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〔第1話〕ここ25階ぃぃぃぃぃぃい!

初めまして犬の塊です。

ページを開いてくれてありがとうございます。

この作品は長編になっております。

至らぬところはあると思いますがどうぞ宜しくお願いします。






 それはある日突然来た。


 私は名前は兎(けっ)して跳ぶことはない。

 今日も今日とて学校をサボり家でスマホゲームをしていた時だ。


『ここでニュース速報です。昨夜から始まった国家の軍事予算を巡ったデモで市民が暴徒化(ぼうとか)し民家を襲っています。この事態に収集をつける為、国は特殊…』


 テレビから流れる音を背にスマホゲームに没頭する。

 私には関係ない話だ。

 青々とした空をベットの上から見上げる。

 心地よい風がミディアムヘアの癖っ毛を撫でまわす。


「はぁ…ききき今日もいい天気だッァ…」



 ——————ピンポーン。



 ——————コンコンコン。



 ——————『ねぇーー!!!あーけぇーてぇー!!』



 インターホンが鳴りドアがノックされる。

 インターホンを押したのだからノックしなくても良いんじゃないかと思う。

 でも、それをしてくる人物を私は知っている。

 いつも家に学校の配布プリントや連絡を持ってきてくれる健気(けなげ)で元気な明るい女の子。



 ———『兎〜早く玄関、開けてぇー!!ねぇ゛!!』



 出たくない…。

 私が学校をサボる様になってから毎日家を訪れては私の家に居座りダラダラしていくあの子。

 友達が少ない私にとっては正直とても嬉しけど先生から頼まれている登校への(うなが)しだと分かっている。



 ———『ねぇ〜あ〜け〜てぇ〜!!!ねぇ゛ーー!!!』



 彼女はクラスの委員長だ。

 そういう事を先生から頼まれてるんだろうなって直感でわかる。

 インキャの勘って奴だ…委員長に気をつかわせるのもなんだか悪くなってきた。


 もう今日は玄関を開けずに帰って貰おう…。


 それがお互いの為だ、彼女も毎回早く家に帰りたいだろう。


 玄関から声と人の気配が消える。

 

 『あああ諦めて帰ったのかな…」


 少し悲しいけれど、もう良いんだ…。

 窓を全開に開けて部屋の空気を入れ替える。


 さぁゲームの続きをしよう。


「ズビッ…ウウッ…」


 ここ数ヶ月、私が登校しなくなってから委員長が毎日家に来た。



 ———思い出が走馬灯の様に蘇る。


 きっと彼女はクラスの仕事で毎日来てくれていただけで。 迷惑かけていただけなのに…。

 こんな時、ドラマや漫画ならいつもヒーローが助けに来てくれる。

 落ち込んだ私を救ってくれる。

 けど、現実は違う。

 そんな事わかっている。

 この世界にヒーローも救世主も神様も居ない。

 委員長は私が玄関を開けなかったらすぐに帰って行ったし、ずっと迷惑だったのだろう。

 きっと私がインキャで勝手な義務感を友達とかと勘違いしていただけできっと…。

 私はそれに気づけて良かった。

 静かな玄関が悲壮感を強める。





 ——————ピンポーン。





 インターホンから鳴った。


 縋り付く様に玄関に走る。



 ———ガチャッ。



「ささ、ささっきは無視してごめッ…」



 見慣れない屈強な胸板に太い腕ではち切れん様な太い筋肉、一目見た瞬間に分かった。


「あの…お荷物届けに来ました…は、ハンコお願いします…」


 出てくる鼻水と涙を必死に抑え嗚咽(おえつ)しながら荷物を受け取る。


 期待してしまった。


「あ、あの…大丈夫ですか…?」


「ダッダァっだだ大丈夫でずぅッ。ワ゛ァ゛ァ゛」



 ———バタンッ!!!



 恥ずかしさと虚しさが中和されて裏返り死にたくなった。

 勝手な妄想を自分の中で作り上げて勘違いして…。

 もしかしたら、毎日来ていたことが迷惑じゃなかったとか…登校の促し以外の感情を持ってくれていたのではないかとか…。


 都合が()いのは分かっている。

 

 でも、…

 

 一瞬、…

 

 期待してしまった。

 

 暫く玄関で荷物を持って座り込んだ。



 30分が過ぎた。



 静かになった玄関前、私が住んでるマンションはあまり部屋が多くないので人の出入りもそうそう無い。

 ましてやここは25階の高層だ。

 人の出入りも少ない。

 重い身体を起こしてリビングに向かって歩く。

 窓の外を見る、自分の人生とは真反対の様な綺麗な景色に心が静まる。



 ——————カシャンッカシャッンッ。



「ん…?」


 外から(きし)む様な音が聞こえてくる。

 何か紐の様な物が鉄(きし)み合う様な音だ。

 窓の外を見ても何も無い。

 綺麗な景色が見えるだけだ。



 ——————ズズズッズズズッズズズッ。



 音が近づいてくる。

 今度は布が擦れる様な音だ。

 窓のすぐ上から出ている音だと言う事に気づいた。

 急いで窓から頭を出して上を見上げる。

 そこには全身をワイヤーで固定し命綱をつけた委員長の姿があった。


「ななな何してるのぉぉぉおおおお!!!」


「昨日ぶり兎!!!」


「こ、ここ25階ぃぃぃぃいいいい!!!!」


 腰と四肢に巻き付けたワイヤーその姿はさながら消防士を連想させる。

 屋上から垂らしたワイヤーで兎の部屋まで降りて来たのだろう。


「兎が玄関、開けてくれないからじゃん!!!あっ、ワイヤーの長さ1メートルぐらい足りないっっ!!!」


「ど、どどどーすんのぉぉぉ委員長!!!危ないぃ!!!」


 委員長は身体に固定していたワイヤーを外し片手でワイヤーにぶら下がって壁を蹴り勢いをつけ始めた。

 もしかして足りない1メートル分を猿みたいに飛び移るのだろうか。


「危ないから離れてー!!いっくよぉお!!やぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


「わぁぁぁぁぁあっ!!!!!」


 全開に開けられた窓から勢いよく部屋に飛び込んでくる委員長に腰を抜かし座り込む兎。

 兎を覆い被さる形で着地する委員長。

 委員長が掴んでいたワイヤーが兎の高校のカバンに絡まる。

 兎の高校のカバンが空中に飛ばされる。



 ———ドタドタドタッ!



 開かれた窓の外と中でカバンの中から散らばったプリントが降り注がれる。

 プリントが窓から差し込む日の光をパラパラと遮り数秒の木漏(こも)()を作り出す。


「痛たたたた…あっ今日のプリント渡しにきたよ!」


 その澄み切った笑顔で全てが、救われる様な気がした。


 日の光に照らされる部屋に作り出されたプリントの木漏れ日と底抜けに明るい君の笑顔。


「いいい委員長…あ、あ危ないよ…」


 自分の想像を超えてくる委員長に少しの怯えと嬉しさが混在(こんざい)する。

 すると委員長は明るく目を逸らしたくなる様な笑顔と声で言う。


「ねぇ゛ーーー!!!委員長じゃなくて“フブ”!もうそろそろ名前で呼んで!!」


 思わぬ返答に戸惑い目が泳ぐ兎。

 対して委員長は兎の顔をガシッと掴み無理やり目を合わさせる。


「リピートアフタミー“フブ”!!」


「…“フ”…委員長。」


 名前呼びに躊躇する。

 流石にここまで無茶してまで私に会いにくれたんだ、先生に頼まれただけと言うには無理があるだろう。

 私の考えてた事も大体、委員長にはお見通しだっただろうか。


 無理やり合わさせられた目を横にスライドさせて顔の近さに対する恥ずかしさを和らげる。


「リピートアフタミー“フブ”ぅ!!」


 顔がまた更に近くなる。


 押しに負けた兎が言う。


「ふ…ふふ、“フブ”…」


「よくできましたぁ!」


 あぁ君はいつも子供みたいに笑う。

 私はその笑顔にこれからも救われるのだろうか…一緒に居られるのだろうか…。







 ———————————————#####


 想像を超えてくるフブは今日、私に料理を作ってくれるらしい。

 キッチンで野菜を切る音が部屋に響く。

 それと同時に再び、臨時ニュースが入る。


『デモで暴徒化した市民が再び死傷事件を起こしたとの情報が入ってきました。首筋などを噛み5人を死傷させた疑いで1人の男を現行犯逮捕したとの事です。』


「ふふふふフブ…」


「ん?どうしたの?」



———トントントンッ。



包丁の音が響く中、兎が話す。


「こここのニュースの奴ゾンビ映画の序盤みたい…」


「兎そういうの好きだもんねぇ〜。」


「う、うん…好き…」


「もしゾンビ映画だったら兎はどうする?」


「わわわ、私はじゃぁ保存できる食糧を大量に買い込む…」


 フブは野菜を切る手を止めて、野菜をラップに巻き冷蔵庫に入れる。

 そして、ごろ寝ゲーム中のウサギの手を引っ張り言った。


「これから、この世界はゾンビが蔓延(まんえん)する!」


「…んぇ…?」


「と言う事で、いっぱい保存食を買いに行こう。と思います。」


「え、…?ちょっ。」


 無理やり支度(したく)をさせられ外へ連れ出される兎。


「ききき急にっ…そそそんなゾンビなんて冗談…」


「ねぇーいいの!そういう“テイ”でやるの!」


「ぇえ?!ど、どどう言うこと…」


「だから、このニュースを機に、世界がゾンビで蔓延する“テイ”で遊ぶの!!」


「ぇえ、え、え、」


 戸惑う兎にフブはムッとした表情で言う。


「家でゲームばっかりするよりいいの!」


 そう言って連れてこられたのはキャンプ用品店だ。

 フブは店前に設置してある大きな熊の頭を撫でた後、兎と一緒に大量の荷物が入る登山用のバックパックの前に立つ。


「ゾンビが蔓延した世界映画ごっこに欠かせないのはやっぱりこのバックパックよね。」


「ぞぞぞゾンビが蔓延した世界映画ごっこ…?」


「んーまずは目立たない色がいいね…血がついたらすぐに落とせる様か奴もいいね。でもやっぱり、目立たない暗めのグレーとか黒とか良いね…」


 真剣に選ぶフブに戸惑いながらも、兎も一緒に大容量のバックパックを選んだ。

 レジへの列に並ぶ途中、兎はフブに聞いた。


「ふふふフブは一般庶民(いっぱんしょみん)高校生だからお金とか大丈夫なの…?」


「一般庶民高校生とか言うなっ。まぁ間違っては無いけど、兎と違ってお金持ちじゃ無いけどさ!!」


「わわ私が払うよ。」


 色々良くしてくれている日頃のお礼として言う兎。

 それに、なぜかムッとした表情でフブは兎に言う。


「私、先生に委員長として兎の事、色々任されてるんだけど、先生は兎の事全部投げやりで私に任せててさ。ムカついたから教育委員会を脅しに使って色々活動費(しぼ)ってる(脅してる)から大丈夫だよ!!」


「えぇ…先生ちょっと可哀想…でででも、いい気味…」


「だから今日はいっぱい遊ぼ!」


「わわわ私に出来ることお金ぐらいしか無いから…」


 レジの番が回ってきて兎が財布からお札を出そうとするとその手をフブが押さえて言った。


「じゃあ足りない時にお願いね!」


 やっぱりその太陽の様な笑顔に表情が溶けそうになり顔を逸らす。


「う、うん。」


 大きなバックパックを買った2人。

 そのまま背負って業務用スーパーに行く。

 初めて業務用スーパーに入りワクワクする2人を店員が止める。


「最近、万引きが相次(あいつ)でいるからバックパックはちょっと…」


 そう言う店員の困った顔を払拭(ふっしょく)する様に兎はポケットの財布から黒く光るカードを掲げて言った。


「さささ先払いでもいいですよっ…」


 そして、大きなカートを引っ提げながらゾンビが蔓延した世界映画ごっこ保存食買(ほぞんしょくか)物編(ものへん)が始まった。


「んーまずは“サバの味噌煮”の缶詰が欲しいね。」


「お、王道…流石っ…」


「えへへ、でしょ。」


 大きなカートの下部が見えなくなるまでサバの味噌煮を大量に敷き詰める。


「アハハハハッ!!絶対人生において今後こんなにサバの缶詰買うことなんてないよ!」


 元気よく笑うフブに釣られて兎も笑う。


 2人は次に保存食の帝王、“インスタントラーメン”コーナーを見に行く。

 色々な味の業務用インスタントラーメンが並ぶ。

 兎はどれにしようか迷っているとフブに背中をバシッと叩かれた。


「悩んでる暇なんてないよっ!!!ほら、全部の味カートに入れて!!ほらっ!!ゾンビウイスルが今も広がってるんだよ!!」


「そそそ、そうだね。早く選ばないと…」


 他にも保存食を選んでるとだんだんゾンビが蔓延した世界映画ごっこが楽しくなってきた。


「ふふフブ…ジャガイモも買おう…」


「え?!ジャガイモ?!」


「う、うん。」


「なんで?ジャガイモなの?!」


「ジャ、ジャガイモは成長早くて継続的に収穫できるからイイっ…」


「兎…流石です…これがゾンビマスターか…」


 ジャガイモも大量にカートに入れる。

 他にも家庭用野菜のタネを全種類カートに入れる。

 でも、きゅうりのタネだけは売り切れていた。


「これだけタネ買ったら私達、野菜農家になれるね!えへへ。」


「そそそ、そうだねぐへへ。」


「あっ!!卵とかは!!!」


「え、たた卵…?」


「うん。いっぱい卵が欲しい…流石に卵は保存効かないか…」


「ぎぎぎ業務スーパーだもんね…あっ、でも一様、卵数パック買って温めてみようね…」


 その提案にフブは爆笑した。


「アッハッハッハッハッ。ちょッその発想は無かったよ。イーヒッヒッヒッヒッ。それ育てるのぉフフフッ。」


 そんなこんなで大きなバックパックがパンパンになるほどの保存食を買った。

 バックパックに入りきれない分は大きなレジ袋に入れる事にした。

 外に出ると空は暗くスマホを見る。

 終電間際の時間になっていた。

 2人は大量の荷物を抱え終電に乗った、言わずともゾンビが蔓延した世界映画ごっこは続いていて今夜は兎の家に泊まる。


「流石に…お、重いッなぁ…」


「おおお重いッ…」


 2人は駅に着いてから家まで重い荷物を運びエレベーターに乗る。

 家についてから保存食を綺麗に並べて今日の収穫を実感する。


「ここからが本番だよ兎。」


「そそそそうだね…この世界で生き抜こう…」


 最初こそ嫌々恥ずかしさを捨てきれず設定に乗っていた兎も今やノリノリでその世界観に染まっている。


「明日は野菜のタネ植える為に土買いに行こう!」


「え、ででも、フブは学校あるんじゃ…」


「明日は休むよ!明日休んだら夏休みに入るし可愛い兎ちゃんは寂しくて死んじゃうからねぇー。」


「あああありがとう…」


 もう夏休みか…気づかなかった…まぁ私には関係ないか…。

 フブがテレビをつけて台所に行き途中で終わっていた料理を作り出す。


『デモで暴徒化した市民は警察が出動しても収集がつかない為、明日には治安維持機動部隊が派遣されるとの事です。次のニュースです…』


 そんなニュースが背後で流れる。

 世間の不吉な予感も事実も私には関係ない。

 フブの明るい光で私は照らされる。



「じゃ〜んフブ特製カレーだよ〜」


「おおお美味しそうっ!」


『ここでさらに情報が入りました。えー…と、この情報は…全長20kmに及ぶ四足歩行の巨大建造物が日本の海洋に侵入したとのことです。』







 ———————————————#####


「なぁダール、俺らって市民権取ってないだろ?だからもう街の方に行くのはやめろって危ねぇだろ。」


「でも、エヴァンテに話がつけられれば何とかなるかもしれない。」


「そんな事言ったって会えるわけねぇだろ…」


「“ロード”がいるから会えるわけねぇだろ。」


 ダールは少し弾力があるガラスで作られた小瓶の様な物を渡し“ツグネ”に言った。


「僕が死んだ時は、泣いてくれよ?」


「バーカ、誰が泣いてやるか。」


 ツグネの返しにダールは見通した目で笑った。



この物語の主人公は兎とフブ以外にも残り5人いるのですが結構後に出てくると思うのでよろしくお願いします。


フブがマンションのオートロックを突破できた理由などのちに出て来ます。


【私は兎。決して跳ぶことはない。けど、貴方のお陰で私は今跳ぼうと思う。高く。高く。】


【あぁ…なんてっ…おろかで。おろかで。愚かわいいぃ…】

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