〔第20話〕馬鹿につける薬はねぇんだよ。
ツグネさんの過去話は2話分あります。
少し長いです。
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俺は“逃げていた”ゾンビから…
この街を支配する“異能”の奴らから…
《そして、“自分自身”から…》
——————ダンッダンッダンッダンッ!
——————『待てやぁごぉるぅぅうらぁぁぁあ!!!』
大きな巨大。
熊の様な体で追いかけてくる男。
大きさは3メートル程だろうか?
「おい、タフナァ!!!“霧”使ぇええ!!」
「今日で、もう3回目ですよぉ!!!ほんっと、人使い荒いですねぇ!!!」
——————ブシューーンッ!!!
瞬間的に当たりは白い霧に包まれ視界が悪くなる。
「タフナァ!こっちだ!」
そう言ってタフナの腕を引っぱり近くに乗り捨てられていた車に乗り込む。
「キーはあるんですか?!」
「んなもんねぇーよ!刺さってる事を祈るだけだぁ!!」
「ひぇーーーっ!!」
「キーが…刺さって…ないっ…」
「どーすんですかぁぁぁぁあ!!」
「大丈夫だ、霧であいつの視界を遮ってるし足元も悪かった!!まだ時間があるはずだ、キーを探せ!!座席のポケットとかは無いか?!」
「ここもっ、ここもっ、ここもっ、無いですよぉ!!!」
「どこだ、どこだ!どこだぁ!!」
——————『待てやぁごるぅらぁぁぁぁぁあ!!!』
「ひぃぃぃぃっき、きましたよツグネさん!!!」
ツグネはシートの隙間からキーを見つけた。
「あっ、あった!!」
見つけたキーを使い急いでエンジンをかける。
——————ブルウウウウウウンッ。
「シートベルト閉めろ。いくぞォォォォォォォオオオオ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
車が急発進する。
——————『待てやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!』
後ろから迫る大男の姿が遠くなっていく。
ツグネは霧で視界が悪くなっているにも関わらず、アクセルを限界まで踏み道路を走る。
——————ブルウウウウウウンッ。
「あああああ危ないですよぉぉぉぉおおお!!!」
「今、追いつかれたら死んじまうだろぉぉお!!!」
「この速度じゃなんかにぶつかったらぐちゃぐちゃですよォォォォォォォオオオオ!!」
——————ブゥンッ!!!!
「よし、霧を抜けた!!あっ…」
「えっ、ちょっとツグネさぁぁぁぁぁあ!!!!」
———高い崖の上。
———下は海。
———行き先は“死”。
直感で、まずいと分かった。
——————ガッシャァァァンッ…。
車と共に崖から落ちた2人の意識は遠のく…。
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「……ん゛ん゛…イッタ……こ、ここどこだ…?」
頭が痛い…俺は…あの崖から落ちたのか…?
ツグネの頭には“やり直し”出来たか、どうかが浮かぶ。
「やっと起きましたか。ツグネさん。」
——————パチパチパチッ。
焚き火の横でタフナが魚を焼いている。
「お、俺どれぐらい寝てた…?」
「僕が覚めてから半日ぐらいでしょうか?」
ツグネは自分の体を見る。
どこかが欠損している…とかは、ないようだ。
にしても、ここは洞窟か?
俺が落ちた後、ここに流れ着いた…のか…?
「なぁ、ここ…どこだ?」
「さぁ…?僕も落ちて気付いたらここに流れ着いてましたからね。」
「お前…思ったより元気そうだな…」
ツグネのその言葉にタフナは少しキレ気味で言う。
「ぜんぜん元気じゃありませんよぉ!あの大ジャンプで体中痛いんですからね!?」
「…わり。」
「絶対思ってないやつですよぉねぇ?!怒りますヨォ!!」
ツグネは怒るタフナを軽くあしらい、さっき見た巨大の男を思い出す。
熊の様な見た目だった。
3メートルもある体で、車や瓦礫を力ずくで押し倒し追いかけてきた。
「タフナ…俺らはどこまで遠くに流されたんだろうな。」
「…遠くだと、いいですね。」
ツグネがタフナの曇る顔を見て、大声を出す。
「そもそも!!!食料や薬を独占してるアイツが悪いのに…何で…俺らがこそこそ逃げなきゃ何ねぇんだよ…」
「ですね…。この世は弱肉強食って奴ですか…同じ文明人とは思えないですね。」
「…あの、“異能”さえ無ければ。」
「そうですね…」
この街の薬を独占している“草薙グループ”。
近くの薬局や施設から薬を集めて、本当にそれが必要な人に対し物々交換を申し出る。
そして一粒の薬を法外な量の食料と交換させ、ここら一帯の生存者を苦しめさせている。
“悪”でしかない。
しかし、この世界ではそれが許される。
もう法律なんて無い。
そして、奴にはそれが出来る“異能”がある。
“チカラ”が法律だ。
“チカラ”で奪い。
“チカラ”で得る。
この腐った世界でのルールだ。
「なぁ、タフナ。何で、俺らが逃げてんだ?」
「それは…僕達が草薙から薬を無許可で奪ったからです。」
ツグネは濡れた靴を脱ぎタフナに投げつける。
「ッ?!何するんですか?!」
「違う!何で、正しい事をした俺らが逃げてんだ!俺らはただ!!今、本当に薬が必要なガキに分け与えようとしただけじゃねぇか!!!」
「確かに、そうですが…あの男に“異能”がある限り僕達は何も出来ませんよ…。すみません、僕の異能がしょぼいばかりに…」
そうだ。
タフナにも異能がある。
瞬間的に霧を出現させる異能だ。
使える様になったのは最近らしいが、それだけだ。
「そうだな…熊みたいな男に敵う能力ではないな…」
タフナがしょんぼりした。
そして、しょんぼりした顔でツグネに問う。
「ツグネさんは何か能力は無いんですか?」
「……ない。」
「そうですよね…そんな簡単に異能がいてたまるかって話ですよねぇ…」
タフナは焼けた魚をツグネに渡す。
ツグネはそれをゆっくりかじり海の方を見る。
太陽が落ち始め世界の明るさが失われていく。
「なぁ、タフナ。草薙ムカつかねぇか?」
「えぇ、その頬ぶん殴ってやりたいです。」
「…。」
「…。」
「…やるか?」
「…死にたくはないですが、ここで引いたら男が廃れます。」
「お前って意外と男気あるよな…」
「意外ですか?僕、元ボクサーですから。」
「マジ…?見えねぇ〜…」
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退廃した世界にひとつの大きなショッピングモール。
看板には苔や草木が生い茂り、駐車場にはボロボロの車が乗り捨てられている。
草薙グループはそこを拠点にし活動している。
ショッピングモールの入り口は2箇所。
北口と、南口。
それ以外の入り口は溶接して閉じてある。
どんな凄腕の泥棒でも、簡単には侵入出来ないだろう。
そして、草薙は朝の光でショッピングモールの入り口を開け、“客”が来るのを待つ。
顔にタトゥーを入れた、“いかにも”な男達が鉄パイプや金属バットを構えて接客の準備をする。
「草薙さぁん、今日は缶詰ぇ何個ゲットできますかねぇ?」
『アホか。ゲットすんじゃねぇ。俺達ぁ“公平”に買って頂くんだよぉ。』
「そそそそうでしたねぇ、今日の缶詰の相場はどうしやすか?」
『今日は機嫌が良い。一粒“10”缶ぐらいにするかぁ!』
「さ、流石ですぜ…兄貴…」
——————「あっ…あの〜…」
『早速、客が来やがったな。いらぁしゃっせぇ…って…』
草薙グループ今日、最初の客は泥棒“タフナ”だった。
『お前ぇどのツラさげて戻って来てんだぁてめぇ?』
草薙がみるみる内に姿を変え、熊の様な姿になる。
——————『グルゥゥゥゥゥゥウッてめぇ殺す。』
「ちょっとタンマです!!!タンマ!!!僕はアナタとタイマンをはりにきましたぁー!!!」
——————『あぁ?お前、逃げてた癖に何言って…』
「えぇ!!その節はごめんなさぁぁい!!!なので!!!正々堂々やり合いましょう…」
——————『…何考えてんのか知らねぇがなぁ。受けてやんよ。この異能は使わないでやる。その代わりこの勝負…お前が死ぬまで終わらねぇからな?』
草薙が人間の姿に戻る。
「えぇ、大丈夫ですよ…では、さっそく殴り合いましょう…」
『待て、おい!お前らァァァァア!!!デテコォォォォォオオオイヤァァア!!!』
草薙が大声を出すとショッピングモールの中からゾロゾロ草薙の仲間が出て来た。
(…多い、30人はいるか?)
そして、タフナと草薙を囲い大声を出す。
「草薙さんやったれぇぇえ!!」
「殺せぇぇぇえ!!!」
「やれぇぇぇえ!!!」
「しねぇやぁぁぁあ!!!」
「草薙さんいけぇぇぇぇえ!!」
『おい、泥棒。お前ら近所のガキの為に命張ってたんだってな?!本当笑えるナァァァ!!』
——————ブンッ!!!
「ッ!!」
タフナは草薙からのフックをぎりぎりで交わす。
『お前ぇ…なんかやってたなぁ?』
タフナは草薙を挑発する様な口調で言う。
「薬独占してるような…せこいやり口。正直めっちゃダサいですよ。」
——————ブンッ!ブンッブンッ!
草薙のパンチをタフナは左右にステップを踏み交わす。
『…逃げるばっかで、よぉ。お前のがクソだせぇじゃねぇかぁ。』
「では、当たらなかったら意味ないですよ…?」
若干の息切れで言うタフナ。
草薙はそれを見逃さず、すかさず次の攻撃に入る。
——————ブンッ!!!
『おっるぅらぁぁああ。逃げてばっかでおもんねぇなぁ!」
——————ブンッ!!!
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
タフナと草薙を囲うギャラリーはヒートアップする。
2人を囲う熱気に汗が滲む。
「ハァハァハァ…」
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
——————ドスッ!!!
「グハァッ…」
タフナの横腹に草薙のフックが直撃する。
『結局ぅお前は逃げてばっか…でぇっ!攻撃する勇気もないしぃ、反撃する余裕もない。本当ぉ…お前何しに来たんだぁ?おっるぅらぁぁぁっ!!』
——————ドッッス!!!
「ガアァッ!!」
蹲るタフナを蹴り上げる草薙。
周りのギャラリーが倒れようとするタフナを起き上がらせて戦わせようとさせる。
『お前ぇもうよろよろじゃねぇか…ちょっとは攻撃してこいヨォ…?』
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
『お前ぇのしょっぼい“異能”霧使えやァァア!まぁこの距離じゃ意味ねぇけどなぁァァア!!!』
——————ドスッ!!!
「グハァッ。」
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
——————フシュー…。
タフナは周囲に若干の霧を出す。
「じゃ…じゃあ…だっ、出させて頂きます…雰囲気作りです…」
周回をギャラリーで囲われている為、霧自体に意味はない。
しかし、若干の霧がタフナの意識を覚醒させる。
「な、懐かしいですね…この雰囲気…」
『ぁぁあ?』
タフナは思い出す。
リングに入った時の熱狂、汗や熱気で会場が沸くあの感じ。
——————ブンッ!!!
『交わしてぇばっかりでぇよぉぉお!!』
タフナはフックを交わした後、草薙の横腹に強烈なカウンターを食らわせた。
——————ドスッ!!!
『グハァッ…!』
『『『うぉぉぉぉぉぁぁおお!!!』』』
ギャラリーはタフナの1発に沸く。
草薙がそれにイラだちタフナに猛攻を仕掛ける。
『おるぅぅぅあらぁぁぁぁぁあ!!!』
——————ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!!
タフナは草薙の猛攻を全て見切り、その分カウンターを放つ。
——————ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!
顔面にカウンターのパンチをモロに食らった草薙は、体をのけ反らせる。
『『『うぉぉぉぉぉおお!!!』』』
ギャラリーは沸きに沸き、朝のショッピングモールが大きな会場の様になる。
『お前ぇ、ぇ…グッハァッ……やるじゃねぇか…』
「アナタも…」
——————ピピピピッ。ピピピピッ。ピピピピッ。
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
タフナの時計からタイマーの様な電子音が鳴る。
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
『なんだぁ…?』
『『『草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!』』』
「ハァハァ…盛り上がってる所…申し訳ないですが、では…また来世で。」
「「「草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!草薙ぃ!!!」」」
『はぁ?お前何言って…』
——————バタッ。
タフナはその場に倒れ込みうつ伏せになった。
『『『うぉぉぉぉおおお草薙ぃさぁんの勝ちだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!』』』
その瞬間、轟音と共に霧が“裂ける”。
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
——— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
—————— ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
———シュー…。
———「おーーい!タフナァーー!!大丈夫かぁー?!」
「ひぇ…」
ツグネは伏せた体を起こし周りを見る。
ツグネと草薙を囲んでいたギャラリーは全員上半身が無くなった状態で地面に横たわっている。
草薙本人も上半身が無い状態で倒れていた。
———「おーーい!タフナァーー!!大丈夫かぁー?!」
ツグネが機銃の付いた車の上でタフナに呼びかける。
タフナは返事せずゆっくり立ち上がり、ツグネの方向かって大きく手を振る。
———「大丈夫そぉーーだなぁーーー!!!」
その言葉にタフナは心の中で、ひとりグチをこぼす。
(ほんっと…人遣い荒いにも程がありますよ…)
ツグネは機銃の付いた車を降りてタフナの近くに寄る。
「なぁ、タフナ。お前なんか傷だらけだな…」
「誰のせいだと…」
「流石に…草薙の仲間全員外に出す為とはいい…お前…熱狂させ過ぎだろ…。俺が車で近づいても誰も気づいてなかったぞ…」
「ちょっと、ムキになってしまいましてね…」
「あー、俺もそれ見たかったなぁー。」
「もう、機銃掃射のオトリになんか、なりませんからね?!」
「…なんか、卑怯な手使ってしまいましたね…」
タフナのその言葉にツグネは笑って返す。
「馬鹿につける薬はねぇんだよ。」
「ハハッ、何ですかそれ。そんな事より、薬必要な人に届くと良いですね。」
「あぁ、必要な奴は取りにくんだろ。」
「ですね。」
——————『おい…待てやぁ…』
後ろから聞こえてきた声に2人は驚き振り返る。
「うぉっ?!」
「わぁっ?!」
振り返ってみると、そこに立っていたのは熊の様な姿になった草薙だった。
——————『ハァハァハァ…よくもやってくれぇたなぁ…』
「アナタ…上半身飛ばされてたのに、何で元に戻ってんですか。」
「お前…………近くで見たらキモいな。熊みたいな見た目してる癖に毛ぇ生えてないし、耳もない。それに熊というより毛ぇむしり取ったゴリラみてぇじゃねぇか。草薙って名前の癖にぜんっぜん、草食獣っぽくねぇーな!!」
「めっ、めっちゃディスるじゃないですか…」
——————『お前…言って…ハァハァ…言ってくれるじゃねぇか…コロス!!!!』
熊の様な草薙の腕がタフナを襲う。
「…。」
「なっ?!」
ツグネはタフナの前に出てそれを庇おうとする。
(チッ、次は再生できない様、機銃の後、しっかり焼くか…)
ツグネは次の“やり直し”の為に頭を回している。
前に出たツグネの行動に驚いたタフナが叫ぶ。
「何してッ!!!」
そうだ。
この時、まだタフナはツグネの“やり直し”の事を知らない。
——————ドチャッ…。
(あれ、俺…痛くねぇ…)
目を開けるツグネ。
「ちょっ…はぁぁぁあ?!」
ツグネの目の前に広がっている光景。
草薙が地面で“潰れている”。
更に詳しく言うと、何かに叩きつけられた様な潰れ方をしている。
「ちょ、ツグネさんッ?!」
「お、俺もわかんねぇよぉ!」
そんな言葉を交わしていると、ショッピングモールの入り口から1人の男が出て来た。
——————『ワシの目の前で暴れるとはいい度胸じゃのぉ。』
黒いローブを顔まで深く被った、お爺さんの様な喋り方をしている男が出て来た。
しかし、喋り方と相反して声自体は若々しく聞こえる。
お爺さん…
お兄さん…
いや、子供っぽい声だ。
しかし、ドスの効いたザラザラ声が鼓膜を刺激する。
「お前は、誰だ…草薙の仲間か?」
ツグネが先陣を切って喋りかける。
——————『貴様みたいな下郎が…ワシに…』
「ちょっ、待て…」
——————ドチュンッ。
ツグネが草薙と同じ様に潰れる。
——————『話しかけるな。』
「アッ、アッ、ア゛ア゛ア゛!!!ツグネさぁぁあん!!!!」
タフナが潰れたツグネの方に寄る。
ぐちゃぐちゃに潰れて死んでいる。
タフナは黒いローブの男を親の仇のごとく睨む。
黒いローブの男は不機嫌な態度で言った。
——————『何じゃ、貴様。反抗的な目をしておるな。』
その声と言葉にタフナの中の本能が叫ぶ。
(逃げなくては)
(死ぬ死ぬ死ぬっ)
(勝てない。)
(生きたい。)
(死にたくない。)
…ダメだ。
…コイツからは逃げられない。
本能で悟った、コイツは格が違う。
…逃げきれない。
タフナは死んだツグネの血を指につけて地面に書く。
[逃げろ]
書き終えた瞬間、意識が消えた。
本能で悟った死は避けられないと…。
なら、なぜ地面に逃げろと書いたのか。
その理由は単純です。
次この場所に来た人が自分と同じ様な状況に陥らない様…この文字を見たらすぐ逃げられる様、[逃げろ]と書きました。
これは生物が次の犠牲者を出さない様にする為のバトンみたいなものです。
詳しい説明、描写は後々出て来ます。
ツグネの元いた世界はゾンビまみれになっています。
ツグネの元いた世界と兎とフブの世界は違います。
ショッピングモールの駐車場で騒いでも、ゾンビ達が近寄ってこなかった理由は、ショッピングモール自体が大きな柵で囲われていたからです。草薙達は安全な場所を独占していました。




