希望の象徴
王都の中心――天を衝くように聳える「牌帝宮」。
その内部に広がる大闘技場は、まさに人の手で作られた巨大な聖域であった。
四方をぐるりと取り囲む観客席には、数万の民衆がひしめき合い、息を呑んで中央を見つめている。声を上げる者もいれば、拳を突き上げる者もいる。その熱狂は炎となって渦巻き、やがて一つの渦潮となって天へ昇るかのようだった。
その中心に据えられたのは――白銀の輝きを放つ、巨大な麻雀卓。
まるでこの世界そのものを象徴するように、荘厳な光を反射しながら不動の存在感を示していた。
石床を伝って響くざわめきは、まるで地鳴り。
人々の胸を高鳴らせるその音は、「歴史の転換点」がまさに今ここに訪れようとしていることを、誰の耳にも告げていた。
まるで世界の運命が――この卓上で決まるとでもいうように。
王都の中心――天を衝くように聳える「牌帝宮」。
その内部に広がる大闘技場は、まさに人の手で作られた巨大な聖域であった。
四方をぐるりと取り囲む観客席には、数万の民衆がひしめき合い、息を呑んで中央を見つめている。声を上げる者もいれば、拳を突き上げる者もいる。その熱狂は炎となって渦巻き、やがて一つの渦潮となって天へ昇るかのようだった。
その中心に据えられたのは――白銀の輝きを放つ、巨大な麻雀卓。
まるでこの世界そのものを象徴するように、荘厳な光を反射しながら不動の存在感を示していた。
石床を伝って響くざわめきは、まるで地鳴り。
人々の胸を高鳴らせるその音は、「歴史の転換点」がまさに今ここに訪れようとしていることを、誰の耳にも告げていた。
まるで世界の運命が――この卓上で決まるとでもいうように。
高鳴る太鼓の音に合わせ、次々と入場してくる猛者たち。
「東方連邦より、氷雪を統べる《氷姫》ユリシア!」
「南海諸島より、海を渡る流浪の雀士――カイ!」
「魔境の王にして竜王――リンドブルム!」
その名が告げられるたび、会場はどよめきに包まれる。
覇気を纏った者、冷徹な視線を投げかける者、まるで怪物のような気配を放つ者。
誰もが一国一派を背負い、この舞台に立つ資格を持つ強者たち。
だが――。
彼らがどれほどの威圧感を纏おうとも、観衆の視線は次第に、一つの方向へ吸い寄せられていった。
「……あれが……雀姫……!」
「勇者軍を退けた少女……!」
白きドレスの裾を揺らし、凛として歩む一人の少女。
その背後にはリオ、サラ、ゴルド爺。
決して華奢な体ではない。圧倒的な覇気を放つわけでもない。
それでも――彼女の姿を見た瞬間、誰もが息を呑む。
ただまっすぐに前を見据え、迷いのない瞳で進むその姿。
その歩みは静かでありながら、確かに人々の胸に「希望」の火を灯していった。
「雀姫クラリッサ――!」
名が告げられると同時に、会場の空気が変わった。
ざわめきが熱狂に変わり、押し殺されていた民衆の想いが一斉に解き放たれる。
「クラリッサ様だ!」
「雀姫だ! 我らの希望だ!」
数万の声が轟き、炎のように立ち上がる。
圧倒的な強者が集う舞台――その中心に立つのは、ただ一人の少女だった。
「――雀姫だ!」
その一声が、火種となった。
観客席のあちこちから同じ言葉が連鎖し、やがてそれは津波のように会場全体を飲み込んでいく。
「雀姫だ……!」
「本物の……!」
クラリッサは白を基調とした軽やかな衣装に身を包み、凛として歩みを進めていた。
胸を張り、視線を逸らさず、一歩ごとに自らの覚悟を刻むように。
その姿は、もはや一人の少女ではなかった。
旗を掲げ、希望を託す民衆の象徴――「雀姫クラリッサ」という存在そのものだった。
ざわめきの中、ひとりが旗を掲げる。
それはかつて各地の蜂起を導いた「雀姫の旗」。
そして、その旗は瞬く間に人々の手から手へと渡り、会場の至るところで翻り始める。
「雀姫こそ、我らの希望だ!」
「勇者アレスを倒してくれ!」
叫びは歓声へと変わり、歓声は熱狂へと変わる。
数万の声が一斉に響き渡り、まるで大地そのものが震えているかのようだった。
その光景を前に、クラリッサはそっと目を閉じる。
胸の奥に広がるのは、恐れではなく――確かな誇り。
「……私は逃げない。この声に応えるために、ここまで来たのだから」
彼女は再び目を開き、真っ直ぐに正面――勇者アレスの玉座を見据えた。
その瞳は、揺るがぬ決意に満ちていた。
「――雀姫だ!」
その一声が、火種となった。
観客席のあちこちから同じ言葉が連鎖し、やがてそれは津波のように会場全体を飲み込んでいく。
「雀姫だ……!」
「本物の……!」
クラリッサは白を基調とした軽やかな衣装に身を包み、凛として歩みを進めていた。
胸を張り、視線を逸らさず、一歩ごとに自らの覚悟を刻むように。
その姿は、もはや一人の少女ではなかった。
旗を掲げ、希望を託す民衆の象徴――「雀姫クラリッサ」という存在そのものだった。
ざわめきの中、ひとりが旗を掲げる。
それはかつて各地の蜂起を導いた「雀姫の旗」。
そして、その旗は瞬く間に人々の手から手へと渡り、会場の至るところで翻り始める。
「雀姫こそ、我らの希望だ!」
「勇者アレスを倒してくれ!」
叫びは歓声へと変わり、歓声は熱狂へと変わる。
数万の声が一斉に響き渡り、まるで大地そのものが震えているかのようだった。
その光景を前に、クラリッサはそっと目を閉じる。
胸の奥に広がるのは、恐れではなく――確かな誇り。
「……私は逃げない。この声に応えるために、ここまで来たのだから」
彼女は再び目を開き、真っ直ぐに正面――勇者アレスの玉座を見据えた。
その瞳は、揺るがぬ決意に満ちていた。
轟く歓声。旗の波。
人々の瞳は、ただ一人――雀姫クラリッサを見つめている。
だがその中心に立つ少女の胸には、熱狂とは別の重さが渦巻いていた。
「……私は、ただ麻雀を楽しみたかっただけなのに」
麻雀が好きで、打っていると心が躍って、誰かと繋がれる気がして。
その小さな願いが、今や大陸を揺るがす「希望」になってしまった。
「でも今……こんなにも多くの人が、私の勝利を信じている」
逃げることは、もうできない。
負けることは、許されない。
その重圧が、肩にのしかかる。
ほんの一瞬、足が止まりそうになった――そのとき。
「クラリッサ」
隣に並んだ声があった。
リオだ。彼は静かに、だが強くクラリッサの背中に寄り添う。
「大丈夫。君は一人じゃない」
その一言が、胸に溜まった不安を少しずつほどいていく。
クラリッサはそっと息を吸い込み、再び前を向いた。
「……ありがとう、リオ。
私は雀姫として――いいえ、ただのクラリッサとして、この戦いを打ち抜く」
彼女の瞳には再び光が宿る。
それは民衆の希望と、自分自身の願いを重ねた、凛とした輝きだった。
観客席を埋め尽くす数万の人々。
旗が翻り、声が轟き、熱狂が会場を揺らす。
その中心で、リオは静かに隣を歩くクラリッサを見つめていた。
強く見える彼女の横顔――けれどその奥に、確かに緊張と重責が滲んでいる。
リオはそっと身を寄せ、囁いた。
「大丈夫。君は君の麻雀を打てばいい。……僕は隣で支える」
その言葉は観客の喧騒にかき消されるほど小さかった。
けれどクラリッサには、確かに届いた。
一瞬、彼女の瞳に揺らぎが走り、そして――ふっと笑みがこぼれる。
「ありがとう、リオ。……私、負けない」
その笑顔に、リオの胸も熱くなる。
支える――そう誓ったはずなのに。
今はもう、それ以上の想いが心にある。
「君と共に、最後まで戦う。僕も……雀士として」
言葉にはしなかった誓いを胸に、リオはクラリッサの隣に立ち続けた。
ふたりの絆は、群衆の声援よりも強く、確かなものになっていた。
白銀の卓を中心に、各地の覇者たちが次々と入場してくる。
それはまるで、大陸の歴史そのものが歩んでくるかのようだった。
最初に現れたのは――巨大な影。
「竜王リンドブルムだ!」
観客席から驚愕と畏怖の声があがる。
漆黒の鱗をまとい、龍人の姿へと変じた巨躯は一歩ごとに大地を震わせた。
その双眸はまるで「炎の牌」を宿すかのように燃え、ただそこに立つだけで周囲を圧する。
続いて入場したのは、東方の流浪の女雀士。
赤い布を翻し、扇を手に舞うように歩み寄る。
「紅蓮の舞姫」――異国の地で百戦錬磨を重ねた凄腕だ。
「ほう……」
彼女が扇を軽く振ると、観客席からは黄色い声が響いた。
華麗さと艶やかさを兼ね備えた姿は、ひときわ注目を浴びる。
さらに、西方の砂漠からは「千の勝負を生き残った男」が入場。
頭巾を被った精悍な男は無言のまま卓を見据え、その背には「敗北を知らぬ影」がまとわりついていた。
――そして。
「サラだ! サラが出るぞ!」
ひときわ大きな歓声が巻き起こる。
小柄な少女はいつもの明るさで手を振りながら登場した。
その無邪気な笑顔と、今やクラリッサの戦友として知られる名が、群衆を熱狂させる。
「がんばれー! サラちゃーん!」
「雀姫と一緒に勝ってくれ!」
サラは照れくさそうに頭をかきながらも、胸を張って応える。
その背中は、もはや一人の少女ではなく「未来を担う雀士」としての輝きを放っていた。
だが――どの強者が現れても、観衆の視線は最終的に一人へと戻っていく。
白衣の少女、「雀姫クラリッサ」。
彼女こそが、この戦いの中心であり、希望の象徴なのだ。
 




