〔番外編第11話〕ホント
今回は夢ではなく現実、しかも時間が止まっているのだ。
他にも動ける人が居ないか周りをキョロキョロ見て探すが、私はそこでハッと気づく。
ニヴァの顔が変わっている…。
——————【…。】
ニヴァだった顔はあの時見た夢の女、つまり111の顔に変わっていた。
顔と言ってもモザイクが掛かっていて、表情がわからない。
ただわかる事と言えば、ショートカットの髪型ぐらいだ。
「お、おはようございます…」
私はお決まりの挨拶をした。
【おはようございます♪】
きっちり挨拶が返ってきた。
「な、なんで…今このタイミングで…?」
私は心の底から思うシンプルな疑問をぶつけてみた。
なぜ助かった今、神様は私に接触してきたのかわからない。
【ん〜焦ったいなぁ〜…】
「…え?」
【え…?】
「…何が?!」
【あー…なるほどね〜…色々察したよ。】
そう言って神様は手のひらに1つの小瓶を出した。
「あっこれ…!」
【京ちゃん…貴方これ何か知らなかったのね…】
「林檎ジュースの奴じゃん。いらん希望持たせて揶揄う奴なの?」
若干のイラつきが、態度に出てしまったかもしれない。
【んー…コレはね。祝福の林檎って言うだけどね…まぁ簡単に言うと…】
「あ、はい、、、」
【私に何か1つお願い事できる聖遺物なんだ。】
それを聞き、私も色々察した。
「もしかして、私…アラジンのランプを擦ったまま願い事を言わずに放置していた感じ…?」
【神様を焦らすなんて〜、やるじゃん。】
「焦らしてない。使い方ぐらいは事前に説明しといてよ。」
若干の苛立ちを言葉に含ませた私に対し、神様は何か思い出したかの様に話す。
【あっ、そうそう。でも、それが返って幸運だったね。】
「…ん?それって…」
【貴方のその体、もうすでに死んでてもおかしくなかったんだよ?】
「…え。」
私は止まった時の中で、フブさんの懐に抱かれたまま自分の四肢を見る。
【本来は痛みでショック死したり、意識が飛んだりするんだけど…そうね。お願い事の途中だったから思考だけは常にクリアな状態に保たれていたっていう感じだね。あっ痛みも本来よりマシになってたんじゃない?】
「薄々、勘付いてはいたけど…やっぱりあの林檎ジュースのおかげだったんだ…」
【そうだね〜。】
「…。」
私は死なずに済んだ。
偶々、運が良かったから…なのか…?
「ねぇ、もしあのジュースを飲んでいなかったら…私どうなってたの?」
【連合が貴方へ投与した痛み止めが切れた時点で、ショック死って所かなぁ〜。】
「……。え、痛み止め打たれてたの…?」
【連合も捕虜に痛み止め打つなんて優しいよねぇ〜。】
背筋に悪寒が走った。
あの時…あぁしなかったらと考えると…あーーーー!!!
やめだ。終わった事だ。考えない考えない…!!!
【んで、本題に戻りますと。】
「…はい。」
神様は両手を広げ、目の前に大きなホログラムの様なリアルな情景を作り出した。
まるでミニチュアだ。
【ベリエッタが使った技、“英雄旗反逆”で呼び出した男は“ドーベル•ラン”ワタシが世界で1番嫌いな男と言っても過言では無い。】
「…え?」
そしてミニチュアみたいな情景に、フードを深く被った“あの男”が写されていた。
【“ドーベル•ラン”と“メイトン”戦ったらどっちが勝つと思う?】
「…セネカさんに説明聞いた感じだと、英雄旗反逆はその相手と同様の強さを持つ者を呼び出すって言ってたから…相打ちとか…?」
【ブー。はい、間違いなので京ちゃんには罰ゲーム!】
「えぇ?!聞いてなッ…」
——————バチッ!
理不尽なデコピンを喰らった。
(普通に痛い…)
京は今は無い手をパタパタさせて痛みに耐える。
【正解はドーベル•ランの圧勝です。】
「え…それじゃぁ…」
【ドーベル•ランは“規格外”領域と呼ばれる存在。規格外領域はこの世界に3人しかいないから気をつけるんだぞ♫】
「…じゃぁセネカさんの英雄旗反逆って技の説明が間違いだったって事…?」
【んーそれも違う。】
——————バチッ!
「イッッタッッ!今のは問題じゃなかったじゃんッ!」
【セネカ•ミル•レイディの説明は何も間違えてないよ。】
「イタタッ…。なら、どうしてドーベル•ランみたいな規格外が呼び出されたの…?」
【いいの?正解言って…?】
「いいよ…。もう、デコピン喰らいたくないし…」
【それは英雄旗反逆の対象がワタシになったからだよ。】
「まぁ…111の貴方が対象なら規格外が出てくるのも普通なのかな…?よくわかんないや。あっでも、どうして英雄旗反逆の対象になったの?その場にいなかったのに…」
【京ちゃん〜君の背中に取り憑いていたからだよぉ〜!】
「あ、はい。そうですか。」
【随分そっけない返しじゃ〜ん。】
「話したくない事を聞くほど、私は野蛮じゃないんで。」
(本当は、また間違えてデコピン喰らいたくないだけだけど…)
【別に隠してる訳じゃないんだけどなぁ〜。】
私は妙に馴れ馴れしい神様もとい111に言う。
「私に何か頼みたいんですか…」
【察しが良くて助かるよぉ〜。】
「…。」
【その祝福の林檎の願い事“ドーベル•ラン”に抵抗できるチカラにしない?】
「…随分、神様に都合が良いね。」
【私と同じぐらい〜!とかは無理だけどぉドーベル•ランに抵抗できるぐらいのチカラはあげちゃうぞ♫】
「神様の癖に限界とかあるんだね。」
【ん〜私に限界は無いよ〜。でも、神様は怖がりなんだぁ〜。同等のチカラを恐れる。】
「ふ〜ん。んで、私がその願い事をしたら手足が生えるの?強くなれるの?」
【手足が生えるかどうかわからないけど〜…今その願い事をしてくれたら特別に手足生やしちゃおっかなぁ!】
「商人みたいに詰めて来ないで。」
【ん〜…あっ!じゃぁ貴方が思い浮かべる強い生き物は何?】
「…普通に難しい質問だね…」
【ライオン?ワニ?ゾウ?はたまたゾンビ?】
「…ドラゴン。」
【ん?】
「ド、ドラゴン…」
京がそう言った途端、神様は鈴を転がす様に笑った。
【アーハッハッハッ!イーヒヒヒッ!そうだね、確かにドラゴンが1番強いね!アハハハハッ!】
「わ、笑わないでよ。私の短い人生において1番強いと思ったのが…それだっただけだよ…」
【あーごめんごめん〜!いいね、ドラゴン。その願い確かに受け取りましたっ!】
「次に時間が動き出した時、私はそのチカラを使ってあのフードの男、“ドーベル•ラン”と戦わなきゃいけないの…?」
【ん〜、なんかそう聞くと貴方…凄く不遇ね…】
「誰のせいでッ…」
【なら追加特典で手を打たせてくださいまし?】
「だから商人みたいに詰めないで!私はただ生きて帰りたいだけ…」
【…ん〜?ほんとぉ〜?】
「…な、何よ……」
【君は今、神様の前にいるんだよ?】
「…うっ、。」
【時間は止めてある。ゆっくり考えなぁ〜。】
「…。」
【…。】
「…。」
【…。】
「ほ、…ホントはもっといい家に住みたい…」
【それで?】
「ホントは…雨が降っても滝にならない屋根が欲しい…」
【それで?】
「ホントは腐った床の上で寝たくない…」
【うん、それで?】
「ホントは作業着以外の服も欲しい…」
【うんうん、それで?】
「ホントは林檎以外の物も食べたいッ…」
【…うんうん。】
111が私の頭を撫でた。
——————バチバチバチッ!
その時、私は自分の16年間の人生を追体験する様なフラッシュバックに襲われた。
《今月のみかじめだ。払え殺すぞ。》
《家賃払いなさいよ寄生虫!》
《ねぇ…京ちゃんは何で私達と遊べないの?》
《学校の周りをうろつくな寄生虫がッ!》
《金払ってるだけ仕事に感謝しろや!》
《チッ、親が親なら子も子か…寄生虫。》
《外壁から飛び降りて死ねや。》
《同い年の子がキラキラして見えるかい?アンタにあんな未来は無いから見んとき。》
《ガキが、髪の毛伸ばすなっつったろ!作業に邪魔だろ!》
《寄生虫がッ。》
《寄生虫ッ!》
《寄生虫!!!》
《寄生虫!!!!》
——————ドサッ。
衝撃で地面にへたり込んだ。
【君が本当に欲しい物は何だい?】
惨めな気持ちが爆発し、喉の奥から染み出して溢れ出した。
《寄生虫!!!》
《寄生虫!!!》
《寄生虫!!!》
《寄生虫!!!》
《ねぇ、一緒に遊ぼ。》
《喋ってないで仕事に戻れや寄生虫ッ!!!》
「ホン゛トはあの時…あの子と遊びた゛かった…」
111はへたれ込んだ京の腰に手を回し、耳元でそっと言った。
【神様は君の味方だよ。】
神様のその姿は、弱った人間の心に囁く悪魔の様だった。
【何を賭しても得たいのなら、せめて身軽にしとけよ。じゃないと落としもんすっからな。】




