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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]周回移動都市ヴェルサイユ〈本編〉
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〔第52話〕連合と戦争と朝ごはんにデザート

今回の話は連合視点でお送りいたします。

 

 狭い部屋には大人一人がぎりぎり寝れるベッドとテレビ一台。

 少し開けた窓からは柔い風がカーテンを靡かせる。

 この部屋の窓は三重窓になっており、外から1枚目は鉄格子、強化ガラス、通常のガラス窓になっている。

 しかし、ここは牢獄ではない。


 薄暗い光が部屋を照らす。


 そんな中、ベッドの先に置いてあるアラームが朝を知らせる。



 ——————ジジジジジジジジジジッ!!!



 ベッドに寝ている30代の中年まじかの男がアラームをノールックで押し止める。


 アラームが鳴き止み、再び快適な眠りにつけると確信した途端、昨日付けっぱなしにして寝たテレビのCM音が耳に刺さる。


 ——————[旧世界を止まらず走り続ける巨大鉄塊通称(つうしょう)連合列車。

 1箇所に留まる事なく走り続ける事で感染者(ゾンビ)P個体(パワー個体)人間()からの奇襲を困難なものにしている。

 年に数回の休息地点(国交貿易駅)から食糧や燃料を大量に買い込み、再び次の休息地点(国交貿易駅)まで走り続ける。

 それを可能とする巨大な鋼鉄で覆われた列車、デリカシステムを搭載。

 しかし、何よりも大事なのは“人間”。

 人材こそが連合にとって最も重要なのです。

 その為、連合では逃げ場がなくなってしまった難民を休息地点(国交貿易駅)で回収しています。連合国連邦。]


「うるぅっせぇな…!あっ…まずい…遅刻だ…」





 ——————————————————#####



 ラスター•エネ•ウォンスキー、彼は昨日(さくじつ)多くの仲間を失った。

 ラスターは所有するベクター部隊の大半を損失し、その上、連合にたった数機しかない()()()()()()0()2()()まで失った。


 1日で連合の空軍主力部隊を失ったと言っても過言ではないだろう。


 昨日(さくじつ)そんな悲惨な出来事があったというのに、仕事は相変わらずラスターを待ってくれない。

 朝イチから大会議室へ集合をかけられた。 

 正直だるい。




 ——————ガチャッ。



「ふぁ〜…失礼しま〜す。」


 だるそうな眠むそうな態度で会議室に入る。


(ハァ…上層部が揃いに揃ってやがる。1000人はこの会議室にいるか…?)


「汚ったねぇ顔ぶれだぜほんと…おっと心の声が漏れちまったぜ。」



 [おい、聞こえとるからなラスター。]

 [誰に物を言っているのかわかっとるのか?!]

 [調子乗りやがってガキが…]

 [昨日大敗した奴の態度じゃないな。無様じゃ。]



 飛び交う罵倒を無視し、ラスターは空いていた適当な椅子に座る。

 途端、大会議室が薄暗くなり部屋の中央にある大きなスクリーンに映像が流れ始めた。



 ——————ザザザザッ。



 スクリーンに映つし出される、昨日破壊された戦艦内の司令本部の映像。

 広い空間の中央に立派な軍帽を被った男が1人立派な席に座っている。

 その周りには数十人の戦艦操作技師が仕事を全うしている様子が伺える。




 ——————————————————#####




「司令!ベクターの包囲網を潜り抜けマッハ3で飛翔体が迫ってきます!」


『何を言っている。いくら速かろうとベクターの包囲網を()(くぐ)れるわけないだろ。…いや、ヴェルサイユの新型ステレスミサイルの可能性も考慮しよう。軌道は?』


「予測軌道110から真っ直ぐ、本艦へ!30秒後に直撃予測!」


『戦艦内のベクターを出せるだけ出させろ。』


「了解!戦艦内待機中ベクター0942から1265直ちに発艦(はっかん)せよ!」


 司令本部の窓から見える巨大城塞(戦艦)から見た綺麗な空。

 そこからベクター数百機が発艦(はっかん)されてゆく様子が映像からでも確認できる。



「軌道予測送信。各自、座標につけ!着弾に備えろ!着弾まで15!」


 戦艦内に緊張が走る。


 窓から見える景色、ベクター達がミサイルの軌道予測から隊列を作る。

 それぞれのベクターが手に持った物理硬質盾(ぶつりこうしつたて)を構え、その身を賭して戦艦を守る様な陣形(じんけい)を取る。

 万が一にも、戦艦にミサイルが着弾しない様考えられた形だ。


『…くるぞ。備えろ。』


「着弾まで5秒。ッ?!」


『どうした?!』


「軌道が100度旋回した後、再度本艦に接近!!!」


『は?なんだその旋回は?!ミサイルじゃないのか!!』


「ベクターからの映像を解析!…ッえ?れ、連合のスフィア?!」


『馬鹿言えッ!!!マッハ3出せるスフィアがいるわけないだろ!!!50km(キロ)圏内包囲網ベクターは何をしている!!!』


「対象を望遠レンズで確認!き、来ます!!!着弾まで6…5…4…」


『戦艦から全てのベクターを出せ!早く!!!』


「間に合いませ…ッ!!!」


 一瞬だけ見えた戦艦司令本部の窓から見えた景色。

 そこにはスフィア一機が飛び蹴りの様なポーズで戦艦内へ侵入してくる様子が映っていた。

 もちろん、司令本部の大きさにスフィア一機がすっぽり入る訳もなく、無理やり体制を捻らせて窓から侵入してくる形になっている。

 一瞬の出来事だった。

 司令本部の人員が肉塊となり血飛沫を上げすり潰され、映像は終わった。





 ——————————————————#####




 ——————ザワザワザワザワ…。



 薄暗い会議室に動揺が走る。

 1人は悲鳴をあげ、1人はその場でゲロを吐き、そして1人はため息をつく。


「はいはい。戦場を知らない上層部は、か弱いねぇ。」


 やる気のないラスターの声が場内に響く。

 連合の上層部はそれに逆行し、再びラスターを罵倒し始めた。


「そもそもなぜ包囲網を突破されたんだ!お前がサボってたんだろ!!!」

「たかが一機に負けるなんてベクター連隊はなんて使えないんだ!!!」

「ラスターとエネの名に恥を塗るつもりか!!!」

「不敬罪で軍会議にかけてもいいんだぞ!!!」


 止まらない上層部の罵倒にラスターは嫌気がさした。

 マトモな指示も出せず、現場の過酷さを知らず、どんな無惨な結果であれ命を賭して国の為に戦った仲間の最後を愚弄(ぐろう)する。

 それでも、ラスターは(はらわた)()えくりかえる気持ちを抑え込む。


 ———だって、大人だから。


「爺さん達、そんな怒鳴ると血圧上がって脳の血管がプツンしちまうぜ。」


 ラスターのその言葉に場は(さら)なる盛り上げをみせた。


「ハッハッハッまるでロックスターのライブみたいだな。おい。」


 今にも大乱闘が始まりそうになったその時、ひときわ権威のありそうな大きな椅子から1人の男が立ち上がりスクリーンの前までゆっくり歩いた。


『この場にいる1000人の皆様の内、今の映像を見て嘔吐した15名は退出してください。これは命令だ。』


 その声でロックスターのライブ会場は冷めきり、会場はさっきまでのザワザワとした雰囲気へ逆戻りした。

 そしてその時、誰かの(ねた)みが場内にボソッと響く。


「チッ、最年少で首相になったからって調子こいてやがるガキが。」


 嘔吐した15人は席から立ち上がりぞろぞろと退出した。


『残った985名の皆様、スクリーンをご覧下さい。』


 それと同時にさっきまで悲惨な映像の流れていたスクリーンに数字の羅列が映し出された。

 それはまるで受験生の合格発表の日に掲示板に貼り出されるアレみたいだ。


『では、該当する者900名の皆様。退出してください。これは命令だ。』


 場が再び荒れる。

 しかし、軍における上司の命令は絶対だ。

 故に、文句を垂れながらも大半の人員が退出した。


『では、残った85名の皆様…おかしいですね。86名いる様ですが該当者は退出してください。これは命令だ。』


「私はエネ家当主のエネ•リダルルだ。一端の首相風情が220年間生きているこの私に命令とは良い度胸だな。ダグラス•モニカ。」


 首相に楯突く1人の老人。

 その軍服の胸元には数々の勲章が付けられている。


『お初にお目に掛かりますエネ様。しかし、これは命令だ。』


「フッ、今の若者は…」



 ——————バンッ!!!



 次の瞬間、ダグラス•モニカが拳銃でエネ•リダルルの頭を撃ち抜いた。

 その血飛沫が宙に舞い、柔らかい春雨(はるさめ)のごとく、ラスターに降り掛かった。


「うわっ…最悪…」


 そんな事気にせず、ダグラス•モニカは外にいる警備兵に合図を出し、その死体を素早く回収させた。

 連合の主要人が殺され、その場に残った85名の軍人が苦言する。


「あの…首相…。いくら規定違反だからって…そこまでしますか…しかも、あのエネ家当主を…」

「…一体何が始まるんだ。」

「新しい首相完全にイカれてやがる…」



『この場に残った“真”の上層部の皆様方、改めまして。時は諸行無常(しょぎょうむじょう)に流れゆく。気にするな。そして、私が連合国第650代首相ダグラス•モニカだ。どうぞ、よろしく。』



 場にはシーンとした微妙な空気が流れる。

 しかし、新首相ダグラス•モニカの有能さはこの場にいる全員が把握している。

 歓迎していない訳ではないが、訳ではないが…。

 今、目の前で起こった出来事とさっきみたグロイ映像で何とも言えない気持ちになっているだけだ。

 きっとそうだ、多分そうだ。

 そんな事お構いなしに、ダグラス•モニカはラフに話し始めた。


『では、ラスター•エネ•ウォンスキー。省略してラスター。今回new order(ニューオーダー)が行った戦艦潰し、連合最高峰のベクターパイロットのお前は同じ事ができるか?』


「そうだな。じゃあ戦争と無縁なお前らにわかる様、簡単に例えるとアンタはゴルフで毎回1発目にホールインワンを狙えるか?しかも、それを外すと確実な死が待っている。」


『なら、必ずタネがあるはずだ。何か思い当たる節はないか?』


「今回、戦艦の近くに居なかった俺は実際それ見てねぇからわかんねぇけど。俺が思うにタネなんかねぇと思うぜ。」


『ラスター。今、冗談を言う場面では無い。お前もわかるはずだ。』


「ダグラス•モニッさん。負けた事のない貴方(アンタ)にはわからないと思うけどね、上には上がいるんだよ。」


『…有り得ない。仮にだ。仮にホールインワン出来たとしてその後、ベクター500機超がnew order撃墜された。お前はこれにタネがないと?』


「ないね。」



「ちょ、ちょっといいですかね。」



 ラスターと首相ダグラス•モニカの会話に割って入る85名の内の1人の老兵。


「そもそもヴェルサイユ陣営の戦っている222(セカンドオーダー)とやらはそのnew order(ニューオーダー)を持ってしても抑えきれない存在…そう考えてよろしいんでしょうかな?」


 その言葉にダグラス•モニカは馬鹿(ばか)でもわかる様に説明を始めた。


 ※以下『』までダグラス•モニカのセリフ。


 『その意見はもっともだ。

 今回の戦いでヴェルサイユ陣営は戦力を温存してきた。

 彼らは過去の戦争において、スフィアのうん十万機を簡単に出してきた。

 それが、今回はどうだろうか。

 たった数十機しか出てこなかった。

 今一度言うが“たった数十機だ”。


 連合のベクターや戦艦なぞ、new order(ニューオーダー)一機で十分だと言う発想なのか。

 いや、それは(いな)だ。


 彼らヴェルサイユ陣営は徹底している。

 売られた喧嘩が1であっても100で返す様な連中だ。

 我々がベクター500機超と戦艦を一機、出したならば、その100倍。

 5万のスフィアで対抗してくるはずなのだ。

 奴らは不老故の、長期的な目で世界を見てくる。

 一度立った火は2度と燃え上がる事のない様、街は荒地に、空中城塞は鉄塊に…そんな奴らだ。


 しかし、今回それとは真逆であった。

 まるで次なる戦いに向けて、戦力を温存しているかの様な…。

 いや、「様な」じゃない、そうなのだ。

 奴らは事象と呼ばれる超存在222(セカンドオーダー)(ほこ)を交えようと言うのだ。

 それぐらい備えて当たり前であろう。


 我々と今回相対したnew order(ニューオーダー)だけでは戦力が足りないです、だから、戦力を温存しました。


 私にはヴェルサイユがそう言っている様にしか見えないのだ。


 今回、連合側の大攻勢も巨悪の根源のヴェルサイユが少しでも弱れば222(セカンドオーダー)にあっさり負けてくれるのではないだろうか…という、今は亡き前首相(ぜんしゅしょう)駄作(ださく)だったに過ぎない。


 が、こうもヴェルサイユ陣営受け流されると、いや、完封されると思っていなかったのも事実だ。

 そこに関しては私…いや、俺ダグラス•モニカも同意義だ。


 故に、私はじっくり思考した上で、85名の内、質問をしてきたお前にこう返す。


 今回ヴェルサイユは過去類をみないほど、追い詰められているだろう。』




「では…我々にとって今はチャンス…なのでしょうか?」


『そうであるが、そうではない。』


「…と言いますと?」


『本来はヴェルサイユ陣営が222(セカンドオーダー)と戦い終わった後を狙うべきだった。その点、我々は貴重な機会を失ったと言えるだろう。』


「では、今回の大攻勢は失敗であったと…?」


「今は亡き前首相が残した負の結果いや、負の遺産だ。しかし、憂う事はない。いつの時代も老人の尻拭いは若者がするものだ。」


 ダグラス•モニカの皮肉を交えたジョークに会場は少しだけ和んだ。


 [なかなか言うではないかガキ。]

 [生意気な子供は嫌いじゃないのぉ。]

 [若者はこうでなくちゃな。]

 [まぁ間違ってはないわな。]



「では、我々はこれからどう動きますか首相どの。」


『私は皆に問いたい。どうすべきかと。ラスター。』


「…俺かよ。んー。まぁ順当に行くなら今俺達、いや、連合はベクターを回収、修理し、空軍を建て直す事に時間を使うべきなんじゃねぇか?」


『正解だ。しかし、同時に間違いでもある。』


「その言い回し面倒くせぇなおい。遠回しに言うなよ。むしろ、ちょっとウザいぞそれ。うざいうざい。」


『では、85人の内。1番手前の席から3番目のダブブ•カスラさん答えてください。』


「え、ッ…あっ…。わ、私もラスターさんの意見に賛同します。連合国は今、ヴェルサイユと222(セカンドオーダー)との戦争終戦時に向けて準備する期間かと…」


『では、答え合わせをしよう。確かに最適解はソレだ。しかし、』


 ダグラス•モニカは間を取った後、スクリーンを叩き言った。



 ——————『ここで攻める。』



 85人が動揺した。

 さっきまで推し進めてきた話し合いと結論が違う、違いすぎる。


「随分、真反対な結論になったもんだな首相さんよ。」


 ラスターの返しにダグラス•モニカは返す。


『具体的にはヴェルサイユの歩兵を潰す。観測で222(セカンドオーダー)はほぼ確定でスフィアにつぐ機械兵器である可能性が高い。よって、ヴェルサイユと222(セカンドオーダー)の戦いは空中戦になると予測できる。空軍部隊が半壊した我々連合はもう手足が出せない。故に最低限の戦力で最大限の成果を出す必要性がある。こちらからは新世界で仕事中のメイトン、ミル•ベックの2人を出す。建て直す時間も余裕も我々にはない。』


「…しかし、いくら連合の主戦力(けん)最大火力(かりょく)のメイトンといえど、ベックと2人だけじゃヴェルサイユの地上には上がれないんじゃねぇか?」


『大丈夫だ。和同国の総員を導入させる。』


「いや…いくらヴェルサイユの下層ゾンビ&バケモノ地獄が得意な和同の連中でも、無理な戦いに兵を出すとは思えねぇがな。」


『連合も和同も直接ヴェルサイユと戦う訳ではない。ただヴェルサイユの下層に待機させる。ただそれだけだ。』


 その意見に「おぉ…」といった関心の声が広がる。


「つまり、戦いの最中、ヴェルサイユにメイトンを置いて圧かけ続ける訳か。しかしだなダグラス•モニッさんよ。いつ戦いが始まるかも、いつ戦いが終わるかわからないんだぜ?」


『そうだな。だから、始まり終わるまでメイトンをそこに待機させる。』


 再び場がざわつく。


「いやいや、待てよ。その間メイトンとベックへの物資はどうすんだよ。しかも、空軍部隊が半壊した俺ら連合に、主力のメイトンまで長い間出張となると…かなり自陣が危ういんじゃなねぇか?」


 ラスターの指摘はもっともだった。

 連合の最大の強みであるベクター部隊が半壊状態にある事が他国に知られた今、いつ侵略されてもおかしくない。


『ラスター。今いるベクターと戦艦の数は。」


「え〜と、ベクター50、戦艦3だったかな。」


『それだけあれば十分だ。私ダグラス•モニカの名にかけて、吹っ掛けられた戦争は全て勝ちましょう。』


「ハァ…負けてもしんねぇぞ。」


『慢心している訳ではないが、私は今まで自分の指揮してきた戦争で負けた事がない。皆も知っているだろう。』


 ダグラス•モニカの天才ぶりは皆も知っている。

 しかし、これはゲームではない。

 負ければ死ぬ。


「あ、あの…」


 その時場に残された85人の内の1人、出世してばかりの若者軍人がダグラス•モニカに恐々と質問する。


「あ、あの…全然関係ない話で申し訳ないのですが…先程退出なされた方々は一体どこへ行ったのでしょうか…この話を共有しておくべきかと思うのですが…」


 その質問に対し、ダグラス•モニカは眉ひとつ動かさずに答えた。


『場から退出させた上層部は全員、不正、無能、権力に依存した愚か者に過ぎない。故に行き先は死刑だ以上。』


「え…それってつまり…」


 若者軍人は戸惑った。


『ガンが転移する前に摘出した。そう考えましょう。では、話を戻す。各位に次ぐ、メイトンを新世界から連れ戻せ。期限は今日の18時までだ。』



 ——————ガチャッ。



 その時、閉められていたはずの扉が開けられ、1人の背の小さな女がトコトコ、スクリーンの前まで歩いてきた。

 そしてその女は、いや、少女は眠そうなジト目で85人をぐるっと見回した後、不思議そうな顔で呟いた。


「おはよう皆の衆、今日は人数少ないね。」


 ジトっとした気力のない話し方にやる気を感じない。


『ドレス•ロード、勝手に入ってくるな。ヴェルサイユ陣営のお前がこの場に居合わせる事はあってはならない。』


「朝ごはんにデザート付けて。」


『今、我々が行っている会議は軍“核”会議だ。内政干渉するつもりか。』


「でも、配給係の人に聞いたら偉い人に聞けって言われたから。」


『ここ、旧世界の過酷さを貴様は身思って知ってるはずだ。そんな世界で敵国たる貴様に3食飯を与えているのだ。更に、毎食デザートをつけろ、と…お前はそう言っているのか?』


「私は友好的なヴェルサイユの大使。デザートを所望する。」


『朝ごはんにデザートか、殺すぞ貴様。』


「やってみなよ。」


 連合の首相ダグラス•モニカと突如軍核会議に乱入してきたドレス•ロードと呼ぼれたジト目の少女が睨み合う。

 場に緊張が走る中、85人の上層部が慌てふためき2人を落ち着かせる。


「まずいですよ首相。ドレス•ロードを刺激してはなりません。」

「首相!おやめください。らしくないですよ!」

「落ち着いてください。」

「ドレス•ロードも、くだらん事で!」

「ドレスにまたエンジンをぶっ壊されるぞ!」


「再びの盛り上がりに流石のラスター•エネ•ウォンスキーくんも疲れが溜まりますぜモニカさんよぉ。」


 次の瞬間、ラスターの目に衝撃の光景が映った。

 ドレス•ロードの背中から複数の透明な歯車が現れ、それぞれが折り重なりゆっくり回転し出した。

 それ自体はラスター()にとって不思議なことではない。

 “ギア”という超常現象を操る者がその能力を使用する際に見られる一時的な現象だ。

 ギア保有者同士はその現象が見えず、(ラスター)の様な純人間(無能力者)の部類にしか歯車のそれは見えない。

 つまり、ドレス•ロードは今ここで超常現象、ギアを使おうとしている。

 いや、見る感じもうギアを使っている。



 ——————キュィィィィィッン!!!



 ドレス•ロードの背中から伸びる無数の黒く丸い電ノコ。

 それらが棒状の支点から連なり無数の回転を見せる。


『巨悪の権化(ごんげ)が。』


「悪とは人の数だけ存在するんだよ。」


『悪とは歴史上、常に敗戦国に被せられる汚名だ。しかし、お前らヴェルサイユの奴らときたら、負け無しの癖に汚名だけが世をひとり歩きしている。無様なものだな。』


 ピリピリした空気、張り詰められた糸はいつ切れてもおかしくない。



 ——————キュィィィ……。



 が、ドレス•ロードの黒い電ノコの回転はすぐに止まり能力が解除された。


「まぁ、いいや。デザートの件は伝えたし、検討しといてね。」


 それだけ言うと気怠げなジト目の少女はトコトコと部屋から退出し姿を消した。


 残された85人とダグラス•モニカとラスター。

 場が完全に静まり返り視線だけが錯綜(さくそう)している。

 しかし、必然的に皆の視線はダグラス•モニカに集まる。


『何を見ている。早く仕事に戻れ、18時までに終わらせろ。』


 皆が足を揃えて敬礼し、それぞれが大会議室から退出する。

 そんな中、ラスターだけはダグラス•モニカの背中をバシッと叩きひと言ぶつけた。


「あんま気張んなよ!」


『悪いな。』



 そうして、連合の軍核会議(ぐんかくかいぎ)幹部総会(かんぶそうかい)は終わりを迎えた。




次からは普通にヴェルサイユ側、兎達の話に戻ります。



【ゲキテツの味。】

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