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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]周回移動都市ヴェルサイユ〈本編〉
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〔第58話〕おいィ、飲みィ行くぞ。byカンネ•ロード

 

 ラウンド同士の兎とネネは夕方からエヴァンテ所有のスフィア基地を使い、2人でスフィアの訓練をする。



 ——————《では、シュミレーション開始まで3.2.1スタート。》



 ゴングが鳴らされた瞬間、兎はバーニアを極限まで絞り甲高い音と共に物凄い速さで地下鉄の入り口から線路(なか)へ突っ込んだ。


 その後ろを追ってネネが迫る。



 ——————キィィィィィィィィィッ!!!



 今回、お互いが使っているスフィアは狭い地下鉄でもギリギリ入れるサイズのスフィア((ロイヤー))だ。

 しかし、ギリギリと言っても移動の際、肩や腕の一部が壁に擦れ火花を散らしているから、まぁ一概にセーフとは言えないだろう。


「兎ちゃんッ本当ッに速いッ…!」


「…。」


 ネネは兎の速度に圧倒され距離を詰められずにいる。

 それを悟った兎はバーニアを反転させ急停止させた後、わざとネネに激突した。



 ——————ドガァァァァァァァッン!!!



 狭い地下鉄内は爆煙に包まれ、決着がついた。


「何それッ!?」


「わわわ私の勝ち…」


「いや、これは自爆でしょ。」


「いいいや…」



 ——————《勝者兎様。記録1分。》



 ネネは自分の乗っているスフィアの中で手足をジタバタさせながら回線で兎に訴える。


「何で!絶対アレ自爆じゃん!兎ちゃんも死んでるじゃん!今のは同点でしょ!!!」


「ししし死んでない…」


 ネネは自分の結果に納得いかない様子で叫ぶ。


「スフィア!(たが)いの機体の損傷率(そんしょうりつ)出して!」



 ——————《ネーム兎、損傷率0.01%。ネームネネ、損傷率98.2%。》



「なッ、何で?!あっ、そういえば、こんな事前(ことまえ)にもあった様な…あっ!そうだ、ラスターにも同じ様な事やられた!!!」


「そ、そそそそう…これはバーニアの推力ををうまく使うとできる…」


「はぁ?!何をどーすんのよ!」


「い、いい勢いを回転で(ころ)してる…」


「ミサイルとかの勢い殺す奴じゃんそれ!そんな正面衝突みたいな攻撃の勢いまで消せるわけないでしょ!!!」


「いいい意外と簡単…」


 ネネはスフィアのハッチを解放し、そのまま足場から下へ降り休憩スペースのアウトドアチェアの様な椅子に座った。

 私もスフィアのハッチを解放し、足場から下へ降りる。


「ごごごごめんなさい…」


 不機嫌そうに座るネネに対し、なぜか謝罪してしまう。

 それに対しネネは頬を膨らませながら不貞腐れた様に返す。


「別にぃ。ただ私が弱いってだけだし。君の謝る事じゃないよ。」


 大人なのか子供なのかよくわからないなこの人…。

 見た目は私より背が少し低いぐらいかな?

 でも、この人も都市の住人…つまり、エヴァンテ達と同じ数千歳なのかもしれないから不思議だ。


 そんな事を考えていた時、基地に大声が鳴り響いた。


『う〜さ〜ぎぃ〜!!!』


 私はその声の方に顔を向けその人物を推測(すいそく)する。

 恐らくこの声はフブだろう。

 もう夜ごはんできたのかな…?

 私は1人うなだれるネネさんを置いて、声に方に駆け足で向かう。


「おっ!兎いたいた!夜ごはんできたよぉ〜。今日はねぇ〜パリパリ餃子やみつきソースを添えて!だよ!」


「あ、ありがと…美味しそう…」


「あれ、ネネさんは?」


「あああっちにいる…」


 フブはそれを聞いた瞬間、再度叫んだ。


「ネぇ〜ネぇ〜、さぁ〜ん!!!」


 その10秒後ネネがトボトボこちらに向かって歩いてきた。

 アレだな。

 ネネさんはアレだ。

 結構マイペースなんだな。


「ネぇ〜ネさん!夜ごはんできたよ!一緒に食べよ!」


 フブは両手を後ろで組み、お尻を後ろへ突き出して前屈みになりながら、ネネと目線を合わせて話す。

 しかし、フブの顔はネネを覗き込んだ瞬間、少し困った様な顔になった。


 ネネは近づけられたフブの顔をガシッと掴み頬っぺたをグリグリ捻る。


「乙女の顔を覗き込まないでよね。」



 ——————グググッ。



「痛たたたッ!ちょっッらーめーて(やーめーて)!イチチ…いちい(痛い)!」


 私はネネさんの顔を覗き込んだ時のフブの表情を不思議に思い、自分もネネさんの顔を覗き込んだ。


「え…」


 ネネさんの目尻が赤く腫れていた。

 まるで大泣きした後の子供の様だった。


 やばい、流石にシュミレーションでボコボコにしすぎたかな…。


「このッ…ガキ共ぉ!うりゃー!!」


「うわー!!!」

「なななッ…!」


 ネネはそう言って涙を誤魔化しつつ兎達を茶化し(たわむ)れる。

 そうこうしてると軍庫内(スフィア基地内)に放送が流れた。



 ——————《フブ、こちらエヴァンテですわ。あの…えーと…その…。あっ、第三師団の皆様方(みなさまがた)私の私用でこの様な館内放送をしてしまい申し訳ございませんの…》



 珍しくオロオロしているエヴァンテの横からセネカとニヴァの叫び声が聞こえる。



 ——————《嫌!僕のせいじゃないじゃん!ニヴァがサッカーやろうって言ってきたんじゃん!》



 ——————《ちゃんとワタシの蹴ったボールトラップしないセネカが悪いんでしょー?!》



 ——————《いきなり()()でボール全力で蹴ってくると思わないじゃん馬鹿野郎!!!》



 そんなわちゃわちゃした言い合いが軍庫に響き渡った後、エヴァンテが疲れ切った様な声で言う。



 ——————《フブ、貴方の作ったご飯がセネカとニヴァのサッカー(ボール蹴り)によって()()されましたの…。本当に申し訳ないですわ…今日は外食してくださいまし…》



 ——————《ガッシャーンッ!!!》



 ——————《あー!!!ニヴァまたやったわー↑はい、フブに謝れ〜↑。》



 ——————《はい〜今のは蹴り返したセネカが悪いですぅ〜!》



 ——————《貴方達、今日は何も食べさせませんわよ。そして、そろそろキツイ(しつけ)が必要みたいですわね。覚悟はよろしくて?》



 ——————《ブツッ…》



 エヴァンテの不吉な声色(こわね)を残し、館内放送放送が終了した。


「あっちゃ〜…私の作ったご飯()()されちゃったみたいダネ〜…」


 フブが困った様な表情で言ったその時、軍庫の入り口から1人の女が大量の第三師団員(※ネネの部下)を取り巻きに引き連れ、こちらへ歩いてきた。


 私は咄嗟にフブの後ろに隠れて、内心ビビりながらその様子を伺う。



 ——————「おいィ、飲みィ行くぞ。」



 この声は田舎のヤンキーみたいな喋り方と若干のざらついた声音(こわね)

 カンネ•ロードだ。

「ちょっと、カンネ•ロード。第三師団員は今日休みだったのよ!取り巻きみたいな事させないでよね!」


「“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”ってつった(言った)のに着いてきたんはコイツァだかんなァ?」




「アンタはもっと気ぃ使いなさいよ!ほら、えーと、フード被って顔隠すとかさ!」


 文句を言うネネに対し、カンネ•ロードは少しキレ気味な対応を見せる。


「あ゛?うっせェなァ。着いてくんなァって言ってくる人間には着いてくんなよゴラァ!」


 まぁそれはごもっともだ。


「ほら!君ら(第三師団員)も散れ!散れ!こーんな“ロード”に気ぃ使う必要性なんてないからぁー!」


「あ゛?テメェ…」


 すかさず、ネネから売られたケンカを買おうとするカンネ•ロードだったが、ネネの顔を見てとある事に気づく。


「…お前泣いてたのか?」


「はッハァ?な、泣いてないし〜!何言ってんの馬鹿じゃない?死ね!」


 痛いところを突かれ慌てるネネを無視してカンネ•ロードは取り巻き達をディスり出した。


「んな事より…今日オフの日なのに軍倉来て訓練してんのな、偉いけど…なんかキモいなお前ら…」



 ———『『『とんでもございませんカンネ•ロード様!』』』



「ロードはそれ自体が敬称だァ。だから、ロードに様はいらねェって何回言ったらァわかんだよカス共がよォ…。そんな事より、兎、フブ。飯ィ行くぞ。」


 私はカンネ•ロードが怖くて更にフブの後ろに隠れた。

 もう体の9割がカンネ•ロードから見えない程に隠れた。

 しかし、なぜかフブは私を流れる様に抱えコアラ(おんぶ)した。


(…え?)


 あっ、今のは別におんぶ(コアラ)して欲しくて後ろに回ったんじゃないからねフブさん…。

 私そんなに怠惰じゃないからね…。

 誤解しないでね…。


 心の中で言い訳しているとフブが嬉しそうな声でカンネ•ロードに話す。


「カンネ•ロード!私達やっとエヴァンの外に出れるの?!」


「あぁ、そーだなァ。お前らはいつも教会で飯()ってたからな。今日は外の飯屋行くぞ。」


「うっひょー!!!やったぜー!楽しみだね兎!」


「う、うん…」


 トントン拍子で話が進んでいく中、ネネがひとり仲間外れになっている状況に腹を立てたのかカンネ•ロードに噛み付く。


「ねぇ、何で目の前にいる私をスルーしてこの2人だけ誘うのよ。私この2人よりアナタとの付き合い長いと思うんどけど?同じ六防の中の1人なんだけど?」


「…てめぇめんどくせぇ(彼女)みてェだなァ。」


「ムキィーーー!!!」


 2人が喧嘩になる前に、フブが会話に割って入る。


「私、ネネさんとはあんまり喋った事ないし、今日一緒にご飯食べて、この都市の事いっぽい教えて欲しいなぁ〜。」


「フブちゃ〜ん君は可愛い後輩だよ。お姉さんがいっぱいご飯奢ってあげるね〜!」


 流石、フブだ。


 一方、カンネ•ロードの後ろにいる取り巻き達はソワソワした落ち着かない様子でこちらを見ている。


「おい、第三師団共。テメェらは連れてかねェーぞ。ここで()()()()()()()()。」


 カンネ•ロードからの同行の許可は降りず、この場に取り残されてしまいそうな取り巻き達。

 うん、なんか粗末に扱われて可哀想だな第三師団…。


 ショボンとする取り巻き達に対し、ネネは師団長としての器を見せる。


「私がコイツらの分奢るわ。皆んな今日はたんとお食べなさい!」


『『『うぉー!!!!』』』


 群衆が一瞬にして沸く。


 しかし、その沸きをカンネ•ロードが一喝(いっかつ)する。


「お前らァ、そんなんでいいのかよ。」


「はぁー?!私の師団員達(第三師団員達)は今日オフの日なのに朝からいままでずーっと訓練してたんだよ?いいじゃない。お金は私が全部持つわよ。何が不満なのよ?!」


 ネネさんの言うとおりだ。

 休日も訓練に来る団員に少しぐらいご褒美があったって良いのではないだろうか。

 多分、師団員達にとっては六防のカンネ•“ロード”との食事はかなり特別な物なのだろう。

 同じ六防のネネさんは師団長だからよく顔を合わせているだろうけど、カンネ•ロードは六防+“ロード”だ。

 別にロードの称号を得ているからと言ってカンネ•ロードがネネさんより上という訳ではないが、ヴェルサイユ市民にとって特別尊愛(けいあい)すべき存在なのだ。

 普通の師団員じゃ余程の事がない限り、滅多にロードとはご飯に行けないのだろう。


「テメェら飲み行く前に()()()()()()()。」


 その言葉の解釈はこの場におけるそれぞれの立場によって大きく変わり、全員が安易に口を開けなくなった。

 何というか喋り方と相反してこの人めっちゃレスバ強いな…。


 そうだカンネ•ロードの言う通り皆んな(第三師団)は弱い。

 きっと1対1で連合のラスターと戦えば、誰1人彼に勝てないだろう。

 まぁ“ラスターに勝てないから弱い”という訳ではないが…まぁアレだ。

 恐らくラスターと何回勝負しても彼から一本も取れないと言った方が正確だろう。


 それと違い、ラスターから一本も取られず勝てであろう私は言える。

 私だけが言える。

 再度言おう。

 この場において()()()()()()()

 それは…


「みみみ皆んなも…一緒にご飯食べに行こう…」


 しばらくの沈黙が続いた後、重苦しい空気の中、カンネ•ロードは言う。





「チッ、しゃーねぇな。」



『『『うぉー!!!』』』



 ふふふっ、今日から私は第三師団にとって神様みたいな存在になるかもしれないぜ…。

 強さも、優しさも、ふふふ…。

 あっ、ついでに私がnew orderだという事については第三師団員のほぼ全員が知っているだろう。

 まぁ知っているというか勘づいている、察しているという方が近いのかもしれない。

 圧倒的な強さを持つ第三師団を取り巻くネネさんをシュミレーションで簡単にねじ伏せていたらそれはまぁ気づくだろうな…私がnew orderだって事ぐらい。

 逆に気づかなかったら鈍感とかいうレベルではない。


 カンネ•ロードが1人ズカズカ外へ向かって歩き出した。

 私達は全員それについていく。


 外へ出るとそれはそれは大きな馬車が停まっていた。

 もうちっちゃいアパートですか?というレベルまでに大きい。

 私はその大きさに圧巻されているとフブが隣でつぶやいた。


「バスLv.100だ…」


「そそそそうだね…」




「んじゃァ乗れ。アタシおすすめの店行くぞ。」




次の話は【兎視点】と【ツグネ視点】があります。

ネタバレを伏せて言うと作者目線ツグネ頑張れって感じです。

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