表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

第二章「新しい家族」第一節

 都は見知らぬ部屋で目が覚めた。けがをしている部分は手当してある。服も新しくなっていた。公園に逃げ込んだところまでは覚えている。あとは覚えていない。記憶が曖昧になっているようだった。研究所のベッドとは、違い布団はふかふかで柔らかかった。

 都は部屋全体に視線を巡らせた。開いている窓から桜色のカーテンが春風で揺れている。壁紙は優しいベージュで統一されていた。ぬいぐるみや童話の本、パズルやはやりの絵本が並べられている。助けようとしてくれた女の子の玩具だろう。無機質な感じはしない。子育てを心から楽しんでいる、雰囲気が伝わってくる。女の子へと向けた愛情に、満ちた空間となっていた。研究所にはない普通の生活を、している者の営みがある。

 湊や奈美からパソコンの映像や写真を見せてもって、少しだけ外の世界を知ったつもりになっていた。

 学んだ気になっているだけだった。

 見てみると外の世界はきらきらしていて、都にとって輝いて見えた。明るすぎた。親を殺したいと思っている彼には、正反対で程遠い場所だった。

 ――僕は助けてくれた家にふさわしくない。

 ――ふさわしい人はたくさんいる。

 ――そういった人たちに、提供するべきだよね。

 期待するべきではないだろう。

心の中を空っぽにしてしまえばいい。無にしてしまえばいい。立ち入る隙を与えず、感情のふたを閉じるつもりでいた。都は布団を握りしめる。自分がデザインズ・ベイビーだと知られてしまえば、追手が追いかけてくるだろう。

 争いは争いを呼ぶ。

 新たな憎しみが生まれるだけだ。

 家族の幸せを壊す権利などなかった。個人的な束縛をするつもりはない。人が血に染まる姿を、見たくなかった。いや――奈美を助けられなかった時点で、自分の手を体は血に染まっている。

 数少ない自分の家族だったのに、見殺しにしてしまった。デザインズ・ベイビーとしての身体能力を使えば、奈美は生きていたかもしれない。弱点としては都のデザインズ・ベイビーとしての体力は、未熟だった。

 

 身体能力以外では、断片的とはいえ精神世界の扉を、開けられる能力もあった。遺伝子操作の中に、組み込まれたプログラムだった。都と同時にテストとして受けた、奈美にもあるプログラムである。都と奈美以外、知らない能力だった。むやみに使ってはだめよ、と都は奈美から言われていた。

 湊にも教えていなかった。

 身体能力とは違い、精神世界を開く能力に何の力があるのだろうか。

 都が求めているのは、身体能力の方だった。使っていたら修羅場をくぐり抜けて、何とか逃げ切れていた可能性は高い。奈美が隣にいたかもしれない。体が動かなくなり、声がでなかった。

『少しでもいいから、生き延びて。私の愛しい子。愛しているわ』

 都は奈美の死ぬ間際の声で、動かなかった体が軽くなり、反射的に走り出せた。公園に逃げ込んだ後、家に保護されたようだった。包帯をはずす。体を動かしてみても、痛みの異常はない。けがも治りつつある。

(プロトタイプ)作品とはいえさすがの回復力である。研究に貪欲な孝である。すでに第二(セカンド・タイプ)世代もしくは、第三世代(サード・タイプ)まで作り上げているかもしれない。

 狂気に走った人間は残酷になり、傲慢になれるのだろうか。

 人に命を何だと思っているのだろうか。 

 質問の答えを知る者はいない。

 正解を知る者はいないだろう。

 都はベッドから下りて、住民がいるだろうリビングに足を進めた。ドアを開きリビングに入ると晩御飯の支度をしているらしく、肉が焼ける音やみそ汁、ご飯の炊けるにおいがした。時計を見る。現在の時間は七時半を示している。研究所を抜け出したのは朝だったはずだ。追手から逃げ続けて、公園に辿り着いたのは、二時半頃だった。公園にあった時計で、確認をしたから覚えていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ