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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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《勇者の圧政に抗う最初の一戦》

大陸最大の都、その王城の玉座の間にて――。

闇のように冷たい声が響いた。

「……雀姫、だと?」

膝をついて報告する密偵の声は震えている。

地下に、かすかに芽吹いた「麻雀の灯火」。

それは民衆の間で確かに囁かれ始めていた。

「彼女と打てば、心が自由になる」

「雀姫は、勇者の支配を壊す希望をくれる」

その噂は火種となり、広場の石畳の下に小さな炎を宿していた。

しかし――。

「希望は芽吹く前に摘み取れ」

アレスの瞳は鋼のように冷たく、口元には笑みすら浮かばない。

「地下で麻雀を打つ者どもを捕え、処刑台に立たせろ。民の前で、徹底的に叩き潰すのだ」

その命令に応じ、玉座の間の影が揺らぐ。

そこに立っていたのは、四天王の一角――《隠密のカムイ》。

漆黒の忍装束に身を包み、顔の半分を仮面で覆った男。

影を操り、潜入と暗殺を得意とする冷酷な諜報の使い手。

「御意。地下に巣食う雀ども、残らず闇に沈めましょう」

カムイは影とともに姿を消す。

やがて、街の裏通りや地下倉庫には、無数の目が張り付き始める。

民衆の小さな笑い声は、再び恐怖に縛られようとしていた――。

大陸最大の都、その王城の玉座の間にて――。

闇のように冷たい声が響いた。

「……雀姫、だと?」

膝をついて報告する密偵の声は震えている。

地下に、かすかに芽吹いた「麻雀の灯火」。

それは民衆の間で確かに囁かれ始めていた。

「彼女と打てば、心が自由になる」

「雀姫は、勇者の支配を壊す希望をくれる」

その噂は火種となり、広場の石畳の下に小さな炎を宿していた。

しかし――。

「希望は芽吹く前に摘み取れ」

アレスの瞳は鋼のように冷たく、口元には笑みすら浮かばない。

「地下で麻雀を打つ者どもを捕え、処刑台に立たせろ。民の前で、徹底的に叩き潰すのだ」

その命令に応じ、玉座の間の影が揺らぐ。

そこに立っていたのは、四天王の一角――《隠密のカムイ》。

漆黒の忍装束に身を包み、顔の半分を仮面で覆った男。

影を操り、潜入と暗殺を得意とする冷酷な諜報の使い手。

「御意。地下に巣食う雀ども、残らず闇に沈めましょう」

カムイは影とともに姿を消す。

やがて、街の裏通りや地下倉庫には、無数の目が張り付き始める。

民衆の小さな笑い声は、再び恐怖に縛られようとしていた――。

夜の街の片隅――。

石造りの倉庫の地下には、灯火が揺れ、低い笑い声と囁きが響いていた。

「リーチ!」

「ポンだよ、お母さん!」

木片や石を牌に見立てて、民衆たちはクラリッサの仲間に習いながら卓を囲んでいる。

そこには確かに、かつて忘れられたはずの「麻雀の温もり」があった。

子供たちの笑顔、親たちの微笑――希望が小さくとも芽生え始めていた、そのとき。

――バンッ!

重い扉が吹き飛び、闇を裂くように黒装束の兵たちが雪崩れ込む。

その先頭に立つのは仮面の男、《隠密のカムイ》。

「禁忌を破りし愚か者ども! 勇者陛下の名のもとに、全員捕縛せよ!」

怒声とともに、冷たい刃が閃く。

倉庫に並んだ簡易卓は一瞬で踏み砕かれ、木片の牌が無惨に散る。

「やめてっ!」

「お願いです、子供だけは……!」

叫ぶ母親の腕を、容赦なく縄が締め上げる。

子供たちの泣き声も無視され、兵士たちは無慈悲に人々を引きずり出した。

「離してっ! もうしません!」

「……麻雀は……ただ遊んでただけなのに!」

必死の叫びも、石畳に響く鎖の音にかき消される。

民衆は縄で繋がれ、まるで罪人の群れのように一列に並ばされる。

そして、そのまま街の広場へ――。

地上に引きずり出された人々の姿に、街の空気が凍りついた。

夜の静寂を切り裂く、カムイの冷徹な声。

「これは見せしめだ。勇者の麻雀に逆らう者は、こうなる」

希望の灯は、今まさに踏み潰されようとしていた。

夜明け前――。

城下町の中央広場には、異様な熱気と重苦しさが渦巻いていた。

広場の中央には、粗末な木材で組まれた処刑台。

その上には縄で縛られた男や女、そして泣きじゃくる子供たちの姿。

彼らは皆、ただ「麻雀を打った」罪で捕らえられた者たちだった。

周囲を囲むのは、黒い鎧を纏った勇者軍の兵士たち。

槍の穂先を光らせながら、民衆を押し退けるように広場を封鎖していた。

「ひぃ……」

「なんてことだ……子供まで……」

広場に集められた人々は、誰一人声を上げられない。

ただ怯え、ただ唇を噛み、目の前の光景を直視するしかなかった。

その沈黙を切り裂くように、兵士の一人が声を張り上げる。

「見よ! これが勇者アレス様に背き、禁忌の麻雀を打った者の末路だ!」

「勇者に許された者だけが、牌を握る資格を持つ!

 弱者が遊びに手を伸ばすなど、万死に値する!」

勝ち誇った声が、広場の空気をさらに重くする。

群衆の中にいた母親が小さく泣き崩れ、抱いた子供の耳を塞ぐ。

だが処刑台に並んだ子供の一人は、泣き叫ばずにはいられなかった。

「お母さん! いやだ! 助けてぇ!」

その声は、鋭い刃よりも痛烈に、人々の胸をえぐる。

だが誰も動けない。

恐怖に縛られ、ただ俯くしかない。

絶望が広場を支配し、朝日の赤が処刑台を血のように染めていく――。

処刑台の上、剣が振り下ろされようとしたその瞬間――。

「やめなさいッ!」

澄んだ声が広場に響き渡った。

群衆がどよめき、視線が一斉に声の主へと向かう。

人垣をかき分け、姿を現したのは――旅装束を脱ぎ捨てた数人の影。

その先頭に立つ少女は、燃えるような瞳で処刑台を見据えていた。

「……あ、あれは……!」

「雀姫……!」

ざわめきが走る。

人々の間で密かに囁かれていたその名が、現実のものとして目の前に現れたのだ。

クラリッサは一歩、二歩と踏み出し、兵士たちの槍先を恐れず正面に立つ。

「麻雀を理由に命を奪わせはしない!」

声は揺るぎなく、広場の空気を震わせた。

その隣で、頑固そうな老人が杖を突き、口元に笑みを浮かべる。

「お主らの相手は、このゴルド=シュタインよ。覚悟はできておるかの?」

背後に並ぶ仲間たちもまた、それぞれ武器や牌を構える。

リオは冷静に周囲を見渡し、サラは怯える子供に向かって笑顔を向けた。

「ひ、ひるむな! ただの反逆者だ!」

「囲め! 処刑台を守れ!」

兵士たちが叫び、槍を構える。

だがその動きには、確かな動揺が混じっていた。

群衆は震えながらも――心の奥で湧き上がる期待を抑えきれなかった。

「雀姫だ……! 本当に……!」

「助けに来てくれたんだ……!」

広場の空気は、絶望から希望へと揺れ動き始める。

――ここからが、「最初の戦い」の幕開けだった。

ざわめく兵士たちの列が、すっと割れた。

そこから一歩、音もなく進み出る影。

漆黒の装束に身を包み、口元を布で覆った長身の男――。

その眼差しは冷たく、広場の空気を凍りつかせた。

「……なるほど。これが噂の《雀姫》か」

低く響く声。群衆が息を呑む。

誰かが震えながら囁いた。

「あれは……四天王……《隠密のカムイ》……!」

カムイは兵士たちに制止の手を上げ、悠然と処刑台の階段を下りてくる。

その一歩ごとに、影が伸び、広場の光が奪われるようだった。

「血で汚すのは容易い。だが――今日は趣向を変えよう」

カムイは懐から黒光りする牌を取り出し、指先で弄ぶ。

その音は、不気味に甲高く鳴り響いた。

「麻雀で決着をつけよう。勝てば奴らを解放してやる」

その瞳が、クラリッサを射抜く。

冷酷な宣告が、広場を震わせた。

「だが負ければ……その命で償え」

ざわめきが広がる。

捕えられた民衆は絶望と希望の狭間で震え、祈るようにクラリッサを見つめる。

クラリッサは唇を噛み、拳を握った。

背後の仲間たちの視線を受け止め、静かにうなずく。

「……いいわ。受けて立つ」

言葉は揺るぎなく、恐怖を突き抜けて響いた。

その瞬間、兵士たちが卓を運び、広場の中央に四角い影が置かれる。

処刑台の下、広場のど真ん中――。

緊張と祈りの視線が注がれる中、運命の卓が静かに整えられていく。

民衆の誰もが息を潜めていた。

彼らの心はただひとつ――《雀姫の勝利》を祈っていた。

広場の卓を囲み、勝負は火花を散らすように進んでいた。

「リーチ」

カムイの指が闇のように滑り、牌の影がわずかに揺らぐ。

人知れず積み込みを操り、彼の手牌は次々と整っていく。

「……あれは……! 牌が勝手に……」

観衆の誰かが震え声でつぶやいた。

影の術――イカサマ。

それは人智を超えた邪道の打ち筋だった。

クラリッサの眉間に汗が滲む。

相手の理不尽な手筋に、じわじわと追い詰められていく。

だがその背中に、仲間たちの声が届いた。

「姫さん、惑わされるな!」ゴルド爺の低い声。

「信じて、私たちがいるから!」サラの澄んだ瞳。

「これは遊びじゃない、文化だ。――お前なら勝てる!」リオの強き言葉。

クラリッサは深く息を吐き、迷いを断ち切った。

「……そうね。私が信じるのは、正道の麻雀だけ!」

次の瞬間――彼女の手に、光を宿したかのように牌が集まる。

読みと胆力、仲間との絆が生んだ、唯一無二の形。

そして――。

「――ロン! 倍満!」

クラリッサの声が広場を貫いた。

卓上に叩きつけられた和了牌が、まばゆい閃光を放つ。

「なっ……!」

カムイの顔色が変わる。

握っていた影がざわめき、制御を失ったかのように乱れ飛んだ。

観衆がどよめく。

「雀姫が……勝った……!」

「希望が……生まれたんだ!」

カムイはよろめき、影に呑まれるように姿をかき消した。

敗北の余韻だけを残し、広場には歓声と涙が溢れた。

そして――処刑台に繋がれていた人々の縄が断たれ、自由の光が差し込む。

誰もが知った。

この勝負こそが、《勇者の圧政に抗う最初の一戦》であることを。

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