〔第50話〕new order(ニューオーダー)
初めまして。貴方の海馬に直接パンチ、犬のようなものです。
ここから読み始める貴方様に知っていて欲しい単語がいくつかあります。
【周回移動都市】…1年で地球を1周する直径20kmの超巨大都市。ヴェルサイユの独裁国家と言われているが誰も全貌を知る者はいない。噂では母艦があるとか…?!
【連合国】…通称連合。周回移動都市と敵対している文字通りの連合国家。複数国で結成されている世界の3代国家のうちの一つ。
【スフィア】…周回移動都市が所有する人型巨大ロボット。種類は10種類と言われているが噂によれば数万種類あるのだとか。出所やエネルギー原は不明。
【ベクター】…連合が所有する巨大人型ロボット。周回移動都市スフィアの模倣品と言われている。
【ラウンド】…周回移動都市側のスフィアパイロットに与えられる位。現在、周回移動都市の中では2人しかいない。ニュアンスでラウンダーとも呼ばれる。
【六防】…周回移動都市の防衛における6トップ。六防はそれぞれ自分の師団軍を持っておりヴェルサイユに重宝されている。
※【new order】…まだ作中で詳しく語られてはいませんが、超簡単に言えば最強番付みたいなものです。後に詳しく語られます。
——————プシューン…。
《フライトユニット停止します。——完了。30秒後に第808内部滑走路を経由し…》
「にしても流石、都市で2人しかいないラウンダーですね。やはり格が違いましたネネ様!」
———[何の話だ?]
「え?俺ん所の連合10機蹴散らしたラウンドってネネ様じゃないんすか?」
———[身に覚えが無いな。]
「え、じゃぁ誰が?」
———[…となると…もう1人のラウンドになるな。]
「…例のnew orderですか…?」
《師団倉庫第906号番に到着致しました。10秒後にハッチのロックを解除致します。お仕事お疲れ様でした。》
———[まぁいい。外で話そう。]
「わかりました。」
——————ガヒュンッ。
《ロック解除。解放します。》
——————プシュンッ。
「よっと…」
パイロットの男は25m超のスフィアの胸部から両手を使い這い出る。
目の前には整備士の男が下降用のエスカレーターを用意して待っていた。
「第四師団パイロット03番お仕事お疲れ様です。」
「そっちも整備お疲れさん。六防、ネネ第四師団パイロット01番はどこにいらっしゃる?」
「あぁ、六防のネネさんですね。ちょっと待って下さいね。」
そういうと男は空中で指を動かした。
まるで不可視の何かがそこにあるかの様な動きで。
「あー、ネネさんはここの軍庫の第1レーンにいるみたいですね。」
「あぁ、ありがとう。では、スフィアの後処理は任せた。」
「勿論です。良い1日を。」
「あぁ。」
パイロットの男は整備士にそう告げると言われた通り第1レーンに歩き出した。
「にしても…ラスター•エネ•ウォンスキー。相当の手練れだった。」
男は軍庫のレーンを歩く。
任務から帰還したスフィアが端に並んでいる。
負傷したパイロットや故障したスフィアが目につき、かなり痛々しい。
そんな中、同じ師団の隊員が通りすがりに敬礼し、男に挨拶する。
「パイロット03番、師団副隊長。任務お疲れ様でした。」
「そうだな。お互い体を休めよう。」
「ハッ!」
男は軽くいなした後、目的地に向かう。
その時、無数に並ぶスフィアの中で、とある一機に目が行った。
「…な、何だ。」
そのスフィアは帰還した直後なのか、まだハッチが開いていない。
しかし、周りに整備士もいない。
順番待ちなのだろうか?
いや、そんな事滅多に無いはずだが…。
いやいやいや、そんな事よりその外見だ。
「アレ…血なのか…」
そのスフィアだけ赤い絵の具を被ったかの様な真っ赤で染まっていた。
最初はそういう特殊な塗装かと思ったがどうやら違うらしい。
スフィアの関節の端々に人間の骨や皮膚や髪の毛が絡まっている。
正真正銘人間の血肉だ。
そんな光景を愕然と眺めていると、奥から見覚えのない服を着た整備士30人がこちらへ駆け足で近寄ってきた。
「第四師団パイロット03番、師団副隊長任務お疲れ様でした。」
「あ、あぁ…所でコレは…」
「ヴェルサイユ級エヴァンテ様の名の下により、何もお話しする事は出来ません。では、本機はシーツで覆いますので少し離れていて下さい。」
「は、はぁ?!」
何だ?!何故シーツで覆う?!
3500年間もの間、パイロットとして生きてきてこんな事は初めてだ。
「ッ?!まさか、このパイロットがnew orderか?!」
「お答えする事はできません。」
その答えと共に見覚えのない整備士達は血みどろになった機体をシーツで囲う様に囲み始めた。
「ふ、副隊の俺が聞ッ…」
———『おい、やめろ。03番。』
背後から現れた童顔の女がパイロット03番を静止する。
「ネ、ネネ様ッ…こちらから伺おうと、いやそれより…こ、これは…」
『ハァ…。私と同じ、もう1人のラウンドパイロット。まぁ十中八九コイツが例“new order”って奴だろうな。』
ネネと呼ばれた女は、周りとは毛色の違う服を着た整備士に顔を突きつける。
まるで、今放った言葉の真意を求めるかの様に…。
「エヴァンテ様に秘匿する様に。と、申しつけられていますので。」
『六防の私に。でも、か?』
「六防様にも秘匿する様に。と申し付けられていますので…」
隠されたシーツのベールの中から、ガスの抜ける様な音が聞こえてきた。
——————プシューンッ。
もちろん、パイロットなら誰でも知っている音、すなわち、コックピットから出る為のハッチが解放された音だ。
ベールの向こう側からコツコツと歩く足音が聞こえてくる。
今、向こう側にはヴェルサイユ級の名により秘匿されし、ラウンド パイロットがいる。
——————ハァ…。
向こう側から足音と共にため息が聞こえてきた。
か細い声の様に聞こえた…new orderは女なのか?
そんな事を考えていると隣のネネがシーツの向こう側にも聞こえる様な声で、わざとらしく声を張る。
『今回の連合の猛攻。都市に向けて投入されたベクターの機体数、過去最高だったらしいわね。私は30、いや40機は撃墜させたわ。貴方のその真紅に塗れた機体を見る限り、地上に隠れてゾンビにでも襲われてたんでしょうね。』
嫌味ったらしく聞こえる内容は自分の戦果を自慢する様なものだった。
しかし、その戦果は優秀を越えて異次元と呼ばれる撃墜数を誇っている。
砲弾やミサイル、ビームが飛び交う戦場の中、自分の40倍もの敵を撃破していることになる。
恐らく、今回もネネ様は軽い機体の損傷だけで帰還したのだろう。
もちろん、ネネ様は俺と相対した連合最強のパイロット、ラスター•エネ•ウォンスキーとは戦っていないが、それでもその場にいたらあのラスターでさえ撃墜できていたかもしれない。
彼女には充分そのチカラがある。
——————コツコツ…コ…。
シーツの向こう側、足音がピタッと止まる。
ネネは自慢げにシーツの向こう側を見、パイロット03番はそれをヨイショするかの様に憧れの眼差しを向け、感嘆の声を漏らしている。
ネネに対応していた整備士も流石、ラウンダーだ!と、いわんばかりの顔で目をキラキラさせていた。
——————スタタッ。
しばらくして、シーツに動きがあった。
シーツが捲し上げられる事は、まぁ無かったが、恐らく向こう側の“new order”と呼ばれる新しいラウンダーのパイロットに動きがあった。
次の瞬間、シーツの向こう側からスフィアの機体に付いていたであろう血を使って何かが描かれていく。
『なッ?!』
「…絵…か…?…違う、これ数字だ。」
——————ズズズッ。
<<< 5 >>>
そう書かれた数字はネネに酷い動揺をもたらした。
もちろん、5という数字はネネが声高らかに宣言した撃墜40機の返答なのだろう。
その場にいる全員がそう捉えていた。
そして、その誰もが5機だけ撃墜したとは受け取らない。
『…まさか、貴方…50機ッ、落としッ…』
「ご、ご50?!?」
もちろん、ベールの向こう側からの返事は無い。
それに加え恐らく、new orderもエヴァンテに存在を秘匿しろと命じられているのだろう。
声を頑なに出さない。
だからって血で書くこと…
いや、そうか。
そう言う事か。
new orderはネネ様の言葉にしっかりぜんぶ解答しているのだ。
“ネネ様が言った地上で隠れてゾンビに襲われてたんじゃない?”
その言葉に対し、new orderは機体に付着した血を自らの手で拭い、シーツに描く事で1つの事実を証明した。
ゾンビの血肉であれば危険極まりない行為だが、それを容易にやってのける。
つまり、この血肉はゾンビのものではなく相手国、連合のパイロットの血肉なのだと行動で示したのだ。
考えすぎか…いや、そんなはずは…。
いや、
でも、、
つまり、、、
ということは、、、、
あの量の血肉を機体に付着させるとなると…いやいや待て待て。
あんな大量の…普通に考えてあり得ないだろ。
確かに敵国の機体撃墜時に多少相手パイロットの血肉が飛沫の様に飛ぶ事はある。
しかし、巨大なスフィアにとって、それはネズミの霧吹きと同程度だ。
大体は移動しながら戦っているから滅多にその飛沫を受けることなんてない。
どんな撃墜の仕方をすればああなるんだ…。
考えているうちに、シーツが第1レーンの出口に繋がる様な形で展開される。
「姿隠したいのはわかりますけど、流石にコレはやりすぎですよね…ネネ様…」
『…50機…50機…』
どうやら負けた事をまだ引きずっているらしい。
——————「うっ〜さぎぃ〜!!!アッ…静かにしなきゃ、だったね…
シーツの向こう側から明るげな声が響く。
恐らく声の位置的にnew orderを第1レーンの出口から迎えにきた“エヴァンテの使いの女”と言ったところか…?
——————タッタッタッ。
第1レーンに響き渡る足音から、new orderが声の方に向かって小走りしている様子が容易に想像できる。
しばらくして、声と足音が完全に消え、シーツのベールが回収された。
そして再びパイロット03番とネネは共に血に塗れた機体を見上げる。
エヴァンテの使いの整備士が機体に流水を掛け、ブラシで装甲を擦っている。
「…今はアレが味方である事を喜びましょうネネ様。」
『わ、わかってるわよ。私、撃墜数で負けたの初めてだったからちょっと驚いてただけよ。』
「…貴方も大概ですね。」
『…ん、なんて?』
「いや、何でもありません。」
『そっ。』
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エヴァンテの使い5人に囲まれて広い通路を歩いている背の小さな女2人。
エヴァンテの使いのボディーガードが巨漢達なだけで、別に背が小さい訳ではない。
そんな中、私は隣で謎の鼻歌を歌っている明るい女の子フブに話しかけられた。
「ふゆる〜ふゆふゆ〜ふふるふる〜。ん?兎、浮かない顔してどうしたの?」
「ちちちょっと…戦果で誤解された的な感じ…」
「えぇ…?戦績低めに勘違いされたって事?」
私は手に付いた血を見て自分を戒める。
これは遊びでもゲームでも何でも無い。
戦果は人を殺した人数、ただそれだけだ。
いや、でも…やっぱり私達を殺しに都市に攻め入ってきたってんだ。
同情なんて安い事してられないな…。
「ななな何でもない…」
私は私達を囲って歩いているエヴァンテの使いボディーガードの服で、手に付いた血を拭う。
ボディーガードは周りを警戒している為、服を汚されたことに気づいていない。
「ふゆる〜ふゆふゆ〜ふふるふる〜。」
「ふ、フブ…なな何その鼻歌…」
「フブ作、冬の訪れ〜ギガントレクイエムを込めて〜。」
「…か、かかかっこいい。」
「でしょ〜!」
そんな会話をしていると先頭のボディーガードから声をかけられた。
そのボディーガード曰く、この部屋に入り、座って10分経てばエヴァンテの家、兼、教会に到着するらしい。
ド○エモンの道具かな?
「では、任務お疲れ様でした。後の事は教会の者に任せてありますのでどうぞよろしくお願い致します。では。」
ボディーガードが喋り終わると同時に部屋の扉が閉められた。
——————ガシュンッ。
何とも近未来的な音がした。
私とフブは部屋をキョロキョロと見回した後、用意されていた机と椅子に腰掛けた。
「なんやこれ…」
「とと唐突な関西弁…」
すると部屋が一瞬大きく横に揺れた。
「うぉっと?!」
「ッ?!」
「わっちゃ、この感覚知っておりまっせ…これは電車に乗った時のアレやね。」
「かか慣性の法則…」
「じゃぁこの部屋自体が電車って事なのかな…?」
「…かか隠し電車的な奴かな…ろろロマンある…」
よく部屋を観察すると所々、意味深なボタンが設置されてある。
「…ねぇ、兎。このボタンって絶対押しちゃ…」
「うっ、」
——————カチッ。
「うわぁぁー!!兎ぃ何押してるのぉ!!」
「そそそそんな漫画じゃないし…死ぬ様なボタンないと思うけど…」
「けど、爆発とかしたらどうなるのぉ!」
そんなこんなはしゃいでいると部屋の四隅、一角が透明になり外の景色を映し出した。
景色といっても薄暗い狭い空間を高速移動しているという、何とも言えない微妙な景色だ。
「窓…?」
「ままま窓が開かれた…」
「ほら、これやっぱり地下鉄だよ!」
子供みたいに机にもたれかかりピョンピョン飛び跳ねるフブさん。
嬉しそうで何よりだ。
進行方向が見える窓から一定間隔で通り過ぎる発光をボーっと眺める。
高速で過ぎる景色を眺めていると、さっきまでのスフィアに乗っていた感覚を思い出す。
瞬きする間に変わる景色、花火の様に飛び交うフレアとレーザー。
弾丸の流れはそれを彩り、敵国の機体ベクターはそれを飾る。
綺麗だったな…。
ただ意味もなく思い返しているとこの電車にブレーキが掛かった。
——————キーーッ。
「到着って事でいいのかな?」
「えええ駅に着いたのかな…ホームに着いたのかな…」
「まぁさっきの感じだとこの地下鉄隠されてたし、今回も凄いびっくりする所に出るじゃない?」
フブの言う通りだ。
これでドアを開けたらトイレだったとかなら、オラ…ワクワクすっぞ…。
——————《エヴァンに到着致しました。》
——————プシューッ。
部屋に響いたアナウンスと共にドアがガスの抜ける様な音を出して開かれた。
すると開いたそのドアから部屋の中より遥かに明るい陽の光が差し込む。
——————『お仕事お疲れ様でした。サキミネ様…いや、new order。』
その女は背中に後光の様な光を受けながら、黒い豪勢なシスター服姿で現れた。
ヴェルサイユは子供なので任務を終えた戦士に「お仕事お疲れ様でした。」と言ってあげます。優しいですね。




