レッツ庭バーベキュー、ゆっくりゆっくりだ。
太陽は今日も私を照らす。その輝きが眩しくて繋いだ手も離せなくなってしまうほど溶けてくっついてしまう。
私の血が不純で貴方を利用しようとしてしまうかも知れない。
私はどこまで行っても飢えてるんだゾンビみたいにお腹を空かせている。邪魔する者はどんな手段を使っても退けて上に立つ、そういう一族だ。いつか私も血に呑まれてしまうのだろうかフブを見る目が変わってしまうのだろうか。
「ねぇー!ねぇーーー!!」
重たい瞼をゆっくり開ける、フブが体を揺するから髪の毛が乱れてボヤけた視界を邪魔する。
「い…ま…何時…」
「もう9時だよ!!おーーーきーーーてーー!!!」
いつも10時まで寝ている自分にはとても早朝だ、まだ寝ていても…首が折れそうになるぐらいまで揺さぶられたが意地でも起きなかった。
ーーーくんくんッ…この匂いは…?
良い匂いが鼻を撫でる、この匂いは…バターかな…
思わず目を開く、ベットから見えた机の上に美味しそうなパンがあった。もちろんバターが塗られた健康的な理想的な朝食が並べられていた。
「ほら、朝ごはん食べよ?」
その提案に仕方なく乗る兎、眠たい目を擦りながら机に向かう。あぁ今日も、良い日になりそうだな…
フブがテレビを付ける。2人共気になっていることがあった。それは巨大建造物の事についてだそのロマン溢れる謎が解き明かされるのを心から待っている。
『次のニュースです。太平洋に突如出現した謎の巨大建造物が動きを停止させたとの情報が入りました。そして政府はこの巨大建造物に引き続き攻撃を試みると意向を示しました。』
「せせせ戦争じゃん…」
「やだねぇ…でも古代の謎の建造物が突如動き出した!みたいな感じだったら超かっこいいのに!」
「ししし深海から出てきたから突然現れたように見えたとかえへへろ、ろろロマンあるね…」
「ピラミッドも変形とかすんのかなぁ〜」
話が弾む2人とは真逆にニュースの続報は続く。コメンテーターの意見を聞く時間もないほど昨日はたくさんのことが起こったらしい。
『昨日から続いている軍事費拡大についてのデモで死傷者が相次いでいます。この事態に政府はナノシステムを世界初導入して制圧したとの事です。また政府は“これは武力による弾圧ではない。死傷者をこれ以上増やさない為の措置だ”との声明を発表しました。』
「あれまぁ…でも今この状況じゃ軍事費拡大も悪い事じゃない気がするけどなぁ〜」
フブの政治的な発言を聞いて兎もその意見に賛同する。
「いいい今の状況じゃ…仕方ないよね…」
「あっ!!そういえば結局昨日amezonで頼んだバーベキューセット届いてるんじゃない?」
「じゃ、じゃんけんしよ…き、き昨日のリ、リベンジ…」
フブはやれやれと言わんばりの顔で兎の目を見た。いつもと…違う…具体的に何が違うのか分からないけど、気迫というのだろうか?いや、違うな…正直言って気迫は感じられない…うん…じゃぁ何なんだろうかこの目の奥、瞳孔の先の更に先から流れ込むような。
「ふっ、良いだろう。私を倒してみなさい。」
「いいい、行くよ…」
「最初はグーじゃんけん!!!」
「ポン!!!」
兎は冷蔵庫から肉をトレーごと取り出して食べやすいサイズに切っている。包丁の使い方が分からないので見様見真似で猫の手を使っている。
「ただいまぁ〜取ってきたよ〜意外と思いなスリムなのに…」
箱に入った折り畳み式のバーベキューセットを配達ボックスから持ってきたフブ。兎は返事を返した後肉を食べやすいサイズに切り続ける。
「ちょちょちょ!!!何してんの!!!」
その声に驚き包丁を離す兎。
「焼肉ってのはねぇ大きいお肉をガブッと行くのが良いんじゃないか!!!何食べやすいサイズに切ってるの!!」
「ごごごめんッ…友達と焼肉した事なくて…」
焼肉の食べ方は人それぞれなのだが、しょげる兎にフブは背中を叩き笑顔で言う。
「私流伝説の焼肉を教えてあげる!」
フブが冷蔵庫から出してきた謎のプラスチックの箱。なんとそこから一晩タレに付けた肉が出てきた、その大きさは手のひらを簡単に覆うほどデカい。
兎はフブの指示によりバーベキューセットの組み立てを命じられた。ダンボールの箱から取り出し組み立てる。少し普通のやつより値段を高いのを選んだおかげか組み立てが楽だった。
「………ふぅッ…」
一息付いて庭から外を眺める。今世界は目まぐるしい苦境にあると世間は叫ぶ。私には実感は無いけれど耳と目から入ってくる救急車のサイレンの音があの光景を連想させる。髪の毛と肉塊、あの日見た衝撃的な光景。
ーーーウーーーーッ!!!
スマホからサイレンが鳴り始めた。もう慣れてきた、また日本からミサイルが発射されたのだろう。何だか日本が首都を失った時を思い出す。私まだ幼稚園に通ってた頃かな〜…懐かしいな。
「兎!!!早く火も着けて!!ほら!!肉が逃げちゃうよ!!!」
「そ、そそそうだね…(にに、肉が逃げる?!)」
ジュージューと焼ける音がこの生活の充実感を感じさせる。まだ始まったばかりの夏休み、まぁ…私はいつも休みみたいなものだけど…ていうか、この肉分厚いな…火が通るまで少し時間がかかりそう…
「じゃじゃーん!」
そんなこんな考えているとフブが冷蔵庫から再び何か持ってきた。いや、これはレアステーキなのか?
「こ、こここれは…!」
「私が昨日じっくり時間をかけて作ったレアステーキですッ!!!低温でじっくり火を通しましたぁ!!」
丁寧に切り分けられた肉を贅沢に頬張る兎。
「ツッン〜ッウマヒッ。ウマヒッ」
「我ながら三つ星だよ…んもぐもんぐ」
美味しさそうに食べる兎を嬉しそうに見つめるフブ、太陽の光の下で肉が焼ける音その横で幸せそうな兎とフブ。
「あぁ…夏だな…」
「そそそうだねぇ…」
風が髪を撫で頬をさする午前。君が居ると私はまるで自分じゃない誰かになっている気分になる。
「ねぇ、兎。今日は何しようか?」
「フブ…ゾゾゾンビの設定…忘れてない…?」
「あっ…わ、忘れてないよぉ〜」
「あああAmezon使っちゃったし…」
「まぁ…い、今はね?ゾンビ映画の序盤だから、そう!序盤なの徐々に私生活が侵食されていく…あれ、あれだよ。!」
「ふふっ」
なかば無理やりな後付け感、残る言い訳に兎はつい声を漏らして少し笑ってしまった。
「兎…私の前で初めてそんな顔した!!!ねぇ!!!もっと見せて!!」
フブは恥ずかしがり顔を逸らす兎を追いかけまわす。兎は覚束ない足取りでタドタド逃げる。
「はっ…はは恥ずかしがって…なななないしッ…」
「えー!!嘘だ!!じゃあ、そのツラ拝ませろヤァ!!」
「ひ、ひひぃっーっ…」
そんなこんなで午後は畑の水やりと肥料をまいた。
若い2人の男は走る。ひたすら何かから逃げる様に走る。足場は崩れてまともに歩けないぐらい荒れた道を走る。“アレ”に捕まればゲームオーバーだ。
「おい!タフナ!もっと急げ!!追いつかれるぞ!!」
「急いでますよっ!!!」
ーーーガッガッガッガッ
口にナイフを咥えて犬の様な四足歩行で瓦礫を駆け抜ける人影が1つ。その姿は人間に見えないが人間に分類されるらしい。
「ワンワンッてか。ハッ笑えねぇなぁあ、おい!!バケモンだろアイツ!!」
「僕の目眩しが効かないって事はあの人…“純正”の人間ですよぉ!」
人間とは思えない速度で追いついてくる。2人は荒れた道を抜けて森に入る。その森は木々がおいおいと茂っていて、しっかり上から陽が差す明るい森だ。途中途中に廃れた古屋のようなものがある。2人は森の死角を利用して古屋に隠れる荒くなった息を殺してじっと隠れる。
「っ…っー…んく…っ…」
「はぁっ…はっ…っ…」
ーーーバンッバンッバンッバンッ!!!
外から少しずつ大きくなるこの音はなんだろうか?まるでマンモスが地団駄を踏むような…地鳴りに近しいのかもしれない。しかしその音の感覚が狭い連続で鳴らされる地鳴りが近づく。そしてその近くで止まった。
「ッ……」
「…っ…」
2人の心臓はいつ爆発してもおかしくないぐらいに速まった。
ーーーキィ
古屋のドアが開く音がした。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…
『丸聞こえだなカス共。今出てきたら命までは取らないでやるよ。』
そこから聞こえたのは女の声だった。バレてるのか?流石に古屋に隠れたのは間違いだったか…出るか…?いや、もう出るしかない。そして物陰から立ち上がろうとすると後ろに手を引かれて動きを止める。後ろから立ち上がろうとする男に拳銃を差し出す。無言でそれを受け取った男はその場から立ち上がり姿を晒した。
「…降参だよ。なんで追いかけられてるかわかんねぇけどよ。なんかしてたら謝るぜ。生きていくためには仕方なかったんだよ…なぁ?」
『ほざけ、盗んだ物を出せカス共。』
ーーーガキンッ!!!
ナイフが顔の横に刺さる。まるで元々そこに刺さっていたかの様ないつ飛んできたかわからない速度で頬をかすめた様だ。
『勝手に動くな。次は頭を貫く。』
出てくる冷や汗を必死に抑えながら冷静を装う。
「やぁっ…嫌だな…ポケットにある物を出そうとしただけじゃねぇか。わかった。じゃぁゆっくり、ゆっくり…動くから、いくぞ。」
ゆっくり、ゆっくり、相手の目を見ながらゆっくり、ゆっくり、取り出した。そうやって手をポケットに入れて取り出した。
『それは、なんだ…?』
堂々たる仁王立ちの女は問いかける。
「…」
黙る男に女は言う。
『それをこっちに渡せ。手渡しじゃない。投げて渡せ。ゆっくりだ。』
「ダメだ。これは危ない物なんだ。そんなに雑に扱えない。ゆっくりだから、ゆっくり、ゆっくり、手渡しで渡す。俺達がお前に敵わない事ぐらいお前も分かるだろ?」
『あぁ…そうだな。ゆっくりだ。それを差し出せ。』
そしてお互いがゆっくり近づき目を合わせながら手を伸ばす。
『余計な事は考えるなよ。もうお前を即死させる間合いに入った。』
ーーーカチャッ
男が伸ばした手をゆっくり女の頭に向ける。
『何のつもりだ…早く渡せ。何をしてももうお前に勝ち目は…』
「これ、“拳銃”って言うんです。」
ーーーパァッッッンッ!!!
赤く飛び散った女の血飛沫が古屋の壁に描かれる。勢いで回転しながらのけ反った体に男は勝利を確信した。
ーーーバキッ!!!
(ん?何の音だ…ん?あれなんか体が傾く…っていうか踏んばれない?)
男は床に倒れながらゆっくり自分の下半身を見る。足の骨が剥き出しになっていた。
「がぁぁぁぁぁぁぁあッ」
痛みで声が潰れる。男は本能に前を向かされた。いる。
アイツが血だらけの顔でこっちを見下している。何故だ。何故生きている?なんで?おれ確実に頭を撃ち抜いたはずだ。何故負けた。何故だ。なんでなんで。なんで生きてんだ。
『面白ェもん持ってんじゃねぇかゴミカス共よぉ…そんなもんで殺せると思うなよ。』
「にゃっ…にぃあなぁんでぇっなぁっなんでっっっ」
痛みに耐えながら必死に訴えた。アイツが“人間じゃなくてもあの距離での拳銃は即死だろ!!!何故だ!!!何故死んでいない。
その血が染みた真っ赤な目は閉じない。
『こんな鉄飛ばしてよぉ。危ねぇじゃねぇかよ…なぁ…?』
女の額を見るとカッターってピーっと切ったような傷がある。まさか、まさか、まさか、拳銃を避けたのか?目視で?しかし、タフナの目眩しが効かないと言う事は間違いなく普通の純人間なのだ。
ーーーカチャッ
床に落ちていた拳銃を男は再び女に向ける。
『当たるわけねぇだろ。カスッがよぉ。」
ーーーバキッ
引き金を引く前に腕の骨が折られる。蹴られたのか?自分近くの床に足跡が残っていた。いや、エグれていた。
余ったもう片方の手で再び拳銃を拾おうとすると再び腕が折られる。
ーーーバキッ
「がぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁッ」
拳銃が遠くの物陰に飛んでいった。
『お前の負けだ。着いて来い。』
淡々と言う女に、男は痛みで歪めた顔の口角を上げて言った。
「タフナ。」
ーーーパァッッッンッ!!!
血が壁に飛び散る。さっきの飛び散った血よりも綺麗に大量に。
『はぁ…?』
後ろの物陰に隠れていたもう1人の男がもう対抗できない四肢を折られた男の頭を撃った。
『…お前が物陰に隠れている事ぐらい分かってた。分かっていたが何をしてるんだ…何故仲間を撃った?』
女はまるで人間ではない何かに喋りかけるように発砲音の方に話仕掛けた。
「私じゃ貴方に敵わない。からですかね…?」
『はぁ?いや、違ッ何をいって?!』
「僕“達”が勝ちます。」
そして時間が逆行し出す。2人の男の記憶を除いて。
ーーーパァンッ
フブは兎の隣に近寄り風船を針で破る。
「ウニョ!!!!」
びっくりする兎にフブは爆笑し広い家の中で鬼ごっこが始まる。
ーーーピコンッ
テレビから此間見ていた配信の通知が鳴った。
「あっ、もしかしてあの巨大な建造物の配信の続きかな〜!!」
嬉しそうにテレビを付けるフブに対して兎は少しムッとして隣に座る。
途中訳分からない話入ってびっくりしていると思いますがもう1人の主人公“ツグネ”の話なのでよろしくお願いします。いずれ合流します。