の奥底でそう理解する。

アレスの打牌は理論に基づいている。だが彼が本当に支配しているのは牌ではない。

――人の心そのもの。

観客席の一角から誰かが呟いた。

「まるで……盤上で人を縛る魔王だ」

その言葉に誰も異論を挟めなかった。

卓上に座すのは、理と確率を超え、人の精神を支配する存在――アレス。

アレスは決して、和了れる瞬間に手を止めたりはしなかった。

だが、それでも彼は「勝利」を急がない。

配牌の時点で既に有利を握っているのに、わざと手を伏せ、数巡を重ねる。

まるで獲物が自ら罠へ足を踏み入れるのを、静かに待ち構える捕食者のように。

「……まだ、いける……!」

「今度こそ俺の手が通るはずだ!」

対戦者の心に、かすかな光が灯る。

それはアレスが意図的に残した“隙”に他ならない。

そして相手がようやく手を固め、「ここで勝負だ」と覚悟を決めた瞬間――。

カンッ、と鋭い音を立ててアレスの手から放たれる一打。

直後、静かに牌を倒す。

「ロン」

無慈悲な宣告とともに、相手の希望は粉々に砕かれた。

観客席がざわめく中、アレスはわずかに口元を歪める。

笑みと呼ぶには冷酷すぎる、しかし確かに愉悦を含んだ表情。

それは“勝つための勝利”ではない。

――相手に絶望を刻みつけるための勝利。

その瞬間、観客の誰もが悟る。

「アレスの前で夢を抱くことは許されない」と。

和了の余韻が卓上に漂う。

だが観客席には、勝利の歓声は上がらなかった。

代わりに広がったのは――重苦しい沈黙。

誰もが息を呑み、誰もが声を失う。

「……勝てない」

ぽつりと、最前列の観客が呟いた。

「誰も、アレスには勝てないのでは……」

その言葉は水面に落ちた一滴の石のように、波紋となって広がっていく。

最初は小さな囁きだったはずが、やがて観客席のあちこちで同じ言葉が繰り返され、静かな合唱のように会場全体を覆っていく。

恐怖と畏怖に支配された空気。

それはもはや「一人の雀士を見守る観客」ではなかった。

――誰もが、アレスという存在の支配下に置かれていた。

観客席の一角。

リオはじっと卓を見つめながら、無意識に額へと手を当てていた。指先が触れた肌はじっとりと汗ばんでいる。

「……違う」

低く、彼は自分に言い聞かせるように呟く。

「アレスの麻雀は、ただの確率論じゃない。理詰めで期待値を突き詰めた“機械の打ち方”でもない」

視線の先、無駄のない打牌を繰り返すアレス。

だがリオの眼には、その一打一打の裏に――人間の心を絡め取る冷徹な意志が見えていた。

「……あれは、人の心そのものを縛る麻雀だ」

そう呟いた瞬間、背筋をぞわりと冷たいものが駆け上がる。

自分が牌を握っているわけでもないのに、喉が渇き、心臓が早鐘を打ち始める。

理屈で説明できない支配力。

分析を武器とするリオでさえ、そのすべてを言語化することはできなかった。

ただひとつ、確信だけが胸に残る。

――この男は、確率を超えて“人”を打ち砕く。

クラリッサは客席で息を詰めていた。

卓上に漂う圧迫感が、まるで自分の肺をも押し潰してくるかのようだ。

拳をぎゅっと握りしめる。爪が手のひらに食い込み、鈍い痛みが走る。

けれど、その痛みがかえって彼女を現実に繋ぎ止めた。

「……っ」

喉の奥が強張り、声にならない吐息が漏れる。恐怖は確かにそこにある。

だが、その恐怖を飲み込むように――クラリッサの瞳には確かな炎が灯っていた。

「……絶対に、逃げない」

小さく、けれど誰よりも強い意志を込めて呟く。

「あの人に挑むのは――私だ」

恐怖と闘志。相反する感情が胸の中で激しくせめぎ合う。

だがそれこそが、彼女が次の段階へと歩み出す証であった。

――竜でも王でもない、一人の少女として。

その視線は、冷徹に卓を支配するアレスへ真っ直ぐに向けられていた。




クラリッサの試合は、決して順風満帆ではなかった。

序盤は押され、配牌も流れも思うようにならず、誰もが「ここまでか」と息を呑む。

だが――彼女は折れない。

旗頭として背負った視線の重さも、襲い掛かる敗北の影も、そのすべてを正面から見据える。

「……私は逃げない」

震える指で牌を握りしめ、恐怖を押し殺して切り出す。

その一打は決して派手ではない。だが、一歩ずつ確実に勝利へと近づいていく強さを秘めていた。

やがて、逆転の和了が決まった瞬間――

会場から歓声が弾ける。

「……まだ未熟だが、確かに成長している!」

「旗頭の娘じゃない……ひとりの雀士として戦っている!」

観客の囁きが広がり、クラリッサの存在はただの象徴から、「挑み、乗り越えようとする者」へと変わっていった。

彼女の雀風は、恐怖に押し潰されるものではなく――

恐怖を力へと変え、未来へと繋げる炎へと変貌しつつあった。

クラリッサの試合は、決して順風満帆ではなかった。

序盤は押され、配牌も流れも思うようにならず、誰もが「ここまでか」と息を呑む。

だが――彼女は折れない。

旗頭として背負った視線の重さも、襲い掛かる敗北の影も、そのすべてを正面から見据える。

「……私は逃げない」

震える指で牌を握りしめ、恐怖を押し殺して切り出す。

その一打は決して派手ではない。だが、一歩ずつ確実に勝利へと近づいていく強さを秘めていた。

やがて、逆転の和了が決まった瞬間――

会場から歓声が弾ける。

「……まだ未熟だが、確かに成長している!」

「旗頭の娘じゃない……ひとりの雀士として戦っている!」

観客の囁きが広がり、クラリッサの存在はただの象徴から、「挑み、乗り越えようとする者」へと変わっていった。

彼女の雀風は、恐怖に押し潰されるものではなく――

恐怖を力へと変え、未来へと繋げる炎へと変貌しつつあった。

サラの卓に人々の視線が集まる。

彼女が牌を握るだけで、会場は不思議と明るさを帯びるのだった。

打ち筋は華麗でありながら堅実、そして何より――その笑みが観客を安心させる。

「大丈夫、この人なら勝ってくれる」

そんな信頼が自然と芽生える。

ひとつの和了が決まるたびに、観客席からは歓声が爆発する。

「やったぞ! やっぱりサラだ!」

「サラがいる限り、この大会は希望がある!」

その熱気は勝敗を超えて「祈り」に近い。

サラの勝利は単なる一雀士の勝利ではなく、民衆の願いそのものが形となったかのように響き渡っていた。

卓を離れる彼女に、子どもたちが声を張り上げる。

「サラお姉ちゃん! 次も勝って!」

その呼び声に、サラは軽やかに手を振り返す。

まるで舞台の主役のように――だが、それは演技ではない。

彼女は確かに「人々の味方」であり、勝つたびにその立場を強めていく。

いつしか彼女はただの雀士ではなく、会場全体を照らす希望の象徴となっていた。

サラの卓に人々の視線が集まる。

彼女が牌を握るだけで、会場は不思議と明るさを帯びるのだった。

打ち筋は華麗でありながら堅実、そして何より――その笑みが観客を安心させる。

「大丈夫、この人なら勝ってくれる」

そんな信頼が自然と芽生える。

ひとつの和了が決まるたびに、観客席からは歓声が爆発する。

「やったぞ! やっぱりサラだ!」

「サラがいる限り、この大会は希望がある!」

その熱気は勝敗を超えて「祈り」に近い。

サラの勝利は単なる一雀士の勝利ではなく、民衆の願いそのものが形となったかのように響き渡っていた。

卓を離れる彼女に、子どもたちが声を張り上げる。

「サラお姉ちゃん! 次も勝って!」

その呼び声に、サラは軽やかに手を振り返す。

まるで舞台の主役のように――だが、それは演技ではない。

彼女は確かに「人々の味方」であり、勝つたびにその立場を強めていく。

いつしか彼女はただの雀士ではなく、会場全体を照らす希望の象徴となっていた。

リンドブルムの卓に座る雀士たちは、開始前から顔色を失っていた。

黄金の瞳に一瞥されただけで、体の芯を凍り付かせるのだ。

打牌の音は岩を砕く雷鳴。

和了の瞬間は稲妻の直撃。

跳満、倍満、時に役満――豪快な一撃必殺を連発するたび、対戦者の心は粉々に砕かれていく。

「ひっ……!」

隣席の雀士が思わず声を漏らす。まだ一局目、まだ敗けていないにもかかわらず、体はすでに屈服していた。

観客の反応も異様だった。

熱狂ではなく、沈黙。

そしてその沈黙が、やがて震える囁きへと変わっていく。

「……竜だ」

「人じゃない……あれは“竜王”だ……!」

勝利を重ねるごとに、リンドブルムは一人の雀士ではなく、人外の怪物として観客の心に刻み込まれていった。

卓につく前から敗北を意識させ、恐怖で場を支配する――

それが、“竜王リンドブルム”の麻雀だった。

ラやクラリッサが勝ち上がるたび、会場は大きな歓声に包まれる。

「行け!」「まだやれる!」

声援はまるで光そのもののように会場を満たし、人々の胸に希望を灯した。

一方、リンドブルムの豪快な勝利は歓声をかき消す。

卓に響く打牌の轟音、竜を思わせる圧。

「ひ、人じゃない……」

観客は畏怖に震え、声を上げることすらためらう。そこに広がるのは、希望ではなく純然たる恐怖。

――そしてアレス。

彼が勝つ瞬間、会場は一転して静寂に包まれる。

声援も悲鳴もない。ただ、空気が凍りついたような沈黙。

やがて誰かが呟く。

「……もう誰も、アレスには勝てないのでは」

その言葉が、諦めを伴って民衆の胸に重く沈み込む。

こうして観客の心は分裂した。

サラやクラリッサの勝利に希望を見いだす者。

リンドブルムの力に恐怖しながら畏敬を抱く者。

アレスの圧倒的勝利に心を折られ、諦念を飲み込む者。

三者三様の感情が渦巻き、やがてすべては一点へと収束していく。

――「最終決戦を見届けたい」。

それは希望か、不安か。

答えはただ、戦場の卓の上にしかない。

ラやクラリッサが勝ち上がるたび、会場は大きな歓声に包まれる。

「行け!」「まだやれる!」

声援はまるで光そのもののように会場を満たし、人々の胸に希望を灯した。

一方、リンドブルムの豪快な勝利は歓声をかき消す。

卓に響く打牌の轟音、竜を思わせる圧。

「ひ、人じゃない……」

観客は畏怖に震え、声を上げることすらためらう。そこに広がるのは、希望ではなく純然たる恐怖。

――そしてアレス。

彼が勝つ瞬間、会場は一転して静寂に包まれる。

声援も悲鳴もない。ただ、空気が凍りついたような沈黙。

やがて誰かが呟く。

「……もう誰も、アレスには勝てないのでは」

その言葉が、諦めを伴って民衆の胸に重く沈み込む。

こうして観客の心は分裂した。

サラやクラリッサの勝利に希望を見いだす者。

リンドブルムの力に恐怖しながら畏敬を抱く者。

アレスの圧倒的勝利に心を折られ、諦念を飲み込む者。

三者三様の感情が渦巻き、やがてすべては一点へと収束していく。

――「最終決戦を見届けたい」。

それは希望か、不安か。

答えはただ、戦場の卓の上にしかない。

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