ゾンビが蔓延した世界ごっこ
初めまして犬の塊です。
ページを開いてくれてありがとうございます。
至らぬところはあると思いますがどうぞ宜しくお願いします。
それはある日突然来た。
私は名前は兎決して跳ぶことはない。
今日も今日とて学校をサボり家でスマホゲームをしていた時だ。
『ここでニュース速報です。昨夜から始まった国家の軍事予算を巡ってのデモで市民が暴徒化し民家を襲っています。この事態に収集をつける為、国は特殊…』
テレビから流れる音を背にスマホゲームに没頭する、私には関係ない話だ。青々とした空をベットの上から見上げる、心地よい風がミディアムヘアの黒髪を撫でまわす。
「はぁ…今日もいい天気だッァ…」
ーーーピンポーン
インターホンが鳴りドアがノックされるインターホンを押したのだからノックしなくても良いんじゃないかと思うがそれをしてくる人物を私は知っている。
いつも家に学校の配布プリントや連絡を持ってきてくれる健気で元気な明るい子だ。
ーーー兎〜早く玄関、開けろ〜
出たくない…
私が学校をサボる様になってから毎日家を訪れては私の家に居座りダラダラしていく。友達が少ない私にとっては正直嬉しいけど学校への登校の促しだと分かっている。
ーーーねぇ〜あ〜け〜てぇ〜
彼女はクラスの委員長でそういう事を先生から頼まれてるんだろうなって直感でわかる。インキャの勘って奴だ…
委員長に気をつかわせるのもなんだか悪くなってきた。
もう今日は玄関を開けずに帰って貰おう…
それがお互いの為だ、彼女も毎回早く家に帰りたいだろう。
ーーー。。。。
玄関から声と人の気配が消える、諦めて帰ったのかな…
少し悲しいけれどもう良いんだ…窓を全開に開けて部屋の空気を入れ替える。さぁゲームの続きをしよう。
「あれっ…なんで私泣いてっ…?」
ここ2ヶ月、私が登校しなくなってから委員長が家に毎日来た思い出が走馬灯の様に蘇る。きっと彼女はクラスの仕事で毎日来てくれていただけで迷惑かけていただけだ。
こんな時ドラマや漫画なからいつもヒーローが助けに来てくれる。落ち込んだ私を救ってくれるけど現実は違う。
委員長は3回のノックの後すぐに帰って行ったし、ヒーローも助けに来ない。きっと私がインキャで勝手な義務感を友達とかと勘違いしていただけできっと…
静かな玄関が悲壮感を強める。
ーーーピンポーン
インターホンから鳴った音に縋り付く様に玄関に走り開ける。
「ささ、ささっきは無視してごめッ」
見慣れない屈強な胸板に太い腕ではち切れん様な太い筋肉、一目見た瞬間に分かった。
「あの…お荷物届けに来ました…は、ハンコお願いします…」
出てくる鼻水と涙を必死に抑えて嗚咽しながら荷物を受け取る。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
「ダッダァっ大丈夫でずぅッ」
ーーーバタンッ!!!
恥ずかしさと虚しさが中和されて死にたくなった。
勝手な妄想を自分の中で作り上げて勘違いして…
暫く玄関で荷物を持って座り込んだ。
30分が過ぎた。
静かになった玄関前、私が住んでるマンションにはあまり部屋が多くないので人の出入りもそうそう無い。
重い身体を起こして窓の外を見る、自分の人生には真反対の綺麗な景色に心が静まる。
ーーーカシャンッカシャッンッ
「…?」
外から軋む様な音が聞こえてくる。
ベランダに大きな鳥が巣を作って訪れる事はよくあったのだが窓から音が聞こえてくることは無かった。
窓の周りを見ても何も無い綺麗な景色が見えるだけだ。
ーーーズズズッズズズッズズズッ
音が近づいてくる、上からの音だということに気づき急いで上を見上げる。そこには全身をワイヤーで固定し命綱をつけた委員長だった。
「何してるのぉぉぉおおおお?!」
「やぁっ!昨日ぶりだね兎!!!」
「ここ25階ぃぃぃぃいいいい!!!!」
腰と四肢に巻き付けたワイヤーその姿はさながら消防士を連想させる。垂らしたワイヤーから兎の部屋の窓の少し上まで来た。
「兎が玄関開けてくれないからじゃん!!!あっ、ワイヤーの長さ1メートルぐらい足りないっっ!!!」
「どーすんのぉぉぉ委員長!!!」
委員長は身体に固定していたワイヤーを外し片手でワイヤーにぶら下がり壁を蹴って勢いをつけ始めた。もしかして足りない1メートル分を猿みたいに飛び移るのだろうか。
「いきまーーーーす!!!やぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「わぁぁぁぁぁあっ!!!!!」
全開に開けられた窓から勢いよく部屋に飛び込んでくる委員長に腰を抜かし座り込む兎。兎を覆い被さる形で着地する。しかし、残っていたワイヤーが部屋に入ってきた時と同じ勢いで委員長のカバンに引っかかり窓の外へ放り出される。
ーーードタドタドタッ!
開かれた窓の外と中でカバンの中から散らばったプリントが降り注がれる。
散らばったプリントが陽光で数秒の木漏れ日を作り出す。
「痛たたたた…あっ今日のプリント渡しにきたよ!」
その澄み切った笑顔で全てが救われる様な気がした。陽光に照らされる部屋に作り出されたプリントの木漏れ日と底抜けに明るい笑顔。
「いいい委員長…あ、あ危ないよ…」
自分の想像を超えてくる委員長に少しの怯えと嬉しさが混じり言った。すると委員長は明るくて目を逸らしたくなる様な笑顔と声で言う。
「委員長じゃなくて“フブ”!」
思わぬ返答に戸惑い目が泳ぐ兎に対して委員長は兎の顔をガシッと掴み無理やり目を合わさせる。
「リピートアフタミー“フブ”!」
「…“フ”…委員長」
名前呼びに躊躇する。無理やり合わさせられた目を横にスライドさせて顔の近さに対する恥ずかしさを和らげる。
「リピートアフタミー“フブ”ぅ!!」
掴まれた顔がまた更に近くなる。押しに負けた兎が言う。
「ふ…ふふ、“フブ”…」
あぁ君はいつも子供みたいに笑う。私はその笑顔にこれからも救われるのだろう…
「えへへっ良くできましたっ」
想像を超えてくるフブは今日私に料理を作ってくれるらしい。キッチンで野菜をから音が部屋に響くそれと同時に再び臨時ニュースが入る。
『デモで暴徒化した市民が死傷事件を起こしたとの情報が入ってきました。首筋などを噛み5人を死傷させた疑いで1人の男を現行犯逮捕したとの事です。』
「ふふフブ、」
「ん?どうしたの?」
「ここ、このニュースの奴ゾンビ映画の序盤みたい…」
「兎そういうの好きだもんねぇ〜。」
「う、うん…好き…」
「もしゾンビ映画だったら兎はどうする?」
「わ私はじゃぁ保存できる食糧を大量に買い込む…」
フブは野菜を切る手を止めて野菜をラップに巻き冷蔵庫に入れた後、ゲーム中のウサギの手を引っ張り言った。
「これからこの世界はゾンビが蔓延するぞ!と言う事でいっぱい保存食買いに行こう。」
「え、…?ちょっ」
無理やり支度をさせられ外へ連れ出される兎。
「きき急にっ…そんなゾンビなんて冗談だよ…」
「いいの!そういう“テイ”でやるの!」
「ぇえ?!ど、どどう言うこと?!」
「だから、このニュースを機に、世界がゾンビで蔓延する“テイ”で遊ぶの!!」
「ぇえ、え、え、」
戸惑う兎にフブはムッとした表情で言う。
「家でゲームばっかりするよりいいの!」
そう言って連れてこられたのはキャンプ用品店だ。フブは店前に設置してある大きな熊の頭を撫でた後、兎と一緒に大量の荷物が入る登山用のバックパックの前に立つ。
「ゾンビが蔓延した世界映画ごっこに欠かせないのはやっぱりこのバックパックよね。」
「ぞぞぞゾンビが蔓延した世界映画ごっこ?!」
「んーまずは目立たない色がいいね…血がついたらすぐに落とせる様に暗めのグレーとか黒よりかは良いかもね…」
真剣に選ぶフブに戸惑いながらも、兎も一緒に大容量のバックパックを選んだ。しかし、レジへの列に並ぶ途中に兎はフブに聞いた。
「ふふふフブは一般庶民高校生だからお金とか大丈夫なの…?」
「一般庶民高校生とか言うなっ。まぁ間違っては無いけど!兎と違ってお金持ちじゃ無いけどさ!!」
「わわ私が払うよ。」
色々良くしてくれてる日頃のお礼として言う兎。それに何故かムッとした顔でフブは兎に言う。
「私先生に委員長として兎の事色々任されてるんだけど、先生は兎の事全部投げやりで私に任せてムカついたから教育委員会を脅しに使って色々活動費絞ってる(脅してる)から大丈夫!」
「えぇ…先生ちょっと可哀想…でででも、いい気味…」
「だから今日はいっぱい遊ぼ!」
「わわわ私に出来ることお金ぐらいしか無いから…」
レジの番が回ってきて兎が財布を出そうとするとその手をフブが押さえて言った。
「じゃあ足りない時にお願いね!」
やっぱりその太陽の様な笑顔に表情が溶けそうになる。
大きなバックパックを買いそのまま背負って業務用スーパーに行く初めての業務用スーパーに入りワクワクする2人を店員が止める。
「最近万引きが相次でいるからバックパックはちょっと…」
そう言う店員の困った顔を払拭する様に兎はポケットの財布から黒く光るカードを掲げて言う。
「さささ先払いでもいいですよっ…」
そうして大きなカートを引っ提げながらゾンビが蔓延した世界映画ごっこ保存食買い物編が始まった。
「んーまずは“サバの味噌煮”の缶詰が欲しいね。」
「お、王道…流石っ…」
「えへへ、でしょ。」
大きなカートの下部が見えなくなるまでサバの味噌煮を大量に敷き詰める。
「ハハハハッ!!絶対人生において今後こんなにサバの缶詰買うことなんてないよ!」
元気よく笑うフブに釣られて兎も笑う。
2人は次に保存食の帝王、インスタントラーメンコーナーを見に行く。色々な味の業務用インスタントラーメンが並ぶ兎はどれにしようか迷っているとフブは兎の背中をバシッと叩き言った。
「悩んでる暇なんてないよっ!!!ほら、全部の味カートに入れて!!ほらっ!!ゾンビウイスルが今も広がってるんだよ!!」
「そそそ、そうだね。早く選ばないとねっ…」
他にも保存食を選んでるとだんだんゾンビが蔓延した世界映画ごっこが楽しくなってきた。
「ふふフブ…ジャガイモも買おう…。」
「え?!ジャガイモなの?!」
「う、うん。」
「なんで?ジャガイモなの?!」
「ジャ、ジャガイモは成長早くて継続的に収穫できるからイイっ…」
「兎…流石です…これがゾンビ映画マスターか…」
ジャガイモも大量にカートに入れる。他にも家庭用野菜のタネを全種類カートに入れる。
「これだけタネ買ったら私達野菜農家になれるね!えへへ」
「そそそ、そうだねぐへへ」
「あっ!!鶏とかは!!!」
「え、ににに鶏…?卵が欲しいってこと…?」
「うん。流石に無いか…」
「ぎぎぎ業務スーパーだもんね…一様卵数パック買って温めてみようね…」
その提案にフブは爆笑した。
「アッハッハッハッハッ。ちょッその発想は無かったよ。イーヒッヒッヒッヒッ。」
そんなこんなで大きなバックパックが簡単に詰まるほどの保存食+ジャガイモやタネを買った。バックパックに入りきれない分は大きなレジ袋に入れる事にした。
外に出ると空は暗くスマホを見ると終電間際の時間になっていた。2人は大量の荷物を抱え終電に乗った、言わずともゾンビが蔓延した世界映画ごっこは続いていて今夜は兎の家に泊まる事を2人は共有していた。
「流石に…お、重いッなぁ…」
「おおお重いッ…」
2人は駅に着いてから家まで重い荷物を引きずってエレベーターに乗る。家についてから保存食を綺麗に並べて今日の収穫を実感する。
「ここからが本番なんだよ兎。」
「そそそそうだね…この世界で生き抜こう…」
最初こそ嫌々恥ずかしながら設定に乗っていた兎も今やノリノリでその世界観に乗っている。
「明日は野菜のタネ植える為に土買いに行こう!」
「え、ででも、フブは学校あるんじゃ…」
「明日は休むよ!明日休んだら夏休みに入るし可愛い兎ちゃんは寂しくて死んじゃうからねっ!」
「あああありがとう…」
もう夏休みか…気づかなかった…まぁ私には関係ないか…
フブがテレビをつけて台所に行き途中で終わっていた料理を作り出す。
『デモで暴徒化した市民は警察が出動しても収集がつかない為、明日には治安維持機動部隊が派遣されるとの事です。次のニュースです…』
そんなニュースが背後で流れる世間の不吉な予感も事実もフブの明るい行動で私は照らされる。
「じゃ〜んフブ特製カレーだよ〜」
「おおお美味しそうっ!…」
『ここでさらに情報が入りました。えー…と、この情報は…全長5kmに及ぶ四足歩行の巨大建造物が日本の海洋に侵入したとのことです。』
ーーーこの時はまだこの巨大建造物に運命が左右されることなんて知るよしもなかった。
この物語の主人公は兎とフブ以外にも残り3人いるのですが結構後に出てくると思うのでこれからよろしくお願いします。