〔第25話〕泡立つ気泡と揺れる水面からの光
2人はウイングスーツで日の落ち切った夜の街を滑走する。
「うさぁーーーぎぃーーー!夜景綺麗だねぇぇえ!!」
フブが気持ちよさそうに言う。
それに対し、兎は焦った声で叫ぶ。
「いいい、家ぇ爆発しだぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「えぇ?!あれ狙ってたんじゃないのぉ?!」
「ははは発電機爆発すると思ってなかった…ぁぁぁぁた!」
「メイトン吹っ飛んでたからめっちゃナイスだったよ?」
「いいい…家…無くなったちゃった…」
「やっちったなぁ……」
「ややややばい…」
「あっ…兎…。そういえば、さ…」
フブが言いにくそうな表情でもじもじしている。
「ここここんな空の上で、ななななに…」
兎の不安そうな声。
「着地って…どうするの…これ…」
「あっ…うわぁぁぁぁぁあ!!!どどどどうしよぉ!!」
着地の事をすっかり忘れていた兎が焦って体を動かす。
バランスが崩れて空中で回転し始めた。
「落ち着いて!なんとかなるはずだよ!ほら、あそこ!」
回転する中、フブが少し遠くにあるホテルの屋上プールを指差した。
「なななななッ?!」
「ほら!一旦落ち着いて体の力抜いて!!私があそこまで“届かす”から!!」
フブは体を極限まで伸ばし、目的の屋上プール目掛けてとぶ。
——————ヒュュュッーーー!!!
風をきる音が鋭くなる。
「とどけぇえええええ!!!」
「わぁぁああああああ!!!」
——————ドッボーン!!!
フブはプールの底に体をぶつけない様、“できるだけ斜め横から”入水した。
水飛沫が横へ飛び、ライトで照らされた一粒一粒の水滴が眩い光を纏っている。
2人は水中でウイングスーツを脱ぎ、酸素を求め水上へ飛び出す。
「ぷッはぁあ!!!!」
「ゲホッゲホッ…グヘェ…」
2人は荒れた息を整えて、周りを見る。
ライトアップされたホテルのプール、人は居ない様だ。
「ヒャぁ〜!あっぶなかったねぇ〜へっ!」
「あああああぶッあぶッ!!」
フブは濡れた髪をかきあげた。
その後、いきなり自分の髪の毛を両手で掴みツインテールを作って言った。
「見て〜ツインテール〜!」
ホテルのプールなだけあって淡く光る妖艶な雰囲気のライト。
そこに渾身のツインテールネタをいきなり披露しているフブ。
なんだかさっきまでのシリアスな現実が嘘みたいに思えて、兎は馬鹿馬鹿しくなり笑ってしまった。
「フッ…フフ…ハハハハッハハッ!アッハッハッハッハッ!」
この楽しそうに笑っている声は誰の声だろう。
私…なのか?
私、こんな声出せたんだ…。
ほんとに?
さっきまで親を殺されて絶望して…自分の家が大爆発した私の声なのか…?
笑って笑って笑い疲れたら、2人しかいないプールで体の力を抜きプカプカ浮かぶ。
フブも兎の真似をし、仰向けでプカプカプールに浮かぶ。
しばらく無言で夜の空を眺める。
ウイングスーツでとんできた時、案外街は明るかった。
ゾンビが出ても働いているのか、家に引きこもっているのか…。
でも、確かに一つわかる事がある。
発電所は動いているらしい。
もしかしたら、終末が来るのはもう少し先なのかもしれない。
そんな事で少し心が軽くなった。
「これからどーしよーかねぇ〜、兎。」
「せせせ、せっかく…外きたし…遊ぼ…メイトンから隠れながら…」
「いいねぇ〜久しぶりの外ぉ〜!!!」
「ゾゾゾゾンビも…もっと…みたい…」
「どんな奴いるんだろぉ〜なぁ〜!」
「ぞぞぞゾンビ映画みたいに…生存者も見つけたい…」
「なんか普通にいそうだけどね。」
「ゆゆゆ夢が広がる…」
「あっ、流れ星!」
「なななな、どどどれ?!」
「うそっ。」
「なななな?!」
2人はプールに浮かびながら何でもない会話を交わす。
穏やかな時間が過ぎる。
ゆっくりプカプカゆらゆら浮かぶ。
そんな中、フブがゆっくり兎に聞く。
「悲しむ時間奪ってごめんね…兎。」
急な謝罪に父親を思い出す兎。
しばらくののち目尻に涙を溜めて、泣かぬ様に奥歯を食いしばって言う。
「ここここれから…ど、どんなに喧嘩しても…どんなに嫌いになっても…ははは離れてやらないから…」
その言葉にフブがニンマリ笑い、プカプカに浮かぶ兎に飛び掛かる。
「言ったなぁぁ〜!うるぅrrrrrりゃっ!!」
「ななななななっ」
——————バッシャーン。
再びプールに沈む2人。
兎は生まれてから一度も水中で目を開けた事がなかったが、なんとなく目を開けてみた。
するとそこにはぶくぶくと泡立つ気泡と揺れる水面からの光、プールのライトから直接水中に入ってくる光の柱、薄く伸びる影。
その綺麗な景色の真ん中にいる、フブ。
それだけで心が満たされた。
「ぷはぁあ!!」
「ぷふぁあ!!」
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夕暮れの光が色とりどりのガラスを貫き幻想的な空間を作り出す周回移動都市エヴァンの教会の中、ツグネが話す。
「なぁ…エヴァンテどっか行っちまったぞ…」
困惑するツグネにセネカが答える。
「まぁエヴァンテは忙しいからねぇ〜さっ!僕達は今日の仕事も終えたし帰ろー!」
セネカのその言葉にセルフレリアが水を差す。
「副隊レベルの人達がこんなに固まって…周回移動都市的には大丈夫なんですか…」
セルフレリアの心配そうな声にニヴァが軽く答える。
「適切な配置では無いと思うけど〜まぁ〜今なんか嵐の前の静けさ的な感じだし〜大丈夫なんじゃな〜い?あっ、にゃ〜い。」
ツグネは“副隊レベル”という言葉に引っ掛かりを覚える。
まるでこの要塞都市に軍隊がいるかの様な…いや、まぁいるだろうけど。
なんか現代みたいに隊長とか副隊長とかそういう区分までされるのは…なんか不思議だな。
て、なると…セネカ達は相当強いのかもしれない…。
底が知れないな、ここは…。
「さっ!!おっひぃらぁきぃおっひぃらっきぃ!」
セネカの掛け声で全員がそれぞれに動き出す。
家に帰るのだろうか?
そんな事を思っているとタフナが心配そうに声を掛けてきた。
「あの…僕達はどうしましょう〜…」
「あ〜確かに。」
困っていると近くで待機していたシスターが一礼をし、話しかけてきた。
「ツグネ様。タフナ様。お部屋のご用意が御座います。どうぞ、此方へ…」
そして促されるままシスターについていき大きなホテルの様な部屋に連れてこられた。
もちろん、ツグネとタフナは別々の部屋だ。
「はぁ〜…ひっさびさの…まともなベッドだなぁ〜…てか、この部屋…貴族かよ。」
ツグネは天井や壁の装飾を見る。
ふんだんに使われた金に豪華な石像、絵画、壺。
「なんか落ち着かねぇな…」
そう言いつつも瞼は重くなる。
そして、すぐに意識は落ちた。
「…zzzZZZ」
〜Good Night〜ツグネ〜
ニヴァが急に猫の物真似をしだした理由はまたいつか書きます。




