〔第55話〕初見殺しは君と見た。
【小話】…本来バーニアを使っての長距離移動は燃費の問題でほぼ不可能に近いが、new orderは技術の格が違うので常にバーニアを使っているのだとか。バーニアを絞るのが上手過ぎるのでnew orderが飛行時には超変な高音が鳴り響くのだとか…。
本編から読み始めた人への簡単な説明。
この作品には3つの世界が存在します。
元々いた世界順↓
“兎”と“フブ”は新世界に…
“ツグネ”と“タフナ”は現世界に…
“エヴァンテ”や“周回移動都市”は旧世界に…
そして今、皆を乗せた周回移動都市がいる世界は旧世界です。
〜〜時間は少し巻き戻り、ネネとラスターがヴェルサイユ周辺海域で衝突する4時間前…
人間とは摂取エネルギーと消費量エネルギーの間で生じた差分でしかないのだ。
つまり、我々の人生とは摩耗した残りカスなのだ。
私、咲嶺兎は今日もカスを自覚して摩耗中。
——————《エンジン各部稼働チェック。完了》
——————《パイロット生態認証。パイロットナンバー無し。咲嶺兎。認証完了》
——————《装甲鋼鉄版強度チェック開始。完了。》
——————《パイロット酸素保有最適量プリセット、準備完了》
「酸素だけじゃなくて、もう全部の設定を私の指示したプリセット通りにしろ。」
——————《了解致しました。》
スフィアに直接指示を出しながらコックピット内の操縦席の下の機器を調整していく。
今回私が乗るスフィアの全長は約32m級。
周回移動都市にはたくさんのスフィアが存在するがそのほとんどが使用されていない。
使用されていないというよりかは使用の仕方がわからない種類が大半といったほうが正確か。
まぁ人の手で作られたかどうかもわからない超古代兵器を使っているて感じだ。
コックピットのハッチを開け、出動時間までダラダラ確認作業をしていると後ろからフブに声をかけられた。
「う〜さぎっ!」
「うわぁっ!!!」
「そ、そんなに驚いちゃうか..。全く、驚かせ甲斐があるってもんだぜ…へっ。」
「どどどどうしたの…」
「別に〜、私今日休みだったから〜兎の様子見に来ただけ〜。」
私はフブの服に自分の付けていた安全ロープのカラビナを取り付ける。
「えぇ〜?要らないよぉ〜、」
「そそそそこの足場あああ危ないから…」
私はコックピット内にいるから下へ落ちることはないけれど、その外の足場にいるフブは下へ落ちたら大怪我では済まないだろう。
いくらスフィア整備専用足場があろうとコックピット外では安全ロープが必須なのだ。
なので、私はフブを整備用足場からコックピットへ連れ込み操縦席へ座らせた。
「ふぅぉぉぉ〜!これがコックピットぉかぁ〜!!私初めて乗るー!!!」
楽しそうで何よりだ。
「でも、なんか思ったより中って暗いんだね。」
「そそそれは…まだビジョンパネルオンにしてないから…」
「オンにすると周りの景色が映ったりするの?」
「そ、そう…」
「スフィアぁ!!ビジョンパネルオン!!!」
勢いよく叫ぶフブにスフィアは反応しない。
「ふ、ふフブもこのスフィアに生態認証しないと反応しない…。かか代わりに私が…。スフィア、ビジョンパネルオン。」
——————ヒューンッ、ブーーーーンッ。
兎が命令した途端、四畳程の広さを持つ球体の部屋に、周りの景色が投影された。
「凄い!ナニコレッ普通の画面と違って遠近感めっちゃすごいよ!!!」
「ななな謎技術…」
恐らく投影画面を何十層にも重ねる事で目視に近づけたのだろう。
これのおかげで敵やらミサイルやらの距離が直感的にわかるようになっている。
「ねぇ、兎。」
「な、なな何…?」
「前々から思ってたんだけど兎って機械相手にはすっごい冷静な喋り方するよね。何で何で〜?」
「ひ、ひひ人じゃないって思ったらなんか…な、何も考えずに喋れる…」
※舐められるのが怖いだけ。と、過去に回答済み。
「ほげぇー…良くわからないや…また今度じっくり聞かせてもらおう。」
「う、うん。」
「なんで兎ビジョンパネル付けて作業しないの?オンの時の方が視界良好じゃない?オフの状態じゃちょっと暗すぎない?」
私はフブが今座っている、ほぼ宙に浮いてる様な構造の操縦席を見る。
その下で作業している私はなぜ今までビジョンパネルをオフにしていたのかフブに知らしめる為、無言で操縦席から立たせ私がいる場所へと移動させる。
「ん?どうしたの?うん、ここにしゃがめばいいの?」
「うん…そ、そそそのまま下見て。」
「え?…うひゃぁッ…これは怖いね…」
普通の画面とは違いやけにリアルなその鮮明さ。
正直、肉眼でリアルの外かどうかは区別がつかないレベルの画質で外が見える。
そして、スフィアの全長32m。
もちろんだが、ビジョンパネルに死角はほぼ無い。
操縦席を固定する僅かな繋ぎ目の主柱意外、360度外が見える。
シンプルに高くて怖いのだ。
「ひぇ〜…って、兎。なんでこんな死角になるような場所にもパネルあるの〜?」
その疑問はもっともだ。
「そそそ操縦席がスフィアの視点に合わせて、ささ360度自在にぐるぐる回転するからだよ…」
「ほげぇ…凄い…じゃぁほんとにスフィアって、自分の体みたいに操れる訳だね…」
「たたた体験してみますか…?」
「えっ…よろしいのでしょうか兎様ぁ…」
「よ、よろしいでございますわ…」
「やぁったのですわーっ!」
最近私達の間で勝手に流行っているエヴァンテの語尾モノマネ…は一旦置いておいて、私は操縦席座る。
二個目の操縦席を出そうとしたらフブが私の膝の上に座ってきた。
(スフィアさんシートベルトはいつもより強めにお願いします。)
「い、行くよ…」
「うん!」
操縦桿のロックを生態認証で解除した後、私は言葉の詰まりなくスフィアに命令する。
「シュミレーションがしたい。適当な敵機を50体用意、標準Lv.は…ん…ラスタ?とか言う有名な人にチューニングしといて。場所は適当でいい。」
——————《了解致しました。では、シュミレーション開始まで3.2.1スタート。》
その瞬間、周りの景色が私達の見知った街に変わった。
グリ○の看板が目立つ大阪のなんば。
空には50機の敵機、ベクターが隊をなしてこちらに飛行してきている。
い、いきなりだな...。
私は左右両手で掴んだ操縦桿を動かし、ボタンをタッチしてスフィアの状態をオートマからマニュアルに変える。
「ちょ、ちょっと激しく動くかも…」
「おーけー!」
了承を得た瞬間、私はバーニアを絞り速度を上げ、急上昇した。
遥か上空にいる敵機はこちらに向かって追従ミサイルやレーザー砲で弾幕を作る。
——————バリバリバリバリッ!!!!
しかし、私はこれを何なく交わし敵機がいる高度まで機体を上昇させる。
それを見た敵機は既に組んでいた陣形を別の陣形に変え、凄い速さで近接戦闘を持ちかけてきた。
私の速度と敵機の接近速度が相まって激しい火花を散らしながらお互い武器を交わわせる。
50機の敵機はシンプルかつ強力な隊列を組む。
前一列は近接戦、後ろ2列目は機関銃やライフルで援護射撃、三列目はミサイルを構えて待機している。
私を弱らせた瞬間とどめを刺す算段だろう。
ダメだ。
めっちゃ判断いいし、強い…。
フブにいいところ見せたかったのに難易度調整ミスった。
私は近接戦が苦手なので手前、一列目の5機を一気に潰すことに決めた。
方法は至ってシンプルだ。
——————《一方的な時間的攻撃》
初手から必死技で蹴散らす。
まぁ初手から必殺技をキメるのは幾分大人気ない気がするのだが、フブの前だ。
ちょっとは良いところ見せたいと見栄を張ってしまうのは人間の本能というものよ。
「わぁー!凄い、今瞬間移動した?!」
「ひひ必殺技…だぜ…」
その反応、非常に助かります…。
心の栄養になります。
1ヶ月ぐらいはおかず抜きでご飯食べれそうです。
「ま、ま…まだまだ…」
私は更に見栄を張ろうと派手にフレアを巻き上げる。
キラキラしてて見栄えは抜群だ。
とはいっても、ちゃんと目的がある。
これだけのフレアを大量に蒔けば、三列目のミサイル待機中の敵機もそう簡単にミサイルを撃って来れなくなる。
——————バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!バシュンッ!!!
ッ?!
当て勘で撃ってきたッ…。
今1番私がやられたく無い事、きっちりやってくるなこの敵達…あんまりこういうの良く無いと思うんだけど、多分ラスタって人、ネネさんより強い…。
でもッ!!!
私はバーニアを限界まで絞り敵機の方向かって急直進する。
本来ならば自殺行為といえるその行動。
しかし、私が巻いたフレアにより誘導性能、爆破座標軸が狂っている事を見抜いた上での行動だ。
思惑通り、直接敵機の群れに入り込むことに成功した。
後はお客さんのフブに戦いの派手さを演出する為、使うる限りのミサイルとレーザー砲、レーザーカッター、弾薬、チャフ、翼、追従型ミサイル、バリスタでフィナーレを迎える。
——————ドガァァァァァァァァァァァァンッ!!!
「うぉぉぉぉぉぉーーーー!!!凄ォォォォォォい!!!」
「ぐへへ…」
——————《シュミレーション終了。撃墜率100%。本機体の損傷率0.1%。残燃料99.9%。武装消耗率35%。平均飛行速度マッハ3.5。タイム45秒。総合評価計測不能領域。現タイムランキング15位。ラウンド達成。》
今回のシュミレーションの結果がスフィアからたんたんと報告される。
「ねぇ、兎。流石に敵弱すぎじゃなかった?いや…これはあれか!兎が強すぎて敵が超弱く見える第三者視点のアレか!」
「そそそそう…私にかかれば…い、イチコロよ…」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
とは言ったものの正直、今回戦った敵機一体一体が今まで戦ってきたどの敵機よりも強かった気がする。
連携も素晴らしく、長引けば長引くほど連携に足をからみ取られて危なかったかもしれない。
初手で必殺技は正解だったか…。
よかったぁ…。
「ねぇ兎。兎ってnew orderって呼ばれてラウンダーなのに、これのランキング15位なの?」
「ちちち違う…わわ私1位…」
「あー今回の秒数のランキング的な奴か。ところで最高何秒なの?」
「3秒…」
「ぷぷぷっ…ちょっ、アハハハハハッ!それバグ使ってない?ふふふっ。」
「ちちち違う…永遠に必殺技攻めしたら3秒台行く…」
「フハハハッ!アハハハハハッ!お腹痛い…。何シュミレーションでRTAしてるの…ハハハハハッ!」
「げ、げげゲーマーの性です…」
そんな何気ない話をしているとコックピット内に六防ネネが率いる第三師団本部から連絡が入った。
——————[ヴェルサイユ周辺海域に連合のベクター5機が確認された。予定通り2人のラウンドは各位発艦準備に入って下さい。]
第三師団の指令本部から回線を通して直接指示が入った。
「よよよ予定されてた仕事の時間来ちゃった…」
私はコックピットのハッチを開けフブの服に付けていた安全ロープのカラビナを取る。
「頑張って来てね!今晩はフブ特製デミグラァスゥハンヴァ〜グだよぉ〜!」
そう言いながらフブはコックピット内から外へ飛び出し、スフィア専用整備足場の上で私に大きく手を振っている。
——————プシューンッ…ガチャンッ。
私は手を振り返しながらコックピットのハッチを閉める。
——————《発艦出口までレーンαを経由します。所定の位置に着くまでお待ち下さい。》
いつも通りスフィアからは無機質な人工音声のアナウンスが流れる。
私は操縦席に座り今回の仕事仲間のもう1人のラウンダーネネさんに回線を繋ぐ。
「あああのネネさん…」
———[何よ。]
「お、おおおはようございます…」
———[おはよ。]
この気まずさには原因がある。
本来、私がnew orderだ、と言うことは六防のネネさんすら知らない機密情報だったのだが、1週間前、普通にバレた。
簡単にバレた。
ネネさんのまるで名探偵かの様な推理で見事にその正体を言い当てられたのだが、まぁそんな話は置いておいて今は仕事だ。
——————[パイロット03番発艦開始して下さい。]
———[はぁ〜い。03番出ま〜す。]
パイロット03番はネネさんのパイロットナンバーだ。
ついでに私のパイロットナンバーは無い。
まぁ色々あって私にパイロットナンバーを振り分けてしまうと身元が割れやすくなってカクカクシカジカ、リスクが高まるのだとか。
まぁ素直に私もかっこいいからナンバー欲しい…。
「わわ私の発艦は…」
——————[03番を先に敵隊へ近づけさせ、奴らを分隊させその後、貴官を発艦させます。なので、もう少しお待ち下さい。]
「あ、はい。」
別に焦ってるとかじゃないんだけど、なんかこう…こう...こう...ねぇ...言われると恥ずかしくなってしまうのはなぜだろうか…。
べ、別に焦ってないんだからね。
早く仕事終わらせてフブ特製ハンヴァーグを食べに行きたいとかそーゆーんじゃないんだからね…。
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アレから大体2分程の時間が流れただろうか。
その時は突然、訪れた。
——————[new order発艦用意。発艦まで.5.4.3.2.1.レーン解放、発艦。]
「いいい行きます…」
私はレーンから勢いよく飛び立ち、事前に聞かされていた敵機の場所へ向かう。
私の相手はネネさんから分隊したベクター4機だそうだ。
正直、今回はたった5機だけで攻めて来た連合の目的がわからない。
故に、最新の兵器かもしれないという事で万全をきして私、new orderが出ることになった。
いつ222が攻めてくるかわからないタイミングでのうのうと私が出るのは非常にリスクなんじゃないか、と思う人もいるかもしれない。
しかし、安心して欲しい。
都市側には最強の切り札、ツグネと言う人物がいる。
彼のギアは時間を無制限に巻き戻すことができる。
なので、どんな状況に陥ろうと都市側はまず負ける事は無いのだ。
「いた...」
私は遠目にベクター4機を確認して、すぐさま装備していたライフルを取り出し狙撃態勢に入る。
バーニアを完璧に操り空中でスフィア固定させる。
その時、デリカシステムから指摘が入る。
——————《狙撃にはブースターの使用を提案致します。》
「うるさい。ブースターだと、あっちも狙撃してきたら瞬発力足りなくてこっちが交わせなくなるだろ。」
——————《了解致しました。提案を棄却します。》
「一発で当てる。」
私はデリカシステムから提案をすべて無視し、自ら風速と軌道の計算をする。
この体はリアル世界の私の体と違って、ちゃんと頭で考えた通り動いてくれる。
「…。」
スコープを覗いているとターゲットが何かをこちらに投げてきた。
(いくら機械の力とはいえ、その距離は届かないだろ…)
そう思った瞬間投げられた何かはゆっくり速度を落とさずこちらに向かってくる。
本来なら放射状に下に落ちるはずの物体は重力を無視しているかの様に少しずつ距離を詰めてくる。
「よよよし、疑わしくは撃て、だ…」
仮にそれが核爆弾だったとしても、その時はその時だ。
きっとツグネが時間を戻して何とかしてくれる。
「なんッ…」
引き金を引こうとした瞬間、球体のように見えるそれはノーモーションで急加速した。
「ッ…」
それ自体に熱源反応や電気的な流れは検知されていない。
つまり、電気系統で作られたステレスミサイルや遠隔機動爆弾ではないという事だ。
なんで加速できる!?
物理法則を無視したかの様なそれを私は躊躇なく打ち抜い…
しかし、引き金を引く間もなく、球体のそれはあり得ないほどの速さに加速し私のスフィアの左胸を貫いた。
——————バキャッァッ!!!!!
「ッッッ!!!」
もし、デリカシステム通りブースターでホバリングしていたら胸のちょうど真ん中を貫かれていた。
「バーニアにしといて正解だったッ...」
そんなことよりッ、!!!
私は球体が通り過ぎた方向を見た。
それは周回移動都市の下位層へぶつかったらしい。
しかし、爆弾の様に爆発したりしていないことから最新のステレス核爆弾ではなかったらしい。
なら、あれは一体な…
そこで私は急いで敵機の方を振り向く。
(初見技で私に大ダメージを与え仕留めるつもりかッ!!!)
シュミレーションで私がした事そのままじゃないか!
油断していた。
「え...」
しかし、敵機はこの絶好の機会を捨て、後方へ撤退していく。
なんだ、一体何がしたいんだ?
このままだと私は撤退して新しいスフィアに乗り換えて、また出陣するぞ。
とりあえず、まぁいい。
どの道この状態ではまともに戦えない撤退し…
すると、先ほど都市に着弾した球体の方角から大量の鉄塊が豪速で飛んできた。
「ッ...!」
私は半壊したスフィアでも、なんとかそれを交わし球体の方を見る。
「あ、ぁぁ...この感覚…」
私はそれの正体を悟った瞬間、腑に落ちない最悪な気分になる。
そうだ私は“この攻撃”を知っている。
物理法則を無視したこの馬鹿げたチカラ...
メイトンだ。
ライフルのスコープから見えるその姿、
頭にボンボンを2つ付けたツインテールに赤いチャイナ服を着た背の小さな関西弁の怪物。
スコープ越しにそれが不気味な笑顔を向けて口パクしてくる。
『 ひ・さ・し・ぶ・り•や•な 』
私は撤退する前にメイトンを対物ライフルで狙撃した。
——————ズドンッッッッッ!!!
ドでかい弾丸はメイトンのいる周囲をえぐり取った。
これでメイトンを殺せるなんて1ミリも思っていないが、これほどの対物ライフルで撃ったんだ。
かすり傷ぐらいはッ...。
しかし、次の瞬間砂埃の中から再び鉄塊が豪速で飛んできた。
私はそれを避けた後、バーニアを限界まで絞り圧力を高め、その場を離れた。
今になって考えればわかる。
球体の中にメイトンがいて、その球体を内側から物理法則無視パンチで殴る事で変速的な加速を得ていたのだろう。
メイトンのパンチは自分側への反動なしにビルやコンクリートを破壊できる。
その上、有りとあらゆる兵器が全く通じない硬さをしている。
「メイトンッ…。」
撤退した後、新しいスフィアに乗り換え、私は再び発艦準備に入る。
——————[発艦用意。発艦まで.5.4.3.2.1.レーン解放、発艦。]
今度は初見技をされない様、警戒態勢MAXでいこう。
——————シュゴォォォォォォ!!!
戦場としては、ほとんど使われていない海中から死角をついて、ロスアク(ロストタイムアクセラレータ)を初手でキメよう。
次は油断しない。
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———あれから3日が過ぎた。
エヴァンテは教会の庭で、ため息と共にティーカップの置かれたテーブルに目を落とす。
「やってくれましたね…ダグラス•モニカ…」
それにエヴァンテの専属護衛セルフレリアという女がエヴァンテの対面に座りその言葉を返す。
「連合の強みの空軍部隊がほぼ無くなった状況下で更に主力のメイトンまでも導入してくるなんて、守備を投げ捨てたとしか思えませんね。」
「いや、あのダグラス•モニカの事です。きっとそんな自暴自棄な一手を打ってくるはずがありませんの…」
教会の広い庭には沢山の花が高い草木と共に迷路の様に植え付けられている。
女2人は太陽がサンサンと光る中、ティータイム用の小さなパラソルの様な建物の下で話す。
「まさか、メイトンの入った合金球体をベクターで直接投げてくるなんて…」
「えぇ全く…。new orderで無ければ、変速的な加速に対応できずコックピットを貫かれて即死だったでしょうね…」
「エヴァンテ様…メイトンは今、都市の中下層トワイライト5000にいます。」
「そうですわね…。しかし、いくらメイトンといえど今都市にいる師団4つに六防4人を相手するには分が悪過ぎると思うのですが…」
「…むしろ、その戦力差があればメイトンを殺す事だって出来るかもしれませんね。」
「しかし、下層で大人しくしているメイトンにこちらから攻撃を仕掛けるのもリスクが高すぎますわ…メイトンとぶつかれば師団の大半が死ぬでしょうね…」
「えぇ…あのメイトンが不気味なほど大人しくしている所を見るときっとそれもダグラス•モニカの作戦なんでしょうね…」
「ダグラス•モニカ、貴方は一体何を考えて…」
その時、エヴァンテは気づいてしまった。
「セルフレリア…。私、気付きましたわ。」
「ど、どうしましたか。」
「メイトンがなぜ攻撃を仕掛けてこないのか…」
「えっと…つまり…それはどういう…?」
エヴァンテはカップに注がれたフブ特製ココアを啜りながら言う。
「漁夫の利を敵陣の中にいながら狙うつもりなのでしょう。または都市側が弱った瞬間を突いてくる。またまた、222が攻めてきたタイミングでメイトンも動き出す…そう考えるのが自然でしょう。」
エヴァンテの神妙な顔にセルフレリアはいささか疑問の表情を隠しきれない様子で聞く。
「しかし、こちらにプレッシャーを掛け続けながら漁夫の利を狙っているとして、長期間滞在する為の物資などはどうなっているのでしょうか?」
「デリカシステムの報告によれば、合金球体の中に物資などは入っていなかったそうですわ。」
「まぁ仮に何かが詰め込まれてたとしてもnew orderの対物ライフルで粉々になってたしょうね。」
エヴァンテはからになったティーカップをテーブルに置き、セルフレリアの方を見ながら提案する。
「ダグラス•モニカの事です、きっと何かメイトンに物資が届く様、手を回しているに違いないですわ。なので、」
「…なので…?」
「少しメイトンとお話ししに行きましょう。」
「しょッ、正気ですか?!?!」
「あっ、流石に手土産ぐらいは持って行った方がかしら…」
「いや、そうではなく!あのメイトンですよ?!貴方はヴェルサイユ級 司教 エヴァンテですよ?ヴェルサイユの代理人ですよ?!間違いなく全力で殺しに掛かってきますよ!」
「まぁそうなるでしょうね〜…ほんとにどうしたものでしょうか〜…メイトンとお友達になれば解決するんですかね〜…冗談ですわ。」
人前では普段絶対に見せない、うだうだエヴァンテに内心興奮しているセルフレリアだが、きっちり専属護衛として、警告しなければならない。
「もし、メイトンの所に交渉に行くのならば師団、六防、ロード、スフィアを集めれるだけ集めます。」
しかし、その言葉を聞いたエヴァンテはセルフレリアの額にデコピンし、その体を仰け反らせた。
——————パチンッ!
「ァイッタッ!な、何するんですか…エヴァンテ様…」
エヴァンテは優しい表情で物静かに言う。
「そうですね。都市の代表者としては、そうするのが正しいのでしょう。しかし、最適解をなぞればなぞる程、ダグラス•モニカの術中にハマっていくのが目に見えますわ。」
「そ、それもそうですがっ…」
「ダグラス•モニカや兎様に合って、私に無いもの…それが何かわかりますか?」
唐突な質問にセルフレリアは狼狽える。
「そ、そんな…とんでもございません…」
しかし、その答えにエヴァンテは少し眉をひそめる。
その様子を見兼ねたセルフレリアは無理やり答えを絞り出す。
「失礼を承知で申し上げますと…“頭の良さ”でしょうか…?」
「ふふっ、こうハッキリと言われてしまうと心に来るものがありますわね。ふふふっ。」
「す、すみませんエヴァンテ様!大変な無礼、ここにお詫び申し上げます!」
「私が言わせた事です。お気になさらずに。実際あの方々の知能は私方を遥かに凌駕しているのも事実です。しかし、セルフレリア、貴方のその答えは少し違います。」
「その答えとは…何でしょうか…」
「最適解から外れた動きが出来るか否か、合理性の外側へ出れるか否か…。私が逆立ちしても辿り着けないその駆け引きへ、一歩踏み出す時が来たという事ですわ。」
そんな事を言うエヴァンテに対し、セルフレリアは心の中で呟く。
(ダグラス•モニカや兎様も、人智を超えた物をお持ちになられているのは周知の事実ですが…エヴァンテ様、貴方も大概ですよ…)
しかし、セルフレリアは決してそれを口には出さない。
既に人である事を辞めさせられたエヴァンテに“人智を超えた”など言えるはずもない…そう思ってしまったからだ。
——————「エヴァンテさんとセルフレリアさん、こんな真昼間から何してるんですか?」
そんな会話に割り込む1人の物腰柔らかい青年。
「あら、タフナ様ですか。私方は鳥の囀りを小耳に午後のティータイムをしている所ですわ。」
「随分優雅な午後をお過ごしになられてますね…」
「タフナ様も是非、一杯いかがですか?」
「いえ、僕はこれからツグネさんと共に対人訓練の予定があるので。」
「あら、残念ですわ。」
タフナが早々とその場を離れようとしたその時、何かを思い出したかの様にもう一度体をエヴァンテの方に向けた。
「時には、ムチよりアメの方が有効的な事もあります。有効的な作戦を友好的に進める…。きっとメイトンは都市の地下で娯楽に飢えていますよ。では、」
そう言った後、タフナはその場を後にした。
突如放たれたなんて事ないアドバイス。
タフナは女2人の会話を聞いていなかったにも関わらずその内容を見透かした。
セルフレリアは見透かされた事について若干の悔しさを顔ににじませ、その言葉を飲み込みきれない表情でエヴァンテに言う。
「…つまり、メイトンは都市と222のどちらかが動き出すまで、アクション出来ないとして…えーと…その…今めちゃくちゃ暇してるって事ですかね…?」
「流石、ツグネのご親友のタフナ様…。目の付け所が違いますわね…」
「えっと…メイトンに暇を潰せる娯楽を与えて、動きに制限をかける…という事ですか?」
何か腑に落ちない表情でエヴァンテは指を顎に付け話す。
「…確かにメイトンもやる事がなければ、都市側にとってデメリットになる様な行動ばかりするでしょうね…。娯楽を与える事で制限…ですか…」
「ニュアンスが難しいですね…」
「ですわね…」
「やはり、現代人の発想はとっぴですね。エヴァンテ様。」
その言葉にエヴァンテは友人に話す様な柔らかい声で顔を緩め言う。
「5000年の老廃物が脳を詰まらせているんですかね、困ったものですわね。ふふっ。」
その表情には5000年間の苦悩と罪と幸せが含まれていた。
「エヴァンテ様。そろそろ大聖堂の準備も大詰めになってきましたね。」
「そうですわね。222との決戦も近い事ですしっ、頑張りますわ!」
エヴァンテが張り切る声で椅子から立ち上がったその時、都市に鐘の音が鳴り響いた。
——————ゴーーーンッ。ゴーーーンッ。ゴーーーンッ。
セルフレリアはそれに驚き周りをキョロキョロ見回している。
比較的不老になってから、まだ若いセルフレリアと違いエヴァンテはその鐘の音が意味する事を知っていた。
「222からの宣戦布告を受け取ったヴェルサイユが都市の皆に警告しているのです。」
エヴァンテのその言葉にセルフレリアは困惑しながら返す。
「な、何と警告しているのでしょうか…」
エヴァンテは空を見上げた後、セルフレリアに視線を落とし優しく教える。
——————「“もうすぐ”だそうですわ。」
[小話]…第三師団指令本部から聞こえるnew orderの声は加工された声になっています。
new order→指令本部 (加工ボイス)
new order→ネネ (加工なしボイス)
[小話]…new orderの時だけ発艦合図が少し違います。デフォルトの発艦合図なら
[5.4.3.2.1.発艦。レーン解放。]なのですが…。
new orderの場合は
[5.4.3.2.1.レーン解放、発艦。]です。
理由はnew orderの発艦速度が速すぎて最初にレーンを解放しないと激突してしまうからです。




