〔第39話〕そのドア開けるべからず
カンネ•ロードがメイトンを亜音速でぶっ飛ばした時、使用していた武器は鯨弍式なので、セネカが使っている鯨原式とは違います。また、作中で色々説明があります。ずっと先の話ですがお許しを。
ムキムキゾンビがカンネ•ロードに向かって左腕を振り上げる。
『ブルゥルルルウワァァアッ!!!』
——————ブンッ!!!
——————ヒュッ!
カンネ•ロードはゾンビから放たれた拳をくるりと右へ左へ交わし、そのままゾンビとの距離をぐっと詰める。
——————ガッ!ヒュルヒュルッ。
カンネ•ロードは3メートルもある巨大ゾンビに一瞬で体を巻き付け首元に上がる。
なんか蛇っぽいッ!
かっこいい!!
でも…なんか、あれじゃゾンビにおんぶされているみたいだな…。
しかし、次の瞬間カンネ•ロードは暗殺者の如くムキムキゾンビの首を捻った。
——————パキャッンッ。
甲高い骨の折れた音がした多分頸椎が折れる音だ。
命を刈り取る一撃だが、私は知っている。
ゾンビ達は海馬を潰されない限り…
死なないと言う事を。
「カンネ•ロード!まだ…」
注意喚起を叫ぼうとした瞬間、カンネ•ロードはムキムキゾンビの頭を滑り転がる様に捻ってちぎり、その頭を地面と着地時、同時に踏み潰した。
——————ゴォッ。
「わぁ…」
流れる様な一連の動きに見惚れてしまう。
でも、グロぃ…。
「チッ、コイツァP個体に近づいてェきてんな。でも、まだP個体にはなっちゃァいないみたいだなァ。」
『やはりそうか、この世界にP個体が出現するのも時間の問題か。にしても、やはりカンネの動きは芸術的だな。』
カンネ•ロードとカスミの話を聞いている感じだと、この2人は別世界っていうのを知っていて、えーと…P個体って奴が出て来たらヤバいのかな…?
「ねぇ…P個体って何?」
フブの質問にカンネ•ロードが答える。
「まァそうだなァ…ゾンビLv.100みたいに思っとけ。」
「え…そんな奴が出て来るんですか…」
フブとカンネ•ロードの間にカスミが割って入る。
「そんな事より今は患者の場所を教えろフブ。急がねばならないんだろ?」
「あぁ、そう!そうだね!ついて来て!」
フブは兎達が居るビルの扉を開ける。
——————ガチャッ。
不穏な空気が流れるビルの中、階段へ向かう途中…
腸が落ちていた。
「…なっ、何でここに…内臓が?!兎、兎!」
フブは地下の倉庫へ走る。
もちろん、後ろにカンネ•ロードとカスミを連れて。
———————————————#####
フブは1人で行ってしまった。
やっぱり私達はフブにとってお荷物なんだな…。
あんな身体能力あれば1人の方が気を遣わなくていいもんね。
それより、サムが腕落とした時一瞬で気絶してよかった。
もし、気絶していなかったら痛みで暴れて大量出血しかねなかった。
しかも、腕の断面も良かった。
綺麗に切れていたから、フブが雑に縛っても止血できた。
そう考えるとサムは色々、不幸中の幸いなのかも知れない。
そんな事を考えていると美少年がサムに慰めの言葉をつらつら投げかけていた。
どうせ聞こえてないのに。
流石に今のは酷かったかな。
言い換えよう。
ん゛ん゛
美少年がサムに慰めの言葉をつらつら投げかけていた。
意識がないのに…
よし。
いや、そんな事よりこれでサムが起きたら最悪だ。
今すぐ止めないと…。
「ううううるさい美少年…」
「?!」
美少年は開いた口が塞がらない様子で私の方を見てくる。
「いいいいや、意識戻ったら…痛みで暴れて…出血するかも…だだだから…」
「あぁ、すまない。この一瞬だけ、あらぬ誤解をしてしまった。謝罪する。」
あらぬ誤解とは失礼な。
——————シーンッ。
フブを待つ間、地下の一室には静かな時間が流れていた。
まぁ偶に外の飛行艇が墜落する“揺れ”は感じるんだけど…。
私はもちろん、美少年も決して話そうとしない。
サムを起こさない為でもあるが、それ以前にお互い状況に疲弊していた。
ただ、ゆっくりに時間が流れる。
——————カツンッ。
外から微かに聞こえた音に対し、2人の顔が上がる。
「…ッ?!」
「…ッ!!」
今、確かに階段の方から音がした様に聞こえた。
「おい、今お…」
喋ろうとする美少年を私は自分の人差し指を唇に当て、静止させる。
(シーッ。)
(あ、あぁ。)
——————カツンッ。
もう、フブが帰って来たのか?
いやそんな訳ない。
この足音ヒールとか履いてないと出ない音だ。
もし、この音がゾンビとかだったらどうしよう…。
でも、一様この部屋に繋がるドアはフブが出て行った直後に鍵を掛けておいた…。
故に、ここには入って来れない。はずだ…
——————カツンッ。
その音が近づくにつれ、緊張が増す。
美少年はゆっくり立ち上がり忍足でドアへ近づいた。
もちろん、その片手にはそこら辺に落ちていたパイプが握られていた。
——————カツンッ。…
——————コンッ。コンッ。
ドアの向こう側からこちらへ向けてノックされた。
——————助けて下さい。
向こう側から聞こえて来た、か細い女の声が2人を恐怖に陥れる。
——————誰かいますよね。助けて下さい。
その声は細かく震えていてモスキートーンに近い。
美少年は私の顔を見る。
私は美少年に向かって首を横に振る。
続けて人差し指を唇に当ててシーっというポーズを続けてとる。
——————私、1週間前にゾンビに噛まれたんですけど感染し切らなかったみたいでこんな声ですが人間です。お願いします。開けて下さい。
この地下の部屋にはほぼ昏睡状態と言ってもいいサムがいる。
フブが居ない限りサムを担いで走るなんてことも出来ない。
故に今ドアの向こう側にいる人をここに入れるわけにはいかない。
——————どうしたら信用して貰えますか…?
私が初めてゾンビと対面したのは私の家に喋るゾンビが入ってきた時以来だ。
あの時のゾンビは喋るタイプのゾンビだった。
もしかして、コイツも言葉巧みに玄関を開けさせて人を食べるタイプのゾンビなのか?
まぁ人であれゾンビであれ、
絶対に開けない。
そんなリスク取れない。
——————私はゾンビに襲われません。食料やその他諸々の物資も持ってこれます。何を持ってくれば仲間に入れて貰えますか?
美少年が再び私の顔を見てくる。
私はそれでもここに入れる事を拒否する。
——————では、赤ちゃんだけ置いていきますね。
(は?)
今なんて言った?
赤ちゃん?
いや待てこれもドアを開けさせる為の巧妙な罠かも知れない。
赤ちゃんで同情を誘っているのか?
でも、赤ちゃんの泣き声なんてひとつも聞こえて来ていない。
——————私はどこか遠くで死んで来ます。どうかその子だけは。
——————カツンッ。カツンッ。
足音が遠くなっていく。
その時、美少年が勢いよく立ち上がりドアの方へ歩いていく。
それを見た私は急いで美少年を止めに行く。
美少年の手がつまんで回す回転式の鍵を押さえた所をギリギリで止める。
そして再度、私は美少年の目を見て首を横に振る。
美少年がそれを無視して鍵を回そうとする。
クソッ!チカラ勝負では負けてしまう!
私はそう思ったと同時に美少年の手に噛みつきそれを阻止した。
——————ガブッ!
「イダァッ!!!」
——————カツンッカッ。
ドアの外、遠のいていく足音が止まった。
そしてドアの向こう側から微かに聞こえて来た声が2人の背筋を凍らせる。
——————やっぱり、誰かいたァ…。
2人は静かに後ろへ後ずさる。
——————カツンッ!カツンッカツンッ!
——————ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
——————助けてェェェェェエエエ!!!
私は勢いよく叩かれるドアに腰を抜かした。
そんな中、美少年はドアの向こう側に向かって叫ぶ。
「すまない!君の事は助けられない!この部屋には重傷の人間が居るんだ!すまない!そんなリスクは取れない!」
——————嫌ダァ!嫌ダァ!嫌ダァ!嫌ダァ!
——————ドンッ!ドンッ!ドンッ!
その勢いと恐怖に呑まれそうになる中、美少年は必死にうったえる。
「すまない!貴方は助けられない。赤ちゃんも自分で何とかしてくれ!君がゾンビでない保証がどこにもないんだ!そんなリスクは取れないんだよ!」
——————シーンッ。
美少年のうったえが届いたのかドアを叩く音が止まる。
——————ただ…私は…だって……そんなに…。
か細い声は再び、甲高い足音と共に遠のく。
——————カツンッ。カツンッ。カツンッ。
諦めてくれたのか…とりあえず、一安心だ。
そういえば、ホテルの時にみた妊婦ゾンビは他のゾンビに食いちぎられていた。
恐らくこのドアの向こう側の奴が本当のことを言っていたとするなら別の種類の食べられなかった妊婦ゾンビという事になるのか?
いや、赤ちゃん置いていくって言ってたから妊婦では無いか。
この目でその姿を見ていないから何とも言えないな。
もしかして、本当に人間かも知れない。
考えないでおこう。
等しく無駄な行為だ。
美少年がドアに背を向けてやれやれと言った感じで、もたれかかる。
その時、美少年の耳に微かに聞こえた赤ん坊の声。
ドア越しの聲。
——————アギャー。
その声を聞いた瞬間、美少年は咄嗟にドアを開けてしまった。
——————ガチャッ。
——————『オギャー…オギャーァァア!!!』
そこには腰を屈めて赤ちゃんの声真似をしているボロッボロのゾンビがいた。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!」
美少年はドアを閉めようとしたが間に合わず、ゾンビに体を掴まれてドアの向こう側に転がった。
——————『ブワァァア!!!』
美少年がドアを開けてしまった!!!
マズい、早く助けないとッ。
そう思った瞬間、美少年の腕から血が飛び散る。
それを見た瞬間、私はドアの前後でゾンビに抵抗している美少年を後ろからゾンビ諸共ドアの外へ蹴り飛ばしドアを閉め鍵をかけた。
——————ドンッ!ガチャンッ!
ドアの向こう側ではゾンビと格闘する美少年の声が聞こえる。
もうあの美少年は助からない。
噛まれていた。…と思う。
いや、あれは絶対噛まれてた。
しかも、ゾンビに騙されて噛まれた。
「うわぁぁぁ!!!」
——————『ブワァァア!!!』
自業自得だ。
外から聞こえる悲鳴は階段を駆け上がる音と共に聞こえなくなった。
「上へ逃げたのかな…」
何とか危険は免れたが尊い犠牲が出てしまった。
しかし、美少年が残してくれた1人分のリュックはこの部屋にある。
大切に頂こう。
何というかこの世界の喋るゾンビは知能が高すぎて正直もう終わりだ。
あのタイプのゾンビが出てくる映画は大体バッドエンドだし、もう私の目からも人類が滅ぼされて終わる未来しか見えない。
「フブ…帰ってくる時大丈夫かな…まぁフブなら多分、なんとかなるか…」
そんな事を考えながらサムの隣に座って美少年のバックから缶詰をひとつ取り出して食べる。
高級焼き鳥の缶詰らしい。
美味しい。
——————ダッダッダッダッ!
——————ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
再びドアが凄い勢いで叩かれる。
しかも今回は叩く速度も2倍ぐらいになっていた。
——————開けろ、俺だ。さっきはよくも蹴飛ばしてくれたな。
え、増えた…?
…美少年そっち側になっちゃったのか…哀れな…。
でも、絶対開けない。
兎は対人で話していない時、言葉詰まらない。
様な気がする。




