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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]周回移動都市ヴェルサイユ〈本編〉
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〔第53話〕ヴェルサイユ周辺海域線戦

小話なのですが、連合側の人間は周回移動都市とヴェルサイユをごっちゃにしてる感があるんですが、ヴェルサイユ陣営の人間はヴェルサイユと周回移動都市をきっちり区別して言い分けています。


 



 団結とは怖い物である。


 人々が同じ意志を持って集い、歩み始めれば誰だって心躍るもの。

 それは戦争をも前向きにしてしまうほどに恐ろしく無垢で純粋なのだ。

「戦争は悪である」と言い切ってしまうほど私は馬鹿ではないし、楽観的な価値観を持ち合わせていない。

 もちろん、戦争は悲惨で凄惨的な行為に過ぎない。

 が、人々はそこに至るまでのプロセスに目を向けずただひたすらに己の希望を懇願するだけ。

 そうなったのが己のせいだとも知らず…。


「 大きなチカラを持てば使わずにはいられない愚かさに嘲笑を、チカラを望まない無知暴虐(むちぼうぎゃく)な無責任に鉄槌(てっつい)を。


 今、撃鉄(げきてつ)は落とされた。


 さぁ、戦いの(とき)だ。 」



 豪華な台の中央に立ち演説するその女は周回移動都市きっての権力者。


 ヴェルサイユ級 司教 エヴァンテ


 御言葉は周回移動都市に住む全ての市民全員に電子機器を介さず響き渡る。


 愚かさを自覚しながら彼女は叫ぶ。






 ——————————————————#####



 連合が行ったヴェルサイユへの大攻勢から1週間後、再び連合はヴェルサイユへの侵略を開始した。

 しかし、今回はラスター•エネ•ウォンスキー含めベクター5機が2人の人物、“連合の主力メイトン”と“新生の怪物ベック”をヴェルサイユへ運ぶためだけの作戦を遂行している。


 首相、ダグラス•モニカから俺への指令はたったひと言「メイトンとベックは衝撃に強い。最悪、ベクターで2人をヴェルサイユへ向けて全力投球しろ。」だそうだ。

 いつも超精密な指示を事細かく、口酸っぱく言ってくるダグラス•モニカがなんと雑な…。

 最近忙しいから疲れてるのかな?

 まぁ付き合い長いし、モニッさんはたまにこう言うからなぁ…。


 …信頼されてると捉えよう。




 ———[大隊長!!!エネルギー消費(しょうひ)が想定の3倍以上です。]


「バーニアを極力絞って圧力を高くしろ。」

 ※バニーア…ジェットエンジンのノズル〈色々省略説明。〉


 ———[そんな事すれば推力がパンクします。]


「オートマじゃなくてマニュアルで動かすんだよ馬鹿野郎。先輩パイロットの方が燃料長持ちする理由はそれだ。」


 ———[やってみます。]


「あぁ、お前ならきっとできる。」


 ———[…了解。]



 ヴェルサイユに向かう為、海上を滑走するベクター5機。

 海面からの距離は50メートルぐらいだろうか。

 少しでもレーダーに見つかりにくくする為、低空飛行している。


「海中から急接近反応あり、多分例のここら辺にいる感染クジラだろ。避けろよ。」


 ———[了解。]


 次の瞬間、海面からの30m(メートル)級のボロボロのクジラが顔を出した。



 ——————キュィィィィィィイイイイ!!!



 ——————ザッブーーーーッン!!!



「おっと…なかなかの大物だなこれは…ふっ、これで撃墜された馬鹿タレは居ないな。」


 ——————[大丈夫ですよ。ラスターさん。]

 ——————[なかなかに迫力がありましたねぇ。]

 ——————[まるで花道っすね。]

 ——————[撃墜された馬鹿は居ないようですラスターさん。]


「おう。お前ら…死ぬなよ。」



 ——————[[[[了解。]]]



 ラスターのその言葉にどんな感情が込められていたのかは回線越しでは伝わらない。




 ——————【報告。オープン回線からコンタクト意思を確認。】



「…何だ。オープン回線か…。おい、お前ら今からオープン回線を繋ぐ余計な事喋るなよ。」


 ———[[[[了解。]]]



 ——————ジジジッ。



 ———《こちらヴェルサイユ第三師団。オープン回線で警告する。今君達はヴェルサイユ周辺海域に侵入した。警告する…ってほんとに君達は懲りないねぇ。1週間前痛い目にあったじゃないの?》



「あー、あー。こちらオープン回線、聞こえているか。」



 ———《君は…ラスターか。今回はベクターたった5機で何しにきたんだい。》



「ハッ。それは言えねぇな六防のネネさんよ。」



 ———《名前だけが独り歩きしてるわね。まぁいいわ。今回は私1人が相手しよう。生きて返すつもりはないよラスター。》



「今回、new order(ニューオーダー)はお預けか?」



 ———《チッ。全員new order(ニューオーダー)new order(ニューオーダー)ってうるさいだよ。私倒してから言えよってね。》



 その言葉を皮切りにラスターはオープン回線を切り、5人の仲間に指示を出す。


「高度を上げろ。相手はヴェルサイユの六防だ。1手間違えたら確実に死ぬぞ。」



 ———[[[[了解。]]]





 ——————————————————#####


 海上の上から一気に高度を上げるベクター5機。


 ———[ラスターさん、今回は俺もお供し…]


「ダメだ。俺1人が六防の足止めをする。その間にメイトンとベックをお前らがヴェルサイユへ運べ。」


 ———[しかしッ!]


「お前らが早く仕事終わらせてくれりゃぁ、俺もすぐ離脱できるからよぉ。」


 ———[そ、そうですね…。…了解。幸運を。]





「ったく…俺もなかなかにイイ奴になっちまったな。」



 1人でそう呟くと同時にコックピット内に警報音が鳴り響く。



 ——————【前方にスフィアと思わしき飛翔体確認。】



「…来たか。六防。」


 それと同時に5機のベクターはラスターの機体を除き旋回してバラバラに散る。

 幸い警告通り、ヴェルサイユ側は六防のネネ1機で突撃してきたらしい。



 ———《自分を囮に仲間を逃す…ね。君そんな良い人だったっけ?いや…逃した訳では無さそうだね。》



 再びオープン回線から声が入る。

 その声は何度もラスターと連合を死の淵に追いやった事のある、ヴェルサイユのエースパイロット、ネネの物だ。


「鼻っぱし折られて気づいたんだよ。俺の命でお前()()()を止められるなら、安いもんだってな。」



 ———《は?わけわかんない。》



 ラスターのコックピット内から見える景色…。

 ヴェルサイユのスフィアが離れた場所で急上昇し、飛行機雲を残しながらフレアを扇形になる様にばら撒いている。

 まるで花火を空中に落としていく様なその行動にどんな意味があるのかラスターにはわからない。


「いっつもやるなアレ、ルーティーンか…?…ふっ、まるで開会式みてぇだな。」




 一方、ネネはバーニアを極限まで絞り、ブースターを全開に開いて推力を上げラスターに急速接近する。

 ※ブースターは主に移動やホバリングする為に使う推力機。

 ラスターは逆に全ての推力を急停止させた上で海中へ落下した。



 ———《…なに。》



「海中では火器の意味無くなっちまうぜ…(今回の目的は時間稼ぎだ。たっぷり時間食わせてもらうぜ…)」



 ———《ふははっ、私そーゆーの好きよ。》



 ——————ドゴォォォォオン!!!



 ネネは水中にミサイルを撃ち海面を揺らした後、全速力でラスターの後を追い入水する。



 ——————バッシャァァァァァッン!!!



「なッ!!!」


 水中戦にも対応できる様に考えられたベクター。

 いつもその場を離脱する時や、戦闘を避ける時に度々海中に潜ったが後についてくるスフィアは今まで一機もいなかった。

 しかし、今回は違うらしい。



「チッ、スフィアって水中潜れたのかよ!!!」



 ———《君、今日は逃げられないと思え。》



「ぐッ!」


 ブースターやその他、推力を生み出すバーニア、エンジン、ブースターなどは水中で使うには故障リスクが高過ぎる。

 戦場において故障とはイコール死を意味する。

 エンジンや、火器が使えなくなった以上、ベクターとスフィアは成り行きで取っ組み合い状態になった。

 スフィアはベクターの顎を殴りつけようとする。

 しかし、水中での圧力が打撃の勢いを相殺しソフトタッチになる。


(結果的に良い時間稼ぎになりそうだなッ。)



 ———《ふふっ…こんな泥試合いつぶりだろか。なァ!》



「楽しんでくれて光栄だよ嬢ちゃん!!!」



 ———《こっちは千年単位の歳上だぞォ!》



 水中で柔道の様な揉み合いに発展するが、ラスターのベクター水中訓練にて培われた対人戦術が有効だになりネネを圧倒する。


「この勝負貰ったァッ…」


 ———《…ふっ。》


 しかし、ネネはバーニアを点火させた。


「なッ!?!?」


 ネネの極限まで絞ったバーニア操作、

 その一瞬の推力でラスターを後方へ吹き飛ばした。


「グッ!…ばッ、馬鹿なッ!!!」


 バーニアの絞りが少しでも甘ければ射出高から水が入り、スフィアがオシャカになる。

 最悪、燃料と水が混ざり水蒸気で機体が爆発するかも知れないのにッ…。

 それをコイツはこの窮地で平然とやって退けたッ…!



 ———《君とは経験の差も覚悟も違うんだよ。》



「な〜にが覚悟だァ…」


 ハッ、ガキ扱いされたのは何年ぶりだ…。

 …俺は甘かった。

 目の前に居る奴がnew order(ニューオーダー)じゃない、それだけで俺はどこか安心していた。

 だが、思い出せ。

 new order(ニューオーダー)が現れるよりずっと前から…。

 いつだって空軍の戦場を支配してたのは目の前のコイツ(六防のネネ)だった。


 あぁ、時間稼ぎなどと言う甘い考えは捨てろクッソォ。



「気張れよ。ベクターァァァァァア!!!」



 ラスターはバーニアを極限まで絞りその推力で一気に急速発進する。


 ———《やるじゃんっ。》


 しかし、ラスターはネネに攻撃を仕掛ける訳ではなく水中から海面へ向かって飛ぶ。



 ———《何…?》



 ——————バシャャァァァッン!!!



 速度を落とさず海面から空へ飛び出したラスター。



 ———《自らリーチを捨てただと…》



 ラスターはそのまま高度を上げ続ける。



「ぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



 移りがわりする景色に情報酔いしそうになりながらGに耐え、雲の上まで上がってきた。



 ——————プシューーーッ。

 ——————【バーニアを強制停止、緊急冷却を開始します。】



 過度な負荷に耐えられずバーニアにリミッターが掛かる。

 しかし、ラスターはバーニアどころかホバリングする為のブースターをも()()()()()


「ここでお前を倒し切るッ…反転攻勢だ!!!ベクターァ!!!バーニア再点火だァ!!!」


 緊急冷却され始めたバーニアを無理やり起動させる。

 全推力を使った瞬間、燃料が少し爆発を起こしコックピットが激しく揺れた。

 しかし、ラスターはその爆発すら推力に変え真下へ進む。



 ——————ブォンッ!!!



 音速を超えた時点でソニックブームが起こった。

 一方、ネネは海中から這い上がり、前代未聞のアクションを起こすラスターにワクワクしながら空を見上げ様子を伺う。


 ———《捨身の攻撃(自爆特攻)か…?》


 ネネはスフィアに搭載されてある全てのフレアを使い空に眩い光を作り出す。



 ——————ブシュンッ、ブシュンッ、ブシュンッ!!!



 ———《見えない私にそれが当たるかな。》


「チッ。」


 ラスターはベクターに装備されてある全てのランチャーをぶっ放し、そのフレアを爆風で弾いた。


 ———《うっはぁ…速度増し増しで良く座標狂わないね…。これはもう脳筋頭脳パワー系だな…》


 ラスターは音速から更にスピードを上げ、その結果マッハ3まで到達した。

 ネネは衝撃に(そな)えて、全エンジンを回転させ始めた。


 ———《バーニアもブースターも点火準備。さぁ何がくるかな。》


 ネネが行っている準備は衝撃を螺旋状に逃す為の策だ。

 本来は弾道ミサイルや爆弾、ナパームに対処する為の戦術的方法だが、今回の相手はベクターだ。



「耐えろ、ベクターァァァァァア!!!」


 マッハ3を越え様かというその時、ラスターはネネのすぐ近くまで迫った。

 ネネは直前まで直撃を回避しようとする動きを見せたが、着弾位置を自ら調整できる様にわざと被弾する事を選んだらしい。

 やはり、この判断ができるパイロットは相当の実力者だな。


 ———《ォォォォォォォオオオオッ!!!》


「だらァァァァァァァアッ!!!」


 しかし、ネネの狙いとは裏腹にラスターのベクターは着弾直前に爆発した。



 ——————ドゴォォォォォォォォッン!!!



 ———《な、爆ッ…》



 ネネは螺旋状に後方へ後退しながら爆発の勢いを相殺しようとするが追いつかず、勢いのまま数百m(メートル)吹っ飛ばされた。

 何度も何度も海面にぶつかる事でようやっと勢いを相殺でき、海面に飛沫を作り出す。


 ———《はッ、初めてくらったわ…ナニコレ…》


 頭を上げ、爆発した方を見る。

 燃え上がる爆煙と所々に散らばる小さなベクターの破片。

 煙が強くて肝心のベクターが見えない。

 念の為、ベクターの破損具合とラスターの生死を確認すべくブースターを点火しようとするが、動かない。


 ———《今のくらって、ブースターが死んじゃったな…》


 しかし、数秒後爆煙の中から、スフィアの胸めがけてレーザー砲が放たれた。



 ——————バリバリバリッ!!!



 ネネは今まで培ってきた経験から反射的にそれを交わし、更に距離を取る。

 爆煙の下の海中に一つの影が見えた。


 ———《潜ったかッ…?》


 ネネはすかさずそれに向かって装備していた機関銃をぶっ放す。



 ——————ドドドドドドドドッ!!!



 しかし、その影は止まる事なく海中からこちらへ高速で向かってくる。


 ———《ブースターが壊れた以上、バーニアを酷使する訳にもいかないッ…さぁ私、どう対処する。》


 ホバリングする為のブースターが完全に壊れた今、瞬発力のバーニアだけで戦わなければならない。

 今回、ネネの操作するスフィアはそれら2つ以外の推力持ち合わせていない。


 ———《かァーッ!ターボエンジン詰んどきゃ良かったぁ〜ッ!》


 海中からネネの真下に影が迫る。


 ———《水中では使えなかったけどッ量子演剣(りょうしえんざん)!!!》


 ネネはスフィアに装備していた刃先が青白く光っている短刀を構える。



 ——————ザパァァァァァァッン!!!



 ———《甘いわッ!!!なにッ…》



 海中から飛び出してきたのはラスターのベクターではなく、ゾンビウイルスに感染した鯨だった。

 ネネが鯨を一刀両断した後、すぐラスターの姿を探す。


 ———《いないッ…どこだ。》


「好奇は作り出す物、チャンスは掴む物。そしてソレを逃さない事ッ」


 ラスターは1人でにそう言った後、爆煙の中からライフルで物理硬質弾(ぶつりこうしつだん)を発射した。


 ———《一歩も動いていなかっただとッ?!(なんて根性してやがッ…)》


 ネネはそれに脊髄で反応してスフィアの体を逸らさせる。

 が、間に合わず左肩から先が吹き飛び海面を揺らす。


「チッ…これも避けんのかよッバケモンが…」


 ———《なんでマッハ3超で海に衝突しるのに君はピンピン生きてるんだッ!》


「マジックは種明かししないから面白いんだぜ。」


 ———《マジックで済ませて溜まるかァッ!!!》


 なぜ、コイツはのうのうと俺の声に返事できてんだ。

 いくら衝撃を逃すのが上手くても流石に骨の一つや二つ折れてるもんだぜ…。


「お前もスフィアも流石にそんな体じゃ、バランスが取れねぇだろ。」


 ———《ふふっ私、最近負けっぱなしね。》


「違ぇよ。死んでねぇ限りは負けてねぇ。じゃぁとっとと撤退してく…」


 ———《それでも………勝つよ。》


「はァ?!」


 ネネは左腕と胸部の一部が吹っ飛んだ状態のスフィアでベクターの元へ突っ込んだ。

 右手には量子演剣(りょうしえんざん)を構え、切り掛かる。


「無理すんなよッバケモン!!!」


 ———《これぐらい幾千も経験している!!!》


 ラスターの方は爆煙の中から後退し、ネネと距離を取ろうとするがさっきの自爆ミサイル落下攻撃でバーニアがオーバーヒートを起こし、鋼鉄が溶けてオシャカになっている。

 ブースターだけでは瞬発力が足りず、スフィアに一瞬で距離を詰めらる。



 ——————ガキンッ!!!



 ネネの量子演剣(りょうしえんざん)とラスターの物理硬質盾(ぶつりこうしつたて)がぶつかり合う。


「こっちは剣なんて代物(しろもの)持ち合わせていないもんでなぁ!!!」


 ———《嘘だな。ベクターには短刀が装備されているはずだ!》


「チッ、知ってたか…不意をついてやるつもりだったが流石年寄り…」


 ———《年寄りって言うなクソガキィ!!!》


「じゃぁ何て呼べばいいんだよォックソガキィ!!!」


 長距離移動やホバリングする為のブースターを失ったネネと、瞬発的な推力を生み出すバーニアを失ったラスター。



 《「それぞれ無い物が反対だか、《私》俺が勝つ。」》



 ——————ガキンッ!!!



 ラスターは盾と短刀を交互に使いネネに猛攻を仕掛ける。

 しかし、ネネも負けずと長年訓練で培ってきた体術で対処する。


「ぐっ…お前体術もいけるクチか…」


 ———《次の一手で殺し切る。》


「余命宣告ってか。…いや、宣戦布告か?違うな…。再度通告か…?」


 ———《締まらないやつだな。死ね!!!》


 ネネはその言葉と共に右手に持っていた量子演剣(りょうしえんざん)を軽く放り投げ口に咥えた後、そのままベクターの頭部へ刺した。


「ガハハハッ!ベクターのコックピットは胸部だぜ六防さんよ!!!」


 チャンスと言わんばかりにラスターはスフィアのバーニアを捻り潰す。



 ——————ベキッ!!!



 しかし、ベクターの損傷も大概で、これ以上の戦闘は機体が耐えられないと判断しラスターは撤退を選択する。

 幸いネネの機体とは違い長距離を移動する為のブースターは生きている。


「じゃぁな。六防。また今度決着つけようぜ。」


 飛び去ろうとしたラスターに向かってネネは海面に漂いながらただ量子演剣(りょうしえんざん)をラスターへ向けた。


 ———《行ったはずだ、逃さないと。》


 嫌な予感が背筋をなぞり、どこぞの死神がラスターを振り向かせる。


「何をするつも…」





 ———《ロストタイムアクセラレーター。》





 ——————ジジジッ。





 その瞬間、ラスターの目の前にスフィアが一瞬で距離を詰めてきた。


「ばッ、馬鹿なァッ!!!」


 スフィアの手に持っていた量子演剣(りょうしえんざん)がベクターの肩に刺さり右腕の可動が効かなくなった。



 ——————ガシッ!


 ラスターは肩に刺さった量子演剣(りょうしえんざん)を振り落とし、スフィアを睨む。


「何なんだそれッ…」


 ネネは破壊されなかった腕と足で、がしっりベクターを掴み頭突きをしまくる。



 ——————ガンッ!!ガンッ!!バキッ!!バキッ!!



 何だ…俺は何をされた。

 何だロストタイムアクセラレーターって言ったのか?

 何だそれは。

 なんでバーニア破壊したのに距離詰めれんだ…

 今の瞬発力、俺がさっき出した最高速度マッハ3超を優に超えていたぞ。

 それにソニックブームも起きなかった…物理法則を無視しているッ…。


 ———《今回ッ!君はァッ!初見殺しでェ!私を潰しただけでェ!実力で勝負してないだろ!!!》


 痛い所を突くな。

 いやいやいや、そんな事より逃げなければ。

 この底の知れないバケモノから身を隠さなければ、今度こそ俺は死ぬ。


 覚悟を決めたその時、連合の回線からラスターへ連絡が入った。


 ———[こちら司令本部からの報告。分岐中の4機任務完遂(にんむかんすい)につき、そちらへ援護に向かわせる。30秒耐えろ。ラスター。]


「給料袋ワンサイズ上げろぉッ馬鹿野郎ぉぉぉぁ!!!」


 ラスターは怒鳴り声と共に考える。

 体に巻きついて離れないスフィアを自分のブースターを使って諸共爆破させようか迷う。

 そもそも今のベクターにこのブースターを爆破させられるほどの衝撃を出せるのか…?


 いや、仮にできたとして、それをしちまったら今度こそ俺は爆散しちまう…どうするどうする。



 ——————バキッ!!!バキッ!!!バキッ!!!



 コックピットのある胸を無理やりこじ開けようとひたすら頭突きと殴りを繰り返してくるネネに恐怖を感じる。


「チッ…」


 時間がない。

 どうする。

 どうする。

 どうするッ…。


 ラスターはとりあえずブースターを点火しようとするが点火しない。



「クッソォッ!お前ッどさくさに紛れてブースター取ってやがったなッ!」



 ———《気づくのが遅いぃぃッ!!!》



 滲み出る経験の差を痛感する。




 ——————シュゴォォォォォォッン!!!




 遠くから聞こえてくるミサイルをベクターが感知した。

 それと同時に連合の回線から仲間の声が聞こえた。



 ———[ラスターさん大丈夫ですか!!!こちら4機何事もなく任務完遂致しました。援護します!]

 ———[す、凄い…ヴェルサイユのエース機をあんなボロボロにッ!]

 ———[今助けますラスターさん!!!]

 ———[皆、対象のスフィアからラスターさんを引き剥がせ!]



「助かっ…」


 いや、ご都合過ぎないか…。

 これはアニメや漫画じゃないんだ。

 死にそうな時にヒーローは来ないし、運で生き残ったりしない。


 俺は知っている。


 コイツ(六防のネネ)の怖さを知っている。

 だからこそ言える。

 何か、何かおかしい。

 それが何かわからないが、おかしい。

 ただの勘でしかないが、ヒリヒリと肌に感じるこの感覚は…罠だ。



 ———《来なよ。》



「やめろッ!止まれぇぇぇぇ!!!」



 ネネは俺の側から離脱した4機のベクターの事を把握していたはずだ。

 そして任務を終え、いずれ来る救援のタイミングをヴェルサイユの通達から把握していないはずがない。

 だって、ここは“ヴェルサイユの周辺の海域だから”。


 何となく、何となく、

 ふっと思ってしまった。



 俺がヴェルサイユ側だったらこのタイミングで…




 ——————【海中からスフィアを一機確認。急接近中。】



 気づいた時にはもう遅い。

 オープン回線から微かに聞こえた若い女の声はさっきまで話していたネネの物ではなかった。

 しかし、俺はその声の主を直感した。





 ——————《一方的な時間(ロストタイムアクセラ)的攻撃(レーター)





 new order(ニューオーダー)だ。



先出し情報にはなりますが、ネネのロストタイムアクセラレーターと、ニューオーダーのロストタイムアクセラレーターは表記が違います。その理由は“不完全なワザ”か“完全なワザ”かの違いです。振り仮名振られてるロストアクは完全なワザ、振られてない物は不完全なワザです。わかりにくくてすみま麺。ラーメン。


【現地に到着した時点で仕事の8割は終えている。それ程までに訓練された兵士。】


【能力の無い奴が能力のある奴に嫉妬している時間があるのなら、その隙間を埋める何かを探せばいいのに。正論は嫌いだって?あぁ、目的地までの道が見えてしまったらもう自分に言い訳できないもんね。】


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