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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
日常編 冒険編
2/29

〔第2話〕ベランダに畑 肉塊に髪の毛

もうしばらくハートフル?が続きます。わーい。

 

「今日は兎の家のベランダに置けるサイズの植木鉢と土を買おう〜…と言ってもめっちゃ広いからねベランダ…(もう庭じゃんあれ…)。」


「でででも使ってないから庭、汚れちゃってるよ…」


「えー、めっちゃ綺麗なベランダじゃん。ん?今ベランダじゃなくて庭って言った?!やっぱりお金持ちのスケールは怖いなぁ…ほらっ、このでかい植木鉢とかどう?」


 そう言って指差したのは縦横1メートルはありそうな植木鉢だった。

 フブは目に入った物の中で1番大きい植木鉢を提案した。

 兎はフブの想像を簡単に超えた。


「やややっぱり、もう植木鉢とかめんどくさいし…にに庭、使ってないから畑にしよう…」


 その瞬間、炭酸を開けたソーダの様に笑い転げるフブ。

 ホームセンターに響き渡る笑い声は他の客の目をひいた。


「アーハッハッハッハッ!ヒーーーッ!!ちょっと、凄いフフフッ想像を簡単に超えてくるね。」


「ふふふフブには劣るよ…」


 通行人に注目されて少し恥ずかしそうにする兎とは相反(あいはん)して、フブは笑い続ける。


「ヒーッフフフッ。じゃぁ、土いっぱい買おう!買えるだけ買って行こッ!」


「そ、そうだね…」


 2人はカートに乗せれるだけの土袋を乗せてレジに行く。 会計が終了したと同時に大量の土が乗せられていたカートがバラバラになった。

 大量の土の重さに耐えられなかったのか壊れた。

 慌てふためく兎とフブ。

 店員は苦笑いして「大丈夫」と言うが、なんだか申し訳なかったのでバラバラになったカートを購入した。


「あー!このカート緩んだネジが外れてるだけだ!」


「そそそしたらすぐ直せるね…ががガムテープで…補強しよう…」


 2人はカートのネジを締め直し組み立る。

 組み立て終わると買った土をカートに乗せて家に帰る。

 帰り道、いつもの道に救急車と事件があったときに巻かれる黄色と黒のキープアウトのテープがそこらじゅうに巻かれている事に気づいた。


「え、なにかあったのかな…物騒だね…兎。」


 フブの言葉に兎は首を縦に振って、後ろを振り返る。

 凄い数の救急車が来た様だ。

 火事の様子もないし無差別殺人鬼でも出たのだろうか…。

 静かな街に救急車のサイレンが響く。



 ——————ウーウーウーーーッウー…



 テープが巻かれている民家の玄関を見る、兎とフブは静かに足を止めた。


「ねぇ、兎。あれって…」


 玄関のドアの下部から、さらりと…。

 しかし、どこかトロミも感じさせる様な赤い鮮血がゆっくりとゆっくりと染み出していた。

 玄関前の階段を覆って(したた)る。

 明るい空は確実に色気(いろけ)を失っていく。

 テンションの転落。

 衝撃的な光景。



 ——————ウーウーウーッ…



(あっ、この救急車のサイレンこの家の…)

 後ろから近づくサイレンの音で確信に変わる。

 後ろから増援にきた救急車が到着し、救急隊員が出てきた。

 玄関前の鮮血を踏みしめ玄関を開ける。



 ———見ちゃダメだ。



 分かっているが目が離せない。

 いや、違う視線が離れなかったんだ。

 開けられた玄関の向こう側には、赤いグジュグジュの塊に人の髪の毛のようなものがあった。


「ふ、ふフブ…あ、あ、あれって…」


「あれ…人…なのかな…」


 そんな会話を交わした直後、さらに増援に来た救急車。

 そんな中、1人の救急隊員に声をかけられた。


『こら、君達、邪魔になるから早くいったいった!』


「すすすみません。」

「すみません…」


 再び家に向かって歩き出す2人。

 会話は(はず)まない、見たものがあまりにも非現実的だったせいもあるだろう。


 重い空気を切り開いたのはフブだった。


「ねぇ、もしかしてこの街にはさ、やばい殺人鬼や怪物みたいな奴が居るのかな?怖いね…ほら、あれ…映画みたいだよ。ほんと…」


「すすすスプラッター映画みみみたいだったね…ででも今の私達の世界はゾンビ映画だからまだ大丈夫…」


「そうだね!よし!私も役に入り込まないとね!って、ゾンビもなかなかスプラッターじゃない?」


 兎の家に到着し大きなロビーに入る。

 兎が顔認証でオートロックを開けようとすると管理人のおばさんが受付から顔を出して兎とフブに挨拶した。


『こんにちは、兎ちゃんフブちゃん。』


「こんにちは!」

「こここんにちは…」


『そのカートの中、土なんて何に使うのさハッハッハ。』


「私たちはゾンビ映画の世界にいるのですっ。そしてベランダに畑を作り持続可能な食糧を獲得するのですッ。」


 フブが意気揚々と説明した。

 管理人のおばさんは笑いながら答える。


「庭を使うのは良いけど、下の階の人に迷惑かけちゃダメよ。」


「だだだ大丈夫です…」


 フブと兎は2人でカートを押し、エレベーターに乗った。

 25階のボタンを押す。

 お互い喋らずに無言で小袋に入った土をポンポン叩いていた。

 押したら凹むが少しの反発を持った農業用の土に、少しの感動を共有した後、エレベーターが開いた。

 部屋の玄関を開けっぱなしにしてから土を運ぶ、ベランダ(庭)に大量の土袋を置く。


 1、ベランダに大量の土をばら撒き土壌を作る。


 2、タネを植える。


 3、水をあげる。


「ふ、ふふフブ…なんかあっさり出来たけど…ほんとにこれで畑機能するのかな…」


「んー…。自然のチカラを信じようぜ…へっ…」


 作業を終えて2人は一息つく。

 いつも兎が溶けているふかふかのソファに腰をかけるフブ。

 そのフカフカさと、座り心地に思わず声が出た。


「あーやばい…このソファ…腰がトロける…なんだこのソファは、一体なんの素材で出来てるんだよぉ…」


「そそそそのソファふ、ふわふわ…でいいよね…素材…は知らないけど、わ私はいつもそこで寝てる…」


「いや、ベッドあるんだから、そこで寝なよっ。」


 正論をかまされた兎はフブから目を逸らし、リモコンを探してTVをつける。

 TVをつけるといつも通りニュースが流れた。


『暴徒化したデモに対して鎮圧(ちんあつ)を試みるもなかなか上手くいっていないようですね。ナノシステムを使っても〜…』


 コメンテーターのコメントが流れる。

 一瞬テレビを横目で見た後、兎はフブの隣のソファに腰掛ける。


「今日の夜ご飯は何食べたい?」


 兎はフブの質問に対ししばらく考えた後、答えた。


「か、かカレー…がいいです…」


「いいね〜かれぇ〜。」


 フブは夕飯のカレーを作る為にキッチンへ行く。

 兎はスマホを取り出してゲームを始める。


『いまだ暴徒化した市民を止められないのはやっぱり警察が本気を出してないと言うことなんですね…もう他の市民に対して影響が出てる時点でいっぱい逮捕すべきなんですよ〜。』


 コメンテーターの意見が再び流れる。

 するとテレビの画面が切り替わり警告音と共に災害情報でよく聞く音が流れる。



 ———ファッンッファッンッファッンッ。



『えーと、今情報が入りました。太平洋から進行中の謎の巨大建造物に対して弾道ミサイルが発射されました。』


「え、なんかやばいね。」


「すすす凄いことになってるね…」


『尚、日本政府はこの状況に“国際的な軍事進行である可能性が高い。しかし、どこの国の建造物かわからない以上、攻撃せざる得なかった”との事です。』


「戦争…なのかな?でも、どこの国が全長20kmの移動する建造物作れるんだろう…」


「でででも壊される前にちょっと、なな生で見てみたかったね…」


「そうだね〜。」









———————————————#####




 ——————トントントントンッ。



 リズム良く刻まれるまな板。

 この音はにんじんを切っている音だろうか。

 私は普段料理なんてしないから分からないけど…。

 兎はスマホゲームを辞めてフブがいるキッチンに立った。


「どしたの兎?」


「わわ私もっ…て、手伝う…」


 フブは目を丸くした後、兎に微笑んで玉ねぎを渡した。


「玉ねぎの皮剥いてて!」


「わわわかった…」


 兎は玉ねぎの皮に苦戦する。

 ツルツルして皮を掴めない。

 2分ほど苦戦しているとフブが玉ねぎに少しの切れ目を入れてくれた。

 これで皮が剥きやすくなった。


「ああありがと…」


「剥けたね!じゃあ玉ねぎ切ってみようか〜。」


 さっきまでフブが居たまな板の前に立ち包丁を握る。

 前に手伝った時、フブに教わった野菜を持つ手は…


 そう、

 猫の手ッ!



 ———バッッッッンッ!



 包丁を振り下ろし、玉ねぎを切る。


「ちょぉっい!!その切り方危ないし、サムライか!!!しかもそれ鶏の手じゃん!!」


「いい勢いつけて切ったほうが良い…」


「もうちょっと包丁の切れ味を信じてあげて…」


「ごめん…包丁……」



 ———コトコトコトコト。



 大きめのフライパンでカレーを混ぜる。

 とろみがついて来たら火を弱目にして蜂蜜を入れる。

 兎とフブは甘党なのでカレーも甘口派なのだ。


「そろそろかな。」


 フブの号令により兎はカレーを混ぜるのを辞め冷蔵庫からお茶を出しコップに注ぐ。

 フブはカレーを皿に取り分けてテーブルに運ぶ。


「いただきます。」

「いい、いただきます。」


 手を合わせてからカレーを食べ始める。

 兎はいただきますをするタイプではないが、フブにつられて毎回するようになった。

 兎は見たいアニメがあったのでTVのリモコンを手に取りチャンネルを変える。


「あっこれ私も見てるアニメだよ〜リアタイはしてないけど〜!」


「こ、ここれ面白い…」


 アニメの画面から急にニュース速報の画面に切り替わった。


『ただいま政府が緊急事態宣言を発表しました。太平洋から進行中の巨大建造物が日本の弾道ミサイルを撃ち落としたとの報告が入りました。これに対し政府は“これ以上進行を続けるなら手段をいとわない”との事です。』


「…。」


「あちゃまぁ〜…なんだか凄い話になって来たね。」


 静かに見る兎と少し非現実的な状況に興奮するフブ。

 リアタイでアニメが見れない事を悟った兎は少し不機嫌な顔をして、カレーを頬張った。


「この様子じゃ今日はもう、このニュースばっかりだねぇ…」


「そそそうだね…」


 コメンテーターが喋る音が響くリビング。

 カレーを食べ切った2人はソファで再び溶けていた。


「ねぇ兎〜冷蔵庫にアイスあるから取ってきてぇ〜…」


「わわ私にじゃんけんで勝てたら良いよ…」


 密かにニヤける兎、その笑みに闘志を燃やすフブ。


「んじゃぁあ行くよ〜じゃーんーけーん!!」


「けーーん!!」


(フブは私とのじゃんけんにおいてグーが60%チョキが32%パーが8%という戦績だ。よって次に出される確率が高いものは1番だしていないパーになる。私がパーに対抗できるチョキを出せば勝利の可能性がぐんと上がるはずだ!)


「ほい!」

「ほいっ!!」


 兎は唖然とした。

 フブはグーを出していたのだ、おかしい。


「えええ、だ、だっえ、いいい1番パーを出していないはずなのに…な、なんで…」


「恐らく兎は色々と考えているだろうがッ私は手を開くのがめんどくさかったからグーを出したのさッへっ!」


「くっ…そそそんな思考読めない…せこぉぃ…」


「馬鹿と天才は表裏一体ってのは、こう言う事だぜ嬢ちゃん…」


 兎は負けを認め冷蔵庫までアイスを取りに行った。



 そんなこんなで夜は明けて朝になる。

 トリプルサイズはあろうかと言うベッドで寝た2人は朝から昨日作ったベランダの畑を整えている。


「ねぇ、ほんとに綺麗なベ…庭、畑にして良かったの?」


「うん…わわ私、綺麗な庭より今の庭の方が楽しい…」


 そう言って昨日、買った土を追加でベランダに撒く。

更に畑を広くする。

 ビーチサンダルを履いて、土の上に乗り人差し指を土に刺してタネを植える。

 庭の広さは大体、縦7メートル横5メートルとかなり広い兎自身この庭の使い道に困っていた所ではあった。

 広すぎて全部は畑に出来なかったが半分以上は買った土で畑になった。

 この間、植えたのはジャガイモのタネだったが今度はそれぞれが好きなタネを植えた。


「兎、何植えたの?私はね〜もっかいジャガイモ!今度はちゃんと植え方検索してやったんだ〜。特製ポテチ作るんだぁ〜。」


「わわわ私はす、スイカ…」


「いきなりレベル高いのいくねぇ〜いいね夏っぽくて。」


 最後に上から水をかけて、再度畑が完成した。

 育つのが楽しみだ。


 「広いなぁ〜ベランダ…いや、庭…」


 そういえば水問題に関して、兎に風呂に溜めておくか聞いた時、このビルの屋上に巨大な貯水タンクがあるから非常時にも大丈夫って言ってたな…なんか…金持ちすげぇなぁ…。

 さぞかしおっきぃんだろうなぁ。


「ねぇ兎、改めて見るとこの庭、広いね。何というかもう部屋ぐらい広いじゃん。」


「たた確かに…もうバスケぐらいは出来そうだね…」


「フットボールもできるでしょ…まぁボール外に落ちたら大変だけど。あっ、明日で消費期限切れるお肉あるから焼肉でもしようよ!」


「ほほホットプレートあるからそれでできる…」


「ねぇ゛ー!ち!が!う!よ!外でするの!バーベキューをしよう!!ここ最上階で上の人いないから大丈夫だよ!!」


「たた確かにその発想はなかった…で、ででもバーベキューセットない…」


「Amezonで頼もう!明後日には来ると思うよ!」


 2人でPCを覗き込み驚いた、今注文すると明日の朝には来るらしい。


「現代の流通技術すげぇ…」


「す、すすごい…」


 バーベキューセットを注文したが案外早く畑作りが終わってしまってやる事がなくなった2人。

 無言でソファに溶けてスマホをいじる2人。

 しかし、兎がネットで気になるものを見つけた。


「ねぇ、ふふフブ…これ見て…」


 スマホの画面を見せる兎にフブは落ち着いて体を起こした。


「えーと、ん?謎の巨大建造物の姿を激写、配信者が現在違法配信中…やばいね、この配信者行動力の鬼なのかな。」


「てててテレビでこの配信見よう…」


「いいね。」


 テレビを配信に切り替えて映す。








———————————————#####




『うぉーーー海上保安、振り切ったぞ!!!俺が元優秀な軍人だったからできたことだな!!はっはーーーー!!!!』


「なんかいきなりやばいね…この配信者。」

「いいいきなり配信つけたらこれって、お、おもしろいね。」


『えーと今謎の巨大建造物の付近にいるんですけど、凄いよ!!ここからでも見える!ほらっ!』


 そうしてカメラに映された快晴の空に映る巨大な山の様な、“ナニカ”。

 例えるなら夕日に照らされて、逆光で暗くなった高層マンションの様な…。

 しかし、高層マンションにしては大きすぎるそれは山と見間違うほどに…。


『いや〜凄いね、今から近づいて!乗り込んでいくよ〜!まぁ俺の命は君の退屈を埋めるために使うぜ!!!って事で充電の温存の為にしばらく配信切りまーす。続きはまたアレに着いたら配信します〜んー1、2時間後ぐらいかな?ブツッー』


 配信は切られた。


【黙って。珍しく今、凄く集中しているの。凄く、凄くね。邪魔しないで。】

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