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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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12/24

悪役令嬢スタイル

予選ラウンド ― 鉄壁の守備を崩せ

大会初戦。クラリッサたちの卓に座ったのは、地元で名を馳せる老練の雀士だった。

 白髪混じりの髭をたくわえ、姿勢は揺るがず。手牌は固く閉じられ、守りに徹したその打ち筋はまさに「城壁」。

「この街で麻雀を打つなら、まずはわしを越えねばならん」

 開幕から相手は徹底して安手すら通させず、攻めの芽を刈り取っていく。

 クラリッサは「悪役令嬢スタイル」で挑み、早い仕掛けで場をかき乱すが――

(……打ち崩せない! この男、防御一辺倒でまるで穴がない!)

 彼女の読みは外れ、決定打を作れず焦燥が募る。

 会場も「やはり地元の名手が一枚上手か」とどよめきはじめた、その時。

「待ちくたびれたぜ!」

 リンドブルムが吠えた。牌を叩きつけ、豪快に立直を宣言。

 直後に一発ツモ――しかも倍満。

 観客席が一斉に沸き、地鳴りのような歓声が広間を揺らした。

「うおおお! 一撃で試合が動いたぞ!」

 勢いを取り戻したクラリッサ一行。

 続いてサラが直感を研ぎ澄ませる。幼子のような瞳で卓を見つめ――危険牌をすんでのところで回避。

 巡目の果てに、彼女はそっと和了牌を引き寄せる。

「……ツモ!」

 ギリギリの和了に観客がどよめく。

「奇跡だ! あの子は守備の壁を越えた!」

 そして最後に、ゴルド爺が全体を支える。

 鉄壁の守備型雀士を相手に、一歩も引かず受け止め合うその姿は、まるで「守備の極致」と呼ぶにふさわしかった。

「フン、若造どもにしては……なかなかのもんだ」

 相手が渋く笑うころには、勝負は決していた。

 クラリッサたちは見事初戦を突破。観客の目に焼きついたのは――

 ただの一人の力ではなく、四人が織りなす“隙のないチーム麻雀”だった。

二回戦 ― 挑発と奇跡のツモ

 二回戦の卓に座ったのは、派手な羽織を翻す旅打ちの男。

 口元には常に薄笑いを浮かべ、指先で牌を弄ぶ姿は狡猾そのものだった。

「へぇ……お前らが話題の“雀帝一行”か。なるほどなるほど。だが子供や爺さんを混ぜてる時点で、所詮はお遊び卓だな?」

 挑発の言葉が矢のように飛ぶ。

 サラは顔を真っ赤にして、牌を乱暴に切りかけ――

「っ、もうっ!」

 明らかにペースを乱されていた。観客席からもざわめきが起こる。

(まずい、このままじゃ……サラが飲まれる!)

 クラリッサが唇を噛んだその瞬間、リオがすっと身を寄せ、耳元に囁く。

「安心して。あいつの打牌、二巡ごとに癖が出てる。読み通りに打てば、振り込むことはない」

 小さな声。しかし、その言葉はサラの胸に冷たい水を流し込むように落ち着きをもたらした。

 深呼吸をひとつ。サラの目が再び澄み渡る。

(大丈夫……見える。ツモる道が!)

 巡目は進み、旅打ちの男が勝利を確信したかのようににやりと笑ったその時――

「……ツモ!」

 サラが引き当てたのは、誰も予想しえなかった奇跡の牌。

 静寂を破るように和了を宣言すると、会場が爆発した。

「す、すげえ! まるで奇跡だ!」

「雀姫だ! あの子は雀姫だ!」

 観客は総立ち。サラの小さな体を、喝采の波が包み込む。

「ちっ……ガキのくせに!」

 顔を歪め、苛立ちを露わにする旅打ち。

 苛烈な攻めに出るが――

「上等だ、バカ野郎!」

 リンドブルムが豪快に吠え、力任せの打牌で場を支配する。

 その打ち筋は乱暴に見えて、圧倒的な勢いで押し潰していく。

 やがて旅打ちは捨て台詞を残して退場。

 会場には、今なお「雀姫!」と叫ぶ声が木霊していた。

 こうしてクラリッサ一行は、さらに注目を浴びながら準決勝へと駒を進めるのだった。

三回戦 ― 闇に潜むイカサマ

 準々決勝の卓に現れたのは、黒服に身を包んだ荒くれ者たち。

 背中には刺青を覗かせ、鋭い眼光で観客を威嚇する。

 その姿に会場はざわめいた。

「……出やがったな。裏稼業の連中だ」

「イカサマ上等、勝つためなら何でもするって噂だぞ……」

 不穏な空気が漂う中、開局早々――クラリッサの額に汗が滲んだ。

(おかしい……山が妙に減るのが早い。いや、これは――!)

 気づけば相手は不自然なほど都合よく牌を引き当て、次々と和了を重ねていく。

 クラリッサ一行は押され、点棒はじわじわと削られていった。

 観客からも不満の声が漏れ始める。

「これ……ズルしてるだろ!」

「でも証拠がないんじゃ……」

 その時だった。

 リオが静かに目を細め、牌山をじっと見つめた。

「……なるほど。山をいじってたのね」

 彼はため息まじりに呟くと、手元の符丁をほんの少し動かす。

 すると観客席の最前列にいた審判の目に、それが映った。

 リオはさりげなく手を挙げ、山の崩れた位置を示唆する。

 審判がすぐさま介入し、相手の不正を牽制。

 場は一転、正々堂々の勝負へと戻った。

 そこからは――ゴルド爺の出番だった。

 相手の攻め手を悉く受け止め、当たり牌を完璧に回避。

「ぬかるでないぞ……ワシの守りは、岩よりも固い」

 堅実な守備が場を安定させると、リンドブルムが豪快に吠える。

「待たせたな! リーチ――ツモォォッ!」

 その一打は雷鳴の如き迫力で、倍満の和了を叩き込んだ。

 点棒は一気に逆転。観客が立ち上がり、会場を揺るがす歓声が響いた。

「やっぱり正道の麻雀が最強だ!」

「不正なんかに負けるもんか!」

 黒服たちは歯噛みしながら卓を去り、会場には熱気と希望の光が満ちていった。

 ――クラリッサは静かに牌を撫でる。

(これが……仲間と打つ、正しい麻雀の強さ)

 彼女の胸に、確かな誇りが芽生えていた。

準決勝 ― 未来への宣戦布告

 準決勝の卓に姿を現したのは、まだ十五歳ほどの少女だった。

 白磁のような肌に、澄んだ瞳。小柄な体に不釣り合いなほど堂々とした気配を放っている。

「彼女が……“第二の雀帝”か」

「若き天才、ミレイア! 十五にしてこの打ち筋……!」

 観客がざわめく。視線はすぐさまクラリッサへと向かう。

「まるで昔のクラリッサ嬢のようだ……!」

「二人の邂逅は運命だな」

 ――その囁きに、クラリッサの胸がざわついた。

(昔の私……悪役令嬢スタイルに酔い、孤独に突っ走っていた頃。

 確かに、彼女は私の過去そのもの……)

 卓上で、ミレイアの鋭い打牌が光を放つ。

 一打一打に迷いがなく、まるで運命を切り裂くかのような鋭さだった。

 クラリッサも応じるが、互角のまま点差は縮まらず、息が詰まる接戦となる。

「……お嬢、顔色が悪いぞ」リンドブルムが低く唸る。

「クラリッサ様なら勝てます!」サラが両手を胸にぎゅっと握る。

「大丈夫、あなたはもう一人じゃない」リオの声は穏やかに響いた。

 仲間たちの言葉が、揺れる心を支える。

 クラリッサは深く息を吸い――すっと視線を上げた。

「そうね……今の私は一人じゃない」

 指先が牌を叩く音が、決意を刻む。

 最後の一局、彼女は冷静に待ちを絞り込み、わずかな隙を逃さず――

「ロン」

 その瞬間、点棒が逆転した。

 会場は爆発するような歓声に包まれる。

「勝った……クラリッサが勝った!」

「未来の雀帝を退けるとは!」

 対面に座るミレイアは、唇を震わせながら涙をこらえていた。

 しかしその瞳には、揺るぎない炎が宿っている。

「……いつか必ず、追いついてみせます」

 クラリッサは静かに微笑み、応えた。

「ええ……待ってるわ。必ずね」

 ――その瞬間、二人の間に確かな絆と宿命が結ばれた。

 未来へと続く麻雀の道、その約束が大広間を照らしていた。



準決勝後 ― 喝采と孤独

 歓声は天井を突き抜け、大広間を震わせた。

「やっぱり雀帝だ!」

「クラリッサ嬢こそ、真の後継者だ!」

「麻雀の未来はまだ死んでいない!」

 人々が拳を突き上げ、口々に彼女の名を叫ぶ。

 拍手と喝采が嵐のように降り注ぎ、クラリッサの名は祭壇に掲げられた女神のように讃えられていた。

 だが――その喧騒の中心で、クラリッサの胸中は冷えていた。

(……違う。今の勝利は、ほんの紙一重。

 あの少女の鋭さに、もしもう一歩でも遅れていたら……私は負けていた)

 仲間と共に控室へ戻りながらも、その思考は止まらない。

 群衆の笑顔も、称賛の声も、まるで自分には届いていないかのようだった。

 夜。

 宿舎の屋上に出たクラリッサは、静かに夜空を仰いだ。

 無数の星々が、冷たく、しかし確かに瞬いている。

「私は……ただの“悪役令嬢スタイル”じゃ足りない」

 小さな声が、夜風に溶けた。

 あの時の少女――未来を背負う天才の姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。

(このままでは、アレスに届かない……)

 拳を握る。

 その指先は、己の弱さと向き合った証のように、震えていた。

 遠くで、歓楽の余韻に酔う人々の声がまだ響いていた。

 だがクラリッサの胸の奥では、それとは正反対の静かな炎が――新たな修行への決意が、燃え始めていた。

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